第4章〜愛は目で見るものではなく、心で見るもの〜⑪
ー/ー
「いや、ちょっと待ってくれ……いまの話しで、モモカを憐れむことがあるのか? あのクジャクの羽根の小道具を使った会話も、一人きりでいる女子には効き目が薄いってことも、わかっているんだぞ」
オレが、反論すると、シロは、「いや、そう言うことじゃなくて……」と、言ったあと、さらにあきれ果てたという顔色で、オレの目を見つめて、一言だけつぶやく。
「まあ、わたしにとっては、その方が都合が良いし、別にイイか……」
緑川に対する含みのある物言いに続いて、ふたたび、意味ありげな発言をするクラスメートに、
「な、なんだよ……また、なにか言いたげなカオだな?」
と、言葉を返すと、シロは澄ました表情のまま、「ん〜、べつに〜」と言いながら、何やら他のことを考えているようだ。そして、スッパリと話題を変えるように、こんなことをたずねてきた。
「そんなことよりさ……いま話題に上がった、『孔雀の理論』には続きがあるって言ったことを覚えてる?」
「あぁ、たしか、緑川のクジャクの羽根の『ツカミ』が成功したことを報告したときに、そんなことを言ってたな」
「うん! 孔雀のオスの尾羽が派手になっていったのは、尾羽が派手なオスが、多くのメスを獲得することができたからなんだけど……アカエリホウオウという鳥は、オスに人工の尾を取り付けただけで、メスが多く集うようになった、という実験結果あるの」
「そうなのか?」
「それに、クロライチョウという鳥も人気の無かったオスのそばに、メスの剥製を置くだけで、そのオスが急にモテだした、なんて記録もある」
「それ、たしか、前にシロが話していたグッピーでも似たような実験結果があるって言ってなかったか?」
「よく覚えてるね! そう、鳥だけじゃなく、魚類でも同じような結果が出てる。だからね……」
シロは、ここで、言葉を区切ったあと、微笑を浮かべながら、こう言った。
「女子から注目を浴びたければ、わたしを口説いてみない?」
相変わらずの突拍子もない発言に、
「えっ? なんだって?」
と、問い返す。
「わたしが、クロと親しくしている雰囲気を見れば、周りの女子も『えっ、今まで気づかなかったけど、もしかして、黒田クンってイケてる?』って思い出して、クロを見る目が変わるってこと?」
まあ、ここまでの話しの流れで、シロが言いたいことも理解できないではない。
ただし――――――。
「それ、先月も紅野を振り向かせようとして、同じようなことをしたじゃねぇか?」
オレは、当然の反論を試みるが、相手はいつもの余裕の笑みで、「ふ〜ん、ここでヘタれるんだ」と、挑発的に言ったあと、
「いまのクロなら、わたしのことを良くわかってくれているんじゃないかと思うし、そのことが確信できたとしたら、ココロが動くんじゃないかと思うんだけどな〜」
と、なにやら、いわくありげな表情でつぶやくように語る。
いや、いま、目の前の相手に告白を断られてから、まだ数週間しか経過していないのだが……。
もしかして、この短期間で、白草四葉が、オレを見る目が変わったのだろうか?
そうだ、誰にも話すことはなかったが、緑川のそばで様々なルーティーンの成功例を目にしただけでなく、オレには、秘伝の書と言ってもいい『ザ・ゲーム』というバイブルから得た知識も備わっているのだ。
その書籍の中には、今世紀はじめに、世界的なアーティストとして名を馳せたブリトニー・スピアーズを虜にしたトーク術も披露されていた。
同世代のカリスマとして、歌い手という側面も持つ白草四葉ならば、相手にとって不足はないだろう(この場合、自分には荷が重いだろうというネガティブな感情には、気づかないようにする)。
「わかった……シロが、そこまで言うなら……」
オレは、そう言って、ここ数週間に得た知識をフル稼働させるべく、頭を巡らせる。
男子、三日会わざれば刮目して見よ、という言葉を今こそ証明してみせよう、と意気込んだオレは、目の前の女子に質問する。
「シロは、インフルエンサーとして、色んなアクセサリーを紹介することもあると思うが、プライベートで指輪をしたりするか? 指にはめるなら、どの指にすることが多い?」
「それで、なにか、わかったりするの?」
「指輪には、それぞれ、はめる指によって、意味があるんだ。これで、そのヒトの性格や、いま、どんな人間になりたいかという無意識の想いがわかるらしい。たとえば、結婚指輪は左手の薬指にはめるけど、これは、古代ギリシアの人々が、薬指は愛の女神アフロディーテが司っていて、この指は静脈が枝分かれせずに、真っ直ぐに心臓に繋がっていると考えていたからなんだ。結婚式で、この指に相手から指輪をはめてもらうという儀式は、その相手が自分のハートとつながったと言うことを意味する」
「あっ、その話しは聞いたことがある! だから、お互いの絆を深めるエンゲージリングって言うんだよね! 他の指も、神様と関係があったり、なにか意味があったりするの?」
思ったとおり、上手く、トークに食いついてきた。
女子だから……という理由だけでなく、恋愛に関する話題を好む彼女に合わせて、『ツカミ』のトークを始めてみたが、狙いどおり効果はあったようだ。
「たとえば、親指は、海の神ポセイドン。とても、独立心が強い神様で、ギリシャの神々の中で唯一オリンポスの山に住まずに海に住んでいる。親指は、他の指から独立して生えているように見えるだろ? だから、親指に指輪をするヒトは、独立心が強く、自分のことは自分でやるってタイプが多い」
「そうなんだ! 他には?」
「人差し指は、神々の王ゼウスを象徴している。その意味するところは、チカラと支配だ。日本語で人差し指と言うように、人を指差したり、誰かに指示を出すとき、指揮を振るう時には、この指を使う。人差し指に指輪をする人には、リーダーシップを取りたがる人が多いと言われている」
「そっか! 面白いな〜。でも、いまのわたしは……」
そう言って、自分の指に触れるシロの仕草を見ながら、問いかける。
「いまのシロは、どの指にも指輪をはめることは無い。違うか?」
オレの言葉に、大きくうなずいた彼女に、穏やかな口調で付け加えた。
「もちろん、そのことにも意味はあるんだ。聞きたいか?」
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オレが、反論すると、シロは、「いや、そう言うことじゃなくて……」と、言ったあと、さらにあきれ果てたという顔色で、オレの目を見つめて、一言だけつぶやく。
「まあ、わたしにとっては、その方が都合が良いし、別にイイか……」
緑川に対する含みのある物言いに続いて、ふたたび、意味ありげな発言をするクラスメートに、
「な、なんだよ……また、なにか言いたげなカオだな?」
と、言葉を返すと、シロは澄ました表情のまま、「ん〜、べつに〜」と言いながら、何やら他のことを考えているようだ。そして、スッパリと話題を変えるように、こんなことをたずねてきた。
「そんなことよりさ……いま話題に上がった、『孔雀の理論』には続きがあるって言ったことを覚えてる?」
「あぁ、たしか、緑川のクジャクの羽根の『ツカミ』が成功したことを報告したときに、そんなことを言ってたな」
「うん! 孔雀のオスの尾羽が派手になっていったのは、尾羽が派手なオスが、多くのメスを獲得することができたからなんだけど……アカエリホウオウという鳥は、オスに人工の尾を取り付けただけで、メスが多く集うようになった、という実験結果あるの」
「そうなのか?」
「それに、クロライチョウという鳥も人気の無かったオスのそばに、メスの剥製を置くだけで、そのオスが急にモテだした、なんて記録もある」
「それ、たしか、前にシロが話していたグッピーでも似たような実験結果があるって言ってなかったか?」
「よく覚えてるね! そう、鳥だけじゃなく、魚類でも同じような結果が出てる。だからね……」
シロは、ここで、言葉を区切ったあと、微笑を浮かべながら、こう言った。
「女子から注目を浴びたければ、わたしを口説いてみない?」
相変わらずの突拍子もない発言に、
「えっ? なんだって?」
と、問い返す。
「わたしが、クロと親しくしている雰囲気を見れば、周りの女子も『えっ、今まで気づかなかったけど、もしかして、黒田クンってイケてる?』って思い出して、クロを見る目が変わるってこと?」
まあ、ここまでの話しの流れで、シロが言いたいことも理解できないではない。
ただし――――――。
「それ、先月も紅野を振り向かせようとして、同じようなことをしたじゃねぇか?」
オレは、当然の反論を試みるが、相手はいつもの余裕の笑みで、「ふ〜ん、ここでヘタれるんだ」と、挑発的に言ったあと、
「|い《・》|ま《・》|の《・》|ク《・》|ロ《・》なら、|わ《・》|た《・》|し《・》|の《・》|こ《・》|と《・》|を《・》|良《・》|く《・》|わ《・》|か《・》|っ《・》|て《・》|く《・》|れ《・》|て《・》|い《・》|る《・》|ん《・》|じ《・》|ゃ《・》|な《・》|い《・》|か《・》|と《・》|思《・》|う《・》|し《・》、|そ《・》|の《・》|こ《・》|と《・》|が《・》|確《・》|信《・》|で《・》|き《・》|た《・》|と《・》|し《・》|た《・》|ら《・》、|コ《・》|コ《・》|ロ《・》|が《・》|動《・》|く《・》|ん《・》|じ《・》|ゃ《・》|な《・》|い《・》|か《・》と思うんだけどな〜」
と、なにやら、いわくありげな表情でつぶやくように語る。
いや、いま、目の前の相手に告白を断られてから、まだ数週間しか経過していないのだが……。
もしかして、この短期間で、白草四葉が、オレを見る目が変わったのだろうか?
そうだ、誰にも話すことはなかったが、緑川のそばで様々なルーティーンの成功例を目にしただけでなく、オレには、秘伝の書と言ってもいい『ザ・ゲーム』というバイブルから得た知識も備わっているのだ。
その書籍の中には、今世紀はじめに、世界的なアーティストとして名を馳せたブリトニー・スピアーズを虜にしたトーク術も披露されていた。
同世代のカリスマとして、歌い手という側面も持つ白草四葉ならば、相手にとって不足はないだろう(この場合、自分には荷が重いだろうというネガティブな感情には、気づかないようにする)。
「わかった……シロが、そこまで言うなら……」
オレは、そう言って、ここ数週間に得た知識をフル稼働させるべく、頭を巡らせる。
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「それで、なにか、わかったりするの?」
「指輪には、それぞれ、はめる指によって、意味があるんだ。これで、そのヒトの性格や、いま、どんな人間になりたいかという無意識の想いがわかるらしい。たとえば、結婚指輪は左手の薬指にはめるけど、これは、古代ギリシアの人々が、薬指は愛の女神アフロディーテが司っていて、この指は静脈が枝分かれせずに、真っ直ぐに心臓に繋がっていると考えていたからなんだ。結婚式で、この指に相手から指輪をはめてもらうという儀式は、その相手が自分のハートとつながったと言うことを意味する」
「あっ、その話しは聞いたことがある! だから、お互いの絆を深めるエンゲージリングって言うんだよね! 他の指も、神様と関係があったり、なにか意味があったりするの?」
思ったとおり、上手く、トークに食いついてきた。
女子だから……という理由だけでなく、恋愛に関する話題を好む彼女に合わせて、『ツカミ』のトークを始めてみたが、狙いどおり効果はあったようだ。
「たとえば、親指は、海の神ポセイドン。とても、独立心が強い神様で、ギリシャの神々の中で唯一オリンポスの山に住まずに海に住んでいる。親指は、他の指から独立して生えているように見えるだろ? だから、親指に指輪をするヒトは、独立心が強く、自分のことは自分でやるってタイプが多い」
「そうなんだ! 他には?」
「人差し指は、神々の王ゼウスを象徴している。その意味するところは、チカラと支配だ。日本語で人差し指と言うように、人を指差したり、誰かに指示を出すとき、指揮を振るう時には、この指を使う。人差し指に指輪をする人には、リーダーシップを取りたがる人が多いと言われている」
「そっか! 面白いな〜。でも、いまのわたしは……」
そう言って、自分の指に触れるシロの仕草を見ながら、問いかける。
「いまのシロは、どの指にも指輪をはめることは無い。違うか?」
オレの言葉に、大きくうなずいた彼女に、穏やかな口調で付け加えた。
「もちろん、そのことにも意味はあるんだ。聞きたいか?」