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154. 試される碧き惑星

ー/ー



 轟音が鼓膜を震わせる中、俺の鼻腔を焦げた臭いが襲う。制御パネルの警告音が耳障りな音を立て続けていた。

「奴らもヤバいはずなんじゃが……」

 レヴィアは眉間(みけん)にしわを寄せ、レーダーを凝視する。

 ボン!

 突如、右翼先端が爆発し、シャトルが大きく横揺れする。

「うわぁぁぁ!」「くぅっ!」

 操縦パネルに大きく『WARNING』の文字が血のように赤く点滅を始め、機体の振動が激しさを増していく。

「レヴィア様、もうダメです! 減速! 減速しましょう!」

 死の予感に背筋が凍った俺はレヴィアの腕を握った。ここで燃え尽きたら、すべてが終わってしまう。

 しかし、レヴィアは俺の手を振り払った――――。

「黙っとれ! ここが勝負どころじゃ!」

 その真紅の瞳は、刻々と上昇する温度計を睨み付けていた。

 どんどん上がっていく温度……。制御パネルの数値はとっくに限界値を超えてレッドゾーンに突っ込んでいた。

 冷や汗が背中を伝う。一度は死に、美奈先輩の導きで異世界に転生したこの命。もし、ここで再び命を落としたらまた美奈先輩の元へ戻れるのだろうか? いや、確か一度きりと告げられていたはず……。

 くぅ……。

 やはり死んだら終わりなのだ。それに、これは俺一人の問題ではない。愛するドロシーと、アンジューの仲間たちの未来がかかっている。こんな場所で、こんな形で命を散らすわけにはいかない。

 俺は両手を強く握りしめ、心の底から祈った。神も仏も女神も美奈先輩も、どんな存在でもいい。ただ、この危機を乗り越えさせてくださいぃぃぃ!!

 全身全霊を込めて祈った。今この瞬間、俺にできることはこれしかない。

「ヨシッ!」

 突如、レヴィアの力強い声が轟いた――――。

 直後、プラズマエンジンが最大出力の逆噴射で船内は割れんばかりの轟音で埋め尽くされる。

 ぐはぁぁぁ……。

 巨大な力でシートベルトが肋骨に食い込み、呼吸すら困難になった。

 朦朧(もうろう)とする意識の中、レーダーに目を向けると、追跡者の影が進路を変えていくのが見えた。

 ボシュッ!

 衝撃と共に、視界が乳白色の(もや)に包まれる。高層雲に突入したのだ。だが、制御パネルの警告音は一向に収まらない。船体を包む熱は、周囲の雲を蒸散(じょうさん)させながら、なお上昇を続けていた。

 ボン! と、左翼先端が爆ぜ、火花を散らす。一瞬の閃光が雲を朱に染める。一難去ってまた一難。シャトルは制御を失い、狂ったように自転を始めた。

 ひぃぃぃぃ!

 絶叫が喉から絞り出される。

「うるさい、黙っとれ!」

 レヴィアは両手で操縦桿を掴み、全身を操作に集中していた。金髪が宙を舞い、額には汗が光る。

 やはり大気圏突入で逃げ切るというやり方は、無理があったのではないだろうか?

 白銀の雲海の中をグルグルと回転しつづけ、目が回るを超え、意識が遠くなっていく中、不思議と心が澄んでいくのを感じた。目の前で、懐かしい記憶が走馬灯のように流れ始める。

 石垣島の真っ白な砂浜で嬉しそうに笑うドロシー。彼女の笑顔は太陽より眩しかった。夕暮れ時、二人で剣の手入れをしながら交わした他愛もない会話。孤児院の古い木の床が軋む音。すべてが懐かしい。

 まさか海王星上空で、こうして命を()けることになるとは、誰が想像しただろう?

 俺はキリモミしていく身体に翻弄されながら、深いため息をついた。



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みんなのリアクション

 轟音が鼓膜を震わせる中、俺の鼻腔を焦げた臭いが襲う。制御パネルの警告音が耳障りな音を立て続けていた。
「奴らもヤバいはずなんじゃが……」
 レヴィアは|眉間《みけん》にしわを寄せ、レーダーを凝視する。
 ボン!
 突如、右翼先端が爆発し、シャトルが大きく横揺れする。
「うわぁぁぁ!」「くぅっ!」
 操縦パネルに大きく『WARNING』の文字が血のように赤く点滅を始め、機体の振動が激しさを増していく。
「レヴィア様、もうダメです! 減速! 減速しましょう!」
 死の予感に背筋が凍った俺はレヴィアの腕を握った。ここで燃え尽きたら、すべてが終わってしまう。
 しかし、レヴィアは俺の手を振り払った――――。
「黙っとれ! ここが勝負どころじゃ!」
 その真紅の瞳は、刻々と上昇する温度計を睨み付けていた。
 どんどん上がっていく温度……。制御パネルの数値はとっくに限界値を超えてレッドゾーンに突っ込んでいた。
 冷や汗が背中を伝う。一度は死に、美奈先輩の導きで異世界に転生したこの命。もし、ここで再び命を落としたらまた美奈先輩の元へ戻れるのだろうか? いや、確か一度きりと告げられていたはず……。
 くぅ……。
 やはり死んだら終わりなのだ。それに、これは俺一人の問題ではない。愛するドロシーと、アンジューの仲間たちの未来がかかっている。こんな場所で、こんな形で命を散らすわけにはいかない。
 俺は両手を強く握りしめ、心の底から祈った。神も仏も女神も美奈先輩も、どんな存在でもいい。ただ、この危機を乗り越えさせてくださいぃぃぃ!!
 全身全霊を込めて祈った。今この瞬間、俺にできることはこれしかない。
「ヨシッ!」
 突如、レヴィアの力強い声が轟いた――――。
 直後、プラズマエンジンが最大出力の逆噴射で船内は割れんばかりの轟音で埋め尽くされる。
 ぐはぁぁぁ……。
 巨大な力でシートベルトが肋骨に食い込み、呼吸すら困難になった。
 |朦朧《もうろう》とする意識の中、レーダーに目を向けると、追跡者の影が進路を変えていくのが見えた。
 ボシュッ!
 衝撃と共に、視界が乳白色の|靄《もや》に包まれる。高層雲に突入したのだ。だが、制御パネルの警告音は一向に収まらない。船体を包む熱は、周囲の雲を|蒸散《じょうさん》させながら、なお上昇を続けていた。
 ボン! と、左翼先端が爆ぜ、火花を散らす。一瞬の閃光が雲を朱に染める。一難去ってまた一難。シャトルは制御を失い、狂ったように自転を始めた。
 ひぃぃぃぃ!
 絶叫が喉から絞り出される。
「うるさい、黙っとれ!」
 レヴィアは両手で操縦桿を掴み、全身を操作に集中していた。金髪が宙を舞い、額には汗が光る。
 やはり大気圏突入で逃げ切るというやり方は、無理があったのではないだろうか?
 白銀の雲海の中をグルグルと回転しつづけ、目が回るを超え、意識が遠くなっていく中、不思議と心が澄んでいくのを感じた。目の前で、懐かしい記憶が走馬灯のように流れ始める。
 石垣島の真っ白な砂浜で嬉しそうに笑うドロシー。彼女の笑顔は太陽より眩しかった。夕暮れ時、二人で剣の手入れをしながら交わした他愛もない会話。孤児院の古い木の床が軋む音。すべてが懐かしい。
 まさか海王星上空で、こうして命を|賭《か》けることになるとは、誰が想像しただろう?
 俺はキリモミしていく身体に翻弄されながら、深いため息をついた。