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双子

ー/ー



 話し声がする。言い争う声だ。重たい瞼を細く開き、壁にかかった時計を見ると二時を回っていた。

 ――こんな遅い時間に、近所迷惑だな。

 そう思ったのも束の間、ベッドの足側で動く影がいるのが見えた。外の通りではない。部屋の中だ。酔っぱらいでも大声をあげているのかと思ったが、何者かが自室にいるのだった。

 声の調子で二人いるとわかる。物盗りだろうか。それにしては部屋を漁っている様子は感じられない。緊急通報装置を使うことも考えたが、すぐ手に届く距離になかった。日頃の防犯意識の低さを呪う。ひとまず、事態を静観することに決めた。幸い、話し声の主はこちらが起きたことに気が付いていないようだ。騒げば死ぬかもれないが、黙って影を見逃せば生かされるかもしれない。

 薄目で伺いながら、目が徐々に暗闇に慣れてきた。足元にはすっぽりと布を被った影が二つ。片方は真っ白で、片方は真っ黒だった。寄り添って、小さいとは言えない声で言い争っている。

「さっき約束しただろう。男だったら俺の物、女だったら君の物。これは男だから俺の物だ」

「でも、髪が短いだけかもしれない。身体を見なければわからない」

「いやいや、布団の外からでもわかるだろう。これは男だから俺のものだ」

 なんとも物騒な話をしている。だんまりを決めても自らの身は危険に晒されているようだ。侵入者の言う、俺の物の意図はわからなかったが、黙って獲物にされるのを待つよりは、緊急通報装置を作動させた方がよさそうだった。

 飛び起きて、装置がある棚に飛びついた。その速さに影は驚いたようだ。

「やや、この人間起きているぞ」

「捕まえろ」

 影が追い付いてきて足を引っ張る。引きずられそうになったが、どうにか装置のボタンを押した。サイレンが鳴り、装置からは赤い光――これは緊急レーザーで対モンスターのための機能である――が放たれ、スピーカーからは怪異に向けての呪文が流れ出す。ひとまずはこれで緊急回避をして、あとは警備署が来るのを待つのだ。どちらかの装置が効果があれば運がいい。

 二つの影は怯んで、足を掴んだ手を離した。その隙に窓に近寄り開け放つ。退路は確保した。このまま、得体のしれない闖入者から逃げられれば――。

「あっ」

 予想外の出来事が身体を襲う。窓を開けた力はそのまま外に向かい、勢いあまって宙に投げ出されていた。何か考える間に身体が地面に叩きつけられる。ごき、と大きな音が鳴った。

 ***

 真っ白な頭巾と真っ黒な頭巾に見下ろされている。周囲を見渡すと、隣に自分の身体だったものがつぶれていた。自分の部屋が七階の部屋だったことを思い出し、そこから投げ出されて、自分は命を落としたのだと悟る。

 黒い頭巾が話しかけてきた。

「このような事態になったのは想定外だ。しかし、手間が省けたのも確か」

 白い頭巾が頷きながら、どちらがいいかと聞いてきた。

「どちらが?」

 影が揃って頷く。

「黒い私は死神」

「白い私は幽霊」

 特区では大したことのない怪異だろう、と黒い頭巾が言った。

「人が急にいなくなっても誰も気にしない。我々にはうってつけの街さ。今の世はあまり死神も幽霊も流行らないものでね。人の記憶から消えていく怪異は力を発揮しないのだよ。だから、この街に来たのさ。ここでは怪異が日常的に力を発揮している。街の人間は我々を恐れながらも、我々の姿を風化させないのだ。だから私たちは外にいるよりも力を存分に発揮できる。怪異を恐れれば恐れるほど、私たちの力は強くなる」

 どちらに魂を食われたいかね、そう迫る影から今度は逃げる術がない。


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 話し声がする。言い争う声だ。重たい瞼を細く開き、壁にかかった時計を見ると二時を回っていた。
 ――こんな遅い時間に、近所迷惑だな。
 そう思ったのも束の間、ベッドの足側で動く影がいるのが見えた。外の通りではない。部屋の中だ。酔っぱらいでも大声をあげているのかと思ったが、何者かが自室にいるのだった。
 声の調子で二人いるとわかる。物盗りだろうか。それにしては部屋を漁っている様子は感じられない。緊急通報装置を使うことも考えたが、すぐ手に届く距離になかった。日頃の防犯意識の低さを呪う。ひとまず、事態を静観することに決めた。幸い、話し声の主はこちらが起きたことに気が付いていないようだ。騒げば死ぬかもれないが、黙って影を見逃せば生かされるかもしれない。
 薄目で伺いながら、目が徐々に暗闇に慣れてきた。足元にはすっぽりと布を被った影が二つ。片方は真っ白で、片方は真っ黒だった。寄り添って、小さいとは言えない声で言い争っている。
「さっき約束しただろう。男だったら俺の物、女だったら君の物。これは男だから俺の物だ」
「でも、髪が短いだけかもしれない。身体を見なければわからない」
「いやいや、布団の外からでもわかるだろう。これは男だから俺のものだ」
 なんとも物騒な話をしている。だんまりを決めても自らの身は危険に晒されているようだ。侵入者の言う、俺の物の意図はわからなかったが、黙って獲物にされるのを待つよりは、緊急通報装置を作動させた方がよさそうだった。
 飛び起きて、装置がある棚に飛びついた。その速さに影は驚いたようだ。
「やや、この人間起きているぞ」
「捕まえろ」
 影が追い付いてきて足を引っ張る。引きずられそうになったが、どうにか装置のボタンを押した。サイレンが鳴り、装置からは赤い光――これは緊急レーザーで対モンスターのための機能である――が放たれ、スピーカーからは怪異に向けての呪文が流れ出す。ひとまずはこれで緊急回避をして、あとは警備署が来るのを待つのだ。どちらかの装置が効果があれば運がいい。
 二つの影は怯んで、足を掴んだ手を離した。その隙に窓に近寄り開け放つ。退路は確保した。このまま、得体のしれない闖入者から逃げられれば――。
「あっ」
 予想外の出来事が身体を襲う。窓を開けた力はそのまま外に向かい、勢いあまって宙に投げ出されていた。何か考える間に身体が地面に叩きつけられる。ごき、と大きな音が鳴った。
 ***
 真っ白な頭巾と真っ黒な頭巾に見下ろされている。周囲を見渡すと、隣に自分の身体だったものがつぶれていた。自分の部屋が七階の部屋だったことを思い出し、そこから投げ出されて、自分は命を落としたのだと悟る。
 黒い頭巾が話しかけてきた。
「このような事態になったのは想定外だ。しかし、手間が省けたのも確か」
 白い頭巾が頷きながら、どちらがいいかと聞いてきた。
「どちらが?」
 影が揃って頷く。
「黒い私は死神」
「白い私は幽霊」
 特区では大したことのない怪異だろう、と黒い頭巾が言った。
「人が急にいなくなっても誰も気にしない。我々にはうってつけの街さ。今の世はあまり死神も幽霊も流行らないものでね。人の記憶から消えていく怪異は力を発揮しないのだよ。だから、この街に来たのさ。ここでは怪異が日常的に力を発揮している。街の人間は我々を恐れながらも、我々の姿を風化させないのだ。だから私たちは外にいるよりも力を存分に発揮できる。怪異を恐れれば恐れるほど、私たちの力は強くなる」
 どちらに魂を食われたいかね、そう迫る影から今度は逃げる術がない。