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第62話 異形の森

ー/ー



異形と聞いて、俺達はすぐに武器を構えた。
いや、仮に聞かなくても同じだったろうが。

それは俺達にくっついてきたものだけでなく、他にもそこらの茂みや木の上にうじゃうじゃいる。
そして、その中の数体が飛びかかってきた。
「氷法 [凍てつく風]!」
煌汰が術を唱えて植物…いや異形を凍らせて動きを止めた所に、俺が「ソロファイア」を撃ち込んで粉砕する。
柳助達はというと、まず柳助が細かい小石や砂粒をばらまき、それをナイアが風に乗せて異形を切り裂く、というやり方で敵を減らしていた。

異形の耐久自体は低く、術を当てると簡単に倒せるが、触手含む表面全体が粘液みたいなもので覆われており、それを利用してこちらにくっつこうとしてくる。
奴らにの粘液はかなり粘り気が強く、一度くっつかれると剥がすのに苦労する。
柳助やナイアですら、力ずくで剥がすのに難儀しているほどだ。
「なんなのよこいつら…」

「粘液でくっつこうとしてくる…まるでメナモミだな」
思わずそう言うと、柳助が正解の意を示した。
「その通り…こいつらは、メナモミの一種が異形化したものだ。ただ、動物にくっつくのは種を拡散するためじゃない。動物に寄生して発芽し、その体を苗床にして成長するためだ」

ほ、ほう…
つまり、メナモミとヤドリギをくっつけたような感じか。
全く、恐ろしい植物である。
…いや、異形は植物…なのか?
「寄生植物って訳か…恐ろしい植物だな!」
煌汰がそう言うという事は、こういう植物はこの世界でもイレギュラーな存在なのだろうか。

しかし、本来はいつの間にかくっついてくるくらいで毒などの実害はない植物が、こんな厄介で恐ろしい存在になるとは。
異形化というのが、いかに恐ろしい事であるかが伺える。
関係ない話だが、俺の地元ではあの手の「いつの間にか服にくっついてる植物」は「どろぼう」と呼ばれていた。
子供の頃は、秋に友達と遊んで帰宅した後に色々と困らされたものである。
まあ俺が見たことあるのは「2本のトゲがあり、これで服に刺さる」というタイプがほとんどだったが。

そうしている間に、ナイアが左の脇腹にくっつかれた。
剥がそうとした所にさらに別の異形が飛んできたため、柳助が岩を撃ち出してふっ飛ばした。

「うっ…こいつ…っ!」
ナイアが悪戦苦闘していると、煌汰が青い球…魔弾?を当てて異形を凍らせた。
ナイアはすぐに異形を振り落とし、踏み潰した。
「助かった…ありがとう」

「いやいや…よくわかんないけど、こいつらしばらくくっつかれるとヤバいタイプだよね、多分…!」

「ああ…しばらくすると奴らは発芽して、宿主の体に根を張る。そのうち意識を乗っ取られ、奴らの苗床にされる…!」

「やっぱりヤバいやつか…!なら、こうだ!」
煌汰は左手を高く掲げて叫ぶ。
「奥義 [吹雪の雄叫び]!」
瞬間、局所的な吹雪が荒れ狂い、あたりの異形を全て氷に閉じ込めた。

「…よし!あとは柳助、頼むぜ!」

「おう!」
そして、柳助は両手を交差させる。
「地法 [ストンレイン]」
鍾乳石みたいな細長い岩が降り注ぎ、凍った異形達を一匹残らず打ち砕いた。


「やったな…!」

「これで、もう大丈夫よね!」
俺達は終戦ムードに包まれていたが、柳助はそれを否定した。 
「いや、まだだ」

「…え?」

「奴らはあくまでも『種』。種をばらまいた成体がいるはずだ」

「確かにそうか…じゃ、そいつを倒さないと!」

「でも、どこにいるの?」

「シードが大量に現れたという事は、成体はそう遠くない所にいるだろう。それを見つけ次第、撃破せねばなるまい」
それはそうだが、その情報だけでは具体的な位置を特定できない。
「少なくともこの森のどこかにはいるはずだ。探すぞ!」

「で、でも、木はどうするんだよ?」

「後回しだ。それにもう切った分は、ナイアが持ってるだろう?」

「まあ、ね…」

「ならいい。行くぞ!」




柳助に先導され、森を進む。
居場所がわかるのかと聞いたら、魔力を辿っていけばおおよそ特定できると言われた。
植物系の異形は植物が魔力で変異したものであるため、活動した場所には魔力を残すというが…俺には、魔力などとても感じられなかった。
経験がないから…なのだろうか。



そうして、ついに"それ"が現れた。
全体的なカラーリングやフォルムはごく普通の植物だが、花の部分がグロテスクな程赤く、茎の途中とがくの根本から何本もの触手が伸びている。
葉や茎はおびただしい粘液で覆われており、がくの部分には毒々しく不気味な黄色と紫の模様がある、巨大な植物。
それが、俺達の前に姿を現したのである。
「こいつが…」

「『メーディア』、比較的珍しい植物系の異形だ。この国では滅多に見かけないはずだが…なぜここに?」

すると、向こうはこちらに気づいたのか、全体を不気味にくねらせた後、触手を振り下ろしてきた。
回避した…と思ったら、すぐに振り上げてまた振り下ろしてきた。
埒が明かないので、空中に飛び上がった。

「…!よせ!降りろ!」
何やら焦る柳助の言葉を耳にした直後、がくの根本の触手が勢いよく伸びてきた。
とっさの事で反応が遅れ、捕まってしまった。
そして、奴は俺を花の方へ持って行く。
その花の中には、無数の牙のようなものが(うごめ)いていた―

「[零下の剣閃]!」
煌汰が触手を切り落としてくれたおかげで解放され、捕食されずに済んだ。

「姜芽、大丈夫!?」

「ああ…なんだ、今の!」

「こいつは獲物を粘液と触手で捕らえ、花弁で捕食する!花弁に近づくなど、自殺行為だ!」

「す、すまない…っ!」
異形が触手を振りかぶり、薙ぎ払おうとしているのが見えた。
「また来るぞ!」
すぐにみんなは振り向いて状況を確認し、すんでの所でしゃがんで回避した。
しかし、続けて別の触手を振るってきたため、低めにジャンプして回避する。
「連続攻撃してくるのか…!」

「まだだ…まだ来るぞ、構えろ!」

「えっ…!?」
柳助の言う通り、今度は花全体をすぼめて何かを溜めている。
間もなくして、花は溜めていたものを吐き出した。

それは、得体の知れない黄色の液体だった。
「避けろ!」
柳助の声と共に、俺達は飛び退く。
だが、俺はジャンプの瞬間に足を変に捻ってしまった。
「痛っ…!」
そして、俺は攻撃をもろに食らった。

食らった…のだが、痛みが全くない。
何なら、今捻った足の痛みも攻撃を食らった瞬間きれいに消えた。
何だ…?と思ったが、直後に自身の体に起きている異常に気づいた。
体が動かない。
というか、喋る事も出来ない。
口が動かないどころか、声を出すことも出来ないのである。

「…?…?」
困惑していると、柳助の声が聞こえた。

「被弾したか…メーディアは強力な麻痺毒を持っている!すぐに治療しないと、命が…!」
柳助の言葉を聞き終わる前に、息が苦しくなった。
同時に、異様な寒気に襲われ…
俺は、意識を失った。



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異形と聞いて、俺達はすぐに武器を構えた。いや、仮に聞かなくても同じだったろうが。
それは俺達にくっついてきたものだけでなく、他にもそこらの茂みや木の上にうじゃうじゃいる。
そして、その中の数体が飛びかかってきた。
「氷法 [凍てつく風]!」
煌汰が術を唱えて植物…いや異形を凍らせて動きを止めた所に、俺が「ソロファイア」を撃ち込んで粉砕する。
柳助達はというと、まず柳助が細かい小石や砂粒をばらまき、それをナイアが風に乗せて異形を切り裂く、というやり方で敵を減らしていた。
異形の耐久自体は低く、術を当てると簡単に倒せるが、触手含む表面全体が粘液みたいなもので覆われており、それを利用してこちらにくっつこうとしてくる。
奴らにの粘液はかなり粘り気が強く、一度くっつかれると剥がすのに苦労する。
柳助やナイアですら、力ずくで剥がすのに難儀しているほどだ。
「なんなのよこいつら…」
「粘液でくっつこうとしてくる…まるでメナモミだな」
思わずそう言うと、柳助が正解の意を示した。
「その通り…こいつらは、メナモミの一種が異形化したものだ。ただ、動物にくっつくのは種を拡散するためじゃない。動物に寄生して発芽し、その体を苗床にして成長するためだ」
ほ、ほう…
つまり、メナモミとヤドリギをくっつけたような感じか。
全く、恐ろしい植物である。
…いや、異形は植物…なのか?
「寄生植物って訳か…恐ろしい植物だな!」
煌汰がそう言うという事は、こういう植物はこの世界でもイレギュラーな存在なのだろうか。
しかし、本来はいつの間にかくっついてくるくらいで毒などの実害はない植物が、こんな厄介で恐ろしい存在になるとは。
異形化というのが、いかに恐ろしい事であるかが伺える。
関係ない話だが、俺の地元ではあの手の「いつの間にか服にくっついてる植物」は「どろぼう」と呼ばれていた。
子供の頃は、秋に友達と遊んで帰宅した後に色々と困らされたものである。
まあ俺が見たことあるのは「2本のトゲがあり、これで服に刺さる」というタイプがほとんどだったが。
そうしている間に、ナイアが左の脇腹にくっつかれた。
剥がそうとした所にさらに別の異形が飛んできたため、柳助が岩を撃ち出してふっ飛ばした。
「うっ…こいつ…っ!」
ナイアが悪戦苦闘していると、煌汰が青い球…魔弾?を当てて異形を凍らせた。
ナイアはすぐに異形を振り落とし、踏み潰した。
「助かった…ありがとう」
「いやいや…よくわかんないけど、こいつらしばらくくっつかれるとヤバいタイプだよね、多分…!」
「ああ…しばらくすると奴らは発芽して、宿主の体に根を張る。そのうち意識を乗っ取られ、奴らの苗床にされる…!」
「やっぱりヤバいやつか…!なら、こうだ!」
煌汰は左手を高く掲げて叫ぶ。
「奥義 [吹雪の雄叫び]!」
瞬間、局所的な吹雪が荒れ狂い、あたりの異形を全て氷に閉じ込めた。
「…よし!あとは柳助、頼むぜ!」
「おう!」
そして、柳助は両手を交差させる。
「地法 [ストンレイン]」
鍾乳石みたいな細長い岩が降り注ぎ、凍った異形達を一匹残らず打ち砕いた。
「やったな…!」
「これで、もう大丈夫よね!」
俺達は終戦ムードに包まれていたが、柳助はそれを否定した。 
「いや、まだだ」
「…え?」
「奴らはあくまでも『種』。種をばらまいた成体がいるはずだ」
「確かにそうか…じゃ、そいつを倒さないと!」
「でも、どこにいるの?」
「シードが大量に現れたという事は、成体はそう遠くない所にいるだろう。それを見つけ次第、撃破せねばなるまい」
それはそうだが、その情報だけでは具体的な位置を特定できない。
「少なくともこの森のどこかにはいるはずだ。探すぞ!」
「で、でも、木はどうするんだよ?」
「後回しだ。それにもう切った分は、ナイアが持ってるだろう?」
「まあ、ね…」
「ならいい。行くぞ!」
柳助に先導され、森を進む。
居場所がわかるのかと聞いたら、魔力を辿っていけばおおよそ特定できると言われた。
植物系の異形は植物が魔力で変異したものであるため、活動した場所には魔力を残すというが…俺には、魔力などとても感じられなかった。
経験がないから…なのだろうか。
そうして、ついに"それ"が現れた。
全体的なカラーリングやフォルムはごく普通の植物だが、花の部分がグロテスクな程赤く、茎の途中とがくの根本から何本もの触手が伸びている。
葉や茎はおびただしい粘液で覆われており、がくの部分には毒々しく不気味な黄色と紫の模様がある、巨大な植物。
それが、俺達の前に姿を現したのである。
「こいつが…」
「『メーディア』、比較的珍しい植物系の異形だ。この国では滅多に見かけないはずだが…なぜここに?」
すると、向こうはこちらに気づいたのか、全体を不気味にくねらせた後、触手を振り下ろしてきた。
回避した…と思ったら、すぐに振り上げてまた振り下ろしてきた。
埒が明かないので、空中に飛び上がった。
「…!よせ!降りろ!」
何やら焦る柳助の言葉を耳にした直後、がくの根本の触手が勢いよく伸びてきた。
とっさの事で反応が遅れ、捕まってしまった。
そして、奴は俺を花の方へ持って行く。
その花の中には、無数の牙のようなものが|蠢《うごめ》いていた―
「[零下の剣閃]!」
煌汰が触手を切り落としてくれたおかげで解放され、捕食されずに済んだ。
「姜芽、大丈夫!?」
「ああ…なんだ、今の!」
「こいつは獲物を粘液と触手で捕らえ、花弁で捕食する!花弁に近づくなど、自殺行為だ!」
「す、すまない…っ!」
異形が触手を振りかぶり、薙ぎ払おうとしているのが見えた。
「また来るぞ!」
すぐにみんなは振り向いて状況を確認し、すんでの所でしゃがんで回避した。
しかし、続けて別の触手を振るってきたため、低めにジャンプして回避する。
「連続攻撃してくるのか…!」
「まだだ…まだ来るぞ、構えろ!」
「えっ…!?」
柳助の言う通り、今度は花全体をすぼめて何かを溜めている。
間もなくして、花は溜めていたものを吐き出した。
それは、得体の知れない黄色の液体だった。
「避けろ!」
柳助の声と共に、俺達は飛び退く。
だが、俺はジャンプの瞬間に足を変に捻ってしまった。
「痛っ…!」
そして、俺は攻撃をもろに食らった。
食らった…のだが、痛みが全くない。
何なら、今捻った足の痛みも攻撃を食らった瞬間きれいに消えた。
何だ…?と思ったが、直後に自身の体に起きている異常に気づいた。
体が動かない。
というか、喋る事も出来ない。
口が動かないどころか、声を出すことも出来ないのである。
「…?…?」
困惑していると、柳助の声が聞こえた。
「被弾したか…メーディアは強力な麻痺毒を持っている!すぐに治療しないと、命が…!」
柳助の言葉を聞き終わる前に、息が苦しくなった。
同時に、異様な寒気に襲われ…
俺は、意識を失った。