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ー/ー



「噂通り、中々雰囲気のあるトンネルだな……」


 不気味な雰囲気を漂わせるトンネルを前に、俺は携帯片手に一人嬉しさから小さく微笑んだ。


「これなら高視聴率も間違いないだろ。情報提供してくれたMさんには本当に感謝だな」


 都内の大学に通っている俺は、一見するとどこにでもいるような男なのだが、ネットの世界では心霊配信者としてちょっとした有名人だったりする。

 高3の頃からコツコツと投稿を始めて、早いもので今年で3年目。今では少しばかり名が知れるようになってきたが、ここらでもう少し知名度を上げておきたい。
 ネットの世界とはいえ、有名になれば芸能人かのように世間からもてはやされる。自分の身一つでそんな地位が得られるのだから、随分と夢のある世界だ。
 そんな夢を抱いて配信の世界に飛び込む若者も少なくはなく、俺もその内の一人なのだ。


「……よしっ。じゃ、さっそく配信するか」


 予め告知していた時間になったのを確認すると、配信ボタンを押して配信を開始する。すると、途端に次から次へと流れ始めるコメント。


「”K-TAの心霊配信”をご覧の皆さん、お待たせしました! 只今の時刻は午後9時。今日やって来たのは、視聴者Mさんから教えてもらったN県S市にある──こちらのトンネル!」


 トンネルをバックにして画面に映し出せば、更なる盛り上がりをみせるコメント欄。開始早々に500人近くの視聴者数とは、この配信への期待がどれ程高いのかが(うかが)える。
 なんでも、このトンネルは本物の幽霊が出ることで有名らしく、N県で暮らす地元の人では知らない人はいない程らしい。この視聴者数を見ると、わざわざ何県もまたいで遠くまで来た甲斐があったというものだ。


『うわ……っ。もう既に怖い……』

『待ってましたー! 早くトンネルに入ろう!』

『怖っ! マジで行くの?』

『本当に一人で行くのかよ……。すげーな』


 そんなコメントが次々と流れる中、好奇心で行くようなものではないだとか罰当たりだとか、(とが)めるようなコメントもチラホラと流れる。
 毎度のように一定数は見られるコメントだが、配信の盛り上がりに一役買ってくれていることに変わりはない。コメントが多少荒れるのも、それだけ有名になった証拠なのだ。


「このトンネルは、20年程前に若い女性が強姦されて殺された場所だとか。その怨みからか……このトンネルでは、女性の幽霊を見たという目撃情報が後を絶たないのです」


 トンネルをバックに、そんな説明を視聴者に向けて話し聞かせる。


「今から23年前に、近くに新しい道が出来たことで使用されなくなったこのトンネル。──果たして、本当に幽霊はいるのか?」


 700人800人と増え続ける視聴者数を確認しながら、嬉しさから心の中でガッツポーズをする。
 怖いもの見たさとでもいうのか、『怖くて無理』なんて言いながらも皆んな心霊モノが好きなのだ。自分では行けない心霊スポットも、代わりに誰かが行ってくれるとあらば視聴する。そんな需要があってこそ、俺は心霊配信者として食べていけるのだから有難い。


「それではいよいよ、トンネルの中に入って行きたいと思います……」


 ゴクリと小さく唾を飲み込むと、覚悟を決めた顔で画面を見つめる。本当は全くもって怖くはないのだが、これも視聴者の為の演出だ。
 ついに1000人を超えた視聴者数を確認すると、トンネル内へとカメラを切り替えてニヤリとほくそ笑む。


(今回も何も起こらなそうだな……)


 そんなことを考えつつも、時折り視聴者を怖がらせる演出は忘れない。そんな俺の演出に便乗するかのように、盛り上がりをみせるコメント欄。


「……うわっ! 今……っ。だ、誰かに足を掴まれたーーっ!!」


 実際にはただ(つまず)いて転んだだけなのだが、ここぞとばかりに怖がってみせれば、『今……、後ろに誰かいたよ!』『俺も見えた!』などと勝手に盛り上がってゆくコメント。過剰な恐怖心とは、実際には存在しないものまで見えると錯覚してしまうらしい。
 結局これといって何も起こらないままトンネルの探索を終えた俺は、最後にもう一度トンネルの前で立ち止まると画面に向かって話しかけた。


「……っ、ここは本当にヤバイ……早く帰りたい。今日見に来てくれた皆さん、本当にありがとう。一刻も早くここから離れようと思います。……それではまた、無事に帰れたら会いましょう──」


 疲れた表情を浮かべながらそう告げると、俺は1時間ほど続けた配信を終了させた。
 実際、わざと怖がったり悲鳴を上げたりするのはとても疲れる。けれど、終了間際の閲覧数が2000人を超えていた事実に、俺は配信を終了させたと同時に歓喜の雄叫びを上げた。


「よっしゃーー!! 2000人超えっ!!!」


 期待以上の閲覧数に満足気な笑顔を浮かべると、俺は軽やかな足取りで車へと乗り込むとその場を後にしたのだった。




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「噂通り、中々雰囲気のあるトンネルだな……」
 不気味な雰囲気を漂わせるトンネルを前に、俺は携帯片手に一人嬉しさから小さく微笑んだ。
「これなら高視聴率も間違いないだろ。情報提供してくれたMさんには本当に感謝だな」
 都内の大学に通っている俺は、一見するとどこにでもいるような男なのだが、ネットの世界では心霊配信者としてちょっとした有名人だったりする。
 高3の頃からコツコツと投稿を始めて、早いもので今年で3年目。今では少しばかり名が知れるようになってきたが、ここらでもう少し知名度を上げておきたい。
 ネットの世界とはいえ、有名になれば芸能人かのように世間からもてはやされる。自分の身一つでそんな地位が得られるのだから、随分と夢のある世界だ。
 そんな夢を抱いて配信の世界に飛び込む若者も少なくはなく、俺もその内の一人なのだ。
「……よしっ。じゃ、さっそく配信するか」
 予め告知していた時間になったのを確認すると、配信ボタンを押して配信を開始する。すると、途端に次から次へと流れ始めるコメント。
「”K-TAの心霊配信”をご覧の皆さん、お待たせしました! 只今の時刻は午後9時。今日やって来たのは、視聴者Mさんから教えてもらったN県S市にある──こちらのトンネル!」
 トンネルをバックにして画面に映し出せば、更なる盛り上がりをみせるコメント欄。開始早々に500人近くの視聴者数とは、この配信への期待がどれ程高いのかが|窺《うかが》える。
 なんでも、このトンネルは本物の幽霊が出ることで有名らしく、N県で暮らす地元の人では知らない人はいない程らしい。この視聴者数を見ると、わざわざ何県もまたいで遠くまで来た甲斐があったというものだ。
『うわ……っ。もう既に怖い……』
『待ってましたー! 早くトンネルに入ろう!』
『怖っ! マジで行くの?』
『本当に一人で行くのかよ……。すげーな』
 そんなコメントが次々と流れる中、好奇心で行くようなものではないだとか罰当たりだとか、|咎《とが》めるようなコメントもチラホラと流れる。
 毎度のように一定数は見られるコメントだが、配信の盛り上がりに一役買ってくれていることに変わりはない。コメントが多少荒れるのも、それだけ有名になった証拠なのだ。
「このトンネルは、20年程前に若い女性が強姦されて殺された場所だとか。その怨みからか……このトンネルでは、女性の幽霊を見たという目撃情報が後を絶たないのです」
 トンネルをバックに、そんな説明を視聴者に向けて話し聞かせる。
「今から23年前に、近くに新しい道が出来たことで使用されなくなったこのトンネル。──果たして、本当に幽霊はいるのか?」
 700人800人と増え続ける視聴者数を確認しながら、嬉しさから心の中でガッツポーズをする。
 怖いもの見たさとでもいうのか、『怖くて無理』なんて言いながらも皆んな心霊モノが好きなのだ。自分では行けない心霊スポットも、代わりに誰かが行ってくれるとあらば視聴する。そんな需要があってこそ、俺は心霊配信者として食べていけるのだから有難い。
「それではいよいよ、トンネルの中に入って行きたいと思います……」
 ゴクリと小さく唾を飲み込むと、覚悟を決めた顔で画面を見つめる。本当は全くもって怖くはないのだが、これも視聴者の為の演出だ。
 ついに1000人を超えた視聴者数を確認すると、トンネル内へとカメラを切り替えてニヤリとほくそ笑む。
(今回も何も起こらなそうだな……)
 そんなことを考えつつも、時折り視聴者を怖がらせる演出は忘れない。そんな俺の演出に便乗するかのように、盛り上がりをみせるコメント欄。
「……うわっ! 今……っ。だ、誰かに足を掴まれたーーっ!!」
 実際にはただ躓《つまず》いて転んだだけなのだが、ここぞとばかりに怖がってみせれば、『今……、後ろに誰かいたよ!』『俺も見えた!』などと勝手に盛り上がってゆくコメント。過剰な恐怖心とは、実際には存在しないものまで見えると錯覚してしまうらしい。
 結局これといって何も起こらないままトンネルの探索を終えた俺は、最後にもう一度トンネルの前で立ち止まると画面に向かって話しかけた。
「……っ、ここは本当にヤバイ……早く帰りたい。今日見に来てくれた皆さん、本当にありがとう。一刻も早くここから離れようと思います。……それではまた、無事に帰れたら会いましょう──」
 疲れた表情を浮かべながらそう告げると、俺は1時間ほど続けた配信を終了させた。
 実際、わざと怖がったり悲鳴を上げたりするのはとても疲れる。けれど、終了間際の閲覧数が2000人を超えていた事実に、俺は配信を終了させたと同時に歓喜の雄叫びを上げた。
「よっしゃーー!! 2000人超えっ!!!」
 期待以上の閲覧数に満足気な笑顔を浮かべると、俺は軽やかな足取りで車へと乗り込むとその場を後にしたのだった。