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ホールの端にはグランドピアノが置いてあった。いわゆるストリートピアノというやつで、誰でも自由に弾ける。
愛茉が聴きたいというのでショパンの「華麗なる大円舞曲」を弾くと、周りの観光客やスタッフから、やたら盛大な拍手を送られた。そしてなぜかアンコールを求められてしまい、渋々応じることに。
次は「幻想即興曲」を弾くと、また周囲から大きな拍手が。人前で弾くのは好きではないが、愛茉が喜んでくれたから、まぁいいだろう。
小樽貴賓館を出たあとは、ジンギスカンを食べに行く。北海道と言えばこれだよな。臭みもなく、なかなか美味だった。
次に愛茉が連れて行ってくれたのは、北一ヴェネツィア美術館。イタリアの水の都・ヴェネツィアの中世の宮殿を再現した美術館で、中学のときにも来たことがあった。館内にはヴェネツィアのガラスや家具のほか、ウェールズ公妃ダイアナが乗ったゴンドラを展示している。
「桔平くんは、ヴェネツィアに行ったことあるの?」
「あるよ。すげぇ綺麗な街だったな」
「いいなぁ。いつか連れてってね」
愛茉と「いつか」の話をするのは楽しい。思えばオレは、出会ったときから「今度」という言葉を頻繁に言っていた気がする。愛茉となら未来を描きたいと、自然に思えたからかもしれない。
「どうでしたか? 小樽・札幌観光は」
無事に旅程を終えて旅館の部屋に戻ると、愛茉が尋ねてきた。本人は満足そうな表情をしている。
「オレがひとりで来たときには行かなかった場所も多いし、楽しかったよ。愛茉と一緒だしな」
北一硝子や小樽オルゴール堂にも行ったし、小樽の主要な観光地はひと通り巡った感じだ。
愛茉にとっては辛い記憶が多い土地のはずだが、家族との楽しい思い出の方が上回っているのかもしれない。そこにオレを連れて行きたいという愛茉の気持ちが、なによりも嬉しかった。
テーブルを挟んで向かいに座っていた愛茉が立ち上がり、隣にぴったり寄り添ってくる。心地いい重みと温かさを感じた。
「私も楽しかったよ。一緒に来てくれて、ありがとう」
そう言って、指輪をした右手をオレの手に重ねる。
地元に帰ってきても、会いたいと思うような友人はひとりもいないと言っていた。愛茉にとっては、家族との思い出だけが在る場所なのだろう。ただ、辛く寂しい子供時代を過ごしていなければ、東京へ出ることを考えなかったかもしれない。
オレは80億分の1の奇跡に感謝しながら、愛茉の肩を抱き寄せた。
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次は「幻想即興曲」を弾くと、また周囲から大きな拍手が。人前で弾くのは好きではないが、愛茉が喜んでくれたから、まぁいいだろう。
小樽貴賓館を出たあとは、ジンギスカンを食べに行く。北海道と言えばこれだよな。臭みもなく、なかなか美味だった。
次に愛茉が連れて行ってくれたのは、北一ヴェネツィア美術館。イタリアの水の都・ヴェネツィアの中世の宮殿を再現した美術館で、中学のときにも来たことがあった。館内にはヴェネツィアのガラスや家具のほか、ウェールズ公妃ダイアナが乗ったゴンドラを展示している。
「桔平くんは、ヴェネツィアに行ったことあるの?」
「あるよ。すげぇ綺麗な街だったな」
「いいなぁ。いつか連れてってね」
愛茉と「いつか」の話をするのは楽しい。思えばオレは、出会ったときから「今度」という言葉を頻繁に言っていた気がする。愛茉となら未来を描きたいと、自然に思えたからかもしれない。
「どうでしたか? 小樽・札幌観光は」
無事に旅程を終えて旅館の部屋に戻ると、愛茉が尋ねてきた。本人は満足そうな表情をしている。
「オレがひとりで来たときには行かなかった場所も多いし、楽しかったよ。愛茉と一緒だしな」
北一硝子や小樽オルゴール堂にも行ったし、小樽の主要な観光地はひと通り巡った感じだ。
愛茉にとっては辛い記憶が多い土地のはずだが、家族との楽しい思い出の方が上回っているのかもしれない。そこにオレを連れて行きたいという愛茉の気持ちが、なによりも嬉しかった。
テーブルを挟んで向かいに座っていた愛茉が立ち上がり、隣にぴったり寄り添ってくる。心地いい重みと温かさを感じた。
「私も楽しかったよ。一緒に来てくれて、ありがとう」
そう言って、指輪をした右手をオレの手に重ねる。
地元に帰ってきても、会いたいと思うような友人はひとりもいないと言っていた。愛茉にとっては、家族との思い出だけが在る場所なのだろう。ただ、辛く寂しい子供時代を過ごしていなければ、東京へ出ることを考えなかったかもしれない。
オレは80億分の1の奇跡に感謝しながら、愛茉の肩を抱き寄せた。