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第4章〜愛は目で見るものではなく、心で見るもの〜⑬

ー/ー



 シロのそのものズバリの指摘に、声を出すことすらできない。

「その表情は、図星ってことで良いんだよね?」

 クスクスと笑いながら語る彼女に、動揺しながらも、なんとか問い返す。

「な、なんで、わかったんだ……? いや、今回のシロのアドバイスは、この本を元にしてるのか?」

「ようやく、気付いた? 緑川クンに伝授した『孔雀の理論(ピーコック・セオリー)』も、『キューブのルーティーン』も、この本に出てきてたでしょ?」

 そうだったのか……と、呆然としながら、シロの言葉を聞く。
 トリックのタネを知っているマジックを見るほど、滑稽なモノはない。

 ましてや、相手を騙し通せていると信じ込んだ奇術師が、ドヤ顔で、そのマジックを披露しているとしたら――――――。

「うわ〜〜〜〜〜」

 声にならない声をあげ、オレは両手で顔を覆う。

「どうしたのクロ? 顔を隠して……なにか、恥ずかしいことでもあった?」

()()()なんてモノじゃねぇよ……このまま、家に引きこもってしまいたい気分だ……」

 顔を覆っていた手をヒザに置き、うなだれたままそう言うと、シロは、オレを励まそうとしたのか、穏やかな声で語りかけてくる。

「まあまあ……そんなに落ち込まなくてもイイよ。クロのルーティーンは、普通の女の子になら十分に通用するレベルになってるし、わたしが相手じゃなければ、成功してたよ。()()()()()()()()()()()()、ね」

 大事なことだから二回言いました、とばかりに、最後の言葉を強調した彼女は、また、楽しげにクスクスと笑う。そんなシロのようすを目にしながら、なんとか気持ちを切り替えるために、たずねる。

「ネタバレになってるのに、慰められても余計に落ち込むだけだ……けど、シロは、なんでこんな本を読んでるんだよ? これ、内容は完全にオトコ向けだろう?」

 オレの問いかけに彼女は、「う〜ん……」と、うなったあと、「まあ、クロになら言っちゃてもイイか……」と、つぶやき、さらに語り続ける。

「わたしさ、テレビに出る仕事をしてたじゃない? そうすると、やっぱり、未成年でも業界の人に口説かれることも多かったんだ。そういう下心ありのお誘いを断るには、男性がどんなテクニックを使ってくるのか、知っておかないと、って思ってね。最初は、言ってみれば、自衛手段みたいなモノだったんだけど……」

「だけど……なんだよ?」

「読んでみたら、意外なほど面白くて! 自分の『超恋愛学』の男子向けバージョンに、この本に書かれていることを組み込んでみようと思ったの。実際、お仕事で出会ったりする女の子に、ルーティーンのいくつかを試して仲良くなれたこともあったしね」

「そうか……」

 と、短く応じたオレは、ようやく顔の火照りが収まったこともあって、シロの表情を確認する。そこには、いつもの余裕をたたえた笑みではなく、微笑とも苦笑ともつかない、なんとも形容し難い表情があった。

 自分は、小学生のときにわずかな期間を過ごしたときと、四月に転校してきてからの白草四葉しか知らないのだが、芸能一家に生まれ、ショービジネス界にも身を置き、SNSなどでも情報発信を続け、クラスメート達にも笑みを絶やすことがない彼女は、さまざまな表情(かお)を持っているのだ。
 そんないくつもの表情を持つ相手のことを、自分のように取り立てて取り柄のない男子が理解し、受け止めることができるのか……と、今さらながらに思う。

 そんな感情が、胸の中にわきあがってきて、思わずため息が漏れる。そして、自嘲的な笑みがこぼれると、オレの顔をのぞきこんでいたシロがたずねてきた。

「どうしたの、クロ? ため息なんかついて?」

「いや、オレは、シロのほんの少しの表情しか知らないんだと感じてな……考えてみれば、シロが、佐藤や緑川に向けていた笑顔すら、オレは面と向かって見たことがない、と思ったんだ」

 こんな風に、白草四葉にまともに相手をされていない自分が、付け焼き刃のトークで、彼女を口説こうとしたことを思い出し、また、恥ずかしさが込み上げてくる。

 しかし、自分の情けなさに、また大きなため息が漏れそうになったとき、かたわらの女子生徒が、オレよりも大きな吐息を吐き出した。

「はあ〜。クロ、なに勝手に落ち込んでるの?」

 そう言って、少しイラついたような表情で、良く手入れされた髪をかきあげた彼女は、「これは、自分では言わないでおこうと思ったんだけど……」と言ったあと、先ほどと同じようにスマホを操作したあと、一枚の画像ファイルを表示させた。

 それは、先月、彼女が転校してきたばかりの頃、オレの部屋で一緒に撮ったスナップショットだった。

「お仕事で一緒になる名和立夏(めいわりっか)ちゃんて言うお友達がいるんだけど……彼女が、この写真を見たときに言ったの。『ヨツバちゃんは、この男の子と一緒に写っているときが一番イイ笑顔をしてるね』って」

 スマホのディスプレイをオレに向かってかざしながらも、ツンとそっぽを向きながら語る彼女に、おずおずとたずねる。

「えっ? それって……どういう意味なんだ……?」

「さ、さあ? それは、クロが自分で考えなさい!」
 
 まるで、いまや古典的存在となったツンデレキャラ(ただし、デレはない)のように、ピシャリと言い切ったシロは、少し気まずくなったのか、右斜め下に視線を向けながら、ほおをかき、ポツリと言った。

「シェイクスピアの『真夏の夜の夢』やディズ二ー・アニメの『美女と野獣』に、『愛は目で見るものではなく、心で見るもの』っていうセリフがあるの。さっき、クロは、わたしに『真実を掴み取るのに、なにも特別な能力はいらない。ただ、カラダの雑音を鎮めて、そっと心に耳を傾けるだけでイイ』って言ってたでしょ? 自分も同じようにしてみれば?」

 いや、あれは読んだ本の受け売りで……と、答えようとしたが、彼女の最後の言葉は、なぜだか、妙にオレの心に刺さるモノだった。

「あぁ、そうだな……」

 と、答えると、オレのほおには、自然と笑みがこぼれた。それは、自嘲的なものではなく、自分に向き合って答えてくれた白草四葉という少女に対する感情のあらわれだ、と思う。

 そんなオレに、シロは、続けて語りかけてくる。

「特に見返りを求めることもなく、クラスの男子のために動いたクロは、ちょっと格好良かったよ。でも、もう、わたしの知らないところで、他の学校の男子と争ったりするのは、やめてほしい」 

 その表情は、いままでになく真剣なモノだったので、オレは口を結んでから、だまってうなずくしかなかった。


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 シロのそのものズバリの指摘に、声を出すことすらできない。
「その表情は、図星ってことで良いんだよね?」
 クスクスと笑いながら語る彼女に、動揺しながらも、なんとか問い返す。
「な、なんで、わかったんだ……? いや、今回のシロのアドバイスは、この本を元にしてるのか?」
「ようやく、気付いた? 緑川クンに伝授した『|孔雀の理論《ピーコック・セオリー》』も、『キューブのルーティーン』も、この本に出てきてたでしょ?」
 そうだったのか……と、呆然としながら、シロの言葉を聞く。
 トリックのタネを知っているマジックを見るほど、滑稽なモノはない。
 ましてや、相手を騙し通せていると信じ込んだ奇術師が、ドヤ顔で、そのマジックを披露しているとしたら――――――。
「うわ〜〜〜〜〜」
 声にならない声をあげ、オレは両手で顔を覆う。
「どうしたのクロ? 顔を隠して……なにか、恥ずかしいことでもあった?」
「|恥《・》|ず《・》|い《・》なんてモノじゃねぇよ……このまま、家に引きこもってしまいたい気分だ……」
 顔を覆っていた手をヒザに置き、うなだれたままそう言うと、シロは、オレを励まそうとしたのか、穏やかな声で語りかけてくる。
「まあまあ……そんなに落ち込まなくてもイイよ。クロのルーティーンは、普通の女の子になら十分に通用するレベルになってるし、わたしが相手じゃなければ、成功してたよ。|わ《・》|た《・》|し《・》|が《・》|相《・》|手《・》|じ《・》|ゃ《・》|な《・》|け《・》|れ《・》|ば《・》、ね」
 大事なことだから二回言いました、とばかりに、最後の言葉を強調した彼女は、また、楽しげにクスクスと笑う。そんなシロのようすを目にしながら、なんとか気持ちを切り替えるために、たずねる。
「ネタバレになってるのに、慰められても余計に落ち込むだけだ……けど、シロは、なんでこんな本を読んでるんだよ? これ、内容は完全にオトコ向けだろう?」
 オレの問いかけに彼女は、「う〜ん……」と、うなったあと、「まあ、クロになら言っちゃてもイイか……」と、つぶやき、さらに語り続ける。
「わたしさ、テレビに出る仕事をしてたじゃない? そうすると、やっぱり、未成年でも業界の人に口説かれることも多かったんだ。そういう下心ありのお誘いを断るには、男性がどんなテクニックを使ってくるのか、知っておかないと、って思ってね。最初は、言ってみれば、自衛手段みたいなモノだったんだけど……」
「だけど……なんだよ?」
「読んでみたら、意外なほど面白くて! 自分の『超恋愛学』の男子向けバージョンに、この本に書かれていることを組み込んでみようと思ったの。実際、お仕事で出会ったりする女の子に、ルーティーンのいくつかを試して仲良くなれたこともあったしね」
「そうか……」
 と、短く応じたオレは、ようやく顔の火照りが収まったこともあって、シロの表情を確認する。そこには、いつもの余裕をたたえた笑みではなく、微笑とも苦笑ともつかない、なんとも形容し難い表情があった。
 自分は、小学生のときにわずかな期間を過ごしたときと、四月に転校してきてからの白草四葉しか知らないのだが、芸能一家に生まれ、ショービジネス界にも身を置き、SNSなどでも情報発信を続け、クラスメート達にも笑みを絶やすことがない彼女は、さまざまな|表情《かお》を持っているのだ。
 そんないくつもの表情を持つ相手のことを、自分のように取り立てて取り柄のない男子が理解し、受け止めることができるのか……と、今さらながらに思う。
 そんな感情が、胸の中にわきあがってきて、思わずため息が漏れる。そして、自嘲的な笑みがこぼれると、オレの顔をのぞきこんでいたシロがたずねてきた。
「どうしたの、クロ? ため息なんかついて?」
「いや、オレは、シロのほんの少しの表情しか知らないんだと感じてな……考えてみれば、シロが、佐藤や緑川に向けていた笑顔すら、オレは面と向かって見たことがない、と思ったんだ」
 こんな風に、白草四葉にまともに相手をされていない自分が、付け焼き刃のトークで、彼女を口説こうとしたことを思い出し、また、恥ずかしさが込み上げてくる。
 しかし、自分の情けなさに、また大きなため息が漏れそうになったとき、かたわらの女子生徒が、オレよりも大きな吐息を吐き出した。
「はあ〜。クロ、なに勝手に落ち込んでるの?」
 そう言って、少しイラついたような表情で、良く手入れされた髪をかきあげた彼女は、「これは、自分では言わないでおこうと思ったんだけど……」と言ったあと、先ほどと同じようにスマホを操作したあと、一枚の画像ファイルを表示させた。
 それは、先月、彼女が転校してきたばかりの頃、オレの部屋で一緒に撮ったスナップショットだった。
「お仕事で一緒になる|名和立夏《めいわりっか》ちゃんて言うお友達がいるんだけど……彼女が、この写真を見たときに言ったの。『ヨツバちゃんは、この男の子と一緒に写っているときが一番イイ笑顔をしてるね』って」
 スマホのディスプレイをオレに向かってかざしながらも、ツンとそっぽを向きながら語る彼女に、おずおずとたずねる。
「えっ? それって……どういう意味なんだ……?」
「さ、さあ? それは、クロが自分で考えなさい!」
 まるで、いまや古典的存在となったツンデレキャラ(ただし、デレはない)のように、ピシャリと言い切ったシロは、少し気まずくなったのか、右斜め下に視線を向けながら、ほおをかき、ポツリと言った。
「シェイクスピアの『真夏の夜の夢』やディズ二ー・アニメの『美女と野獣』に、『愛は目で見るものではなく、心で見るもの』っていうセリフがあるの。さっき、クロは、わたしに『真実を掴み取るのに、なにも特別な能力はいらない。ただ、カラダの雑音を鎮めて、そっと心に耳を傾けるだけでイイ』って言ってたでしょ? 自分も同じようにしてみれば?」
 いや、あれは読んだ本の受け売りで……と、答えようとしたが、彼女の最後の言葉は、なぜだか、妙にオレの心に刺さるモノだった。
「あぁ、そうだな……」
 と、答えると、オレのほおには、自然と笑みがこぼれた。それは、自嘲的なものではなく、自分に向き合って答えてくれた白草四葉という少女に対する感情のあらわれだ、と思う。
 そんなオレに、シロは、続けて語りかけてくる。
「特に見返りを求めることもなく、クラスの男子のために動いたクロは、ちょっと格好良かったよ。でも、もう、わたしの知らないところで、他の学校の男子と争ったりするのは、やめてほしい」 
 その表情は、いままでになく真剣なモノだったので、オレは口を結んでから、だまってうなずくしかなかった。