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雪遊び!

ー/ー



 瑠菜が目を覚ますと、目の前には楓李がいた。
 雪紀に資料を取り上げられた後の記憶が全くない瑠菜は、それに対してといつも以上に驚いてしまった。
それでも声を出すことは我慢したのだが、楓李の不機嫌な顔を見る限り相当分かりやすく表情に出ていたのだろう。

 「瑠菜、来い。」
 「まっ……て、水を飲ませて。」

 瑠菜がそう言うと、楓李は机の上に会った水を瑠菜に渡した。
 瑠菜は楓李の準備の良さに戸惑いながらもそれを受け取ってコップ一杯分を一気飲みする。

 「瑠菜、ほら。」
 「ちょ……え?ドア……。待って、待って。え?」
 「あとで説明するから俺の部屋来い。」

 自分の部屋のドアが壊れているのに瑠菜は気づいていなかったらしい。
 楓李は、気づいて戸惑っている瑠菜の手をやさしく引っ張って自分の部屋へと連れ込んだ。

 「ちょ……かえ。なんで?」
 「なんでもクソもねぇだろ?」
 「どうせ、ほかに相手いるなら別に私とじゃなくても……。」
 「瑠菜じゃねぇと嫌なの。」
 「……ほかにもいるんでしょ?他にもいるような言い方してるじゃん。」

 瑠菜はそう言って楓李の横を通ってそのまま逃げた。
 楓李は瑠菜の手を反射的につかんだ。

 「いいわけねぇって……ちょっ、瑠菜!」
 「バーカ、一人で勝手にやってろ!」

 楓李は瑠菜のその言葉を聞いて瑠菜を追いかけることもできず、そのまま部屋に取り残されてしまった。

 「なんだよ……あいつ。」
 「何?瑠菜ちゃん、反抗期?」
 「あき……。年越し前からずっとあんな感じなんだけど、どう思う?」

 ドアを開けっぱなしで騒いでいた二人を野次馬のように見に来たであろうあきに楓李は問いかけた。

 楓李とあきは正反対の性格だ。
 考え方も行動も女性への接し方も、楓李には思いつかないようなことをあきは当たり前のように簡単にする。

 あきは困ったように言う楓李を見てニコニコしながらうーんっと考え始めた。

 「愛情不足?」
 「んなもんこっちが言いてぇよ。出てこなかったのはあいつだし。」
 「女の子って意外とわがままだったりするよ?会いたくないって言いながらもなんであってくれないのかと怒ったりするし。まぁ、そこがかわいいんだけどね。」
 「瑠菜もそうだと?」
 「毎日しっかりとした愛情を注ぎ続けないと。楓李は特に言葉が足りないとこあるから。」
 「それは……あいつが部屋にこもってて邪魔しないようにって……。」
 「スマホにメッセージを残したり、一日一回必ず会うことが邪魔なことだと?」
 「邪魔だろ?」
 「瑠菜ちゃんの気分転換になったかもよ?」
 「でも、俺だって……忙しくて……。」
 「いいわけだね。十分もかからないでしょ?会うのも、メッセージ送るのも。」
 「うっ……。」
 「それとも、一時間くらい悩まないとメッセージも遅れないし、顔見せるのも無理なの?」

 あきはニコニコと笑ったまま楓李に問う。
 もちろん、言われた楓李も何も言えなくなっていく。
 メッセージを送るのに時間がかかるというより、そもそも楓李は瑠菜に自分からメッセージを送ったことがないのだ。
 仕事上のやり取りはするが、大体は「はい」か「いいえ」しか送らない。
 瑠菜が何も言わないため、楓李は甘えてプライベートのやり取りをしなくなっていたのだ。
 何となくその現状をわかっていたあきは、あえてこの話に持って行ったのだ。
 いつも言い負かされるため少しくらい困らせたかったのもある。
 しかし、いつまでもこの話をしていても話は進まないと思った。

 「浮気を疑われても仕方ないよね?」
 「……だよな。」
 「ちゃんと瑠菜ちゃんに話をしないとね。」
 「逃げられるんだけど……。」

 それを聞いたあきは不貞腐れたように言う楓李をジト目で見た。

 「まさか、体の関係=愛情だと思ってる?」
 「うっ……。」

 楓李はあきに言われてそっと目をそらした。
 あきはそれを見て楓李の肩をがっちりとつかむ。

 「体の関係なんて見た目しか見てませんって言ってるようなもんだからね?話をしたりしてゆっくり過ごす時間が本当に愛情を注いでるってことなんだよ。女の子はガラス細工と同じくらいもろいんだから、大切にしてあげないと。それができないんだったら返して。」

 楓李はあきの「返して」という言葉を聞いてびくりと反応した。
 楓李が瑠菜に告白したと同時にあきはもう瑠菜のことが好きではないのだろうと思っていた。
 しかし、それは違う。
 あきは、瑠菜が楓李を選んだから何もしかけてこないだけでまだあきらめてはいないのだ。
 大切にしないなら取り上げる、という意味もあきの言葉の中には入っていることすらも、楓李は感じることができた気がした。

 「……ごめん。」
 「本気で謝ってる?って言うかそれ、僕に言う言葉じゃないよね?浮気野郎。」
 「お前が言うな、……いや、お前だから言えるのか。」

 楓李は真剣な顔のあきを見て頭を抱えた。
 あきの性格で、あきの今までの行動だから言える言葉だ。
 楓李からしたら、よくもそんなことを真剣に言えるなぁと思ってしまう。

 「わかった?楓李。」
 「あぁ、わかった。わかったから。瑠菜はやめてくれ。」
 「それでよし。」

 あきは少し満足げに笑うと、自分の部屋へと帰って行こうとした。
 楓李はそんなあきの姿を見てふと気になったんことを聞いた。

 「……なぁ、大みそかいなかったよな。どこ行ってたんだ?」
 「ん?ホテルだけど。」
 「何人とやったんだ?」

 ホテルにいたと聞いて楓李はあきれたような顔であきに聞いた。
 するとあきはにぃっと妖美な笑顔を楓李に見せる。
 男のわりには女のような雰囲気がある。
 瑠菜に少し似ていると思うのは女のような表情だったからだろうか。

 「5、いや……6だったかな?」
 「よくそんなに……。」
 「まぁ、さされる方だしね。」

 あきの聞こえるか聞こえないかの声を聴いて楓李は驚いたような顔をした。
 女好きのあきが女以外とホテルへ行くとは思えないのだ。

 「連れ込まれたのか?助けくらい……。」
 「アハッ。別に病気とか移されなければ、別にいいの。それより、楓李は瑠菜ちゃんの方をどうにかしないと。」
 「なんで自分を大切にできねぇんだよ。どいつもこいつも。」
 「それ以上に大切なものがあるからね。あと、大みそかのことはきぃちゃんに言ってあるから。」
 「お仕置きが快感に感じる奴もいるらしいぞ。」
 「性に関することは、恐怖心があるだけで全くできなくなるんだよ。どっちに転ぶかは知らないけど。」

 楓李は笑っているあきを見て、あきよりも怖いものはないと初めて思った。











 そのころ瑠菜はサクラやチビッ子たちと雪で遊んでいた。
 うっすらと降ってきていて一面真っ白の地面に興奮したのはチビッ子やサクラだけではなかった。
 楓李から逃げ、サクラやちびっ子が遊んでいるのを見た瑠菜はすぐに四人に声をかけたのだ。

 「寒くないんですか?手袋もしないで。」
 「大丈夫。それよりもほら!」
 「うわぁ!」
 「ちっちゃい雪だるまと。」
 「うしゃぎしゃ!」

 瑠菜が作った真っ白なウサギはパッと見ただけでもわかるくらい、形がはっきりしていた。

 「すごい……今にも動き出しそうです!」
 「しゅごい!」

 瑠菜は喜ぶ四人を見てうれしくなった。
 いつも姉ちゃんたちは寒いからと言って外に出てこないため、久々に女子との雪遊びだ。

 あきや楓李は「すごいね」とほめてはくれるが、こんな風に喜んではくれないため少し物足りなさがあるのだ。

 「瑠菜、風邪ひく。」
 「わぁ、やっぱり瑠菜は美術的才能あるね。」

 瑠菜は楓李にモフモフとした上着を渡されて二人に気づいた。
 薄い桃色の上着は暖かく、ちらつく雪の量くらいならそこまで重くならないためちょうどいい。

 「あ、楓李兄さん、あき兄さん。お二人も作ってくださいよ。こういうやつ。」
 「へ……。」
 「いいねぇ。私も見たい。」
 「え、いや……俺は。」
 「了解。瑠菜よりもすごいの作っちゃうから。任せて。」
 「やった。早く、早く。」

 楓李は断ろうとしたが、瑠菜がとてもうれしそうにちびっ子たちと雪で遊んでいるため断り切れなくなってしまった。
 横にいるあきもなぜかやる気満々でいつもの仕事よりも真剣に何かを作っている。
 楓李は仕方なしにとりあえず雪を触りだした。

 「瑠菜さん、見て下さ……。」
 「……サクラ、大丈夫?」
 「ちぇ、外したか。」

 サクラのきれいに丸く作られていた雪だるまは横から飛んできた雪玉によって破壊された。

 「さ、サクラ……。」
 「リナも龍子君もひどいです!」
 「ごめん、ごめん。サクラもやろうよ。雪合戦。」
 「いやです!」
 「楽しいぞ。」
 「いやです!」

 雪玉を投げたのは龍子だったが、なぜかリナが一番に謝った。
 どうやら龍子的にはサクラと一緒に遊びたいようで、彼なりに考えた誘い方だったのだろうが、サクラには伝わらなかったらしい。

 「瑠菜さん、無視しましょ。」
 「いいの?」
 「あんな野蛮な人たち嫌いです。」
 「あら……。」

 サクラが怒るのも無理は泣いとるなあ思ったので特別何も言わなかった。

 瑠菜だって昔、あきと楓李に雪で作った作品を壊されたことがある。
 悪気があったわけではなかったのだろうが、作品を壊されたことを泣きながらコムやきぃちゃんに話して二人から謝られたのはいい思い出だ。
 雪で何かを作るのはとても難しい。
 冷たくて溶けやすいため、触って形を作っていてもなかなか理想の形にはなってくれないのだ。
 それが一瞬で壊れるのだから、そりゃもう悲しくてしょうがない。

 「瑠菜、見て!」
 「あき。あぁ、サクラ行こ。」

 瑠菜はあきに呼ばれてあきと楓李に何か言われるように言ったことを思い出した。
 作り終わって自信に満ちた笑顔のあきは、嬉しそうに瑠菜とサクラの手を引く。
 サクラはあきの手の冷たさに反応してびくりと体を震わせる。

(サクラ、顔赤くなってる気もするけど……。)

 瑠菜はそう思いながらあきの手を見た。
 楓李の手よりもゴツゴツしていない、女性のような手だ。
 あきの手の方が温かく感じるところを見ると、瑠菜の手はあきよりも冷たいらしい。

 「お、上手にできてるじゃん。」
 「本当ですね。もう少しよくわからないものかと……。」
 「でしょ?最高傑作だからね。」
 「うん。上手だよ。犬。」
 「え?熊じゃないんですか?」
 「熊にしては耳長いよ。」
 「犬にしては鼻の部分が違うと思います。」

 瑠菜とサクラはあきの作った犬のような丸っこい雪の塊を見て好きかって言った。
 あきはそんな二人を見てむっと頬を丸くしている。

 「……うさぎ……なんだけど。」
 「え?」
 「あぁ。ウサギかぁ。」

 あきが言いにくそうにポソッとつぶやくとサクラは首をかしげた。

 「瑠菜はすごいよね。ちびっ子もサクラも見てすぐにウサギってわかるし。」
 「ウサギだったら、こんな感じにしたらどうかな?」

 瑠菜は雪で細長い棒のようなものを二つ作り、あきの作品の横に二つの雪玉を作ってその一つにぶっ刺した。

 「ウサギっぽいですね。」
 「ウサギの雪だるま、かわいい。さすが瑠菜。」
 「えー?もっと褒めていいよ。」

 瑠菜がそんなことを言っていると、サクラとあきはそれぞれ瑠菜が作ったウサギの雪だるまをまねて作りだした。
 思っていた反応を返してもらえなかった瑠菜は少しむっとして楓李の方へと行く。

 「楓李は出来……あ。」
 「この花、瑠菜にピッタリだと思って……。」
 「……芙蓉の花…………?懐かしいなぁ。珍しいね。楓李がお花なんて。」

 瑠菜は楓李が作ったものを見ながら楓李の横にしゃがみこんだ。
 楓李が作っていた……いや、真っ白い雪の上に描いていたのは芙蓉の花の絵だった。

 「やっぱりこはくの受け売りかぁ。バカねぇ。」
 「……あと、立体は無理だから。」

 瑠菜はいびつな形の雪玉でできた雪だるまを見て少し笑ってしまった。

 「かえはやっぱり絵が、うまいね。」
 「見たまま描いているだけだ。」
 「それができなくて困っているのがここにいるじゃない。」

 瑠菜は大量に並んだいびつな雪だるま一つ一つすらも愛おしいと思えてしまった。
 ついつい、うっとりとした目で芙蓉の花の絵や雪だるまを眺めてしまう。

 「……あんまり見んな。」
 「えー。あ、かえあったか。」
 「っ……お前、だからあったかくしろって言ったろ?」

 雪でぬれた手袋を外して瑠菜の手をつかんだ楓李は、瑠菜の手が氷のように冷たくなっていることに気が付いた。
 楓李はびくりとしたが、瑠菜の手をつかんだまま自分のポケットへと突っ込む。

 「かえの手も冷たくなっちゃうよ。」
 「もう雪触んな。いいか?」
 「はぁーい。」

 瑠菜はもともと体温が低すぎるのだ。
 だから少しの熱でも倒れてしまうし、季節関係なくて足は冷たい。

 「瑠菜さん!見てください。上手にできました。」
 「あ、本当。サクラ上手にできたわね。」
 「俺もできた!」

 あきとサクラは嬉しそうに瑠菜へ作品を見せる。
 瑠菜が作ったものの横に少しいびつな形の雪だるまが二つ。
 いびつだが、長い耳がピシッと立っていてウサギだとすぐにわかる。
 瑠菜は楓李のポケットからそっと手を出して二人に近づく。

 「瑠菜姉。……瑠菜ねぇ…………。」
 「みて、みて!」
 「雪だるましゃ!」
 「あら、上手にできたわねぇ。」

 クゥ、スゥ、リィの手のひらには小さい真っ白な雪でできた雪だるまがあった。
 瑠菜に見せるために作ったらしい。

 「本当に上手だねぇ。」
 「上手です、クゥちゃん、スゥちゃん、リィちゃん。」

 あきとサクラにも褒められて、三人は満足そうな表情をしながら楓李のところにも見せに行く。

 「かえにぃしゃ!」
 「ん、あ、あぁ。上手にできてるな。」

 少しボーっとしていた楓李は少し戸惑った。
 まさか自分にも見せに来るとは思ってもみなかったのだろう。
 その反応にはちびっ子たちも少し不服そうな顔をした。
 もう少し自然にほめてあげればよかったのに、気を使って行ったと思われても仕方ないと瑠菜は思う。
 相手は良くも悪くも大人からたくさんのことを教えてもらっている子供なのだ。
 大人の反応を見てしっかり判断できる。

 「本当に上手ね。消えずに残っていたらいいのに。」
 「え?消えちゃうの?」
 「ゆきだるましゃ…………。」
 「なんで?」

 瑠菜が楓李からこちらへ意識を向けるために何となく言った言葉で、三人は少し寂しそうに自分の作った雪だるまを見る。
 悲しむ二人に瑠菜はどう説明しようか迷ってしまった。
 小さい三人には難しい言葉など分かるはずもないし、簡単な言葉で短く説明する必要があることは赤ってはいるのだが、瑠菜には少し難しかった。

 「雪は氷だから解けちゃうんだよ。小さい雪だるまだと解けるのも早いかもね。」
 「そっかぁ……。」
 「これ、小さい?これ……。」
 「これは?」
 「ちょっと小さいかもね。雪かきがてら少し大きいのも作ろうか。」
 「うん!」
 「大きいの!」
 「どれくらい?」

 あきは三人に説明をしながら両手を大きく広げた。

 「これくらい!」

 それを見てサクラやちびっ子は目を輝かせたが、瑠菜と楓李は頭を抱えてしまいそうになった。

 「私、ちょっと頭痛が……。」
 「逃げんなバカ。」

 楓李はあからさまに嘘だとわかるような瑠菜の言葉に、瑠菜の肩をがっしりとつかんで離さない。

(……うぅ……。)

 結局、約三時間かけて横幅三メートル、高さ五メートルの大きな雪だるまを全員で作った。

 雪紀が見に来て驚いたのは言うまでもなく。
 記念にと言いながら大きな雪だるまの写真を撮って、疲れた顔をしている瑠菜や楽しそうに笑っているちびっ子たちに暖かいココアを入れてあげる。

 「ねぇ、雪紀にぃ……これ、なくなる?」
 「ん?あぁ、明日から少し暖かくなるからな。」
 「……どうすればなくならない?」
 「れい……あっ。写真撮ればいつでも見返せるぞ。撮ってやろうか?」

 雪紀は冷蔵庫にと言おうとしたが、瑠菜にはにらまれて同時にしおんの怒ったような困ったような顔が思い浮かんだため言わなかった。
 代わりに、スゥ、リィ、クゥの三人へ先ほど撮った大きな雪だるまの写真を見せながら言う。

 「これも撮って!」
 「これも!」
 「こっちも!」

 寒いからと言って外に出てこなかった雪紀はそのまま三人の手によって外へと連れて行かれることとなった。

 温かいココアを飲んでこたつの中にいる瑠菜はもちろんついて行かない。
 瑠菜がいかないとサクラやあき、楓李も行こうとしない。

 「瑠菜、行かね?」
 「私はこれからこたつから出ないからぁ。」
 「さっきまで誰よりも喜んで外に出てたじゃん。」

 雪紀はそう言いながらも三人に手を握られて嬉しそうに外へ出て行った。
 そして、雪紀が帰ってきたのは外が猛吹雪になってからだった。


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 瑠菜が目を覚ますと、目の前には楓李がいた。
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 「瑠菜、来い。」
 「まっ……て、水を飲ませて。」
 瑠菜がそう言うと、楓李は机の上に会った水を瑠菜に渡した。
 瑠菜は楓李の準備の良さに戸惑いながらもそれを受け取ってコップ一杯分を一気飲みする。
 「瑠菜、ほら。」
 「ちょ……え?ドア……。待って、待って。え?」
 「あとで説明するから俺の部屋来い。」
 自分の部屋のドアが壊れているのに瑠菜は気づいていなかったらしい。
 楓李は、気づいて戸惑っている瑠菜の手をやさしく引っ張って自分の部屋へと連れ込んだ。
 「ちょ……かえ。なんで?」
 「なんでもクソもねぇだろ?」
 「どうせ、ほかに相手いるなら別に私とじゃなくても……。」
 「瑠菜じゃねぇと嫌なの。」
 「……ほかにもいるんでしょ?他にもいるような言い方してるじゃん。」
 瑠菜はそう言って楓李の横を通ってそのまま逃げた。
 楓李は瑠菜の手を反射的につかんだ。
 「いいわけねぇって……ちょっ、瑠菜!」
 「バーカ、一人で勝手にやってろ!」
 楓李は瑠菜のその言葉を聞いて瑠菜を追いかけることもできず、そのまま部屋に取り残されてしまった。
 「なんだよ……あいつ。」
 「何?瑠菜ちゃん、反抗期?」
 「あき……。年越し前からずっとあんな感じなんだけど、どう思う?」
 ドアを開けっぱなしで騒いでいた二人を野次馬のように見に来たであろうあきに楓李は問いかけた。
 楓李とあきは正反対の性格だ。
 考え方も行動も女性への接し方も、楓李には思いつかないようなことをあきは当たり前のように簡単にする。
 あきは困ったように言う楓李を見てニコニコしながらうーんっと考え始めた。
 「愛情不足?」
 「んなもんこっちが言いてぇよ。出てこなかったのはあいつだし。」
 「女の子って意外とわがままだったりするよ?会いたくないって言いながらもなんであってくれないのかと怒ったりするし。まぁ、そこがかわいいんだけどね。」
 「瑠菜もそうだと?」
 「毎日しっかりとした愛情を注ぎ続けないと。楓李は特に言葉が足りないとこあるから。」
 「それは……あいつが部屋にこもってて邪魔しないようにって……。」
 「スマホにメッセージを残したり、一日一回必ず会うことが邪魔なことだと?」
 「邪魔だろ?」
 「瑠菜ちゃんの気分転換になったかもよ?」
 「でも、俺だって……忙しくて……。」
 「いいわけだね。十分もかからないでしょ?会うのも、メッセージ送るのも。」
 「うっ……。」
 「それとも、一時間くらい悩まないとメッセージも遅れないし、顔見せるのも無理なの?」
 あきはニコニコと笑ったまま楓李に問う。
 もちろん、言われた楓李も何も言えなくなっていく。
 メッセージを送るのに時間がかかるというより、そもそも楓李は瑠菜に自分からメッセージを送ったことがないのだ。
 仕事上のやり取りはするが、大体は「はい」か「いいえ」しか送らない。
 瑠菜が何も言わないため、楓李は甘えてプライベートのやり取りをしなくなっていたのだ。
 何となくその現状をわかっていたあきは、あえてこの話に持って行ったのだ。
 いつも言い負かされるため少しくらい困らせたかったのもある。
 しかし、いつまでもこの話をしていても話は進まないと思った。
 「浮気を疑われても仕方ないよね?」
 「……だよな。」
 「ちゃんと瑠菜ちゃんに話をしないとね。」
 「逃げられるんだけど……。」
 それを聞いたあきは不貞腐れたように言う楓李をジト目で見た。
 「まさか、体の関係=愛情だと思ってる?」
 「うっ……。」
 楓李はあきに言われてそっと目をそらした。
 あきはそれを見て楓李の肩をがっちりとつかむ。
 「体の関係なんて見た目しか見てませんって言ってるようなもんだからね?話をしたりしてゆっくり過ごす時間が本当に愛情を注いでるってことなんだよ。女の子はガラス細工と同じくらいもろいんだから、大切にしてあげないと。それができないんだったら返して。」
 楓李はあきの「返して」という言葉を聞いてびくりと反応した。
 楓李が瑠菜に告白したと同時にあきはもう瑠菜のことが好きではないのだろうと思っていた。
 しかし、それは違う。
 あきは、瑠菜が楓李を選んだから何もしかけてこないだけでまだあきらめてはいないのだ。
 大切にしないなら取り上げる、という意味もあきの言葉の中には入っていることすらも、楓李は感じることができた気がした。
 「……ごめん。」
 「本気で謝ってる?って言うかそれ、僕に言う言葉じゃないよね?浮気野郎。」
 「お前が言うな、……いや、お前だから言えるのか。」
 楓李は真剣な顔のあきを見て頭を抱えた。
 あきの性格で、あきの今までの行動だから言える言葉だ。
 楓李からしたら、よくもそんなことを真剣に言えるなぁと思ってしまう。
 「わかった?楓李。」
 「あぁ、わかった。わかったから。瑠菜はやめてくれ。」
 「それでよし。」
 あきは少し満足げに笑うと、自分の部屋へと帰って行こうとした。
 楓李はそんなあきの姿を見てふと気になったんことを聞いた。
 「……なぁ、大みそかいなかったよな。どこ行ってたんだ?」
 「ん?ホテルだけど。」
 「何人とやったんだ?」
 ホテルにいたと聞いて楓李はあきれたような顔であきに聞いた。
 するとあきはにぃっと妖美な笑顔を楓李に見せる。
 男のわりには女のような雰囲気がある。
 瑠菜に少し似ていると思うのは女のような表情だったからだろうか。
 「5、いや……6だったかな?」
 「よくそんなに……。」
 「まぁ、さされる方だしね。」
 あきの聞こえるか聞こえないかの声を聴いて楓李は驚いたような顔をした。
 女好きのあきが女以外とホテルへ行くとは思えないのだ。
 「連れ込まれたのか?助けくらい……。」
 「アハッ。別に病気とか移されなければ、別にいいの。それより、楓李は瑠菜ちゃんの方をどうにかしないと。」
 「なんで自分を大切にできねぇんだよ。どいつもこいつも。」
 「それ以上に大切なものがあるからね。あと、大みそかのことはきぃちゃんに言ってあるから。」
 「お仕置きが快感に感じる奴もいるらしいぞ。」
 「性に関することは、恐怖心があるだけで全くできなくなるんだよ。どっちに転ぶかは知らないけど。」
 楓李は笑っているあきを見て、あきよりも怖いものはないと初めて思った。
 そのころ瑠菜はサクラやチビッ子たちと雪で遊んでいた。
 うっすらと降ってきていて一面真っ白の地面に興奮したのはチビッ子やサクラだけではなかった。
 楓李から逃げ、サクラやちびっ子が遊んでいるのを見た瑠菜はすぐに四人に声をかけたのだ。
 「寒くないんですか?手袋もしないで。」
 「大丈夫。それよりもほら!」
 「うわぁ!」
 「ちっちゃい雪だるまと。」
 「うしゃぎしゃ!」
 瑠菜が作った真っ白なウサギはパッと見ただけでもわかるくらい、形がはっきりしていた。
 「すごい……今にも動き出しそうです!」
 「しゅごい!」
 瑠菜は喜ぶ四人を見てうれしくなった。
 いつも姉ちゃんたちは寒いからと言って外に出てこないため、久々に女子との雪遊びだ。
 あきや楓李は「すごいね」とほめてはくれるが、こんな風に喜んではくれないため少し物足りなさがあるのだ。
 「瑠菜、風邪ひく。」
 「わぁ、やっぱり瑠菜は美術的才能あるね。」
 瑠菜は楓李にモフモフとした上着を渡されて二人に気づいた。
 薄い桃色の上着は暖かく、ちらつく雪の量くらいならそこまで重くならないためちょうどいい。
 「あ、楓李兄さん、あき兄さん。お二人も作ってくださいよ。こういうやつ。」
 「へ……。」
 「いいねぇ。私も見たい。」
 「え、いや……俺は。」
 「了解。瑠菜よりもすごいの作っちゃうから。任せて。」
 「やった。早く、早く。」
 楓李は断ろうとしたが、瑠菜がとてもうれしそうにちびっ子たちと雪で遊んでいるため断り切れなくなってしまった。
 横にいるあきもなぜかやる気満々でいつもの仕事よりも真剣に何かを作っている。
 楓李は仕方なしにとりあえず雪を触りだした。
 「瑠菜さん、見て下さ……。」
 「……サクラ、大丈夫?」
 「ちぇ、外したか。」
 サクラのきれいに丸く作られていた雪だるまは横から飛んできた雪玉によって破壊された。
 「さ、サクラ……。」
 「リナも龍子君もひどいです!」
 「ごめん、ごめん。サクラもやろうよ。雪合戦。」
 「いやです!」
 「楽しいぞ。」
 「いやです!」
 雪玉を投げたのは龍子だったが、なぜかリナが一番に謝った。
 どうやら龍子的にはサクラと一緒に遊びたいようで、彼なりに考えた誘い方だったのだろうが、サクラには伝わらなかったらしい。
 「瑠菜さん、無視しましょ。」
 「いいの?」
 「あんな野蛮な人たち嫌いです。」
 「あら……。」
 サクラが怒るのも無理は泣いとるなあ思ったので特別何も言わなかった。
 瑠菜だって昔、あきと楓李に雪で作った作品を壊されたことがある。
 悪気があったわけではなかったのだろうが、作品を壊されたことを泣きながらコムやきぃちゃんに話して二人から謝られたのはいい思い出だ。
 雪で何かを作るのはとても難しい。
 冷たくて溶けやすいため、触って形を作っていてもなかなか理想の形にはなってくれないのだ。
 それが一瞬で壊れるのだから、そりゃもう悲しくてしょうがない。
 「瑠菜、見て!」
 「あき。あぁ、サクラ行こ。」
 瑠菜はあきに呼ばれてあきと楓李に何か言われるように言ったことを思い出した。
 作り終わって自信に満ちた笑顔のあきは、嬉しそうに瑠菜とサクラの手を引く。
 サクラはあきの手の冷たさに反応してびくりと体を震わせる。
(サクラ、顔赤くなってる気もするけど……。)
 瑠菜はそう思いながらあきの手を見た。
 楓李の手よりもゴツゴツしていない、女性のような手だ。
 あきの手の方が温かく感じるところを見ると、瑠菜の手はあきよりも冷たいらしい。
 「お、上手にできてるじゃん。」
 「本当ですね。もう少しよくわからないものかと……。」
 「でしょ?最高傑作だからね。」
 「うん。上手だよ。犬。」
 「え?熊じゃないんですか?」
 「熊にしては耳長いよ。」
 「犬にしては鼻の部分が違うと思います。」
 瑠菜とサクラはあきの作った犬のような丸っこい雪の塊を見て好きかって言った。
 あきはそんな二人を見てむっと頬を丸くしている。
 「……うさぎ……なんだけど。」
 「え?」
 「あぁ。ウサギかぁ。」
 あきが言いにくそうにポソッとつぶやくとサクラは首をかしげた。
 「瑠菜はすごいよね。ちびっ子もサクラも見てすぐにウサギってわかるし。」
 「ウサギだったら、こんな感じにしたらどうかな?」
 瑠菜は雪で細長い棒のようなものを二つ作り、あきの作品の横に二つの雪玉を作ってその一つにぶっ刺した。
 「ウサギっぽいですね。」
 「ウサギの雪だるま、かわいい。さすが瑠菜。」
 「えー?もっと褒めていいよ。」
 瑠菜がそんなことを言っていると、サクラとあきはそれぞれ瑠菜が作ったウサギの雪だるまをまねて作りだした。
 思っていた反応を返してもらえなかった瑠菜は少しむっとして楓李の方へと行く。
 「楓李は出来……あ。」
 「この花、瑠菜にピッタリだと思って……。」
 「……芙蓉の花…………?懐かしいなぁ。珍しいね。楓李がお花なんて。」
 瑠菜は楓李が作ったものを見ながら楓李の横にしゃがみこんだ。
 楓李が作っていた……いや、真っ白い雪の上に描いていたのは芙蓉の花の絵だった。
 「やっぱりこはくの受け売りかぁ。バカねぇ。」
 「……あと、立体は無理だから。」
 瑠菜はいびつな形の雪玉でできた雪だるまを見て少し笑ってしまった。
 「かえはやっぱり絵が、うまいね。」
 「見たまま描いているだけだ。」
 「それができなくて困っているのがここにいるじゃない。」
 瑠菜は大量に並んだいびつな雪だるま一つ一つすらも愛おしいと思えてしまった。
 ついつい、うっとりとした目で芙蓉の花の絵や雪だるまを眺めてしまう。
 「……あんまり見んな。」
 「えー。あ、かえあったか。」
 「っ……お前、だからあったかくしろって言ったろ?」
 雪でぬれた手袋を外して瑠菜の手をつかんだ楓李は、瑠菜の手が氷のように冷たくなっていることに気が付いた。
 楓李はびくりとしたが、瑠菜の手をつかんだまま自分のポケットへと突っ込む。
 「かえの手も冷たくなっちゃうよ。」
 「もう雪触んな。いいか?」
 「はぁーい。」
 瑠菜はもともと体温が低すぎるのだ。
 だから少しの熱でも倒れてしまうし、季節関係なくて足は冷たい。
 「瑠菜さん!見てください。上手にできました。」
 「あ、本当。サクラ上手にできたわね。」
 「俺もできた!」
 あきとサクラは嬉しそうに瑠菜へ作品を見せる。
 瑠菜が作ったものの横に少しいびつな形の雪だるまが二つ。
 いびつだが、長い耳がピシッと立っていてウサギだとすぐにわかる。
 瑠菜は楓李のポケットからそっと手を出して二人に近づく。
 「瑠菜姉。……瑠菜ねぇ…………。」
 「みて、みて!」
 「雪だるましゃ!」
 「あら、上手にできたわねぇ。」
 クゥ、スゥ、リィの手のひらには小さい真っ白な雪でできた雪だるまがあった。
 瑠菜に見せるために作ったらしい。
 「本当に上手だねぇ。」
 「上手です、クゥちゃん、スゥちゃん、リィちゃん。」
 あきとサクラにも褒められて、三人は満足そうな表情をしながら楓李のところにも見せに行く。
 「かえにぃしゃ!」
 「ん、あ、あぁ。上手にできてるな。」
 少しボーっとしていた楓李は少し戸惑った。
 まさか自分にも見せに来るとは思ってもみなかったのだろう。
 その反応にはちびっ子たちも少し不服そうな顔をした。
 もう少し自然にほめてあげればよかったのに、気を使って行ったと思われても仕方ないと瑠菜は思う。
 相手は良くも悪くも大人からたくさんのことを教えてもらっている子供なのだ。
 大人の反応を見てしっかり判断できる。
 「本当に上手ね。消えずに残っていたらいいのに。」
 「え?消えちゃうの?」
 「ゆきだるましゃ…………。」
 「なんで?」
 瑠菜が楓李からこちらへ意識を向けるために何となく言った言葉で、三人は少し寂しそうに自分の作った雪だるまを見る。
 悲しむ二人に瑠菜はどう説明しようか迷ってしまった。
 小さい三人には難しい言葉など分かるはずもないし、簡単な言葉で短く説明する必要があることは赤ってはいるのだが、瑠菜には少し難しかった。
 「雪は氷だから解けちゃうんだよ。小さい雪だるまだと解けるのも早いかもね。」
 「そっかぁ……。」
 「これ、小さい?これ……。」
 「これは?」
 「ちょっと小さいかもね。雪かきがてら少し大きいのも作ろうか。」
 「うん!」
 「大きいの!」
 「どれくらい?」
 あきは三人に説明をしながら両手を大きく広げた。
 「これくらい!」
 それを見てサクラやちびっ子は目を輝かせたが、瑠菜と楓李は頭を抱えてしまいそうになった。
 「私、ちょっと頭痛が……。」
 「逃げんなバカ。」
 楓李はあからさまに嘘だとわかるような瑠菜の言葉に、瑠菜の肩をがっしりとつかんで離さない。
(……うぅ……。)
 結局、約三時間かけて横幅三メートル、高さ五メートルの大きな雪だるまを全員で作った。
 雪紀が見に来て驚いたのは言うまでもなく。
 記念にと言いながら大きな雪だるまの写真を撮って、疲れた顔をしている瑠菜や楽しそうに笑っているちびっ子たちに暖かいココアを入れてあげる。
 「ねぇ、雪紀にぃ……これ、なくなる?」
 「ん?あぁ、明日から少し暖かくなるからな。」
 「……どうすればなくならない?」
 「れい……あっ。写真撮ればいつでも見返せるぞ。撮ってやろうか?」
 雪紀は冷蔵庫にと言おうとしたが、瑠菜にはにらまれて同時にしおんの怒ったような困ったような顔が思い浮かんだため言わなかった。
 代わりに、スゥ、リィ、クゥの三人へ先ほど撮った大きな雪だるまの写真を見せながら言う。
 「これも撮って!」
 「これも!」
 「こっちも!」
 寒いからと言って外に出てこなかった雪紀はそのまま三人の手によって外へと連れて行かれることとなった。
 温かいココアを飲んでこたつの中にいる瑠菜はもちろんついて行かない。
 瑠菜がいかないとサクラやあき、楓李も行こうとしない。
 「瑠菜、行かね?」
 「私はこれからこたつから出ないからぁ。」
 「さっきまで誰よりも喜んで外に出てたじゃん。」
 雪紀はそう言いながらも三人に手を握られて嬉しそうに外へ出て行った。
 そして、雪紀が帰ってきたのは外が猛吹雪になってからだった。