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第23話 涙雨

ー/ー



日和(ひより)、おまえを助けたい」

「……」

 一触即発に見えた状況。

 しかし鬼堂龍門(きどう りゅうもん)は、意外すぎる言葉を万城目日和(まきめ ひより)に投げかけた。

「俺はな、日和。確かにおまえのことをずっとつけ狙ってた。だがそれは、言うなれば擬態さ。組織の大幹部のひとりである手前、本心はどうしても隠しておく必要があるからな」

「何を、言ってんだ……?」

「俺の本意、それは……日和、おまえを保護することにある」

「……」

 鬼堂龍門は立ち上がり、ゆっくりと万城目日和のほうへ近づいていく。

 当然彼女は警戒し、臨戦態勢を取った。

「話は最後まできいてくれ。俺は間接的とはいえ、間違いなくおまえのパパを手にかけた。幼なじみの間柄である優作をな」

「はっ、ぜんぶてめえの都合だろうがよ! 親父を始末して、実際にいまじゃ、てめえは天下の総理大臣さまじゃねえか! 何が保護だ! 俺を油断させて、そのすきにとっちめようって腹なんだろ!?」

「認識の不一致か、悲しいことだな」

「ああっ!?」

「リーダーの才覚があるやつってのはな、まあ、自分で言うのもなんだが、自分の意思とは関係なく、よりものごとの大局を見ちまうんだ。優作には俺にはないカリスマがあった。それはしいて言えば、人の心をひきつける力だ。人間力っていうのか」

「そのスキルに嫉妬して殺しましたってか? ウツロの親父まで巻き込んでよ? あいつがどんなに苦しんでるか、考えたことあんのか!?」

「好きなんだな、ウツロのことが」

「……」

「しかし残念ながら、政治の世界ってやつはな、家柄やコネクションが何よりもものを言うのよ。残酷かもしれんが、それが現実なんだ。この国がほしいのは、優作の天稟ともいえる器じゃねえんだ。俺が生まれた、環境のほうなんだよ」

「ふ……」

「要約すると、牛を生かすためには、角を矯めたりしてはならんということさ。国家という大局を回すためなら、意味のある犠牲は必要になる。コラテラル・ダメージってやつだ」

「ふざけるなあああああっ!」

「……」

 万城目日和は絶叫した。

 当然である。

 鬼堂龍門は万城目優作にリーダーの資質があること自体は認めた。

 しかしそれは方向性として、国家の運営に際してはマッチしていないということになる。

 そう喝破したにほかならない。

 合点がいかない。

 いくはずがない。

 彼女の頭の中はぐちゃぐちゃになった。

「そんなことで? そんなことで親父は? 俺の人生は? 虫ケラみてえに奪われたっていうのかよ? ああっ!?」

「落ち着け、日和」

「国を生かすためなら、そこにいる人間は踏みつぶしてもオーケーってか? そんなに大事か!? その国家とやらが!」

 万城目日和が混乱する理由。

 それは鬼堂龍門の言うことにも、もしかしたら理が存在するのではないかという、おそるべき事実である。

 その点への懐疑からだった。

 ほほを水滴が打つ。

「雨、降ってきたな」

「……」

「踏みつぶされた者たちの、涙雨(なみだあめ)ってとこか?」

「てめえが言うな! クソ野郎が!」

 万城目日和の中で、何かのタガがはずれた。

 もはや誰も止めることなどできない。

「こうなったらもう、どうなったっていい。てめえはいますぐ、俺がこの場で八つ裂きにしてやる!」

「交渉決裂か。残念だよ、日和」

「リザード――っ!」

 アルトラが発動し、彼女はトカゲ人間の姿へと変貌する。

「やれやれ、血の気の余ったガキほど、手に負えないものはねえな」

「さあ、鬼堂。てめえも持ってるんだろ? 出しな、アルトラをよ」

「ふん、後悔するなよ? 日本国内閣総理大臣の力、拝ませてやる」

「かかってきな!」

「アルトラ、メイド・イン・ヘル……!」

 鬼堂龍門の両眼が、ギラリと光った。


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「|日和《ひより》、おまえを助けたい」
「……」
 一触即発に見えた状況。
 しかし|鬼堂龍門《きどう りゅうもん》は、意外すぎる言葉を|万城目日和《まきめ ひより》に投げかけた。
「俺はな、日和。確かにおまえのことをずっとつけ狙ってた。だがそれは、言うなれば擬態さ。組織の大幹部のひとりである手前、本心はどうしても隠しておく必要があるからな」
「何を、言ってんだ……?」
「俺の本意、それは……日和、おまえを保護することにある」
「……」
 鬼堂龍門は立ち上がり、ゆっくりと万城目日和のほうへ近づいていく。
 当然彼女は警戒し、臨戦態勢を取った。
「話は最後まできいてくれ。俺は間接的とはいえ、間違いなくおまえのパパを手にかけた。幼なじみの間柄である優作をな」
「はっ、ぜんぶてめえの都合だろうがよ! 親父を始末して、実際にいまじゃ、てめえは天下の総理大臣さまじゃねえか! 何が保護だ! 俺を油断させて、そのすきにとっちめようって腹なんだろ!?」
「認識の不一致か、悲しいことだな」
「ああっ!?」
「リーダーの才覚があるやつってのはな、まあ、自分で言うのもなんだが、自分の意思とは関係なく、よりものごとの大局を見ちまうんだ。優作には俺にはないカリスマがあった。それはしいて言えば、人の心をひきつける力だ。人間力っていうのか」
「そのスキルに嫉妬して殺しましたってか? ウツロの親父まで巻き込んでよ? あいつがどんなに苦しんでるか、考えたことあんのか!?」
「好きなんだな、ウツロのことが」
「……」
「しかし残念ながら、政治の世界ってやつはな、家柄やコネクションが何よりもものを言うのよ。残酷かもしれんが、それが現実なんだ。この国がほしいのは、優作の天稟ともいえる器じゃねえんだ。俺が生まれた、環境のほうなんだよ」
「ふ……」
「要約すると、牛を生かすためには、角を矯めたりしてはならんということさ。国家という大局を回すためなら、意味のある犠牲は必要になる。コラテラル・ダメージってやつだ」
「ふざけるなあああああっ!」
「……」
 万城目日和は絶叫した。
 当然である。
 鬼堂龍門は万城目優作にリーダーの資質があること自体は認めた。
 しかしそれは方向性として、国家の運営に際してはマッチしていないということになる。
 そう喝破したにほかならない。
 合点がいかない。
 いくはずがない。
 彼女の頭の中はぐちゃぐちゃになった。
「そんなことで? そんなことで親父は? 俺の人生は? 虫ケラみてえに奪われたっていうのかよ? ああっ!?」
「落ち着け、日和」
「国を生かすためなら、そこにいる人間は踏みつぶしてもオーケーってか? そんなに大事か!? その国家とやらが!」
 万城目日和が混乱する理由。
 それは鬼堂龍門の言うことにも、もしかしたら理が存在するのではないかという、おそるべき事実である。
 その点への懐疑からだった。
 ほほを水滴が打つ。
「雨、降ってきたな」
「……」
「踏みつぶされた者たちの、|涙雨《なみだあめ》ってとこか?」
「てめえが言うな! クソ野郎が!」
 万城目日和の中で、何かのタガがはずれた。
 もはや誰も止めることなどできない。
「こうなったらもう、どうなったっていい。てめえはいますぐ、俺がこの場で八つ裂きにしてやる!」
「交渉決裂か。残念だよ、日和」
「リザード――っ!」
 アルトラが発動し、彼女はトカゲ人間の姿へと変貌する。
「やれやれ、血の気の余ったガキほど、手に負えないものはねえな」
「さあ、鬼堂。てめえも持ってるんだろ? 出しな、アルトラをよ」
「ふん、後悔するなよ? 日本国内閣総理大臣の力、拝ませてやる」
「かかってきな!」
「アルトラ、メイド・イン・ヘル……!」
 鬼堂龍門の両眼が、ギラリと光った。