13 はったりアサシン

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 とうとう実力行使に出たという商人の行動はミチルにも想像がついた。だが、それはまだ序の口で。
 アニーの身に振りかかった運命の結末は、平凡なミチルなどでは考えもつかないほど非情なものだった。

「そいつは人を雇って、うちに盗みに入った。賃金をけちったんだろうね、入った泥棒は野盗くずれの荒っぽい二人組でね。すぐに両親に気づかれて揉み合いになった」

 まさか。そんな人達と揉めたら最悪なことが起こるとミチルは固唾を飲んで聞いていた。

「抵抗されたら殺せ、と命令されていたかはわからない。結果として両親は殺された。ペンダントも盗まれた。小さかった俺はベッドの下で震えていることしかできなかった」

 ああ……
 ミチルは思わず目を閉じた。脳裏にその光景が浮かぶようだった。それほどに過去を語るアニーの言葉は生々しい。

「祖父母もとうに亡くなっていたから俺は天涯孤独になった。住んでた家は人手に渡ることになって、細かいことはよく覚えてないんだけど、俺はあるマフィアのファミリーに拾われた」

「マ、マフィア?」

 ミチルが驚いて目を見張ると、アニーは自嘲気味に笑った。

「後で思ったんだけどさ、俺の家、そのマフィアに取られたんじゃないかな。笑っちゃうよね、違法に家を取り上げた先の厄介になるなんて」

「……」

 だが、ミチルは笑えなかった。軽薄な笑みばかり浮かべていたアニーの今の笑みが悲しくて。

「まあ、でも衣食住は世話してもらえたから、ボスには感謝してるし、恩人だよ。こうして手に職までつけてもらえたしね」

「職……っていうと、暗殺術……みたいな?」

「そうそう。俺ってば、夜寝るの得意じゃなくって。どうせ寝られないなら夜働いた方がいいやって、ボス専属の片付け屋になった」

 はて。アニーは夜、熟睡していたように思えるけど。演技だったんだろうか。
 しかし、ミチルの関心ごとは別にあった。


 
「じゃあ、アニーはマフィア……なの?」

「厳密には違う。俺はフリーランスの殺し屋だよ。ボスがさあ、入れてくんないの。ファミリーに」

「そ、そうなんだ」

 そういう裏の世界の事情がミチルにわかるはずもないし、ましてやここは異世界なので余計わからない。
 頷くだけのミチルに、アニーは笑って付け足した。

「多分さ、ファミリーに入っちゃうと抜けられないじゃない? きっとボスはいつか俺を手放すつもりなんだよ」

「えーっと、カタギに戻してくれるってこと?」

「そのうちね。でも今更別の生き方なんて出来ないけどね」

 任侠の親心とかなんだろうか。でも手を汚させておいて放り出すって無責任じゃない? とミチルは思う。

「だから、俺にコロシの依頼はくれないワケ」

「──えええっ!?」

 ミチルはあまりの衝撃に声を上げた。それまでアニーの話を黙って聞いていたので、自分の声で耳がキーンとなった。

「こ、殺してないの!?」

「うん。殺したことはない。俺の役目はターゲットを捕まえて、ファミリーに渡すことだから」

「だって、さっき()ってきたって言ったじゃん!」

「俺が捕まえた後、どうせ殺されるんだ。俺が殺したようなもんでしょ」

 ミチルは急に力が抜けた。そういう覚悟の話だったとは。やっぱりアニーはいいヤツだったのだ。
 いや、半殺しくらいはしてそうだけど。

「そんなら、そのボスって人、100パー優しいじゃん!」

 アニーが手を汚していないなら、先ほどの印象が180度変わる。ミチルはかなりだいぶホッとした。

「じゃあ、殺し屋なんて名乗らないでよ……」

 誤解しちゃうじゃん! 紛らわしい!
 だが、それこそがアニーの目的だった。

「子飼いのチンピラよりも、殺し屋だって名乗った方が箔がつくでしょ。それで初日のエロおじさんは撃退できたんだし」

「──ああ!」

 ミチルは唐突に思い出した。あの痴漢おじさんはアニーに気づいたら血相を変えて逃げていった。
 つまり、アニーはこの街で「殺し屋」だと認知されているのだ。

「だったら、このお店なんて余計客が来ないじゃぁん……」

 色々納得してしまって、ミチルは更に力が抜けた。

「アッハッハ! 下の酒場は世を忍ぶ仮の姿だからねえ」

「周知の事実だから繁盛しないんでしょ!」

「あー、確かに! ナッハッハ!」

 なんかなし崩しに爆笑してるけど、笑っていいやつ、コレ!?
 それも重過ぎる打ち明け話をしたアニーの気遣いなんだろうとミチルは思う。

 やっぱり、アニーはいいヤツだ。
 そういうイケメンに連続で会えるオレってマジ運がいい!

 ──コツコツ

「うん?」

 不意に窓から音がした。
 振り返ってビックリ、鳩が窓枠を嘴で叩いている。

「ああ」

 アニーはすぐに立ち上がって鳩の足についた紙切れを広げた。
 ちょっと待って。それって……

「ボスからの指令だ」

 王道スパイ展開じゃん!


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 とうとう実力行使に出たという商人の行動はミチルにも想像がついた。だが、それはまだ序の口で。
 アニーの身に振りかかった運命の結末は、平凡なミチルなどでは考えもつかないほど非情なものだった。
「そいつは人を雇って、うちに盗みに入った。賃金をけちったんだろうね、入った泥棒は野盗くずれの荒っぽい二人組でね。すぐに両親に気づかれて揉み合いになった」
 まさか。そんな人達と揉めたら最悪なことが起こるとミチルは固唾を飲んで聞いていた。
「抵抗されたら殺せ、と命令されていたかはわからない。結果として両親は殺された。ペンダントも盗まれた。小さかった俺はベッドの下で震えていることしかできなかった」
 ああ……
 ミチルは思わず目を閉じた。脳裏にその光景が浮かぶようだった。それほどに過去を語るアニーの言葉は生々しい。
「祖父母もとうに亡くなっていたから俺は天涯孤独になった。住んでた家は人手に渡ることになって、細かいことはよく覚えてないんだけど、俺はあるマフィアのファミリーに拾われた」
「マ、マフィア?」
 ミチルが驚いて目を見張ると、アニーは自嘲気味に笑った。
「後で思ったんだけどさ、俺の家、そのマフィアに取られたんじゃないかな。笑っちゃうよね、違法に家を取り上げた先の厄介になるなんて」
「……」
 だが、ミチルは笑えなかった。軽薄な笑みばかり浮かべていたアニーの今の笑みが悲しくて。
「まあ、でも衣食住は世話してもらえたから、ボスには感謝してるし、恩人だよ。こうして手に職までつけてもらえたしね」
「職……っていうと、暗殺術……みたいな?」
「そうそう。俺ってば、夜寝るの得意じゃなくって。どうせ寝られないなら夜働いた方がいいやって、ボス専属の片付け屋になった」
 はて。アニーは夜、熟睡していたように思えるけど。演技だったんだろうか。
 しかし、ミチルの関心ごとは別にあった。
「じゃあ、アニーはマフィア……なの?」
「厳密には違う。俺はフリーランスの殺し屋だよ。ボスがさあ、入れてくんないの。ファミリーに」
「そ、そうなんだ」
 そういう裏の世界の事情がミチルにわかるはずもないし、ましてやここは異世界なので余計わからない。
 頷くだけのミチルに、アニーは笑って付け足した。
「多分さ、ファミリーに入っちゃうと抜けられないじゃない? きっとボスはいつか俺を手放すつもりなんだよ」
「えーっと、カタギに戻してくれるってこと?」
「そのうちね。でも今更別の生き方なんて出来ないけどね」
 任侠の親心とかなんだろうか。でも手を汚させておいて放り出すって無責任じゃない? とミチルは思う。
「だから、俺にコロシの依頼はくれないワケ」
「──えええっ!?」
 ミチルはあまりの衝撃に声を上げた。それまでアニーの話を黙って聞いていたので、自分の声で耳がキーンとなった。
「こ、殺してないの!?」
「うん。殺したことはない。俺の役目はターゲットを捕まえて、ファミリーに渡すことだから」
「だって、さっき|殺《ヤ》ってきたって言ったじゃん!」
「俺が捕まえた後、どうせ殺されるんだ。俺が殺したようなもんでしょ」
 ミチルは急に力が抜けた。そういう覚悟の話だったとは。やっぱりアニーはいいヤツだったのだ。
 いや、半殺しくらいはしてそうだけど。
「そんなら、そのボスって人、100パー優しいじゃん!」
 アニーが手を汚していないなら、先ほどの印象が180度変わる。ミチルはかなりだいぶホッとした。
「じゃあ、殺し屋なんて名乗らないでよ……」
 誤解しちゃうじゃん! 紛らわしい!
 だが、それこそがアニーの目的だった。
「子飼いのチンピラよりも、殺し屋だって名乗った方が箔がつくでしょ。それで初日のエロおじさんは撃退できたんだし」
「──ああ!」
 ミチルは唐突に思い出した。あの痴漢おじさんはアニーに気づいたら血相を変えて逃げていった。
 つまり、アニーはこの街で「殺し屋」だと認知されているのだ。
「だったら、このお店なんて余計客が来ないじゃぁん……」
 色々納得してしまって、ミチルは更に力が抜けた。
「アッハッハ! 下の酒場は世を忍ぶ仮の姿だからねえ」
「周知の事実だから繁盛しないんでしょ!」
「あー、確かに! ナッハッハ!」
 なんかなし崩しに爆笑してるけど、笑っていいやつ、コレ!?
 それも重過ぎる打ち明け話をしたアニーの気遣いなんだろうとミチルは思う。
 やっぱり、アニーはいいヤツだ。
 そういうイケメンに連続で会えるオレってマジ運がいい!
 ──コツコツ
「うん?」
 不意に窓から音がした。
 振り返ってビックリ、鳩が窓枠を嘴で叩いている。
「ああ」
 アニーはすぐに立ち上がって鳩の足についた紙切れを広げた。
 ちょっと待って。それって……
「ボスからの指令だ」
 王道スパイ展開じゃん!