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第47話 私立高校の受験

ー/ー



 迅くんは結局、寝るときはお父さんの部屋になった。もしかしたら、仮結婚式の誓いのキスの時に舌出していたのがお父さんたちにバレていたかもしれないとちょっと不安になった。

 でも、恋人だったらベロチューは当たり前にするよね?

 今日は月曜日だ。迅くんは制服を家に置いてきたうえに、火事騒動の後の現場検証などが終わるまで家の中の物は極力動かさないでほしいらしい。広瀬先生経由で理事長に話が通って、迅くんは理由は不明だが、仮結婚式で使っていた前の学校の制服を着ている。

 迅くんの停学も明けた。ついでに言えばお姉ちゃんも。……彩莉センパイはどうなるんだろう。停学なんて問題じゃない気がする。下手したら退学かもしれない。そんなことを考えつつ、お姉ちゃんも一緒に登校しようと誘ったが、断られた。おなかが痛いらしい。

「有紀もアイス食べ過ぎだよなぁ。オレが来た昨日の夜だけで棒アイス10本くらい食べてたもんなぁ」
「だねーお姉ちゃん、公立受験、アイスの食べ過ぎからの腹痛で落ちてるのになぁ」
「まぁ、有紀のおふざけキャラ通りと言えば通りなんだけどなぁ。夏芽は……、公立合格しような」
「まずは2週間くらい後の宝賀の普通科の合格だね」
「滑り止めのほうが学力高いんだもんなぁ」

 迅くんとそんな会話をしながら登校した。迅くんの家から宝賀に向かうのはクリスマス会の期間に何度かあったけど、わたしの家から宝賀に迅くんと向かうのは初めてだ。なんだか新鮮に感じた。

 どこかから視線を感じた。気のせいだといいんだけど……。

 今日から私立高校受験までは授業らしい授業や模試、過去問はなくなる。この宝賀の中等部での最後の思い出作りとふだんの家での受験勉強の疲れを労う意味で中等部と特別棟を自由に使っていいのだ。思い切り遊んでいいのだ。そして、『私立高校に合格してこい!』という方針らしい。

 間宮先生の掛け声で自由になった。先生の監視もほぼない。普段なら遊ぶだろう、話すだろう。
 しかし、今は受験前だ。みんな、ピリピリしてる。それはもちろんわたしもだ。授業中もテスト中も挙句の果てには先週までの模試や過去問の時間にも爆睡してる隣の男子すら机に向かって教科書を開いている。わたしは社会、特に歴史が苦手だ。クリスマス会実行委員やってる頃に迅くんが、何度か歴史を教えてくれた。なんだか、あの頃が1年以上前に感じる。

 そんなことはどうでも……どうでもいいわけではない。ただ、今考えるべきことでない。

 気づけば、お昼休憩の時間になった。ほとんどの生徒はずっと勉強していた。例に漏れることなく、わたしも勉強していた。英単語が意外と奥深いことに気づいた。

 お弁当を食べ……受験の時のお昼ご飯ってどうなるんだろう? なんてことを考えながら昼休憩を過ごした。

 それから迅くんやお姉ちゃんのサポートを家で受けつつ迎えた私立高校の受験当日が来た。

 受験会場は1年5組の教室だ。

「えっと、受験番号は……っと」

 あれ? この席、何回か3学期の間に迅くんの教室でも放課後に夏美センパイから教えてもらっていた。

 だから、わかる。この席は迅くんの席だ。

 受験は一通り終わった。手応え的には合格だろう。このままの調子で西馬高校も合格しよう。

 家に帰ると、家には誰もいなかった。お姉ちゃんは今日、麻実センパイと出かけると言っていたし、迅くんは放課後にはお父さんと一緒に鮮魚のはなまるで働いている。

 わたしも高校生になったらアルバイトできるのだろうか……?

 一応、手応えがよくても自己採点は大事だと思っていた。いつもの過去問のノリで考えていた。今回は受験だ。問題用紙は回収されている。

「あちゃー」
「おっ、おかえり、夏芽」

 居候している迅くんが当たり前のように家の鍵を持っている。元々その鍵はこの家に引っ越してきてすぐにお父さんが無くしたと思っていた鍵が何年か前の大掃除でテレビの近くで見つかったものだ。ちなみに、お父さんは迅くんを信頼しているので昨日渡したのではなく、クリスマス会の後にこっそり会って家の鍵を渡していた。時々、迅くんがお父さんの好きなDVDボックスを借りに来たり、返しに来た時にその鍵を使っていたらしい。

 ――今日、バイトじゃないの?

「あーそっか、夏芽の宝賀受験お疲れさま」

 迅くんがわたしの頭をくしゃっと撫でた。今思えば、思春期に入ってからわたしの頭に触れた知り合いは迅くんだけだ。

「ありがとう!! 迅くんのおかげで宝賀は合格してると思うよ!!」
「んーにゃ、それはお兄ちゃんの力だけじゃない、夏芽自身の力もあるよ」

 『わっ、お姉ちゃん!』と驚いた。しかし、なにも驚くことはない、この家は本来、お姉ちゃんの家でもあるのだ。ちょっとこの後、麻実センパイと夏美センパイも現れることも期待した。

「あれ? お姉ちゃんと麻実センパイと出かけるんじゃないの? それに迅くんもバイトじゃないの?」

 2人ともクスッと笑った。話を聞く限りわたしへのサプライズのためのウソだったらしい。

 夕方過ぎに常連客から迅くんの指名で魚を捌いてほしいらしく急遽バイトへ出かけて行った。

 ――迅くん人気だなぁ。というか魚を捌く人の指名ってなに?
 
 
 わたしは私立高校受験の手応えに安心して今日だけは勉強を休憩した。

 夜になり、お父さんも帰ってきた。

「迅から聞いたぞ、夏芽、手応えよかったらしいな!! 祝いだ。宇川んところから焼肉セットを食べ放題で食べるくらいもらってきたぞ」
「まぁ、宇川さんからしたら、夏芽は『推し』って前言ってたもんなぁ」

 焼肉パーティーをしてその日は終わった。なお、今年だけなにかあったらしく、大阪府の一部私立高校は面接試験を先にしている。宝賀もそれに当てはまるのだ。面接試験はすでに終わっているのだ。それとは関係なく、例年通り、合否は来週には郵送でわかるらしい。ちょっと前に聞いた話、オンライン合否発表は信用できないというのが斉藤理事長の方針らしい。


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次のエピソードへ進む 第48話 バレンタインデー1~涙~


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 迅くんは結局、寝るときはお父さんの部屋になった。もしかしたら、仮結婚式の誓いのキスの時に舌出していたのがお父さんたちにバレていたかもしれないとちょっと不安になった。
 でも、恋人だったらベロチューは当たり前にするよね?
 今日は月曜日だ。迅くんは制服を家に置いてきたうえに、火事騒動の後の現場検証などが終わるまで家の中の物は極力動かさないでほしいらしい。広瀬先生経由で理事長に話が通って、迅くんは理由は不明だが、仮結婚式で使っていた前の学校の制服を着ている。
 迅くんの停学も明けた。ついでに言えばお姉ちゃんも。……彩莉センパイはどうなるんだろう。停学なんて問題じゃない気がする。下手したら退学かもしれない。そんなことを考えつつ、お姉ちゃんも一緒に登校しようと誘ったが、断られた。おなかが痛いらしい。
「有紀もアイス食べ過ぎだよなぁ。オレが来た昨日の夜だけで棒アイス10本くらい食べてたもんなぁ」
「だねーお姉ちゃん、公立受験、アイスの食べ過ぎからの腹痛で落ちてるのになぁ」
「まぁ、有紀のおふざけキャラ通りと言えば通りなんだけどなぁ。夏芽は……、公立合格しような」
「まずは2週間くらい後の宝賀の普通科の合格だね」
「滑り止めのほうが学力高いんだもんなぁ」
 迅くんとそんな会話をしながら登校した。迅くんの家から宝賀に向かうのはクリスマス会の期間に何度かあったけど、わたしの家から宝賀に迅くんと向かうのは初めてだ。なんだか新鮮に感じた。
 どこかから視線を感じた。気のせいだといいんだけど……。
 今日から私立高校受験までは授業らしい授業や模試、過去問はなくなる。この宝賀の中等部での最後の思い出作りとふだんの家での受験勉強の疲れを労う意味で中等部と特別棟を自由に使っていいのだ。思い切り遊んでいいのだ。そして、『私立高校に合格してこい!』という方針らしい。
 間宮先生の掛け声で自由になった。先生の監視もほぼない。普段なら遊ぶだろう、話すだろう。
 しかし、今は受験前だ。みんな、ピリピリしてる。それはもちろんわたしもだ。授業中もテスト中も挙句の果てには先週までの模試や過去問の時間にも爆睡してる隣の男子すら机に向かって教科書を開いている。わたしは社会、特に歴史が苦手だ。クリスマス会実行委員やってる頃に迅くんが、何度か歴史を教えてくれた。なんだか、あの頃が1年以上前に感じる。
 そんなことはどうでも……どうでもいいわけではない。ただ、今考えるべきことでない。
 気づけば、お昼休憩の時間になった。ほとんどの生徒はずっと勉強していた。例に漏れることなく、わたしも勉強していた。英単語が意外と奥深いことに気づいた。
 お弁当を食べ……受験の時のお昼ご飯ってどうなるんだろう? なんてことを考えながら昼休憩を過ごした。
 それから迅くんやお姉ちゃんのサポートを家で受けつつ迎えた私立高校の受験当日が来た。
 受験会場は1年5組の教室だ。
「えっと、受験番号は……っと」
 あれ? この席、何回か3学期の間に迅くんの教室でも放課後に夏美センパイから教えてもらっていた。
 だから、わかる。この席は迅くんの席だ。
 受験は一通り終わった。手応え的には合格だろう。このままの調子で西馬高校も合格しよう。
 家に帰ると、家には誰もいなかった。お姉ちゃんは今日、麻実センパイと出かけると言っていたし、迅くんは放課後にはお父さんと一緒に鮮魚のはなまるで働いている。
 わたしも高校生になったらアルバイトできるのだろうか……?
 一応、手応えがよくても自己採点は大事だと思っていた。いつもの過去問のノリで考えていた。今回は受験だ。問題用紙は回収されている。
「あちゃー」
「おっ、おかえり、夏芽」
 居候している迅くんが当たり前のように家の鍵を持っている。元々その鍵はこの家に引っ越してきてすぐにお父さんが無くしたと思っていた鍵が何年か前の大掃除でテレビの近くで見つかったものだ。ちなみに、お父さんは迅くんを信頼しているので昨日渡したのではなく、クリスマス会の後にこっそり会って家の鍵を渡していた。時々、迅くんがお父さんの好きなDVDボックスを借りに来たり、返しに来た時にその鍵を使っていたらしい。
 ――今日、バイトじゃないの?
「あーそっか、夏芽の宝賀受験お疲れさま」
 迅くんがわたしの頭をくしゃっと撫でた。今思えば、思春期に入ってからわたしの頭に触れた知り合いは迅くんだけだ。
「ありがとう!! 迅くんのおかげで宝賀は合格してると思うよ!!」
「んーにゃ、それはお兄ちゃんの力だけじゃない、夏芽自身の力もあるよ」
 『わっ、お姉ちゃん!』と驚いた。しかし、なにも驚くことはない、この家は本来、お姉ちゃんの家でもあるのだ。ちょっとこの後、麻実センパイと夏美センパイも現れることも期待した。
「あれ? お姉ちゃんと麻実センパイと出かけるんじゃないの? それに迅くんもバイトじゃないの?」
 2人ともクスッと笑った。話を聞く限りわたしへのサプライズのためのウソだったらしい。
 夕方過ぎに常連客から迅くんの指名で魚を捌いてほしいらしく急遽バイトへ出かけて行った。
 ――迅くん人気だなぁ。というか魚を捌く人の指名ってなに?
 わたしは私立高校受験の手応えに安心して今日だけは勉強を休憩した。
 夜になり、お父さんも帰ってきた。
「迅から聞いたぞ、夏芽、手応えよかったらしいな!! 祝いだ。宇川んところから焼肉セットを食べ放題で食べるくらいもらってきたぞ」
「まぁ、宇川さんからしたら、夏芽は『推し』って前言ってたもんなぁ」
 焼肉パーティーをしてその日は終わった。なお、今年だけなにかあったらしく、大阪府の一部私立高校は面接試験を先にしている。宝賀もそれに当てはまるのだ。面接試験はすでに終わっているのだ。それとは関係なく、例年通り、合否は来週には郵送でわかるらしい。ちょっと前に聞いた話、オンライン合否発表は信用できないというのが斉藤理事長の方針らしい。