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愛茉も同じように感じたらしく、長岡に対する嫌悪の感情は一切ないように見えた。それだけに、報われない想いを抱えていることに同情しているのかもしれない。
愛茉は少女漫画が好きでよく読んでいるが、感情移入するのは所謂「当て馬キャラ」ばかりだった。
「羨ましく思うんなら、とっととほかを当たれよ」
「できるならそうしたいよ、俺だって。でも好きになったばかりで、そう簡単には……」
「恋に落ちた2日後にフラれるなんて、お前も難儀だよなぁ」
「別に、後悔はしていないよ。2日後だろうが1年後だろうが、どっちしろフラれていたし。それなら早いほうがいい。どう足掻いても、なかなか忘れられないことには変わりないだろうから……」
長岡が、愛茉の外見だけに惚れたわけではないことぐらい分かっている。オレと同じだ。
本能で感じることを抑え込むのは、なかなか難しい。望みがないと頭で理解していても、心は簡単に割り切れないだろう。出会ったころ、愛茉からの連絡を待っていた自分を、ふと思い出した。
ただオレと違って、長岡は愛茉に対して清廉な感情を抱いている。一緒にいたいとか会話したいとは思わず、遠くから眺めているだけで満足だと言う。手をつなぐどころか、キスやセックスなどはもってのほか、といった感じだ。
果たしてそれは恋と言えるものなのか、オレには分からなかった。
「お前さ、女に幻想を抱きすぎなんだよ。さっさと童貞捨てちまえ」
「そ、そんなこと言われたって。相手がいないと、どうしようもないじゃないか」
「んなもん、金を出しゃいくらでもいるだろうが」
「金?」
「その道のプロにお願いすんだよ」
「え、プロって……」
「風俗」
「えぇ……ふ、風俗は……ちょっと……」
長岡は、女を神秘的なものとして見すぎている節がある。いまどき珍しいタイプというか、あまりに世間擦れしていないというか。好きな女に性欲があるのを知るとショックを受けるのではないかと、見ていて心配になる。
「生娘じゃあるまいし、なにを言ってんだか。性欲なんて、人間がこの世に誕生した時から、当たり前として存在するもんなんだぞ。それを満たすための対価を払うってだけじゃねぇか。腹減って飯を食いに行くのと同じだろ」
「いや、そ、そ、そうかもしれないけど。いや、ち、違うだろ」
「違わねぇよ。自分で作ったマズイ飯を食うより、金を払ってプロの飯食うほうが満足度はケタ違いに高いわけだろ。たまには自炊じゃなくて外食しろって話だ」
長岡はペットボトルを両手で握りしめて、なにか考えるように唇を真一文字に結んだ。
あのあまりに廉直な美人画は、いまの長岡だからこそ描けるものではあるが、いずれは変わらなければならない。その変化と向き合うのは、ある意味で画家の宿命といえる。
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「羨ましく思うんなら、とっととほかを当たれよ」
「できるならそうしたいよ、俺だって。でも好きになったばかりで、そう簡単には……」
「恋に落ちた2日後にフラれるなんて、お前も難儀だよなぁ」
「別に、後悔はしていないよ。2日後だろうが1年後だろうが、どっちしろフラれていたし。それなら早いほうがいい。どう足掻いても、なかなか忘れられないことには変わりないだろうから……」
長岡が、愛茉の外見だけに惚れたわけではないことぐらい分かっている。オレと同じだ。
本能で感じることを抑え込むのは、なかなか難しい。望みがないと頭で理解していても、心は簡単に割り切れないだろう。出会ったころ、愛茉からの連絡を待っていた自分を、ふと思い出した。
ただオレと違って、長岡は愛茉に対して清廉な感情を抱いている。一緒にいたいとか会話したいとは思わず、遠くから眺めているだけで満足だと言う。手をつなぐどころか、キスやセックスなどはもってのほか、といった感じだ。
果たしてそれは恋と言えるものなのか、オレには分からなかった。
「お前さ、女に幻想を抱きすぎなんだよ。さっさと童貞捨てちまえ」
「そ、そんなこと言われたって。相手がいないと、どうしようもないじゃないか」
「んなもん、金を出しゃいくらでもいるだろうが」
「金?」
「その道のプロにお願いすんだよ」
「え、プロって……」
「風俗」
「えぇ……ふ、風俗は……ちょっと……」
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「生娘じゃあるまいし、なにを言ってんだか。性欲なんて、人間がこの世に誕生した時から、当たり前として存在するもんなんだぞ。それを満たすための対価を払うってだけじゃねぇか。腹減って飯を食いに行くのと同じだろ」
「いや、そ、そ、そうかもしれないけど。いや、ち、違うだろ」
「違わねぇよ。自分で作ったマズイ飯を食うより、金を払ってプロの飯食うほうが満足度はケタ違いに高いわけだろ。たまには自炊じゃなくて外食しろって話だ」
長岡はペットボトルを両手で握りしめて、なにか考えるように唇を真一文字に結んだ。
あのあまりに廉直な美人画は、いまの長岡だからこそ描けるものではあるが、いずれは変わらなければならない。その変化と向き合うのは、ある意味で画家の宿命といえる。