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7 見捨てられた街〜イケメンは悪魔でした

ー/ー



 アニーが示す、カエルレウムへの道とは何なのか。
 ミチルはそれがどんなものでも、やってやれないことはないの精神で受け入れるつもりだった。

 だって、やっぱりもう一度ジェイに会いたいから。

「ようするに、ミチルに今足りないのは旅費でしょ? だったらそれを稼げばいい」

「おお……なるほど」

 まともと言えばまとも。普通と言えば普通。アニーが提示した方法は至極真っ当なものだった。
 ベスティアとか、魔剣とか、なまじそういうファンタジーを経験してきたミチルはもっと突拍子もない方法かと勝手に思ってしまっていた。

「ボクでも出来る仕事ってありますかね?」

 ただ、ミチルにはアルバイト経験がない。そしてこの世界ではどうやって雇ってもらうのかもわからない。
 しかしアニーがこうやって言うからには、働き口の紹介くらいはしてくれるつもりなのかもしれない。
 ミチルは少しの期待を込めて聞いた。それにアニーはにっこり笑って首を振る。

「この街には、ないね」

「え?」

 おかしいな。顔と言葉が合ってないぞ?

「ここはね、昼間に働いてるヤツなんかいないんだよ」

「ええー……?」

 おい、どういうことだ。じゃあなんでそんな話をした?

 ミチルはつい乱暴な言葉が出そうになったのを慌てて飲み込んだ。恩人に暴言は吐けない。
 アニーは笑顔のままで言う。

「覚えてる? ここは見捨てられた街だって言ったこと」

「はい……」

 それはミチルにも引っかかっていた。アニーは軽く溜息を吐いた後、ぽつぽつと語り始めた。


 
「このダリアの街はね、以前は少しだけど銅が出る鉱山があったんだ。その時は鉱夫とその家族が沢山住んでいて、この通りも色んな店が建って賑わってた」

「はあ」

「けれどね、一昨年あたりについにどこの山からも銅が出なくなったんだ。ここで銅を掘っていたのはカエルレウムの軍で、俺たちはそこに雇われていたんだけど、鉱山が閉鎖されるとすぐにカエルレウム軍はここを引き払った」

「街の人はどうなったんですか?」

 ミチルが聞くと、アニーは苦々しげに吐き捨てるように言った。

「もちろん鉱夫達は職を失った。退職金もろくにもらえず見捨てられた」

「酷い……」

 思わず口をついて出たミチルの言葉を、アニーは不思議そうにして首を傾げた。

「酷い? 彼らにはそんな意識はないよ。カエルレウムにとってルブルムはただの植民地。使い捨てだ」

「あ……」

 まただ。またミチルは自分の尺度で言ってしまった。だけど、それを酷いと形容する以外ミチルには考えが及ばない。
 アニーとの間に大きな意識の隔たりを感じて、ミチルは何も言えなかった。

「ごめんね、ちょっと意地悪だったね」

 そんなミチルを思いやってアニーはまたすぐに笑った。

「あ、いえ……」

 目の前の、異世界からきた──つまりはここの常識とは別で生きてきた子どもの前ですら、そんな風に愚痴をつくほどアニーは追いつめられているのかもしれない。
 ミチルはアニーの心中を想像して、心臓がキュッと締め付けられる思いだった。

「まあ、そんな訳でね、この街の連中はすっかりやる気をなくしちゃって夜になるのを待って飲んだくれる毎日だよ」

「そ、その飲んだくれるお金はどうしてるんです?」

 ミチルの質問に、アニーは指を二本立てて答えた。

「ここから山ふたつ越えた所には銀山がある。そこまで行って日中働いて、夜になると帰って来て飲んだくれた後、家族が出て行った家で独り寂しく寝る。その繰り返しさ」

「それは……厳しいですね」

「まあね。で、そういう寂しい鉱夫達から俺たちみたいな水商売が金をふんだくる、って訳。一応経済は回ってるでしょ?」

「なるほど……」

 この街の現状はわかった。確かに、ここではミチルができる仕事などないかもしれない。


 
「そこでミチルに提案だ」

「え?」

 アニーはここからが本題だと言うように、少し身を乗り出した。

「うちの酒場は俺一人でやっててね、他所の店のような踊り子や給仕の女の子がいないから開店休業状態」

「はあ」

「そこにミチルが現れた。可愛くて元気が良くて、おじさん受けは抜群だと俺はみた」

 おい。まて。

「当店はキミを給仕(ウェイター)に迎えて起死回生を図ろうと思う!」

「イヤです!! 水商売なんてとんでもねえ!!」

 昨夜のような酔っぱらいおじさん達の相手をするなんてまっぴら御免だとミチルは勢いよく頭を振った。
 だが、アニーの続く提案で血の気が引いた。

「ああ、そう。嫌なんだ。じゃあ、仕方ない。後は夜な夜な客をとるしかないね。そっちの方が圧倒的に早く稼げるからね!」

「ギャアアアア!」

 想像したミチルは失神寸前だった。アニー・ククルスの正体見たり、とんでもねえお水の花道への案内人(キャッチ)だ。

「どうする? どっちにする?」

 軽快に笑いながら言う様は、軽く悪魔のようだった。忘れていた……悪魔もまたイケメン率が高いということを。

「う、ウェイターで、お願いします……っ」

「オッケー! よろしくね!」

 目指せ! ナンバーワンホスト! (おじさん専門の)
 ミチルの前途は、もうよくわからない。


次のエピソードへ進む 8 涙色のシャツ


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 アニーが示す、カエルレウムへの道とは何なのか。
 ミチルはそれがどんなものでも、やってやれないことはないの精神で受け入れるつもりだった。
 だって、やっぱりもう一度ジェイに会いたいから。
「ようするに、ミチルに今足りないのは旅費でしょ? だったらそれを稼げばいい」
「おお……なるほど」
 まともと言えばまとも。普通と言えば普通。アニーが提示した方法は至極真っ当なものだった。
 ベスティアとか、魔剣とか、なまじそういうファンタジーを経験してきたミチルはもっと突拍子もない方法かと勝手に思ってしまっていた。
「ボクでも出来る仕事ってありますかね?」
 ただ、ミチルにはアルバイト経験がない。そしてこの世界ではどうやって雇ってもらうのかもわからない。
 しかしアニーがこうやって言うからには、働き口の紹介くらいはしてくれるつもりなのかもしれない。
 ミチルは少しの期待を込めて聞いた。それにアニーはにっこり笑って首を振る。
「この街には、ないね」
「え?」
 おかしいな。顔と言葉が合ってないぞ?
「ここはね、昼間に働いてるヤツなんかいないんだよ」
「ええー……?」
 おい、どういうことだ。じゃあなんでそんな話をした?
 ミチルはつい乱暴な言葉が出そうになったのを慌てて飲み込んだ。恩人に暴言は吐けない。
 アニーは笑顔のままで言う。
「覚えてる? ここは見捨てられた街だって言ったこと」
「はい……」
 それはミチルにも引っかかっていた。アニーは軽く溜息を吐いた後、ぽつぽつと語り始めた。
「このダリアの街はね、以前は少しだけど銅が出る鉱山があったんだ。その時は鉱夫とその家族が沢山住んでいて、この通りも色んな店が建って賑わってた」
「はあ」
「けれどね、一昨年あたりについにどこの山からも銅が出なくなったんだ。ここで銅を掘っていたのはカエルレウムの軍で、俺たちはそこに雇われていたんだけど、鉱山が閉鎖されるとすぐにカエルレウム軍はここを引き払った」
「街の人はどうなったんですか?」
 ミチルが聞くと、アニーは苦々しげに吐き捨てるように言った。
「もちろん鉱夫達は職を失った。退職金もろくにもらえず見捨てられた」
「酷い……」
 思わず口をついて出たミチルの言葉を、アニーは不思議そうにして首を傾げた。
「酷い? 彼らにはそんな意識はないよ。カエルレウムにとってルブルムはただの植民地。使い捨てだ」
「あ……」
 まただ。またミチルは自分の尺度で言ってしまった。だけど、それを酷いと形容する以外ミチルには考えが及ばない。
 アニーとの間に大きな意識の隔たりを感じて、ミチルは何も言えなかった。
「ごめんね、ちょっと意地悪だったね」
 そんなミチルを思いやってアニーはまたすぐに笑った。
「あ、いえ……」
 目の前の、異世界からきた──つまりはここの常識とは別で生きてきた子どもの前ですら、そんな風に愚痴をつくほどアニーは追いつめられているのかもしれない。
 ミチルはアニーの心中を想像して、心臓がキュッと締め付けられる思いだった。
「まあ、そんな訳でね、この街の連中はすっかりやる気をなくしちゃって夜になるのを待って飲んだくれる毎日だよ」
「そ、その飲んだくれるお金はどうしてるんです?」
 ミチルの質問に、アニーは指を二本立てて答えた。
「ここから山ふたつ越えた所には銀山がある。そこまで行って日中働いて、夜になると帰って来て飲んだくれた後、家族が出て行った家で独り寂しく寝る。その繰り返しさ」
「それは……厳しいですね」
「まあね。で、そういう寂しい鉱夫達から俺たちみたいな水商売が金をふんだくる、って訳。一応経済は回ってるでしょ?」
「なるほど……」
 この街の現状はわかった。確かに、ここではミチルができる仕事などないかもしれない。
「そこでミチルに提案だ」
「え?」
 アニーはここからが本題だと言うように、少し身を乗り出した。
「うちの酒場は俺一人でやっててね、他所の店のような踊り子や給仕の女の子がいないから開店休業状態」
「はあ」
「そこにミチルが現れた。可愛くて元気が良くて、おじさん受けは抜群だと俺はみた」
 おい。まて。
「当店はキミを|給仕《ウェイター》に迎えて起死回生を図ろうと思う!」
「イヤです!! 水商売なんてとんでもねえ!!」
 昨夜のような酔っぱらいおじさん達の相手をするなんてまっぴら御免だとミチルは勢いよく頭を振った。
 だが、アニーの続く提案で血の気が引いた。
「ああ、そう。嫌なんだ。じゃあ、仕方ない。後は夜な夜な客をとるしかないね。そっちの方が圧倒的に早く稼げるからね!」
「ギャアアアア!」
 想像したミチルは失神寸前だった。アニー・ククルスの正体見たり、とんでもねえお水の花道への|案内人《キャッチ》だ。
「どうする? どっちにする?」
 軽快に笑いながら言う様は、軽く悪魔のようだった。忘れていた……悪魔もまたイケメン率が高いということを。
「う、ウェイターで、お願いします……っ」
「オッケー! よろしくね!」
 目指せ! ナンバーワンホスト! (おじさん専門の)
 ミチルの前途は、もうよくわからない。