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第54話 悪の姉妹

ー/ー



やがて、苺の放っていた衝撃波は収まった。
そして、彼女は優しく司祭の名前を呼んだ。
「…エリミア」

エリミアは、ゆっくりと目を開けた。
「…苺?」

「大丈夫。あなたはもう、自分を取り戻した」

「…。私は…」
と、ここでキョウラが起き上がってきた。
「お母様…」

「えっ、キョウラ…?どうしてここに?」

「…何も覚えていないんですか?」

「いえ…ただ、ちょっと記憶が曖昧なの…」
皮肉にも、苺にしたことが返ってきたようだ。
因果応報…とも言えるが、意識も記憶もなかったとなると責める気になれない。

エリミアはあたりを見回し、俺や苺の顔を見た。
そしてしばし呆然としていたが、自分が原因でこのような状況になっている、ということだけは理解できたようで、やがて謝罪の言葉を述べた。
「お母様…」

「キョウラ…それに苺。あなた達にも、迷惑をかけてしまいましたね。ごめんなさい」
申し訳無さそうに頭を下げるエリミアに、キョウラは大丈夫ですよお母様、と言い、苺もまた、優しく微笑んだ。
そんな苺を見て、エリミアは途端に泣きそうな顔をした。
「苺…私は、あなたに取り返しのつかない事をしてしまいました。どう詫びればいいのか…」

「吏廻琉…」
ここで苺は、エリミアの洗礼名を呼んだ。
「言い訳にしかならないけど…私はずっと、心の中の怪物と戦っていたの。時折有利にはなれたけど…でも、とても勝てなかった」

「怪物…」

「ええ…そうだ、レギエル姉妹…!奴らの妹が、私に術をかけてきたんだわ!」

どうやら、本当に操られていたようだ。
そして、彼女はまた苛まれ出した。
「ああ…私は、本当になんて事を…!よりによって、あの姉妹の術にかかるなんて…!」

その肩に、苺は手を置く。
「落ち着いて。確かにあなたのしたことは許されないかもしれない。でも、あなたが最後までカストルの力に抵抗し続けたのは事実。その意思があったからこそ、私達はここにいるし、あなたもまたこうして戻れた。違うかしら?」

「苺…」
エリミア…もとい吏廻琉は苺の手を握った後、キョウラの方を向いた。
「キョウラ、ごめんね。謝っても許してもらえないかもしれないけど…ごめんね」

「いいんです。こうして、お母様もサディ様も元に戻ってくれたのですから」
キョウラは、母の手を握る。
何とも、温かい場面だ。




しかし、それを崩すかのように、部屋全体に何やら邪悪な魔力が満ちる。
キョウラは勿論、俺達も驚く。
一方で苺と吏廻琉は、険しい表情をして天井を見上げる。
(なんだ?…っ、もしかして!)
俺の予想は間もなく当たった。
ブラックホールのような黒い渦が宙に現れたかと思うと、そこから人が現れたのである。

紫の衣服を身に着け、禍々しいオーラを纏う杖を携えた、二人の女の司祭。
片方は無機質で邪悪な白い目の色をしており、もう片方は冷酷で不気味な緑の目の色をしていた。
もはや名前を聞くまでもないが、苺が叫んだ。
「ポルクス…!カストル…!」

「おや、私達を覚えていて下さったのですか?光栄です」

白目の女は、視線を苺から吏廻琉に移した。
「しかしまあ、高位の司祭もこの程度でしたか。実に情けないものです」

「…っ!」
吏廻琉はすぐに立ち上がり、杖を持ち出す。
「あら、血の気の多い方ですこと」

「黙りなさい…!この卑怯者が!」

「人聞きが悪いですね、私達は何も、卑劣な真似などしていませんよ」

「…!私にこんな事をさせておきながら…!お前達、絶対に許さない!!」
吏廻琉は動き出そうとしたが、俺が止めた。
どう考えても、挑んで勝てる相手ではない。
すると、今まで黙っていた緑目の司祭がこちらを見てきた。

「お姉様、失礼ながら彼女らのお仲間にもご挨拶をした方がよいかと」

「あっ、そうね」
そして、奴らは降りてきた。
「皆様、お初にお目にかかります。私が司祭ポルクス・レギエルです」

「そして、私はその妹、カストル・レギエル。以降、お見知りおきをお願いしますね」
二人は丁寧に礼をしてきた。
白目の方がポルクス、緑目の方がカストル、らしい。
「お前らが、苺達に…!」

「ええそうです…おや?」
ポルクスは、俺の顔をまじまじと見てきた。

「…何だ」

「貴方は…なるほど。防人にしては、勿体なさすぎる程の力を秘めているようですね。それに、何やら妙な匂いもします。…もしや、白い人(パパラギ)ですか?」

「だったら何だと言うんだ」

すると、ポルクスは怪しげに笑った。
「そうですか…。それは結構です。
所で、貴方はかつてこの世界で起きた、古の戦争の事はご存知ですか?」

「『異形の戦争』の事か」

「左様です。…では、貴方の同族の勇者…勇人アモールの事はご存知ですか?」

「名前と活躍くらいは…な」

「なるほど。…では、一つお教えしましょう。彼は貴方と同じ、よそ者でした。そして彼は貴方と同様、最初は防人であり、旅先で多くの仲間と出会い、昇格を重ね、勇人となりました。…貴方には、彼と同じ何かを感じます。今回の勇者様、といった所でしょうか?」
俺に、伝説の勇者と同じものを持ってる…?
何か引っかかったが、今はそんな事はどうでもいい。

「いずれにせよ、私達にとっては目障り極まりない存在です。貴方などが彼のようになり上がれるとは到底思いませんが、念の為ここで消えていただきましょう」
ポルクスは魔導書を取り出した。
だが、それは今までに見たどの魔導書よりも邪悪で、禍々しい雰囲気だった。

「あれは、まさか…!」
苺が叫ぶ。
「お分かりになられたのですか?流石ですね。
場の皆様にもお教えしましょう。これは[ドグア]…妹の扱う禁忌、[マグア]と対を成す禁忌魔法。この世で最も強大な…光の魔法です」

「光…!?」
正直、ちょっと意外だった。
こういう立場のキャラは、闇使いのイメージがあるのだが。

「早速ですが、お見せしましょう…この禁忌魔法の威力を」
ポルクスは魔導書を開く。
見開かれたそのページは、神々しくも邪悪な光を放ち出す。
そうはさせるか…と攻撃しようとしたが、出来なかった。
どういう訳か、体が動かないのだ。
指先は動くので、斧を握る事は出来たが…それ以上は、何故か全く体が動こうとしなかった。

「お姉様、私は先に帰ってよいでしょうか?」

「ええ。…それでは皆様、ごきげんよう!」
ポルクスが魔法を放つ…その瞬間、俺達は結界に覆われ、ワープした。














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やがて、苺の放っていた衝撃波は収まった。そして、彼女は優しく司祭の名前を呼んだ。
「…エリミア」
エリミアは、ゆっくりと目を開けた。
「…苺?」
「大丈夫。あなたはもう、自分を取り戻した」
「…。私は…」
と、ここでキョウラが起き上がってきた。
「お母様…」
「えっ、キョウラ…?どうしてここに?」
「…何も覚えていないんですか?」
「いえ…ただ、ちょっと記憶が曖昧なの…」
皮肉にも、苺にしたことが返ってきたようだ。
因果応報…とも言えるが、意識も記憶もなかったとなると責める気になれない。
エリミアはあたりを見回し、俺や苺の顔を見た。
そしてしばし呆然としていたが、自分が原因でこのような状況になっている、ということだけは理解できたようで、やがて謝罪の言葉を述べた。
「お母様…」
「キョウラ…それに苺。あなた達にも、迷惑をかけてしまいましたね。ごめんなさい」
申し訳無さそうに頭を下げるエリミアに、キョウラは大丈夫ですよお母様、と言い、苺もまた、優しく微笑んだ。
そんな苺を見て、エリミアは途端に泣きそうな顔をした。
「苺…私は、あなたに取り返しのつかない事をしてしまいました。どう詫びればいいのか…」
「吏廻琉…」
ここで苺は、エリミアの洗礼名を呼んだ。
「言い訳にしかならないけど…私はずっと、心の中の怪物と戦っていたの。時折有利にはなれたけど…でも、とても勝てなかった」
「怪物…」
「ええ…そうだ、レギエル姉妹…!奴らの妹が、私に術をかけてきたんだわ!」
どうやら、本当に操られていたようだ。
そして、彼女はまた苛まれ出した。
「ああ…私は、本当になんて事を…!よりによって、あの姉妹の術にかかるなんて…!」
その肩に、苺は手を置く。
「落ち着いて。確かにあなたのしたことは許されないかもしれない。でも、あなたが最後までカストルの力に抵抗し続けたのは事実。その意思があったからこそ、私達はここにいるし、あなたもまたこうして戻れた。違うかしら?」
「苺…」
エリミア…もとい吏廻琉は苺の手を握った後、キョウラの方を向いた。
「キョウラ、ごめんね。謝っても許してもらえないかもしれないけど…ごめんね」
「いいんです。こうして、お母様もサディ様も元に戻ってくれたのですから」
キョウラは、母の手を握る。
何とも、温かい場面だ。
しかし、それを崩すかのように、部屋全体に何やら邪悪な魔力が満ちる。
キョウラは勿論、俺達も驚く。
一方で苺と吏廻琉は、険しい表情をして天井を見上げる。
(なんだ?…っ、もしかして!)
俺の予想は間もなく当たった。
ブラックホールのような黒い渦が宙に現れたかと思うと、そこから人が現れたのである。
紫の衣服を身に着け、禍々しいオーラを纏う杖を携えた、二人の女の司祭。
片方は無機質で邪悪な白い目の色をしており、もう片方は冷酷で不気味な緑の目の色をしていた。
もはや名前を聞くまでもないが、苺が叫んだ。
「ポルクス…!カストル…!」
「おや、私達を覚えていて下さったのですか?光栄です」
白目の女は、視線を苺から吏廻琉に移した。
「しかしまあ、高位の司祭もこの程度でしたか。実に情けないものです」
「…っ!」
吏廻琉はすぐに立ち上がり、杖を持ち出す。
「あら、血の気の多い方ですこと」
「黙りなさい…!この卑怯者が!」
「人聞きが悪いですね、私達は何も、卑劣な真似などしていませんよ」
「…!私にこんな事をさせておきながら…!お前達、絶対に許さない!!」
吏廻琉は動き出そうとしたが、俺が止めた。
どう考えても、挑んで勝てる相手ではない。
すると、今まで黙っていた緑目の司祭がこちらを見てきた。
「お姉様、失礼ながら彼女らのお仲間にもご挨拶をした方がよいかと」
「あっ、そうね」
そして、奴らは降りてきた。
「皆様、お初にお目にかかります。私が司祭ポルクス・レギエルです」
「そして、私はその妹、カストル・レギエル。以降、お見知りおきをお願いしますね」
二人は丁寧に礼をしてきた。
白目の方がポルクス、緑目の方がカストル、らしい。
「お前らが、苺達に…!」
「ええそうです…おや?」
ポルクスは、俺の顔をまじまじと見てきた。
「…何だ」
「貴方は…なるほど。防人にしては、勿体なさすぎる程の力を秘めているようですね。それに、何やら妙な匂いもします。…もしや、|白い人《パパラギ》ですか?」
「だったら何だと言うんだ」
すると、ポルクスは怪しげに笑った。
「そうですか…。それは結構です。
所で、貴方はかつてこの世界で起きた、古の戦争の事はご存知ですか?」
「『異形の戦争』の事か」
「左様です。…では、貴方の同族の勇者…勇人アモールの事はご存知ですか?」
「名前と活躍くらいは…な」
「なるほど。…では、一つお教えしましょう。彼は貴方と同じ、よそ者でした。そして彼は貴方と同様、最初は防人であり、旅先で多くの仲間と出会い、昇格を重ね、勇人となりました。…貴方には、彼と同じ何かを感じます。今回の勇者様、といった所でしょうか?」
俺に、伝説の勇者と同じものを持ってる…?
何か引っかかったが、今はそんな事はどうでもいい。
「いずれにせよ、私達にとっては目障り極まりない存在です。貴方などが彼のようになり上がれるとは到底思いませんが、念の為ここで消えていただきましょう」
ポルクスは魔導書を取り出した。
だが、それは今までに見たどの魔導書よりも邪悪で、禍々しい雰囲気だった。
「あれは、まさか…!」
苺が叫ぶ。
「お分かりになられたのですか?流石ですね。
場の皆様にもお教えしましょう。これは[ドグア]…妹の扱う禁忌、[マグア]と対を成す禁忌魔法。この世で最も強大な…光の魔法です」
「光…!?」
正直、ちょっと意外だった。
こういう立場のキャラは、闇使いのイメージがあるのだが。
「早速ですが、お見せしましょう…この禁忌魔法の威力を」
ポルクスは魔導書を開く。
見開かれたそのページは、神々しくも邪悪な光を放ち出す。
そうはさせるか…と攻撃しようとしたが、出来なかった。
どういう訳か、体が動かないのだ。
指先は動くので、斧を握る事は出来たが…それ以上は、何故か全く体が動こうとしなかった。
「お姉様、私は先に帰ってよいでしょうか?」
「ええ。…それでは皆様、ごきげんよう!」
ポルクスが魔法を放つ…その瞬間、俺達は結界に覆われ、ワープした。