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第四部・第1章〜愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ〜②

ー/ー



「断りづらくて、引き受けちまったけど……さて、どうする――――――?」

 相談室を退室したあと、オレは、クラス委員のパートナーに問いかける。

「どうしよう……? やっぱり、緑川(みどりかわ)くんのお(うち)に行ってみるしかないのかな?」

「だな……それを見越して、ユリちゃんも、オレたちに緑川の家の住所を教えたんだろうし……」

 クラスメート宅の住所という超個人情報を知らされたからには、クラス委員として、何もしないわけにはいかない。オレだけでなく、責任感の強い紅野(こうの)も同じように考えるだろう。
 その点を考えるなら、ほとんど泣き落としに近かった、「彼を担任していた先生が異動になっちゃって、私も大変なのよ」という、あの懇願する姿も含めて、担任教師にまんまとハメられたという気がしないでもない。

 しかしながら、

谷崎(たにざき)先生にはお世話になってるから、私に出来ることなら協力したいな」

という紅野の想いにも同調したい部分はあった。
 大人の思惑に巻き込まれているのではないか――――――という懸念を持ちつつも、日頃、オレたち生徒の自主性を重んじてくれているユリちゃん先生には、なにかのカタチで恩返しをしたいという想いは、オレにもあった。

「そうだな……ユリちゃんのチカラになりたい、と考えているのは、オレも同じだ。とりあえず、今日は、解散ということで、明日、緑川(みどりかわ)の家に行ってみるよ」

 そう返答すると、想定していない言葉が返ってきた。

「あっ、それじゃ、私も一緒に行くよ!」

「いや、紅野は部活の練習で忙しいだろ? 大丈夫なのか?」

「うん! 事前に言っておけば、一日くらいは……黒田くん、一人に任せるのは申し訳ないし……」

「そう言ってくれるのは、ありがたいが……この前も言ったようにクラス委員の仕事が放課後に長引く場合は、なるべくオレが担当させてもらうから……紅野は、遠慮なく吹奏楽の練習に打ち込んでくれ」

 オレは、そう言って、ひと月前に彼女に約束したことを口にする。正直なところ、紅野に再び想いを告げるために始まったオープン・スクールでのサプライズ演出で、その想いを伝える相手を変更し、小学生の頃から知り合いであった白草四葉に告白したことについて、罪悪感を覚えていた。
 それだけに、これまで以上に彼女の負担が少なくなるように、クラス委員の仕事は、すべて一人で引き受ける――――――そんな覚悟を持っていたのだが……。

 そうした、こちらの一方的な都合には関係なく、紅野アザミは、微笑を浮かべながら、首を横に振る。

「黒田くんの気持ちは嬉しいけど……私も、谷崎先生に頼まれたんだから、一緒に緑川くんのお家に行かせてよ。もし、毎日、通うってことになったら、難しいと思うけど、最初くらいは、ね?」

 その穏やかな笑顔は、オレの心を和ませるのに十分なチカラがあった。
 そして、それだけに、彼女に対する申し訳なさは、さらに募るのだが……。

 ただ、いつまでも、こちらの都合だけで、紅野の申し出や好意を無碍(むげ)に扱うわけにはいかない。

「ありがとう! じゃあ、さっそく明日、緑川の家に行ってみるか?」

 笑顔で、そう応じると、

「うん! そうしよう!」

という弾けるような返事が返ってきた。

(やっぱり、クラス委員として、紅野は頼りになるなぁ)

 放課後は部活に参加する彼女と別れたあと、表情をほころばせながら、広報部の部室に向かおうとすると、

「あら、ずいぶんと楽しそうね! なにか、イイことでもあったの()()()()

と、背後から声を掛けられた。
 わざわざ、オレの名前を丁寧に強調しているが、その声は、新学期になってから、オレが一番聞き慣れたモノだ。

(少し前にもこんなことがなかったか?)

 と考えながら、周囲に他の生徒が居ないことを確認しつつ、オレは、声の主に返答する。

「別に、これと言って良いことは無いさ。クラス委員として、谷崎先生からの頼まれごとを聞いただけだ」

「ふ〜ん、紅野さんと二人で頼まれることって、何なの? クラスメートにも言えないようなことなの?」

「まあ、プライバシーや個人情報に関わることだからな。オレの一存で他の生徒に話すわけには……って、イテテテテテテッ! いきなり、ナニするんだ?」

 オレが最後まで言い終わらないうちに、目の前の女子、白草四葉は、オレのほおをつまんでくる。
 彼女の手を引き離しながら抗議すると、こちらに危害を与えた身でありながら、シロは不服そうな顔で、

「クラス委員が、クラスメートに秘密を持ってイイんですか〜?」

 と、意味のわからない主張をしてくる。

(いったい、ナニが言いたいんだ、シロは……?)

 困惑しつつ、ため息をつきながらも、不機嫌なクラスメートに返答する。

「なにを勘違いしてるか知らないが、先生から頼まれたことは、オレと紅野、個人に関することじゃない。他のクラスメートに関わることだから、軽々しく口外できないだけだ。もし、どうしても知りたいなら……オレに協力するという条件付きで、ユリちゃん先生に許可をもらおうと思うが、どうだ?」

 キッパリとした口調で、そう提案すると、シロは、不服そうだった表情を緩めて返答する。

「なんだ、そういうことなら早く言ってくれればいいのに……もちろん、クロに協力する! で、どんなことをすればイイの?」

(オレの返答を聞く前に、ほおをつねったのは誰だよ!?)

 というツッコミを入れるのもバカバカしくなったオレは、ため息をつきながら、白草四葉の参加協力を申し出るため、職員室に戻ったユリちゃん先生の元へと目的地を変更した。


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 相談室を退室したあと、オレは、クラス委員のパートナーに問いかける。
「どうしよう……? やっぱり、|緑川《みどりかわ》くんのお|家《うち》に行ってみるしかないのかな?」
「だな……それを見越して、ユリちゃんも、オレたちに緑川の家の住所を教えたんだろうし……」
 クラスメート宅の住所という超個人情報を知らされたからには、クラス委員として、何もしないわけにはいかない。オレだけでなく、責任感の強い|紅野《こうの》も同じように考えるだろう。
 その点を考えるなら、ほとんど泣き落としに近かった、「彼を担任していた先生が異動になっちゃって、私も大変なのよ」という、あの懇願する姿も含めて、担任教師にまんまとハメられたという気がしないでもない。
 しかしながら、
「|谷崎《たにざき》先生にはお世話になってるから、私に出来ることなら協力したいな」
という紅野の想いにも同調したい部分はあった。
 大人の思惑に巻き込まれているのではないか――――――という懸念を持ちつつも、日頃、オレたち生徒の自主性を重んじてくれているユリちゃん先生には、なにかのカタチで恩返しをしたいという想いは、オレにもあった。
「そうだな……ユリちゃんのチカラになりたい、と考えているのは、オレも同じだ。とりあえず、今日は、解散ということで、明日、|緑川《みどりかわ》の家に行ってみるよ」
 そう返答すると、想定していない言葉が返ってきた。
「あっ、それじゃ、私も一緒に行くよ!」
「いや、紅野は部活の練習で忙しいだろ? 大丈夫なのか?」
「うん! 事前に言っておけば、一日くらいは……黒田くん、一人に任せるのは申し訳ないし……」
「そう言ってくれるのは、ありがたいが……この前も言ったようにクラス委員の仕事が放課後に長引く場合は、なるべくオレが担当させてもらうから……紅野は、遠慮なく吹奏楽の練習に打ち込んでくれ」
 オレは、そう言って、ひと月前に彼女に約束したことを口にする。正直なところ、紅野に再び想いを告げるために始まったオープン・スクールでのサプライズ演出で、その想いを伝える相手を変更し、小学生の頃から知り合いであった白草四葉に告白したことについて、罪悪感を覚えていた。
 それだけに、これまで以上に彼女の負担が少なくなるように、クラス委員の仕事は、すべて一人で引き受ける――――――そんな覚悟を持っていたのだが……。
 そうした、こちらの一方的な都合には関係なく、紅野アザミは、微笑を浮かべながら、首を横に振る。
「黒田くんの気持ちは嬉しいけど……私も、谷崎先生に頼まれたんだから、一緒に緑川くんのお家に行かせてよ。もし、毎日、通うってことになったら、難しいと思うけど、最初くらいは、ね?」
 その穏やかな笑顔は、オレの心を和ませるのに十分なチカラがあった。
 そして、それだけに、彼女に対する申し訳なさは、さらに募るのだが……。
 ただ、いつまでも、こちらの都合だけで、紅野の申し出や好意を|無碍《むげ》に扱うわけにはいかない。
「ありがとう! じゃあ、さっそく明日、緑川の家に行ってみるか?」
 笑顔で、そう応じると、
「うん! そうしよう!」
という弾けるような返事が返ってきた。
(やっぱり、クラス委員として、紅野は頼りになるなぁ)
 放課後は部活に参加する彼女と別れたあと、表情をほころばせながら、広報部の部室に向かおうとすると、
「あら、ずいぶんと楽しそうね! なにか、イイことでもあったの|黒《・》|田《・》|ク《・》|ン《・》」
と、背後から声を掛けられた。
 わざわざ、オレの名前を丁寧に強調しているが、その声は、新学期になってから、オレが一番聞き慣れたモノだ。
(少し前にもこんなことがなかったか?)
 と考えながら、周囲に他の生徒が居ないことを確認しつつ、オレは、声の主に返答する。
「別に、これと言って良いことは無いさ。クラス委員として、谷崎先生からの頼まれごとを聞いただけだ」
「ふ〜ん、紅野さんと二人で頼まれることって、何なの? クラスメートにも言えないようなことなの?」
「まあ、プライバシーや個人情報に関わることだからな。オレの一存で他の生徒に話すわけには……って、イテテテテテテッ! いきなり、ナニするんだ?」
 オレが最後まで言い終わらないうちに、目の前の女子、白草四葉は、オレのほおをつまんでくる。
 彼女の手を引き離しながら抗議すると、こちらに危害を与えた身でありながら、シロは不服そうな顔で、
「クラス委員が、クラスメートに秘密を持ってイイんですか〜?」
 と、意味のわからない主張をしてくる。
(いったい、ナニが言いたいんだ、シロは……?)
 困惑しつつ、ため息をつきながらも、不機嫌なクラスメートに返答する。
「なにを勘違いしてるか知らないが、先生から頼まれたことは、オレと紅野、個人に関することじゃない。他のクラスメートに関わることだから、軽々しく口外できないだけだ。もし、どうしても知りたいなら……オレに協力するという条件付きで、ユリちゃん先生に許可をもらおうと思うが、どうだ?」
 キッパリとした口調で、そう提案すると、シロは、不服そうだった表情を緩めて返答する。
「なんだ、そういうことなら早く言ってくれればいいのに……もちろん、クロに協力する! で、どんなことをすればイイの?」
(オレの返答を聞く前に、ほおをつねったのは誰だよ!?)
 というツッコミを入れるのもバカバカしくなったオレは、ため息をつきながら、白草四葉の参加協力を申し出るため、職員室に戻ったユリちゃん先生の元へと目的地を変更した。