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ー/ー



「い、いきます!」
「……サイドブレーキ」

 はっとして、愛茉がサイドブレーキを外した。そして、ゆっくりとアクセルを踏んでガレージを脱出する。

 なんでハンドルを切らないで直進するんだよ。そのまま畑に突っ込む気かよ。家の前の道路が広くてよかったと、心底思った。

「んじゃとりあえず、家の周りを1周してみ」
「いえっさー!」

 威勢よく返事をしたものの、車のスピードは自転車よりも遅い。この慎重な性格は運転向きとも言えるが、最寄りのコンビニに行くだけでも日が暮れそうだ。

 ただ、思った以上に運転は上手い。角を曲がるときの内輪差も意識できているようだし、こんな田舎道でも周りをしっかり確認していた。教習所で褒められたというのは、どうやら本当らしいな。

 亀の歩みではあったが、特に問題なく家の周りを1周できた。愛茉は充実感に満ち溢れた表情をしている。

「はぁ、運転できた!」
「お疲れさん」
「じゃ、交代ー!」

 そう言って、そそくさと運転席を降りる。

 愛茉が運転したいと言い出したときは、さすがに躊躇った。オレの車ならまだしも、智美さんの愛車だ。傷つけずに済んで、本当によかった。

 ただ、東京へ帰っても絶対に運転させないからな。オレの寿命が縮む。

「やっぱり、助手席が落ち着くなぁ。桔平くんの横顔、見つめ放題だし」

 オレが運転席に座ると、愛茉は子供のように脚をバタバタさせる。
 
「せま……シート、前に出しすぎだろ」
「すみませんねぇ、桔平くんと違って脚が短いんですのよ」

 シートの位置をかなり後ろに下げてから、ようやく本来の目的地に向けて出発する。

 もともと、小樽駅に買い出しへ行くために車を使わせてもらう予定になっていた。余計な時間を食ったが、愛茉がご満悦の様子なのでよしとする。

「桔平くんと地元ドライブなんて、嬉しいな」
「ドライブってほどじゃねぇだろ。人の車だし、目的の場所以外は行かねぇからな」
「分かってますぅ」
 
 それにしても、人も車もほとんど通っていない。そう言えば、今日は平日だった。

 こんな田舎道を運転するのは、どのぐらいぶりだろう。去年の春、アメリカでルート66を走ったとき以来か。なにもない砂漠をひたすら進むのは、かなりエモーショナルな体験だった。

 ただ、愛茉が育った街を一緒に走っているというのも、ある意味で感慨深い。やはり小樽に来たのは正解だった。

「桔平くんって、運転上手いよね」

 オレが運転している間、愛茉はずっとこちらに顔を向けている。いつものことだから、あまり気にはならない。
 
「そうか? 普通だろ」
「だって急発進も急ハンドルもしないし、狭いスペースでも1発で駐車するじゃない。ちゃんと歩行者優先するし、丁寧だし、むやみにスピードを上げたりしないし。やっぱりかっこいい」
「お褒めに預かり光栄です」

 愛茉と車で出かけることは少ないが、たまにはいいかもしれないと思った。


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「い、いきます!」
「……サイドブレーキ」
 はっとして、愛茉がサイドブレーキを外した。そして、ゆっくりとアクセルを踏んでガレージを脱出する。
 なんでハンドルを切らないで直進するんだよ。そのまま畑に突っ込む気かよ。家の前の道路が広くてよかったと、心底思った。
「んじゃとりあえず、家の周りを1周してみ」
「いえっさー!」
 威勢よく返事をしたものの、車のスピードは自転車よりも遅い。この慎重な性格は運転向きとも言えるが、最寄りのコンビニに行くだけでも日が暮れそうだ。
 ただ、思った以上に運転は上手い。角を曲がるときの内輪差も意識できているようだし、こんな田舎道でも周りをしっかり確認していた。教習所で褒められたというのは、どうやら本当らしいな。
 亀の歩みではあったが、特に問題なく家の周りを1周できた。愛茉は充実感に満ち溢れた表情をしている。
「はぁ、運転できた!」
「お疲れさん」
「じゃ、交代ー!」
 そう言って、そそくさと運転席を降りる。
 愛茉が運転したいと言い出したときは、さすがに躊躇った。オレの車ならまだしも、智美さんの愛車だ。傷つけずに済んで、本当によかった。
 ただ、東京へ帰っても絶対に運転させないからな。オレの寿命が縮む。
「やっぱり、助手席が落ち着くなぁ。桔平くんの横顔、見つめ放題だし」
 オレが運転席に座ると、愛茉は子供のように脚をバタバタさせる。
「せま……シート、前に出しすぎだろ」
「すみませんねぇ、桔平くんと違って脚が短いんですのよ」
 シートの位置をかなり後ろに下げてから、ようやく本来の目的地に向けて出発する。
 もともと、小樽駅に買い出しへ行くために車を使わせてもらう予定になっていた。余計な時間を食ったが、愛茉がご満悦の様子なのでよしとする。
「桔平くんと地元ドライブなんて、嬉しいな」
「ドライブってほどじゃねぇだろ。人の車だし、目的の場所以外は行かねぇからな」
「分かってますぅ」
 それにしても、人も車もほとんど通っていない。そう言えば、今日は平日だった。
 こんな田舎道を運転するのは、どのぐらいぶりだろう。去年の春、アメリカでルート66を走ったとき以来か。なにもない砂漠をひたすら進むのは、かなりエモーショナルな体験だった。
 ただ、愛茉が育った街を一緒に走っているというのも、ある意味で感慨深い。やはり小樽に来たのは正解だった。
「桔平くんって、運転上手いよね」
 オレが運転している間、愛茉はずっとこちらに顔を向けている。いつものことだから、あまり気にはならない。
「そうか? 普通だろ」
「だって急発進も急ハンドルもしないし、狭いスペースでも1発で駐車するじゃない。ちゃんと歩行者優先するし、丁寧だし、むやみにスピードを上げたりしないし。やっぱりかっこいい」
「お褒めに預かり光栄です」
 愛茉と車で出かけることは少ないが、たまにはいいかもしれないと思った。