第四部・第1章〜愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ〜⑥
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緑川武志の自宅を訪れた翌日の放課後――――――。
職員室で、今回のクライアントである谷崎先生に、初日の経過報告と、この日の活動予定を伝えたあと、緑川本人に関することで、プライバシーに差し障らない程度の情報を得てから、前日と同じように、自転車で緑川宅に向かう。
今日のお宅訪問のパートナーは、クラス委員の紅野アザミではなく、新学期にウチのクラスに来たばかりの転入生である。
ただし、二日前の放課後、上機嫌で今回の件に協力を申し出た彼女は、すこぶるご機嫌ななめだった。
「クロ! 昨日、紅野さんと緑川クンの家に行ったの?」
「あぁ、あくまで、クラス委員としてな」
「なんで、私じゃなくて、紅野さんを優先するの!?」
「別に、紅野を優先したわけじゃない。ユリちゃん先生から、依頼されたのは、オレと紅野だったからだ。クラス委員として、最初に紅野と緑川の家に行くのは当然だろう?」
「そんなこと言って……私が邪魔だったんじゃないの?」
「そんな訳ないだろう! だいたい、良く考えてみろ。いきなり、校内一の美少女転校生が学校に登校していない生徒の家に来たら驚くだろう? 昨日は、あくまで、緑川の家族へのあいさつと本人への声掛けが目的だったから、クラス委員の紅野の方が適任だっただけだよ」
シロが、昨日のことで苦言を呈してくるであろうことを予測していたオレは、あらかじめ、対白草四葉用に準備していた内容を返答する。
オレの回答に、一瞬、面食らったような表情を見せたシロは、それでも、いつもオレにウザがらみしてくるときのように、すぐにほおをニマニマと緩めて、たずね返してきた。
「良く聞こえなかったんだけど……どんな転校生が、お家に来たらビックリするの?」
「校内一カワイイ転校生が、いきなり家に来たら驚くって言ったんだよ。昨日は、あくまで、家族にあいさつすることが目的だったからな。どうだ、オレはナニか間違ったことを言ってるか?」
「ううん……そういう風に考えていたなら、早く言って欲しかっただけ。フフ……クロも、少しは世の中の道理ってモノが理解って来たじゃない?」
ご満悦な表情のシロの様子を横目で確認しながら、オレは、事前の脳内シミュレーションが功を奏したことを実感する。シロとは、以前も、こんなやり取りをしたような記憶があるのだが、そのときの会話をもとに、彼女が求めているであろう回答を用意していたことは無駄ではなかったようだ。
以前は、口に出して、彼女の容姿を褒めるということに抵抗があったのだが……。
(自分と同じように彼女に告白し、玉と砕けた男子が何人もいるのだから、その容姿が優れていることは、誰が見ても明らかなのだ……)
ということを自分に言い聞かせると、シロのルックスを誉め称える言葉を自然に口にできるようになっていた。これは、ここ最近のオレ自身の数少ない成長の証だ。
「そりゃ、お誉めにあずかり光栄だな。『男子、三日会わざれば刮目して見よ』ってな。オレも、いつまでも、成長しないままではないってことだ」
「ふうん……教え子の成長が見られて、講師役としては嬉しい限りね」
オレの告白を断った紅野へのリベンジを果たす……という名目で始まった『超恋愛学』なる告白成功の秘訣を講義した白草四葉は、満足したように表情をほころばせている。
「というわけで、緑川復帰計画の本番は、今日からだ。頼りにしてるぞ、シロ!」
「フフ……そっか、フェスでも対バンでも、注目アーティストの出番は後からだもんね。昨日、露払いをしてくれた紅野さんに感謝して、わたしに出来ることをさせてもらうね」
紅野を露払い扱いときたか……無自覚な口の悪さは、相変わらずだ。
奥ゆかしい性格の紅野アザミ本人なら苦笑するだけで済ませるかも知れないが、彼女の親友の天竹葵あたりが耳にすれば、即座に宣戦布告が成されそうな発言である。
とは言え、オレ自身がシロに期待していることも少なくないことは事実だった。
オレに対してだけは、なぜか、しち面倒くささ全開で、ウザがらみをしてくる彼女だが、内面はともかくとして、女優の母親を持ち、芸能方面にも身を置いていただけあって、外面の良さは申し分ない。
さらに武器になるのは、白草四葉の容貌だ。
容姿に秀でた(しかも異性の)クラスメートが心配して家まで来るとなれば、不登校生の親としては、クラスに復帰して登校した後も、我が子が教室内で孤立する心配がないと、感じてもらえるだろう。
しかも、前日の女子クラス委員に勝るとも劣らないルックスの持ち主なら、その効果もバツグンだ。
外見重視主義が否定される風潮もある昨今ではあるが、残念ながら、容姿の秀でた人間が好感を持たれることに変わりはない。いや、むしろ、政治的な正しさという建前とは反対に、動画文化全盛の現代では、ますます見た目が重要視されるようになっているのではないか? と、オレは感じている。
なにより、その事実を体現しているのが、同世代の女子から圧倒的な支持を受けている白草四葉自身でもあるのだ。
そんな訳で、前日の数少ない会話から、緑川武志が不登校になった理由に思い当たる節があったオレは、対応策を仕込んだメモが、制服の内ポケットに入っていることを再確認して、令和のカリスマ女子という心強い相棒とともい、二日目の対決に挑むべく、緑川家のチャイムを押した。
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|緑川武志《みどりかわたけし》の自宅を訪れた翌日の放課後――――――。
職員室で、今回のクライアントである|谷崎《たにざき》先生に、初日の経過報告と、この日の活動予定を伝えたあと、緑川本人に関することで、プライバシーに|差《さ》し|障《さわ》らない程度の情報を得てから、前日と同じように、自転車で緑川宅に向かう。
今日のお宅訪問のパートナーは、クラス委員の|紅野《こうの》アザミではなく、新学期にウチのクラスに来たばかりの転入生である。
ただし、二日前の放課後、上機嫌で今回の件に協力を申し出た彼女は、すこぶるご機嫌ななめだった。
「クロ! 昨日、紅野さんと緑川クンの家に行ったの?」
「あぁ、あくまで、|ク《・》|ラ《・》|ス《・》|委《・》|員《・》|と《・》|し《・》|て《・》な」
「なんで、私じゃなくて、紅野さんを優先するの!?」
「別に、紅野を優先したわけじゃない。ユリちゃん先生から、依頼されたのは、オレと紅野だったからだ。クラス委員として、最初に紅野と緑川の家に行くのは当然だろう?」
「そんなこと言って……私が邪魔だったんじゃないの?」
「そんな訳ないだろう! だいたい、良く考えてみろ。いきなり、|校《・》|内《・》|一《・》|の《・》|美《・》|少《・》|女《・》|転《・》|校《・》|生《・》|が《・》|学《・》|校《・》|に《・》|登《・》|校《・》|し《・》|て《・》|い《・》|な《・》|い《・》|生《・》|徒《・》|の《・》|家《・》|に《・》|来《・》|た《・》|ら《・》|驚《・》|く《・》だろう? 昨日は、あくまで、緑川の家族へのあいさつと本人への声掛けが目的だったから、クラス委員の紅野の方が適任だっただけだよ」
シロが、昨日のことで苦言を呈してくるであろうことを予測していたオレは、あらかじめ、対|白草四葉《しろくさよつば》用に準備していた内容を返答する。
オレの回答に、一瞬、面食らったような表情を見せたシロは、それでも、いつもオレにウザがらみしてくるときのように、すぐにほおをニマニマと緩めて、たずね返してきた。
「良く聞こえなかったんだけど……どんな転校生が、お|家《うち》に来たらビックリするの?」
「|校《・》|内《・》|一《・》|カ《・》|ワ《・》|イ《・》|イ《・》|転《・》|校《・》|生《・》が、|い《・》|き《・》|な《・》|り《・》|家《・》|に《・》|来《・》|た《・》|ら《・》|驚《・》|く《・》って言ったんだよ。昨日は、あくまで、家族にあいさつすることが目的だったからな。どうだ、オレはナニか間違ったことを言ってるか?」
「ううん……そういう風に考えていたなら、早く言って欲しかっただけ。フフ……クロも、少しは世の中の道理ってモノが理解って来たじゃない?」
ご満悦な表情のシロの様子を横目で確認しながら、オレは、事前の脳内シミュレーションが功を奏したことを実感する。シロとは、以前も、こんなやり取りをしたような記憶があるのだが、そのときの会話をもとに、彼女が求めているであろう回答を用意していたことは無駄ではなかったようだ。
以前は、口に出して、彼女の容姿を褒めるということに抵抗があったのだが……。
(自分と同じように彼女に告白し、玉と砕けた男子が何人もいるのだから、その容姿が優れていることは、誰が見ても明らかなのだ……)
ということを自分に言い聞かせると、シロのルックスを誉め称える言葉を自然に口にできるようになっていた。これは、ここ最近のオレ自身の数少ない成長の証だ。
「そりゃ、お誉めにあずかり光栄だな。『男子、三日会わざれば|刮目《かつもく》して見よ』ってな。オレも、いつまでも、成長しないままではないってことだ」
「ふうん……教え子の成長が見られて、講師役としては嬉しい限りね」
オレの告白を断った紅野へのリベンジを果たす……という名目で始まった『超恋愛学』なる告白成功の秘訣を講義した白草四葉は、満足したように表情をほころばせている。
「というわけで、|緑川《みどりかわ》復帰計画の本番は、今日からだ。頼りにしてるぞ、シロ!」
「フフ……そっか、フェスでも対バンでも、注目アーティストの出番は後からだもんね。昨日、|露《・》|払《・》|い《・》をしてくれた紅野さんに感謝して、わたしに出来ることをさせてもらうね」
紅野を|露払《つゆはら》い扱いときたか……無自覚な口の悪さは、相変わらずだ。
奥ゆかしい性格の紅野アザミ本人なら苦笑するだけで済ませるかも知れないが、彼女の親友の|天竹葵《あまたけあおい》あたりが耳にすれば、即座に宣戦布告が成されそうな発言である。
とは言え、オレ自身がシロに期待していることも少なくないことは事実だった。
オレに対してだけは、なぜか、しち面倒くささ全開で、ウザがらみをしてくる彼女だが、|内《・》|面《・》|は《・》|と《・》|も《・》|か《・》|く《・》|と《・》|し《・》|て《・》、女優の母親を持ち、芸能方面にも身を置いていただけあって、|外面《そとづら》の良さは申し分ない。
さらに武器になるのは、白草四葉の容貌だ。
容姿に秀でた(しかも異性の)クラスメートが心配して家まで来るとなれば、不登校生の親としては、クラスに復帰して登校した後も、我が子が教室内で孤立する心配がないと、感じてもらえるだろう。
しかも、前日の女子クラス委員に勝るとも劣らないルックスの持ち主なら、その効果もバツグンだ。
|外見重視主義《ルッキズム》が否定される風潮もある昨今ではあるが、残念ながら、容姿の秀でた人間が好感を持たれることに変わりはない。いや、むしろ、|政治的な正しさ《ポリコレ》という建前とは反対に、動画文化全盛の現代では、ますます見た目が重要視されるようになっているのではないか? と、オレは感じている。
なにより、その事実を体現しているのが、同世代の女子から圧倒的な支持を受けている白草四葉自身でもあるのだ。
そんな訳で、前日の数少ない会話から、緑川武志が不登校になった理由に思い当たる節があったオレは、対応策を仕込んだメモが、制服の内ポケットに入っていることを再確認して、令和のカリスマ女子という心強い相棒とともい、二日目の対決に挑むべく、緑川家のチャイムを押した。