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ー/ー
「うふふ、とっても素敵なセリフを聞いちゃったわぁ」
お母様と原田さんが、料理を運んできた。立ち上がろうとする私を、桔平くんが手で制する。
「いいから座っとけって。今日は気を遣う必要ないから」
「そうよ、愛茉ちゃん。リラックスって言ったでしょう?」
楓お姉さんが立ち上がり、お母様のトレイからお皿を取って私と桔平くんの前に置いてくれた。
「生ハムとクリームチーズのオードブルよ。愛茉ちゃんのお口に合うといいけれど」
本條さんたちのぶんも配膳して自分の席へ座りながら、お母様がにっこりと笑う。
あっ、しまった。お母様に紅茶の御礼を言っていない。ああもう、ちゃんとシミュレーションしてきたのに。
「あ、あの、お母様」
「なぁに? 愛茉ちゃん」
「以前いただいた紅茶……とても美味しかったです。す、すみません、最初にお礼をお伝えしなければいけなかったのに……」
「あらあら。いいのよ、そんなこと気にしなくて。いつも桔平の食事に、とても気を遣ってくださっているんでしょう? こちらのほうがお礼をしなくちゃいけないくらいよ」
一生懸命練習したのに、全然上手くいかない。だけどお母様の明るくて優しい笑顔が、沈みそうな気持を掬い上げてくれる。私のお母さんも、そうだったな。思い出して、少し胸がキュンとした。
「だから今日は、私が腕を振るっちゃったわ。さ、いただきましょう」
お母様の合図で手を合わせて、みんなで食事をいただくことにした。
桔平くんのご家族の前で食べるのは緊張しちゃうけれど、食事のマナーはしっかり勉強しているし大丈夫なはず。
震える手をおさえつつ、オードブルをひと口食べた。生ハムの塩気にクリームチーズの滑らかさがマッチしていて、オリーブオイルの苦みとペッパーのピリっとした辛味が味を引き締めている。
「愛茉ちゃん、どうかしら?」
「とっても美味しいです! 実は私、生ハムが大好きで……」
「オレが事前に伝えといたんだよ。愛茉はなにが好きなんだって、母さんに訊かれたから」
「もう、桔平! それはナイショよ!」
眉根を寄せて、口元に人差し指を立てるお母様。この仕草が似合う人、現実にいないと思っていた。
「なんでだよ。別にいいだろ」
「自分の好きな物ばかり出てくるなんて、お母様は魔法使いかしら~? って思ってもらいたかったのに!」
「いや、意味分かんねぇ」
ふたりのやり取りを、本條さんと楓お姉さんが笑いながら見守る。
きっと、こうして集まるのは久しぶりだよね。せっかくの家族団欒なのに、私がここにいてもいいのかな。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
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お母様と原田さんが、料理を運んできた。立ち上がろうとする私を、桔平くんが手で制する。
「いいから座っとけって。今日は気を遣う必要ないから」
「そうよ、愛茉ちゃん。リラックスって言ったでしょう?」
楓お姉さんが立ち上がり、お母様のトレイからお皿を取って私と桔平くんの前に置いてくれた。
「生ハムとクリームチーズのオードブルよ。愛茉ちゃんのお口に合うといいけれど」
本條さんたちのぶんも配膳して自分の席へ座りながら、お母様がにっこりと笑う。
あっ、しまった。お母様に紅茶の御礼を言っていない。ああもう、ちゃんとシミュレーションしてきたのに。
「あ、あの、お母様」
「なぁに? 愛茉ちゃん」
「以前いただいた紅茶……とても美味しかったです。す、すみません、最初にお礼をお伝えしなければいけなかったのに……」
「あらあら。いいのよ、そんなこと気にしなくて。いつも桔平の食事に、とても気を遣ってくださっているんでしょう? こちらのほうがお礼をしなくちゃいけないくらいよ」
一生懸命練習したのに、全然上手くいかない。だけどお母様の明るくて優しい笑顔が、沈みそうな気持を掬い上げてくれる。私のお母さんも、そうだったな。思い出して、少し胸がキュンとした。
「だから今日は、私が腕を振るっちゃったわ。さ、いただきましょう」
お母様の合図で手を合わせて、みんなで食事をいただくことにした。
桔平くんのご家族の前で食べるのは緊張しちゃうけれど、食事のマナーはしっかり勉強しているし大丈夫なはず。
震える手をおさえつつ、オードブルをひと口食べた。生ハムの塩気にクリームチーズの滑らかさがマッチしていて、オリーブオイルの苦みとペッパーのピリっとした辛味が味を引き締めている。
「愛茉ちゃん、どうかしら?」
「とっても美味しいです! 実は私、生ハムが大好きで……」
「オレが事前に伝えといたんだよ。愛茉はなにが好きなんだって、母さんに訊かれたから」
「もう、桔平! それはナイショよ!」
眉根を寄せて、口元に人差し指を立てるお母様。この仕草が似合う人、現実にいないと思っていた。
「なんでだよ。別にいいだろ」
「自分の好きな物ばかり出てくるなんて、お母様は魔法使いかしら~? って思ってもらいたかったのに!」
「いや、意味分かんねぇ」
ふたりのやり取りを、本條さんと楓お姉さんが笑いながら見守る。
きっと、こうして集まるのは久しぶりだよね。せっかくの家族団欒なのに、私がここにいてもいいのかな。