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第59話 可憐な殺人者

ー/ー



翌朝、みんなに紗妃の事を説明した。
事の経緯を話すと、当然ながら怪訝な顔をする者もいた。
もう部屋がいっぱいなのに、これ以上人増やしてどうするんだ?なんて意見もあった。
これには、俺が紗妃は猶の部屋を使うこと、輝が次の町についたら馬車を増築することを説明し納得させた。

「つまり、その人は蛮人|《ばんじん》なんですよね…?そんな人、仲間に加えて大丈夫なんですか?」
メニィが心配そうな顔でぼやいたが、そこには猶がフォローを入れてくれた。
「心配しなさんな。根はいい奴だから」
ちなみに、蛮人とは殺人者の野盗を指す言葉らしい。


紗妃はみんなより2時間ほど後に起きてきた。
そして、みんなにぎこちないながらも挨拶をした。
その見た目を見て、セルクが言った。
「酷く汚れてるな…まず、お風呂に入って服を洗った方が良い」
彼は、わりとすんなり紗妃を受け入れてくれたようだ。

紗妃が風呂に入っている間、苺が服をきれいに洗った。
そしてしばらくして、きれいになった紗妃が俺達の前に現れた。

その姿を見て、俺以外にも何人か声を上げた。
それは、黒い瞳に黒髪ロングヘアの美人だったのだ。
「…どうよ?」
紗妃は少々緊張しているような表情をしていたが、普通にめちゃくちゃ美人であった。
俺達がそれを口々に言うと、紗妃は素直に喜んだ。
「ありがとね。こんなきれいに整ったの、久しぶりよ」
そう言って、紗妃はその長い髪をたくし上げた。



紗妃は訳アリで盗賊になったとの事だったが、よく考えればそもそも何も理由がなければ盗賊になどならないだろう。
紗妃の過去に何があったのかは知らないが、一度堕ちた者を救えたのなら、それに越したことはない。

リビングで詳しく話を伺ってみた所、紗妃はもう長い事服をまともに洗っていなかったし、ここ一週間ほどろくな食事を取っていなかったらしい。
なんとも悲惨な話である。
他にも紗妃は猶の部屋に通された際屋根の下、それも暖かいベッドで寝られる事に酷く感激したそうだ。
紗妃が何歳かは知らないが、見た目からすると恐らく10代か20代だろう。
こんなに若くてきれいな女が、そんな惨めな生き方を余儀なくされるとは…。
驚きと共に、悲しみも湧いてくる。

みんなはあまりよく思ってないかも知れないが、俺は彼女を救いたかった。
住み家も収入もなく、物を盗んで生きる。
そして、最後には賊として捕まり、殺される。
そんな惨めな生き様をさせるくらいなら、例え殺人者であろうと救いたい。
未来のある女ともなれば、尚更だ。


「ありがとう、私を助けてくれて」

「いやいや」

「私…仕事はできないけど、戦いならそこそこ出来るから、この先では活躍出来ると思う」

「そうか。…あれ、もしかして最近のこの辺の事情知ってるのか?」

「多少はね」
そして、紗妃は話した。
理由は不明だが、この国では最近食料不足が深刻で、いくら金があっても食べ物がまともに買えない状況が続いている。
その結果、餓死する者や紗妃のように盗賊になる者が相次いでおり、国の治安は急速に悪化しているという。

「メゾーヌの政府は何をやっているんだ」
柳助が、怒ったように言った。
「それは知らない。さすがに何か対策してるとは思うけど…」

「ならば、俺達が直接メゾーヌへ行かねばなるまい。輝に、急ぐよう言ってこよう」
柳助はそう言って、席を立った。

「メゾーヌか…しばらく行ってないなあ」
紗妃は、背伸びをしながら言った。

「前は行ってたのか?」

「ええ。2ヶ月くらい前まではあそこで買い物をしてたんだけど、ある時から急に食べ物が軒並み高騰し始めて…一月もしないうちに、とても買えなくなっちゃったの。
それとほぼ同時に服も汚れてきて、盗賊とバレるとまずいと思って、近づかなくなった」
そして、紗妃はため息をついて言った。
「あそこのスイーツとか結構美味しかったのに、今じゃ店自体が閉まってる。ああ…また食べたいなあ…」

「なるほどな」
紗妃は、突如ハッと顔を上げて言った。
「そうだ、ここでは何か甘い物食べれる?」

「ああ…一応、ケーキとかは作れるようにはなってるはずだ」

「じゃ、何か作っていい!?」

「作れるんなら…」

「っしゃ!じゃ、行ってくる!」
紗妃は爆速でキッチンに向かい、ちょうど皿洗いをしていたナフィーに材料の場所を尋ねた。
「あ、おい!待てよ!」
俺の言葉も、その耳には届かなかった。




その夜、紗妃は見事なホールケーキを二つテーブルに持ってきた。
それはいちごやキウイ、ミカンなどの果物が乗った、めちゃくちゃ豪華かつ本格的なケーキであった。
しかも驚いた事に、ほとんどの作業を一人でやったらしい。
「私、元々パティシエになりたいと思ってたから、お菓子作りは得意なの。これから世話になるみんなへの挨拶…じゃないけど、食べてちょうだい」
この世界に来てから、ケーキなんて苺がショートケーキを食べてるのを見たことがあるくらいだった。

そして、このケーキはデカい。
高さは、少なくとも20センチ。
直径は、50センチくらいある。
しかも、それが二つあるのだ。
テーブルの実に三分の二くらいを占めてしまっている。
1ピース切り取ったが、それだけでも山盛りグルメのように感じられた。

これは、たぶん夕飯がいらなかっただろう。


「おいおい、いくらなんでもデカすぎじゃないか?」
樹が苦笑いしながら言う。
「久しぶりだから、気合い入っちゃって。でもまあ、明日も食べればいいだけだしね」

「いや、それはそうだろうが…」
俺が言いかけると、
「明日の朝食も節約できるんだから、いいじゃない。それに、私が人に物を作るなんて滅多にない事よ。食べ物と、人の気持ちは大切に、ね?」
と、紗妃はウインクしてきた。


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翌朝、みんなに紗妃の事を説明した。事の経緯を話すと、当然ながら怪訝な顔をする者もいた。
もう部屋がいっぱいなのに、これ以上人増やしてどうするんだ?なんて意見もあった。
これには、俺が紗妃は猶の部屋を使うこと、輝が次の町についたら馬車を増築することを説明し納得させた。
「つまり、その人は蛮人|《ばんじん》なんですよね…?そんな人、仲間に加えて大丈夫なんですか?」
メニィが心配そうな顔でぼやいたが、そこには猶がフォローを入れてくれた。
「心配しなさんな。根はいい奴だから」
ちなみに、蛮人とは殺人者の野盗を指す言葉らしい。
紗妃はみんなより2時間ほど後に起きてきた。
そして、みんなにぎこちないながらも挨拶をした。
その見た目を見て、セルクが言った。
「酷く汚れてるな…まず、お風呂に入って服を洗った方が良い」
彼は、わりとすんなり紗妃を受け入れてくれたようだ。
紗妃が風呂に入っている間、苺が服をきれいに洗った。
そしてしばらくして、きれいになった紗妃が俺達の前に現れた。
その姿を見て、俺以外にも何人か声を上げた。
それは、黒い瞳に黒髪ロングヘアの美人だったのだ。
「…どうよ?」
紗妃は少々緊張しているような表情をしていたが、普通にめちゃくちゃ美人であった。
俺達がそれを口々に言うと、紗妃は素直に喜んだ。
「ありがとね。こんなきれいに整ったの、久しぶりよ」
そう言って、紗妃はその長い髪をたくし上げた。
紗妃は訳アリで盗賊になったとの事だったが、よく考えればそもそも何も理由がなければ盗賊になどならないだろう。
紗妃の過去に何があったのかは知らないが、一度堕ちた者を救えたのなら、それに越したことはない。
リビングで詳しく話を伺ってみた所、紗妃はもう長い事服をまともに洗っていなかったし、ここ一週間ほどろくな食事を取っていなかったらしい。
なんとも悲惨な話である。
他にも紗妃は猶の部屋に通された際屋根の下、それも暖かいベッドで寝られる事に酷く感激したそうだ。
紗妃が何歳かは知らないが、見た目からすると恐らく10代か20代だろう。
こんなに若くてきれいな女が、そんな惨めな生き方を余儀なくされるとは…。
驚きと共に、悲しみも湧いてくる。
みんなはあまりよく思ってないかも知れないが、俺は彼女を救いたかった。
住み家も収入もなく、物を盗んで生きる。
そして、最後には賊として捕まり、殺される。
そんな惨めな生き様をさせるくらいなら、例え殺人者であろうと救いたい。
未来のある女ともなれば、尚更だ。
「ありがとう、私を助けてくれて」
「いやいや」
「私…仕事はできないけど、戦いならそこそこ出来るから、この先では活躍出来ると思う」
「そうか。…あれ、もしかして最近のこの辺の事情知ってるのか?」
「多少はね」
そして、紗妃は話した。
理由は不明だが、この国では最近食料不足が深刻で、いくら金があっても食べ物がまともに買えない状況が続いている。
その結果、餓死する者や紗妃のように盗賊になる者が相次いでおり、国の治安は急速に悪化しているという。
「メゾーヌの政府は何をやっているんだ」
柳助が、怒ったように言った。
「それは知らない。さすがに何か対策してるとは思うけど…」
「ならば、俺達が直接メゾーヌへ行かねばなるまい。輝に、急ぐよう言ってこよう」
柳助はそう言って、席を立った。
「メゾーヌか…しばらく行ってないなあ」
紗妃は、背伸びをしながら言った。
「前は行ってたのか?」
「ええ。2ヶ月くらい前まではあそこで買い物をしてたんだけど、ある時から急に食べ物が軒並み高騰し始めて…一月もしないうちに、とても買えなくなっちゃったの。
それとほぼ同時に服も汚れてきて、盗賊とバレるとまずいと思って、近づかなくなった」
そして、紗妃はため息をついて言った。
「あそこのスイーツとか結構美味しかったのに、今じゃ店自体が閉まってる。ああ…また食べたいなあ…」
「なるほどな」
紗妃は、突如ハッと顔を上げて言った。
「そうだ、ここでは何か甘い物食べれる?」
「ああ…一応、ケーキとかは作れるようにはなってるはずだ」
「じゃ、何か作っていい!?」
「作れるんなら…」
「っしゃ!じゃ、行ってくる!」
紗妃は爆速でキッチンに向かい、ちょうど皿洗いをしていたナフィーに材料の場所を尋ねた。
「あ、おい!待てよ!」
俺の言葉も、その耳には届かなかった。
その夜、紗妃は見事なホールケーキを二つテーブルに持ってきた。
それはいちごやキウイ、ミカンなどの果物が乗った、めちゃくちゃ豪華かつ本格的なケーキであった。
しかも驚いた事に、ほとんどの作業を一人でやったらしい。
「私、元々パティシエになりたいと思ってたから、お菓子作りは得意なの。これから世話になるみんなへの挨拶…じゃないけど、食べてちょうだい」
この世界に来てから、ケーキなんて苺がショートケーキを食べてるのを見たことがあるくらいだった。
そして、このケーキはデカい。
高さは、少なくとも20センチ。
直径は、50センチくらいある。
しかも、それが二つあるのだ。
テーブルの実に三分の二くらいを占めてしまっている。
1ピース切り取ったが、それだけでも山盛りグルメのように感じられた。
これは、たぶん夕飯がいらなかっただろう。
「おいおい、いくらなんでもデカすぎじゃないか?」
樹が苦笑いしながら言う。
「久しぶりだから、気合い入っちゃって。でもまあ、明日も食べればいいだけだしね」
「いや、それはそうだろうが…」
俺が言いかけると、
「明日の朝食も節約できるんだから、いいじゃない。それに、私が人に物を作るなんて滅多にない事よ。食べ物と、人の気持ちは大切に、ね?」
と、紗妃はウインクしてきた。