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幕間〜女々しい野郎どもの唄〜②

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「情けないし、誉められたことじゃないことはわかってるけど……僕は――――――僕のことを手ひどくフッた山吹(やまぶき)あかりを見返してやりたいと考えている。それには、自分のチカラだけじゃダメだろうけど……」

 カットスタジオで、髪を切ってもらったあとの週明けのこと。
 この日まで、何度も自宅を訪問してきた黒田竜司(くろだりゅうじ)に対して、部屋の主の緑川武志(みどりかわたけし)が問いかけると、クラス委員を務める男子生徒は確認するようにたずねてきた。

白草四葉(しろくさよつば)の協力があれば、なんとかなる、って考えているのか?」

 武志が、ゆっくりと首をタテに振ると、訪問者は満足したようだ。
 そして、竜司は微笑を浮かべながら言葉を続ける。
 
「それなら、問題の解決は早くなるかもな。オレ自身は、千棘咲(ちとげさく)くんのような的確なアドバイスをできるわけじゃないが……()()()()()がいれば、木南蒼(きなみあおい)に負けないくらいの講義をしてもらえるぞ。これは、オレの経験談だから信用してもらってイイ」

 彼が語った人物名を耳にした武志は、驚きの声を上げる。

「黒田、なんでその名前を知ってるんだよ?」

 それは、彼の自室の書棚に収まっている文庫本のタイトル『千棘(ちとげ)くんはサイダー瓶の中』や『底辺キャラ 外崎(とのざき)くん』の登場人物の名前だったからだ。

「いや、なんでって、オレもラノベを読んでるからだが? まあ、ウチのクラスの壮馬……黄瀬壮馬(きせそうま)の影響だけどな。アイツの要望で、オレのアマゾンアカウントからラノベを注文してるからだと思うが、オススメ書籍には、ラノベばっかり表示されやがる。この前は、ページトップに、『学園一の美少女が休み時間のたびに、非モテのオレに話しかけて来る件』ってタイトルがオススメ表示されていたぞ? どうだ、怖いだろう!?」

 ニヤリと笑いながら答える竜司に対して、武志は「ハハッ……」と引き気味に苦笑したあと、醒めた口調で助言した。

「黒田、僕が言うのもなんだけど……友だちは選んだほうが良いと思う」

「それについては、白草をはじめ、各方面から指摘されているところだから、同意するよ」

 クラス委員は、肩をすくめながら語るが、その友人について、言葉のうえでは突き放したような物言いをしているものの、目の前の男子と黄瀬壮馬というクラスメートの間には、奥底にある信頼関係のようなものが透けて見えて、武志のような、古くからの友人が学園にいない生徒からすると、それが不思議に感じられた。

 そんな竜司のことをもう少し知ってみたいと思った彼は、話題を変える雰囲気を装いながら、たずねてみる。

「く、黒田……他に用事がなければ、聞いてみたいことがあるんだけど……」

「ん? なんだ? 今日は、緑川の意志確認をしたかっただけだから、もう、他に重大な要件があるわけじゃないが……」

「さっき、『撤退戦略』とかいうものについて語ってたとき、『オレも、この道に走ろうか迷っているところだから、推しキャラの語り合いくらいなら出来るぞ』って言ってなかったか?」

「あぁ、たしかに、そう言ったな。なんだ、オレの推しキャラを聞きたいのか? いまなら、『その磁器人形(アンティークドール)は恋をする』の北川真凛(きたがわまりん)ちゃんだな。非モテに優しいギャルは、神に等しい存在なんだよ」

 竜司がそう答えると、部屋の主は、クラスメートの手を自らの両手でガッチリとつかんだ。

「同志よ! つ、ついでに聞くけど、『ウ◯娘』のゴールド◯チーは、どうだ?」

「あぁ、ストライクゾーンのド真ん中だ! あのしち面倒くさい性格が、オレの心をつかんで離さない。そう言う緑川は、トーセンジョー◯ンは、どうなんだ?」

「ぼ、僕にジ◯ーダンのシナリオについて語らせると、二晩(ふたばん)は掛かるぞ? 覚悟はいいか?」

 武志が返答すると、竜司は、「望むところだ!」と、即答して口角を崩す。

「壮馬は、こういう話しにまったく食いついて来なくてな〜。好きな『ウ◯娘』のキャラクターをオールマイティーに使えるクリスマスオ◯リだの、中距離ならネ◯ユニヴァース、マイル短距離なら青◯ビーだの、キャラ性能の話ししか出てこなくて、お話しにならない。ソシャゲのキャラガチャは、()()ではなく()()で引くもんだろう?」

 クラス委員の熱弁に、部屋の主も、「あぁ、そのとおりだ!」と、力強くうなずく。
 そして、武志はこう続けた。

「黒田を(オトコ)と見込んで、ボクのお宝本の価値をキミに問うてみたいんだ。いま、手元には、こんなコミックがあるんだけど……」

 そう言って、彼が鍵付きの棚から取り出したのは、 『オタクだってギャルを愛したい』というタイトルが書かれたコミックの単行本と『古泉(ふるいずみ)ん家はどうやらギャルの溜まり場になってるらしい』という単行本シリーズだった。
 
「僕の宝物と言って良いこの作品を読んで、どう感じるのか……ぜひ、黒田の意見を聞かせてほしいんだ」

 突然の申し出に、面食らった竜司だが、受け取ったコミックをペラペラとめくり、武志に返答する。

「それは、一向に構わないんだが……緑川、おまえ、自分の好みに素直すぎないか?」

「い、いいだろ別に……?」

 そう返答する武志に竜司は苦笑する。
 そして、

「なんだよ、黒田! ニヤニヤ笑って……」

と反発するクラスメートに、竜司は、少し真面目な表情で答えるのだった。 
 
「いや……恋愛離れって言われる中で、リアルに好意を抱ける女子がいるオレたちは、幸せなのかも、と思っただけだ」


 


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「情けないし、誉められたことじゃないことはわかってるけど……僕は――――――僕のことを手ひどくフッた|山吹《やまぶき》あかりを見返してやりたいと考えている。それには、自分のチカラだけじゃダメだろうけど……」
 カットスタジオで、髪を切ってもらったあとの週明けのこと。
 この日まで、何度も自宅を訪問してきた|黒田竜司《くろだりゅうじ》に対して、部屋の主の|緑川武志《みどりかわたけし》が問いかけると、クラス委員を務める男子生徒は確認するようにたずねてきた。
「|白草四葉《しろくさよつば》の協力があれば、なんとかなる、って考えているのか?」
 武志が、ゆっくりと首をタテに振ると、訪問者は満足したようだ。
 そして、竜司は微笑を浮かべながら言葉を続ける。
「それなら、問題の解決は早くなるかもな。オレ自身は、|千棘咲《ちとげさく》くんのような的確なアドバイスをできるわけじゃないが……|あ《・》|の《・》|転《・》|校《・》|生《・》がいれば、|木南蒼《きなみあおい》に負けないくらいの講義をしてもらえるぞ。これは、オレの経験談だから信用してもらってイイ」
 彼が語った人物名を耳にした武志は、驚きの声を上げる。
「黒田、なんでその名前を知ってるんだよ?」
 それは、彼の自室の書棚に収まっている文庫本のタイトル『|千棘《ちとげ》くんはサイダー瓶の中』や『底辺キャラ |外崎《とのざき》くん』の登場人物の名前だったからだ。
「いや、なんでって、オレもラノベを読んでるからだが? まあ、ウチのクラスの壮馬……|黄瀬壮馬《きせそうま》の影響だけどな。アイツの要望で、オレのアマゾンアカウントからラノベを注文してるからだと思うが、オススメ書籍には、ラノベばっかり表示されやがる。この前は、ページトップに、『学園一の美少女が休み時間のたびに、非モテのオレに話しかけて来る件』ってタイトルがオススメ表示されていたぞ? どうだ、怖いだろう!?」
 ニヤリと笑いながら答える竜司に対して、武志は「ハハッ……」と引き気味に苦笑したあと、醒めた口調で助言した。
「黒田、僕が言うのもなんだけど……友だちは選んだほうが良いと思う」
「それについては、白草をはじめ、各方面から指摘されているところだから、同意するよ」
 クラス委員は、肩をすくめながら語るが、その友人について、言葉のうえでは突き放したような物言いをしているものの、目の前の男子と黄瀬壮馬というクラスメートの間には、奥底にある信頼関係のようなものが透けて見えて、武志のような、古くからの友人が学園にいない生徒からすると、それが不思議に感じられた。
 そんな竜司のことをもう少し知ってみたいと思った彼は、話題を変える雰囲気を装いながら、たずねてみる。
「く、黒田……他に用事がなければ、聞いてみたいことがあるんだけど……」
「ん? なんだ? 今日は、緑川の意志確認をしたかっただけだから、もう、他に重大な要件があるわけじゃないが……」
「さっき、『撤退戦略』とかいうものについて語ってたとき、『オレも、この道に走ろうか迷っているところだから、推しキャラの語り合いくらいなら出来るぞ』って言ってなかったか?」
「あぁ、たしかに、そう言ったな。なんだ、オレの推しキャラを聞きたいのか? いまなら、『その|磁器人形《アンティークドール》は恋をする』の|北川真凛《きたがわまりん》ちゃんだな。非モテに優しいギャルは、神に等しい存在なんだよ」
 竜司がそう答えると、部屋の主は、クラスメートの手を自らの両手でガッチリとつかんだ。
「同志よ! つ、ついでに聞くけど、『ウ◯娘』のゴールド◯チーは、どうだ?」
「あぁ、ストライクゾーンのド真ん中だ! あのしち面倒くさい性格が、オレの心をつかんで離さない。そう言う緑川は、トーセンジョー◯ンは、どうなんだ?」
「ぼ、僕にジ◯ーダンのシナリオについて語らせると、|二晩《ふたばん》は掛かるぞ? 覚悟はいいか?」
 武志が返答すると、竜司は、「望むところだ!」と、即答して口角を崩す。
「壮馬は、こういう話しにまったく食いついて来なくてな〜。好きな『ウ◯娘』のキャラクターをオールマイティーに使えるクリスマスオ◯リだの、中距離ならネ◯ユニヴァース、マイル短距離なら青◯ビーだの、キャラ性能の話ししか出てこなくて、お話しにならない。ソシャゲのキャラガチャは、|性《・》|能《・》ではなく|性《・》|癖《・》で引くもんだろう?」
 クラス委員の熱弁に、部屋の主も、「あぁ、そのとおりだ!」と、力強くうなずく。
 そして、武志はこう続けた。
「黒田を|漢《オトコ》と見込んで、ボクのお宝本の価値をキミに問うてみたいんだ。いま、手元には、こんなコミックがあるんだけど……」
 そう言って、彼が鍵付きの棚から取り出したのは、 『オタクだってギャルを愛したい』というタイトルが書かれたコミックの単行本と『|古泉《ふるいずみ》ん家はどうやらギャルの溜まり場になってるらしい』という単行本シリーズだった。
「僕の宝物と言って良いこの作品を読んで、どう感じるのか……ぜひ、黒田の意見を聞かせてほしいんだ」
 突然の申し出に、面食らった竜司だが、受け取ったコミックをペラペラとめくり、武志に返答する。
「それは、一向に構わないんだが……緑川、おまえ、自分の好みに素直すぎないか?」
「い、いいだろ別に……?」
 そう返答する武志に竜司は苦笑する。
 そして、
「なんだよ、黒田! ニヤニヤ笑って……」
と反発するクラスメートに、竜司は、少し真面目な表情で答えるのだった。 
「いや……恋愛離れって言われる中で、リアルに好意を抱ける女子がいるオレたちは、幸せなのかも、と思っただけだ」