第56話 危険な山
ー/ー朝食を済ませて間もなく、俺はベッドに潜り込んだ。
走ってる間は何もすることがないのと、無駄に朝早く起こされたので眠かったのである。
しかし、やたらと揺れるものでよく眠れない。
今まで大して揺れなかったのに…と思ったが、考えてみれば今進んでいるのは山道だ。揺れるのは、仕方ないかもしれない。
とは言え、やはり眠い…
と思っていたのだがどうしても寝付けず、そのうちかえって目が覚めてしまった。
このままいてもどうにもならないので、俺は起き出してリビングへ向かった。
「ああ、姜芽さんか…」
セルクがテーブルにつっぷしていた。
その眠そうな顔を見るに、彼もまた寝ようとしたが寝付けなかったのだろう。
「セルク。あれ、他の奴らはいないのか?」
「うん…今はね。さっきはタッドさんとか樹さんがいたけど」
「そうか…」
俺は、それとなくセルクに向かい合うように座った。
何も言わないつもりでいたのだが、彼の顔を見ていたらなんか話したくなった。
「なあ、あんたは前までの苺を知ってるのか?」
「いや…僕はまだ下積みの修行中だし、サディ様に直接お仕えしてる訳でもないから、よく知らないな」
「もしかして、苺って普段は神殿の人達に姿を見せないのか?」
「そうだよ。サディ様は、普段は玉座の間かご自分の部屋にいらっしゃる。それで、月に一度の朝会の時と、臨時で用件がある時だけ僕らの前にお姿を見せるんだ」
まあ、いかにも立場の高い人って感じだ。
「神殿にいた時、苺が魔法を使うのを見たことあるか?」
「残念だけどないな。サディ様が神殿の中で魔法を使うなんて、よほどの事があった時だよ。それこそ、レギエル姉妹の襲来とか…」
その時、輝の声が飛んできた。
「おーい、ちょっとヘルプだ」
「…?今行く、待ってろ」
そうして、俺とセルクは操縦室へ飛んだ。
リビングから直通で行けるのは、地味に便利である。
「どうした、輝?」
「あれ見てくれ」
輝が指差す方を見る。
岩を切り開いたような狭い道の奥で、えらく無骨なデザインの木の柵が行く手を阻んでいた。
「なんだありゃ…?」
「おそらく、山賊が仕掛けたものだ。ここを通る人をあれで足止めしてる間に、ものを奪おうって算段だ」
「ならあれを壊して、山賊も適当に片付けていけばいいんじゃないか?」
すると、セルクが入ってきた。
「ここの山賊は、ちょっと厄介なんだよ」
「というと?」
「この山…ラダー山には、昔からガルメンっていう山賊の群れがいるんだ。奴らはセドラルで悪名高いジステン山賊団と比べると数は少ないけど、奴らより遥かに危険なんだ」
「危険…強いってことか?」
「まあそうだね。奴らのメンバーは戦士と殺人者がメインなんだけど…この殺人者が厄介なんだよ」
殺人者。以前カーノの町で遭遇した種族だ。
名前からしていかにも危険という感じだが、
あの時はそれまでの敵と比べると多少強いが、そこまででもないといった感じだった。
だが、今度もそうであるという保証はない。
「奴らは戦闘のプロだからね…敵にいると、ちょっと分が悪い。特に僕みたいな魔法種族は、奴らとは相性が悪いしね」
「なるほどな」
俺は、柵とその周りを見た。
見た限り、柵周りには誰もいない。
「誰もいないな。気づかれてないんじゃないか?」
「いや、たぶんもう気づかれてる。奴らが出てこないのは、こっちを欺くためだ」
「そういう事か。なら、どうする?」
「馬車を降りて、突っ込もう。ただ、みんな降りるのはダメだ…上がられて、中を荒らされるからな」
「なら、みんなを集めて、降りるメンバーを選ぼう」
「それがいいな。よし、すぐにみんなを呼んでくれ」
「ああ。…あれ、みんなに指示を出すアナウンスみたいな機能はないのか?」
「それが、無いんだよ。次改良するときにつけようと思ってる」
「そうか。まあいい、行ってくる」
リビングに皆を集めて話し合った結果、今回は俺、吏廻琉、猶、メニィの4人で行くことにした。
残りのメンバーは基本的に馬車に残るが、こちらの様子を見て、必要に応じて数名出撃してもらう。
向こうの数が多いこと…は正直あまり気にする必要はないのだが、殺人者がいる可能性を考慮してのことであった。
「殺人者って、そんなに強いのか?」
場違い感は否めないが、吏廻琉に聞いてみた。
「ええ…彼らは、下級種族では最も戦闘能力の高い種族で、傭兵や闘技場の格闘士になる者もいる。ただ残念なことに、大半の殺人者は盗みや暗殺を日常的に行う犯罪者になってしまうの。こうして山賊の一員に身をやつす者も、決して珍しくないわ…」
前ちらっと聞いた時も思ったが、なかなかに闇の深い種族であるようだ。
「彼も、殺人者よね?」
「え?…あ、そうだった」
そう言えば、猶も殺人者だった。
ちょっと答えを聞くのが怖いが、一応聞いてみた。
「そりゃ、俺だって殺人者の端くれだからな?普段は、強盗殺人とか暗殺をやってるよ」
「よく平然と言えるわね」
吏廻琉に同意する。
「パクられなきゃいいんだよ。てか、そもそも俺はパクられるつもりは微塵もねーしな」
「いや、なら普通に働けよ…」
すると、猶は険しい目で俺を見てきた。
「…それが出来ないからこうしてるんだ。それくらい察しろよ」
なんか怖いので、謝っておく。
「ご、ごめんな。まず、行こうぜ」
吏廻琉が何か言いたげだったが、目配せで黙っててくれ、と送った。
例え殺人者でなくても、猶はキレると派手に暴れるからだ。
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