Side - 16 - 26 - ごるごにせい -
ざぁぁぁ・・・
じゃぶじゃぶ・・・
ふきふき
つみつみ・・・
「・・・」
私の名前はティナ・ブレット、14歳の女の子です。
今私の脳内は英語で思考しているのだけど、謎の力が働いて皆さんには言葉が通じていると思います。
私はとある組織の構成員でした、主な仕事は狙撃による要人暗殺です。
そんな私が今、なぜか自然豊かなカフェで食器を洗い、お皿を棚に積み上げています、どうして・・・どうしてこんな事に・・・。
「がう!」
「ひっ・・・」
私は日本の総理大臣暗殺に失敗し、疲れ切った身体でお家・・・フロナシヨジョウハンノクソボロアパートに戻って・・・そこで大きな黒い犬に襲われたのです。
そして気付いたらここに・・・のどかな葡萄畑が広がる田舎町に連れて来られたのです。
私が勝手にゴルゴ2世さんと名付けた黒い犬は普段は姿を消しているのですがいつも私の側にいます、いるというよりは取り憑かれてる・・・そう表現した方がいいかも?、私がお仕事をサボったり逃げようとしたら現れて威嚇するの・・・。
怖いのは行動に移してからじゃなくて、頭の中で考えただけで現れるのです、まるで私の心の中を読んでるみたいに。
「わ・・・わぁ、お仕事楽しいな・・・」
「がう!」
「あぅ・・・ゴルゴ2世さんごめんなさい嘘をつきましたぁ、逃げようなんて思ってごめんなさい!」
すっ・・・
あ、消えた・・・ここを逃げ出したとしてもお金を全然持ってないし、行く所もないの、それに今私がいる場所がどこなのかも分からない。
ぱぁっ!
「あぅ眩しっ!」
突然目の前が光って現れたのは15歳くらいの女の子・・・グレーと銀の混ざった髪色に赤い目、刺繍の施された高価そうな上着に下はレギンスとロングブーツという格好をした・・・リベラ・ロリータさん。
「サボらずにお仕事してるみたいだね、はい、これはご褒美だよ、休憩時間に食べてね」
「わぁ・・・モスバーガーだぁ、それにモスチキンも!」
リベラさんは流暢な英語で私に話し掛けます、見た目は西洋人だけど私の知る限りこんな赤い目をした人種は見た事がないです・・・。
「この前の差し入れ、ディアズ店長に全部食べられて一晩中泣いてたみたいだね、よく考えたら新しい料理の研究に熱心な店長が興味を持たない筈がない、店長の分も用意してなかった私の配慮不足だった、ごめんね」
「・・・」
謝ったって私の心に深く刻まれた悲しみは癒えないの、差し入れとっても嬉しかったし後で食べるの楽しみにしてたのに・・・。
ずっと食べたくて・・・でもここにはモスバーガーのお店が無いから我慢してた私の大好物、スパイシーモスバーガーとチリドッグ・・・厨房に置いてたらあの店長(クソやろう)に全部食べられちゃった・・・。
怒りで目の前が真っ赤になって・・・殺してやろうと素手で襲い掛かったのだけど後ろから現れたゴルゴ2世さんの大きな前足で組み伏せられてしまいました、私は素手でも結構強いと思ってたのに何も出来なかったの。
悔しくて悲しくてその日の夜は夕食も食べずにお部屋のベッドでずっと泣いていました、夜遅くにディアズのクソ野郎が謝りに来たけど無視してやったのです!。
私にあんな酷いことをしたのだから大いに反省すればいいのです、食べ物の恨みは恐ろしいの!。
「ティナちゃん、ここの生活には離れた?」
フルフル・・・
「ここがどこなのかくらい教えて欲しいの、私の居場所は組織に分かるようになってるし、そのうち怖い暗殺者がここにもやって来るだろうから武器も無い丸腰だと怖いの・・・私の組織は裏切り者を絶対に許さないから・・・」
ぱらり・・・
「この紙に書かれてる名前に心当たりはあるかな?・・・正直に答えないと怖い犬さんが君を痛め付けるよ」
「がう!」
「ひぃっ・・・」
また現れたゴルゴ2世さんに威嚇されながら私は震える手でリベラさんから紙を受け取りました。
「・・・アンヴァサ・サワホワイト、ヴァン・ヴァンヂィ、ナウイ・ヤング・・・この3人は私の上司や先輩、他の人はよく知らないの・・・私は組織の人間を全員知ってるわけじゃないし会ったことはあるけど名前を知らない人も沢山いたの」
「・・・ここに名前がある奴等は全員死んだ」
「へ・・・」
「ティナちゃんの後ろに憑いてる犬さんの仲間に美味しく食べられたよ、行方不明扱いになると面白くないから得体の知れない怪物に襲われた事が組織にも分かるように身体の一部を食べ残すように指示してある」
フルフル・・・
「わ・・・私も食べられりゅの・・・い・・・いやぁ・・・」
「ティナちゃんはまだ利用価値がありそうだから殺さない・・・組織の事について他にも色々と聞きたいことがあるからね、あの組織はこれから徹底的に潰すからティナちゃんを殺しに来る余裕は無いと思うし、ここには絶対に来ない」
「私は殺されない?」
「素直に我々の言うことを聞いてくれればね」
「うん・・・その代わり報酬としてモスバーガーを毎日食べたい」
「毎日って・・・そんなに好きなの?」
「日本に来て初めて食べた時に・・・この世にこんな美味しいものがあるんだって感動したの、モスバーガーと比べたら私がこれまで食べてきたものなんてうんこなの」
「私も忙しいから毎日は無理かなぁ・・・ディアズ店長が味を再現できそうだって言ってたから作ってもらいなよ」
「あのクソ野郎に頭を下げるのは嫌なの!、あれは私のモスバーガー全部食べた悪魔・・・絶対許さないの!」
「でもなぁ・・・彼にはティナちゃんを養子にしてもらえるように頼もうと思ってるから仲良くして欲しいんだけど」
「い・・・」
「い?」
「いやぁぁぁ!」
何で私があんなクソ野郎の養子なんかにならないといけないんですか!、断固拒否なのです!。
俺の名前はディアズ・オーケー、40歳独身だ、ラングレー王国にある田舎町セフィーロで雇われ料理人をやっている。
俺が店長を任されている店は美味い料理とワインを出す事で有名になった、だが店のある周囲は20年程前まで葡萄畑や草地が一面に広がり地元農家の手によるワイン作りが唯一の産業という、一部の酒好きだけが知る何も無い寂れた街だった。
店の評判と共に地元で作るワインにも注目が集まって人気が大陸全土に拡大した、今では街も発展して美味い料理を出す店もいくつか出来、結構な数の観光客が訪れるようになった。
店の名前は「アップルツリー」、小さなレストランだが上の階にある同じ名前の宿屋も俺が経営していて、ワイン目当てにやって来た酒好きの観光客相手に儲けさせてもらっている。
そんな忙しい毎日を送る俺の所にこの店のオーナーであり俺の雇い主でもあるドック・フューチャが2人の少女を連れて来た、今から10日ほど前の話だ。
一人はオーナーの友人で共同事業をやっているリベラ・ロリータ、そしてもう一人はどうやら訳ありらしいティナ・ブレット。
「店長、悪いんだがこの娘をしばらく預かって欲しい」
目の前に立っているティナと紹介された少女を見た・・・酷い顔色で何かに怯え震えている、着ている服も少し破れているし全体的に薄汚れている、まさかとは思うがどこかから攫って来てないだろうな!。
俺はオーナーとの付き合いは長いし仕事のパートナーとしては信用しているが、この男の趣味や性癖までは把握していないのだ。
「それは・・・構いませんが、理由を聞いても?」
理由も聞かずに犯罪臭の漂う素性の知れない少女を預かるほど俺は馬鹿じゃない、下手したら事件に巻き込まれる可能性もある、それに街の奴等に少女の事を聞かれた時に何と言えばいいのだ?。
「少し訳ありの娘でな、この大陸の言葉は話せない、前から人手不足で困ってるって言ってただろ、こいつは体力だけはあるから店の裏方としてこき使ってくれ、飯と寝床を与えてやるだけで給金は払わなくていい」
涙目で震えてる少女を無給で働かせろと・・・いや待ってくれそれはまずいだろう。
「ですが・・・タダで働かせるという訳には・・・それに住む所・・・今は時期的に暇ですがもうしばらくすると新酒の時期です、観光客が増えて宿も満室になりますよ」
「報酬や身の回りのものはこれから買い揃えてリベラ嬢ちゃんが定期的にここに持って来る、あ、リベラ嬢ちゃんはリーゼロッテ嬢ちゃんの友人だ」
ぺこり
リベラと紹介された少女が礼儀正しくお辞儀をしたから俺も軽く頭を下げた。
こっちの少女は身なりがきちんとしているし、騎士がよく着ているような制服姿だ・・・それにしても下は身体の線がはっきり分かる薄くてピッタリした服を着ているからどことなくエロい、俺は変な気が起きないように少女から視線を逸らした。
「初めまして店長さん、リベラ・ロリータです、この店の常連のリーゼロッテちゃんとは友人で、たまに来るアメリアちゃんとも知り合いなのだ」
ほう・・・リゼちゃんの友人か・・・彼女は極度の人見知りだから友達が居ないと思ってたが・・・それにアメリアちゃん・・・年に数回やって来る白髪赤目の娘かな?、確かリゼちゃんが初めてここに来た時にオーナーとも仲良く話してた。
「話は変わるのだけど・・・淡い金色の長い髪、少し髪に癖があるね、口元にほくろが一つ、ディアズ店長とよく似た緑に近い青い目をした10代半ばくらいの女の子に心当たりは?」
リベラと名乗った嬢ちゃんが俺の右斜め後ろを見つめながらそんな事を言った、俺は背筋の凍るような衝撃を受け、彼女の視線の先に慌てて振り向いた。
「・・・あ・・・あるけど・・・どうして?・・・」
振り向いたが誰もいなかった・・・驚きで上手く言葉が出ない・・・リベラ嬢ちゃんが口にしたその特徴を持つ少女を俺はよく知っている・・・いや、知っていた。
「・・・私の見間違いだったかも、気にしないで欲しいのだ(ニコッ)」
凄ぇ気になるんですけど!。
「彼女の住む所なんだが・・・部屋が空いてるうちは宿でもいいがお前さんの家に住まわせる訳にはいかないか?」
ちょっと待て!、動揺してる俺に構う事なくオーナーがとんでもない事を言い出したぞ!。
「わ・・・私の家にですか?、男の一人暮らしだからそれはまずいでしょう!」
「店長には危害を加えないようにしてあるから安心してくれ、それからこの娘は妄想癖があってな、自分が巨大な怪物に取り憑かれていると思い込んでる、時折泣いたり叫んだり・・・誰も居ない所に向かって話し掛けたりすると思うが気にしないでくれ」
「いや気にするだろ!」
思わず口に出ちまったぜ、だが俺は悪くない!。
「言葉はこれを持たせてあるから大丈夫だと思う、ほらティナちゃん、#$+’#〜=`*+¥#$(おじさんに挨拶して)」
リベラ嬢ちゃんから渡された謎の光る板に向かってティナ嬢ちゃんが言葉を発した。
「・・・$&%=~`|¥$%&@”>*|=」
『・・・コンニチハ、ワタシハティナトイイマス』
「光る板がしゃべったぁぁ!」
「これはティナちゃんの喋る言葉を翻訳してくれる道具なのだ、これがあれば会話に困らないでしょ」
「・・・私の言葉も同じように訳せるのかい?」
俺は戸惑いながらもリベラ嬢ちゃんに尋ねた。
「ほら何か喋ってみて」
リベラ嬢ちゃんがティナ嬢ちゃんの腕を掴んで光る板を俺の前に差し出した・・・これに向かって話せばいいんだな。
「こんにちはお嬢ちゃん、私の名前はディアズ・オーケー」
『&#$+`’!”#`〜¥’&%+*><$』
フルフル・・・
ティナ嬢ちゃんに怯えられてるんだが!、本当に俺の言葉を正しく訳したのか?。
「#$〜=#`、!#*``#>$、T_T・・・」
『ココハドコ?、ダレカタスケテ、コワイヨゥ・・・』
今の言葉で疑惑が確信に変わった・・・俺は真っ直ぐオーナーの目を見て、そして優しく諭すように言った。
「オーナー、怒らないから正直に言って欲しい、・・・どこから攫ってきたんです?、自首すれば罪が軽くなるでしょう、衛兵を呼んで来ましょうか?」
「待て店長!、何か誤解してるぞ、俺は誘拐なんてしてない!」