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 翌日は、ひとりで出かけることにした。

 毎度のことだが、どこへ行くのか愛茉は訊いてこない。ただ笑顔で、麦茶が入った水筒を渡してくるだけ。オレが行き先を決めていないのをちゃんと分かっているからだ。

 家を出て、頭を空っぽにしたまま足が勝手に動く方向へ歩いていく。途中でなんとなくバスに乗って、小樽駅へ到着。そして再びなんとなく別の路線に乗ってボンヤリと窓の外を眺めていると、このバスが水族館へ向かっているものだと知る。
 そこでようやく、今日の目的地を決めた。祝津(しゅくつ)のパノラマ展望台だ。

 祝津方面は、小樽に到着した翌日にも足を向けた。その日は雨だったが、今日は天気がいい。また違った景色が観られるだろう。

 終点の水族館前でバスを降りて、そこから10分ほど歩いてパノラマ展望台へ向かう。

 勝手に足が向くのは、その土地に呼ばれているからだと思っている。海外でも同じように目的地を決めずにフラフラしているが、ふいにどこかへ引き寄せられるように体が動く。そうして辿り着いた先で生まれる感情は、おそらく遠い祖先が感じたもの。それが自分の遺伝情報に刻み込まれているのだろう。

 展望台は、ゆるやかな坂の先にある。ここに呼ばれるのは2回目か。オレにとって、なにか縁がある土地なのかもしれない。

 今日は平日だが天気がいいこともあって、パラパラと観光客がいた。そしてここでもギョッとした顔で見られたが、オレが一眼レフやスケッチブックを持っているのに気がつくと、なんとなく納得したような表情に変わる。なぜ「芸術家は変わり者」と思われるのだろうか。

 ひとまず周囲をぐるりと見回してみる。先日は雨で霞んでいたトド岩も、綺麗に見えた。ここには毎年冬から春にかけて、野生のトドの群れが上陸する。いつか見てみたいと思っているが、年々その数は減っているらしい。

 東側に目を向けると、高島岬と日和山灯台が見える。そして西側には断崖があって、その寂寥たる雰囲気には思わずカメラを向けたくなった。夕陽が沈む景色は絶景らしいので、今日は日没までここで過ごすことにする。

 とりあえず、帰る時間を愛茉に連絡しておくか。

「あ、あの……」

 ベンチに座ってスマホを触っていると、子供の声が聞こえた。

「す、すみません! とと、突然話しかけて! あの、こ、この前も、ここに来てましたよね」

 後ろに立っていたのは、まだあどけない顔をしている少女。中学生ぐらいだろうか。赤いメガネの奥の瞳は、好奇心と不安が入り混じった色をしている。

 オレに話しかけるなんて、なかなか勇敢だな。翔流のとぼけた顔を、ふと思い出した。


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 翌日は、ひとりで出かけることにした。
 毎度のことだが、どこへ行くのか愛茉は訊いてこない。ただ笑顔で、麦茶が入った水筒を渡してくるだけ。オレが行き先を決めていないのをちゃんと分かっているからだ。
 家を出て、頭を空っぽにしたまま足が勝手に動く方向へ歩いていく。途中でなんとなくバスに乗って、小樽駅へ到着。そして再びなんとなく別の路線に乗ってボンヤリと窓の外を眺めていると、このバスが水族館へ向かっているものだと知る。
 そこでようやく、今日の目的地を決めた。|祝津《しゅくつ》のパノラマ展望台だ。
 祝津方面は、小樽に到着した翌日にも足を向けた。その日は雨だったが、今日は天気がいい。また違った景色が観られるだろう。
 終点の水族館前でバスを降りて、そこから10分ほど歩いてパノラマ展望台へ向かう。
 勝手に足が向くのは、その土地に呼ばれているからだと思っている。海外でも同じように目的地を決めずにフラフラしているが、ふいにどこかへ引き寄せられるように体が動く。そうして辿り着いた先で生まれる感情は、おそらく遠い祖先が感じたもの。それが自分の遺伝情報に刻み込まれているのだろう。
 展望台は、ゆるやかな坂の先にある。ここに呼ばれるのは2回目か。オレにとって、なにか縁がある土地なのかもしれない。
 今日は平日だが天気がいいこともあって、パラパラと観光客がいた。そしてここでもギョッとした顔で見られたが、オレが一眼レフやスケッチブックを持っているのに気がつくと、なんとなく納得したような表情に変わる。なぜ「芸術家は変わり者」と思われるのだろうか。
 ひとまず周囲をぐるりと見回してみる。先日は雨で霞んでいたトド岩も、綺麗に見えた。ここには毎年冬から春にかけて、野生のトドの群れが上陸する。いつか見てみたいと思っているが、年々その数は減っているらしい。
 東側に目を向けると、高島岬と日和山灯台が見える。そして西側には断崖があって、その寂寥たる雰囲気には思わずカメラを向けたくなった。夕陽が沈む景色は絶景らしいので、今日は日没までここで過ごすことにする。
 とりあえず、帰る時間を愛茉に連絡しておくか。
「あ、あの……」
 ベンチに座ってスマホを触っていると、子供の声が聞こえた。
「す、すみません! とと、突然話しかけて! あの、こ、この前も、ここに来てましたよね」
 後ろに立っていたのは、まだあどけない顔をしている少女。中学生ぐらいだろうか。赤いメガネの奥の瞳は、好奇心と不安が入り混じった色をしている。
 オレに話しかけるなんて、なかなか勇敢だな。翔流のとぼけた顔を、ふと思い出した。