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「ここには来たことあるでしょ?」
「ああ。そのときは、現代美術家の展示をやっていたな。立体オブジェとか」
「基本的に、北海道にゆかりのある人のをやってるみたいだね」
 
 札幌駅から少し離れたところにある芸術の森美術館では、北海道で活動する日本人画家の個展が開催されていた。

 美術館に来ると不思議と五感が研ぎ澄まされて、さまざまな声が聞こえてくる。

 どのようなものであっても、芸術作品には作者の念がこもっているものだ。そしてそれは決してポジティブなものばかりではないから、たまに息苦しさを感じることもある。それでも、暗く重たい念が原動力になって、創作意欲が湧くことも多かった。

「桔平くん」

 愛茉の声で、現実に引き戻された。どうやら、絵の前でしばらく突っ立っていたらしい。

「この絵、なにかあるの? ずっと見てたけど」

 それは、古代都市の中心にそびえ立つ塔が崩壊する刹那を描いた絵だった。
 塔は壊れていく。それでも都市は、なにも変わらずそこに在る。静と動という相反するものが、一枚のキャンバスの中になんの違和感もなく存在していた。

「たまにあるんだよな。絵の前で魂が抜ける感じ」
「え、幽体離脱?」
「どこに行ってんだろな、オレの魂」
「ちゃんと帰ってきてね?」

 愛茉がまた腕を組んできた。こうやって引き戻してくれる存在がいなければ、そのまま帰ってこれなくなるときがくるかもしれない。そんな風に思った。

 芸術の森を出るころにはすっかり日が暮れて、札幌駅周辺もあちこちライトアップされていた。七海ちゃんたちに写真を送るんだと言って、愛茉は一生懸命スマホを構えている。

「ほら見て見て、すっごく幻想的なのが撮れた」

 渾身の一枚だと胸を張っているが、それは愛茉の腕というより、カメラの性能だろ。

 人工物の海で、人工物の力を使って幻想的な空間を演出する。人間は、矛盾の中に楽しみを見出すのが好きな生物なのかもしれない。
 こんなことを口にすると、また「夢がない」と言われそうだから、黙っておこう。


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「ここには来たことあるでしょ?」
「ああ。そのときは、現代美術家の展示をやっていたな。立体オブジェとか」
「基本的に、北海道にゆかりのある人のをやってるみたいだね」
 札幌駅から少し離れたところにある芸術の森美術館では、北海道で活動する日本人画家の個展が開催されていた。
 美術館に来ると不思議と五感が研ぎ澄まされて、さまざまな声が聞こえてくる。
 どのようなものであっても、芸術作品には作者の念がこもっているものだ。そしてそれは決してポジティブなものばかりではないから、たまに息苦しさを感じることもある。それでも、暗く重たい念が原動力になって、創作意欲が湧くことも多かった。
「桔平くん」
 愛茉の声で、現実に引き戻された。どうやら、絵の前でしばらく突っ立っていたらしい。
「この絵、なにかあるの? ずっと見てたけど」
 それは、古代都市の中心にそびえ立つ塔が崩壊する刹那を描いた絵だった。
 塔は壊れていく。それでも都市は、なにも変わらずそこに在る。静と動という相反するものが、一枚のキャンバスの中になんの違和感もなく存在していた。
「たまにあるんだよな。絵の前で魂が抜ける感じ」
「え、幽体離脱?」
「どこに行ってんだろな、オレの魂」
「ちゃんと帰ってきてね?」
 愛茉がまた腕を組んできた。こうやって引き戻してくれる存在がいなければ、そのまま帰ってこれなくなるときがくるかもしれない。そんな風に思った。
 芸術の森を出るころにはすっかり日が暮れて、札幌駅周辺もあちこちライトアップされていた。七海ちゃんたちに写真を送るんだと言って、愛茉は一生懸命スマホを構えている。
「ほら見て見て、すっごく幻想的なのが撮れた」
 渾身の一枚だと胸を張っているが、それは愛茉の腕というより、カメラの性能だろ。
 人工物の海で、人工物の力を使って幻想的な空間を演出する。人間は、矛盾の中に楽しみを見出すのが好きな生物なのかもしれない。
 こんなことを口にすると、また「夢がない」と言われそうだから、黙っておこう。