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瑠菜の秘密

ー/ー



 「そういえばなんで瑠菜さんを気絶させたりしたんですか?」

 雪紀たちはファミレスのような飲食店に来ていた。
運転をする雪紀以外のきぃちゃんやケイはお酒を飲んでいて、ワイワイとしている。
ケイはお酒入りのきぃちゃんに反無理やり飲まされていた。

 「あ?……あぁ、稽古の時な。」
 「はい。」

 サクラからの急な質問に、雪紀は少し考えてそう言った。

 「人を殺したり、気絶させんのに理由はいるか?」
 「え?……あ、はい。理由なく殺されるなんて理不尽です。」
 「そうか。」

 雪紀はサクラのまっすぐな言葉を聞いて少し笑ってから黙り込んでしまった。

 「サークッラちゃん。ジュース取りに行きましょう。」
 「あ、え?……でも。」

 お酒を飲んで少し機嫌がよくなったきぃちゃんは、何かを感じ取ってサクラを引っ張っていった。

 「言うのか?」

 サクラときぃちゃんが無料のドリンクバーでキャッキャと遊んでいるとき、楓李は雪紀に小声でこっそりと聞いた。
あきと龍子、リナはきぃちゃんに飲まされて酔っ払った軽を起こして水を飲ませている。
楓李はその三人を見ながら少し笑った。

 「少しは教えておかねぇと、あいつが信用なくすだろ?」
 「でも別に言う必要はないと思ってんだろ?」
 「お前ら似てきたな……。」

 雪紀は心の中を読まれた気がしてついそうつぶやいてしまった。

 「瑠菜と、か?そりゃそうだろ?雪紀兄さんのおかげでほぼ行動一緒だったからな。」

 楓李はため息交じりに雪紀に対して愚痴をこぼした。
雪紀はそれを見て声を出して笑った。

 「お前らは性格から得意なことや苦手なことまですべて真逆だったからな。お前らを一緒にしておけばいいかと思ってたんだ。しかも考え方は似てたから、すれ違わなければよかったし。」
 「そしたら見事にすれ違ったと。」
 「わはっはは、まっさかだったなぁ。くっつきすぎて共倒れするならまだしも、反発しすぎて共倒れする奴らは俺も初めてだったし。まぁ、お前らは立て直せたけどな。」

 雪紀が懐かしそうに瑠菜と自分について語っているの楓李は黙って聞いていた。
 喧嘩ばかりだった瑠菜と楓李はそれぞれ別々で雪紀に相談をしに行っていた。
たまにそこで会ってひどく口論をしたのも含めて、楓李の中では恥ずかしい記憶でしかない。

 「俺が何度言っても瑠菜は聞かないし、瑠菜が変わらないからお前も変わらないから、コムにも頼んだんだよな。本当に、あの日からお前ら変わったな。」

 雪紀は何十年も昔のことを思い出すように楓李に話す。
お酒が入っているのかと楓李は思ったが、運転手である雪紀はウーロン茶を飲んでいた。

 「……女には優しく。女はもろく、壊れやすいものなんだ。それでもきついことも、苦しいことも男より多い。俺らで、少しでも楽にしてやってもいいんじゃねぇか?」
 「まだ覚えてんのか?」

 雪紀の中では適当な言葉を楓李が納得するように並べただけだった。
何年たってもまだ覚えているとは思ってもいなかった。

 「これを聞いた後、瑠菜を見たらなんか納得したんだよ。あいつの俺に対する態度も変わって、自分が子供のような気がして俺も変わろうと思ったんだ。」

 楓李はふと雪紀のほうを見た。思ったとおり、少しニヤつきながら楓李を見ている。

 「で、きれいでかわいいと思ったんだな?」
 「……っ、悪いかよ。」
 「かえ、待って!それお酒!」

 楓李は言い切ってからケイのもとへと言って、ケイが握りしめていたコップの中身を飲み干した。
あきが真剣に止めようとしたが、その言葉すらも無視して飲んだ楓李はそのまま自分がいた雪紀の正面に座る。

 「お前って酒強いよな。そういうところだけ似てるのもすごいけど。」
 「あのまま飲ませてたら、いくらケイ兄さんでも死ぬからな。」
(あの酒度数高かったよな。)

 思っていてよりもしっかりと言葉を返す楓李を見て雪紀はそう思った。
きぃちゃんは自分が飲んでいたお酒をケイに渡していた。
そんな度数の低い安っぽいものを飲んでいるとは思えなかった。

 「俺が大人と瑠菜に怒られるから、水飲めよ。」
 「はーいはい。」

 楓李は適当に返事をしながら水を飲んだ。

 「たっだいまでーす。あ、楓李兄さんこれ飲みますか?はい、どーぞ!」
 「ん?なんだ?これ。」

 楓李はサクラからコップを受け取って、少し黒っぽいような茶色っぽいような、緑色のジュースを飲んだ。

(少しは酒回ってんだな。)

 雪紀はウーロン茶片手に、自分に被害が来ないことを願った。

 「まっずっ!おま……これ何混ぜたんだ?」
 「コーラ、エナジードリンク、緑茶、麦茶……」
 「あと、カレーと牛乳ね。」

 サクラが忘れた部分をきぃちゃんが付け加えると、飲み物でないことが発覚した。

 「別々で胃の中に入れたかった。」
 「酔っぱらいはさっさと吐くか何かして、体の外にアルコール出しなさい。」

 楓李がお酒を飲んだのを見ていたらしい。仕方なくわざと、まずいものを作ったのだと言っているが顔はとても楽しそうだ。

 「わかった。吐いてくりゃいいんだろ?」
 「行ってらっしゃーい。」

 サクラが元気に手を振っているのを横目に楓李は立ち上がった。
きぃちゃんはケイの横に行ってあきと龍子を巻き込んで介抱し始めた。

 「あんたたちは飲んでないでしょうね?」

 きぃちゃんににらまれたのと、自分たちも楓李が飲んでいたものを飲まされると思った二人は、首をぶんぶんと勢いよく横に振った。

 「善良な大人に私たちが怒られちゅんだからね。」
 「善良じゃない大人が何か言ってる。」
 「あはははは、りゅーちゃん。そこまで接点ないのにすごいこと言うわね。」
 「思ったことを言葉にしただけです。」

 いつもの龍子とは違い少し反抗的な態度。
サクラは龍子を止めに行こうとしたが、雪紀に座っておくように言われた。

それでもサクラは雪紀の言葉を無視して龍子のもとへと向かった。

 「龍子、座って。うるさいよ。」

 サクラはびっくりして少し固まってしまった。
自分が出したとは思えないような高く、落ち着きのある声だった。
サクラ自身も恐怖を感じたが、周りはもっと感じたのだろう。
その証拠に全員驚いた顔でサクラを見ている。

 「サクラ、今の瑠菜に教わったのか?」

 いつ戻ってきたのか知らないが、少し苦笑いをした楓李に言われてサクラは首を横に振った。
それを見て全員が息をのんだ。

 「んじゃ、しゃーねーな。それにしても、龍子。酒なんか飲んで、ただで済むと思ってんのか?まぁ、俺が言えることじゃねぇけど。少なくとも平常心保っとけ。」
 「すみません……。」
 「もう、帰ろっか。」
 「そうね。」

 楓李の一言でまたみんながワイワイ話し始めた。
あきが帰る準備を始め、きぃちゃんが自分の財布とケイの財布を見ながら計算をしながら食べ物の感想や混ぜたジュースの話で盛り上がっている。

 「サクラ。」
 「はい。」

 ぼーっとそれを眺めていたサクラは雪紀に呼ばれてそちらを向いた。
雪紀の隣には楓李もいて、二人で何かを話していたようだった。

 「さっき、何で瑠菜を気絶させたか聞いたな。」
 「はい。」
 「答えるよ。その代わり、お前はこれから生活する中でそれを心に入れて生活しろ。いいな?」
 「わ、わかりました。」

 サクラはまっすぐな表情のまま返事をした。その様子に、楓李と雪紀は目配せをしてからため息をついた。

 「瑠菜には、死に対する恐怖がないんだ。」











 





 「死に対する恐怖がない……。」

 サクラは最初、別に大したことはないと思った。
 何が悪いのだろう。
なぜ気をつけなければならないのか。
 サクラのその問いに対して雪紀は悪くないことでもあると言った。
 自分の死を怖がらないからこそできたこともあった。
普通の人なら死ぬかもしれないと思うことでやめることを、瑠菜はやめることができない。
今は無理やり目標を作らせているため、自殺はしないだろうが、もしその目標をやり遂げれば自殺してもおかしくはない、と。
 サクラはそれを言われてから少し心配になった。
 帰り着いてからサクラは瑠菜のもとへと行こうとしたが、しおんに「疲れているらしいですよ。」と言われたのでやめた。
本当は瑠菜に会って、安心させてほしかった。

 「瑠菜さんは、相談所の役職をもらったそうですよ。」

 しおんにそう言われて、サクラはよくわからずに雪紀と楓李のほうを見たが、何とも言えない表情をしていた。
うれしそうでもあり、悲しそうでもある表情だった。

 「サクラはもう自分の部屋もどれ。」
 「は、はい。」
 「おやすみ。」
 「あ、お、おやすみなさい。」

 黙ったまま動くこともない雪紀の代わりに楓李がサクラに言った。
サクラもここにいたらいけないような気がしてすぐに部屋に入った。




 



 






 「瑠菜さんは相談所の役職をもらったそうですよ。」

 しおんは悪気のない明るい笑顔でそう言った。
雪紀は少し考えてからすぐに瑠菜の部屋に入ろうとした。

 「待て。」

 しかし、それを楓李は手をつかんで止めた。
一週間前までなら止めずに見て見ぬふりをしていただろう。
自分が嫌だからとか軽い理由ではなく本当に瑠菜のことを考えてそうした。

 「そう……か、もう俺の女じゃねぇもんな。」

 雪紀もすぐに楓李の気持ちを理解した。
もちろん楓李は何も言っていなかったが、そこが大人の生きた経験から来る勘なのかもしれない。

 「危なかったら呼べよ。」

 楓李の頭に軽く右手をのせてから雪紀は自室へと入っていった。
こういうところが、瑠菜の尊敬する師匠でいられる理由なのだろう楓李は思った。

 「瑠菜、入るぞ……。」
 「……どーぞ。」

 楓李がドアを叩いてから数秒たってようやく瑠菜から返答があった。
 楓李が中に入ると真っ暗の中サイドテーブルに置いてある小さな電球がついていた。

 「大丈夫か?」
 「何が……あぁ、会長の命令だもの。断れないわ。こういう時だけは記憶もなくならないし。」

 瑠菜はゲームをしていた。
毛布を頭からかぶって、ベッドの上でスマホを見たまま、楓李にそう答えた。

 「コムのことか?コムが何か残していたか?」
 「アハハ、かえ。半分正解だけど、半分不正解。」

 瑠菜は真っ赤な目を細めてわざとらしく笑いながら言った。

 「大丈夫じゃなければやってない。」
 「がんばりすぎだろ……。体壊すぞ。」
 「もう壊れてる。私には左手も、右足もない。私はどんなにこの二つが傷つこうと血が出ることはない。出るのは絵の具。これ以上壊れようがないわよ。」
 「そういうことじゃねーよ。内側から壊れんだよ。」
 「いいよ。もう。」

 瑠菜は自分の偽りの足をやさしくなでた。
 パッと見は他と変わらない普通の足だ。
動きだってスムーズでほかの人と同じように生活できる。
しかし、体重をかけすぎたり無理な運動をすると壊れてしまう。
防水機能も付いているのに、泳ぐことはできない。
走ることはできても、真剣に走ると壊れて動かなくなる。
 楓李は瑠菜の触っている足の反対側を触りながら、瑠菜を見た。

 「まだ元気な部位もあんだろ?その部位を守れるように心掛けろ。」

 瑠菜はそれを言われて、楓李の手を振り払った。
楓李の言っていることは間違ってはいない。
そのまっすぐさが瑠菜にとっては重く感じた。

 「もし、私が壊れてしまって、命を落としたら。もし、それでコムさんやこはくに会えるなら。私はこの世に後悔なんてない。目標は達成してないけど、コムさんが勝手に決めたものだし。その元気な部位を捨ててもいいと思う。」

 コムやこはくに会えること。それが今の瑠菜の望みらしい。
 気が付くと、どこから取り出したのか瑠菜はカッターの刃を自分の首に突き付けた。

(それじゃ、死ねないだろ……。)

 楓李はそう思いながら瑠菜の持っているカッターを取り上げた。
当たり前だが、女である瑠菜よりも男である楓李の方が力は強い。瑠菜がどんなに強く力を入れても軽くそれを超えることができる。

 「俺は?」
 「……。」
 「お前に一生もんの傷をつけて、もし失血で死んでも、俺はどうすればいい?」
 「……どうでもいい。」
 「俺はお前を殺した悪人として生きる。きっとお前は痛みにもがく。それを見殺しにした男として生きていくんだろうな。」

 瑠菜はそれを聞いて、自分の手を膝の上に置いた。
そして、そのまま楓李の胸に頭を押し付けた。

 「腕、もう切ったのか?」
 「……血、つくね。」
 「手当てするから待ってろ。」
 「ごめん。」

 楓李は手当てするための道具を取りに行くため、瑠菜の部屋を出た。
しかし、瑠菜のことを考えて今一人にするのは不安でしかなかったことからすぐに帰ってきた。

 「なんもしてないな。」
 「もうすることもないよ。」

 楓李は瑠菜の固まった血の跡を消毒液できれいにふき取って、包帯を巻いた。

 「珍しいな。カッターで死ねないのもわからなかったか?」
 「……明日も、しー君の笑顔が見たくてね。」
 「じゃぁ、あいつに感謝だな。」

 楓李は瑠菜のその言葉を聞いて少し笑った。
今までの瑠菜なら、自分のことばかり考えていて他人の笑顔のためなど言ったりしなかった。
元の性格からやさしさがあっただけで相手のためというのは成長を感じる。

 「かえ。もう寝る。」
 「はいはい。おやすみ。」

 楓李が部屋から出た後、瑠菜はこはくやコムのことを思い出した。

 (今二人に会っても怒られるだけなんだろうな。)

 何もできていない。
瑠菜はまだ誰も助けていないし、何もしていない。
 瑠菜はぼーっと、鉛筆を手に取った。
頭は回っていない。
高々と鉛筆を振り上げて、足の上に刺さる寸前で、楓李が瑠菜の手をつかんだ。

 「お前は何で反省もしなければ、学びもしないんだ?」

 血は出ていないが、あとが残るだろうというところだった。
もう少し深く鉛筆が刺さっていれば血も出ていただろう。

 楓李はあきれているというよりも、瑠菜のつらさをよくわかっているからこその言葉を出した。

 「これ以上、自分を傷つけんな。もっと楽しいことはあるから。」

 こはくが死んで、コムが消えて、瑠菜は本当にきつかった。
それを横で見ていた楓李は瑠菜の今の気持ちを手に取るようにわかっていた。

 楓李は瑠菜の背中をさすりながら抱きしめていた。
瑠菜はびくびくと体を震わせながら泣いているのだろう。
楓李に体をゆだねるようにぎゅっと抱きつく瑠菜。

 「かえ……、ねぇ。楓李……。あれ、何?」

 楓李が瑠菜を見ると、瑠菜は空中を見ていた。いや、楓李と瑠菜にとってはただの空中ではなかった。

 「見えるのか?」
 「やっと治ってたのに……。」

 瑠菜は楓李に抱き着いて、隠れるように身を縮めた。






 


 


 「へぇ、またか。」

 次の日、瑠菜は雪紀に相談をしに行った。
 前日のあの後は楓李に抱き着いたまま瑠菜が寝落ちした。

 「しかも前よりすごいんだとよ。」
 「はい……。」

 楓李はちらちらと瑠菜の周りを飛び回る女の子を目で追いながら言った。

 『見える?私のこと見える?』
 「見えない。」

 ここにいる全員、霊感が強い体質だった。
特に瑠菜はひどく、周りに霊を引き付けてしまう。
昔はコムに、近くにいてもらうことで安心はできていた。
しかし、今はどうだろうか。

 とりあえず、瑠菜一人ではどうしても対処できないことと、今までできなかった仕事ができるようになったことを報告しに雪紀のもとを訪れた。

 「何?こいつ見えるのか聞いてんの?」
 「うん……。」

 楓李は見ることはできるが、声は聞こえないらしく、その女の子をじっと見ている瑠菜に聞く。

 「見える。お前は誰だ?」
 『さぁ?』
 「さぁ、だって。」
 「本当に聞こえるんだな。」

 瑠菜が反やけくそになっていると、楓李はすごいなぁと言いながら瑠菜を見ていた。

 「お前らは本当に……。ま、生活にはそこまで支障ないだろうし、大丈夫だろ。で?そこにいるのか?」
 「ちょっと待ってろ。」

 楓李はそういって、雪紀の前にその子を向けた。
雪紀も楓李の手と手の間に自分の手を置いた。

 「やっと見えた。かわいいし、瑠菜について行っていいんじゃね?」
 「はぁ?いや、何言ってんの?」
 『私に触れてる!すごい、すごい!』

 雪紀の霊感は触らないと発動しない。
瑠菜や楓李みたいにいつも見えるわけではなく、ぶつかったり、触ったり、体に触れないと見えるようにはならない。
瑠菜からすればうらやましい能力だ。

 「私には見えないもん。」
 『本当?』
 「知らない。声をかけないで。」
 「バリっバリに見えてんじゃん。」

 瑠菜がその子供から顔を背けるのを見て楓李は笑いながら言った。

 「まぁ、お前の場合占いが当たりやすくなるし。悪いことばっかじゃねぇから気にすんな。」
 「やっと見えなくなったと思ってたのに……。」

 瑠菜はため息をついてキャッキャとはしゃいでいる子供や周りを飛んでいる幽霊を横目で見た。


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運転をする雪紀以外のきぃちゃんやケイはお酒を飲んでいて、ワイワイとしている。
ケイはお酒入りのきぃちゃんに反無理やり飲まされていた。
 「あ?……あぁ、稽古の時な。」
 「はい。」
 サクラからの急な質問に、雪紀は少し考えてそう言った。
 「人を殺したり、気絶させんのに理由はいるか?」
 「え?……あ、はい。理由なく殺されるなんて理不尽です。」
 「そうか。」
 雪紀はサクラのまっすぐな言葉を聞いて少し笑ってから黙り込んでしまった。
 「サークッラちゃん。ジュース取りに行きましょう。」
 「あ、え?……でも。」
 お酒を飲んで少し機嫌がよくなったきぃちゃんは、何かを感じ取ってサクラを引っ張っていった。
 「言うのか?」
 サクラときぃちゃんが無料のドリンクバーでキャッキャと遊んでいるとき、楓李は雪紀に小声でこっそりと聞いた。
あきと龍子、リナはきぃちゃんに飲まされて酔っ払った軽を起こして水を飲ませている。
楓李はその三人を見ながら少し笑った。
 「少しは教えておかねぇと、あいつが信用なくすだろ?」
 「でも別に言う必要はないと思ってんだろ?」
 「お前ら似てきたな……。」
 雪紀は心の中を読まれた気がしてついそうつぶやいてしまった。
 「瑠菜と、か?そりゃそうだろ?雪紀兄さんのおかげでほぼ行動一緒だったからな。」
 楓李はため息交じりに雪紀に対して愚痴をこぼした。
雪紀はそれを見て声を出して笑った。
 「お前らは性格から得意なことや苦手なことまですべて真逆だったからな。お前らを一緒にしておけばいいかと思ってたんだ。しかも考え方は似てたから、すれ違わなければよかったし。」
 「そしたら見事にすれ違ったと。」
 「わはっはは、まっさかだったなぁ。くっつきすぎて共倒れするならまだしも、反発しすぎて共倒れする奴らは俺も初めてだったし。まぁ、お前らは立て直せたけどな。」
 雪紀が懐かしそうに瑠菜と自分について語っているの楓李は黙って聞いていた。
 喧嘩ばかりだった瑠菜と楓李はそれぞれ別々で雪紀に相談をしに行っていた。
たまにそこで会ってひどく口論をしたのも含めて、楓李の中では恥ずかしい記憶でしかない。
 「俺が何度言っても瑠菜は聞かないし、瑠菜が変わらないからお前も変わらないから、コムにも頼んだんだよな。本当に、あの日からお前ら変わったな。」
 雪紀は何十年も昔のことを思い出すように楓李に話す。
お酒が入っているのかと楓李は思ったが、運転手である雪紀はウーロン茶を飲んでいた。
 「……女には優しく。女はもろく、壊れやすいものなんだ。それでもきついことも、苦しいことも男より多い。俺らで、少しでも楽にしてやってもいいんじゃねぇか?」
 「まだ覚えてんのか?」
 雪紀の中では適当な言葉を楓李が納得するように並べただけだった。
何年たってもまだ覚えているとは思ってもいなかった。
 「これを聞いた後、瑠菜を見たらなんか納得したんだよ。あいつの俺に対する態度も変わって、自分が子供のような気がして俺も変わろうと思ったんだ。」
 楓李はふと雪紀のほうを見た。思ったとおり、少しニヤつきながら楓李を見ている。
 「で、きれいでかわいいと思ったんだな?」
 「……っ、悪いかよ。」
 「かえ、待って!それお酒!」
 楓李は言い切ってからケイのもとへと言って、ケイが握りしめていたコップの中身を飲み干した。
あきが真剣に止めようとしたが、その言葉すらも無視して飲んだ楓李はそのまま自分がいた雪紀の正面に座る。
 「お前って酒強いよな。そういうところだけ似てるのもすごいけど。」
 「あのまま飲ませてたら、いくらケイ兄さんでも死ぬからな。」
(あの酒度数高かったよな。)
 思っていてよりもしっかりと言葉を返す楓李を見て雪紀はそう思った。
きぃちゃんは自分が飲んでいたお酒をケイに渡していた。
そんな度数の低い安っぽいものを飲んでいるとは思えなかった。
 「俺が大人と瑠菜に怒られるから、水飲めよ。」
 「はーいはい。」
 楓李は適当に返事をしながら水を飲んだ。
 「たっだいまでーす。あ、楓李兄さんこれ飲みますか?はい、どーぞ!」
 「ん?なんだ?これ。」
 楓李はサクラからコップを受け取って、少し黒っぽいような茶色っぽいような、緑色のジュースを飲んだ。
(少しは酒回ってんだな。)
 雪紀はウーロン茶片手に、自分に被害が来ないことを願った。
 「まっずっ!おま……これ何混ぜたんだ?」
 「コーラ、エナジードリンク、緑茶、麦茶……」
 「あと、カレーと牛乳ね。」
 サクラが忘れた部分をきぃちゃんが付け加えると、飲み物でないことが発覚した。
 「別々で胃の中に入れたかった。」
 「酔っぱらいはさっさと吐くか何かして、体の外にアルコール出しなさい。」
 楓李がお酒を飲んだのを見ていたらしい。仕方なくわざと、まずいものを作ったのだと言っているが顔はとても楽しそうだ。
 「わかった。吐いてくりゃいいんだろ?」
 「行ってらっしゃーい。」
 サクラが元気に手を振っているのを横目に楓李は立ち上がった。
きぃちゃんはケイの横に行ってあきと龍子を巻き込んで介抱し始めた。
 「あんたたちは飲んでないでしょうね?」
 きぃちゃんににらまれたのと、自分たちも楓李が飲んでいたものを飲まされると思った二人は、首をぶんぶんと勢いよく横に振った。
 「善良な大人に私たちが怒られちゅんだからね。」
 「善良じゃない大人が何か言ってる。」
 「あはははは、りゅーちゃん。そこまで接点ないのにすごいこと言うわね。」
 「思ったことを言葉にしただけです。」
 いつもの龍子とは違い少し反抗的な態度。
サクラは龍子を止めに行こうとしたが、雪紀に座っておくように言われた。
それでもサクラは雪紀の言葉を無視して龍子のもとへと向かった。
 「龍子、座って。うるさいよ。」
 サクラはびっくりして少し固まってしまった。
自分が出したとは思えないような高く、落ち着きのある声だった。
サクラ自身も恐怖を感じたが、周りはもっと感じたのだろう。
その証拠に全員驚いた顔でサクラを見ている。
 「サクラ、今の瑠菜に教わったのか?」
 いつ戻ってきたのか知らないが、少し苦笑いをした楓李に言われてサクラは首を横に振った。
それを見て全員が息をのんだ。
 「んじゃ、しゃーねーな。それにしても、龍子。酒なんか飲んで、ただで済むと思ってんのか?まぁ、俺が言えることじゃねぇけど。少なくとも平常心保っとけ。」
 「すみません……。」
 「もう、帰ろっか。」
 「そうね。」
 楓李の一言でまたみんながワイワイ話し始めた。
あきが帰る準備を始め、きぃちゃんが自分の財布とケイの財布を見ながら計算をしながら食べ物の感想や混ぜたジュースの話で盛り上がっている。
 「サクラ。」
 「はい。」
 ぼーっとそれを眺めていたサクラは雪紀に呼ばれてそちらを向いた。
雪紀の隣には楓李もいて、二人で何かを話していたようだった。
 「さっき、何で瑠菜を気絶させたか聞いたな。」
 「はい。」
 「答えるよ。その代わり、お前はこれから生活する中でそれを心に入れて生活しろ。いいな?」
 「わ、わかりました。」
 サクラはまっすぐな表情のまま返事をした。その様子に、楓李と雪紀は目配せをしてからため息をついた。
 「瑠菜には、死に対する恐怖がないんだ。」
 「死に対する恐怖がない……。」
 サクラは最初、別に大したことはないと思った。
 何が悪いのだろう。
なぜ気をつけなければならないのか。
 サクラのその問いに対して雪紀は悪くないことでもあると言った。
 自分の死を怖がらないからこそできたこともあった。
普通の人なら死ぬかもしれないと思うことでやめることを、瑠菜はやめることができない。
今は無理やり目標を作らせているため、自殺はしないだろうが、もしその目標をやり遂げれば自殺してもおかしくはない、と。
 サクラはそれを言われてから少し心配になった。
 帰り着いてからサクラは瑠菜のもとへと行こうとしたが、しおんに「疲れているらしいですよ。」と言われたのでやめた。
本当は瑠菜に会って、安心させてほしかった。
 「瑠菜さんは、相談所の役職をもらったそうですよ。」
 しおんにそう言われて、サクラはよくわからずに雪紀と楓李のほうを見たが、何とも言えない表情をしていた。
うれしそうでもあり、悲しそうでもある表情だった。
 「サクラはもう自分の部屋もどれ。」
 「は、はい。」
 「おやすみ。」
 「あ、お、おやすみなさい。」
 黙ったまま動くこともない雪紀の代わりに楓李がサクラに言った。
サクラもここにいたらいけないような気がしてすぐに部屋に入った。
 「瑠菜さんは相談所の役職をもらったそうですよ。」
 しおんは悪気のない明るい笑顔でそう言った。
雪紀は少し考えてからすぐに瑠菜の部屋に入ろうとした。
 「待て。」
 しかし、それを楓李は手をつかんで止めた。
一週間前までなら止めずに見て見ぬふりをしていただろう。
自分が嫌だからとか軽い理由ではなく本当に瑠菜のことを考えてそうした。
 「そう……か、もう俺の女じゃねぇもんな。」
 雪紀もすぐに楓李の気持ちを理解した。
もちろん楓李は何も言っていなかったが、そこが大人の生きた経験から来る勘なのかもしれない。
 「危なかったら呼べよ。」
 楓李の頭に軽く右手をのせてから雪紀は自室へと入っていった。
こういうところが、瑠菜の尊敬する師匠でいられる理由なのだろう楓李は思った。
 「瑠菜、入るぞ……。」
 「……どーぞ。」
 楓李がドアを叩いてから数秒たってようやく瑠菜から返答があった。
 楓李が中に入ると真っ暗の中サイドテーブルに置いてある小さな電球がついていた。
 「大丈夫か?」
 「何が……あぁ、会長の命令だもの。断れないわ。こういう時だけは記憶もなくならないし。」
 瑠菜はゲームをしていた。
毛布を頭からかぶって、ベッドの上でスマホを見たまま、楓李にそう答えた。
 「コムのことか?コムが何か残していたか?」
 「アハハ、かえ。半分正解だけど、半分不正解。」
 瑠菜は真っ赤な目を細めてわざとらしく笑いながら言った。
 「大丈夫じゃなければやってない。」
 「がんばりすぎだろ……。体壊すぞ。」
 「もう壊れてる。私には左手も、右足もない。私はどんなにこの二つが傷つこうと血が出ることはない。出るのは絵の具。これ以上壊れようがないわよ。」
 「そういうことじゃねーよ。内側から壊れんだよ。」
 「いいよ。もう。」
 瑠菜は自分の偽りの足をやさしくなでた。
 パッと見は他と変わらない普通の足だ。
動きだってスムーズでほかの人と同じように生活できる。
しかし、体重をかけすぎたり無理な運動をすると壊れてしまう。
防水機能も付いているのに、泳ぐことはできない。
走ることはできても、真剣に走ると壊れて動かなくなる。
 楓李は瑠菜の触っている足の反対側を触りながら、瑠菜を見た。
 「まだ元気な部位もあんだろ?その部位を守れるように心掛けろ。」
 瑠菜はそれを言われて、楓李の手を振り払った。
楓李の言っていることは間違ってはいない。
そのまっすぐさが瑠菜にとっては重く感じた。
 「もし、私が壊れてしまって、命を落としたら。もし、それでコムさんやこはくに会えるなら。私はこの世に後悔なんてない。目標は達成してないけど、コムさんが勝手に決めたものだし。その元気な部位を捨ててもいいと思う。」
 コムやこはくに会えること。それが今の瑠菜の望みらしい。
 気が付くと、どこから取り出したのか瑠菜はカッターの刃を自分の首に突き付けた。
(それじゃ、死ねないだろ……。)
 楓李はそう思いながら瑠菜の持っているカッターを取り上げた。
当たり前だが、女である瑠菜よりも男である楓李の方が力は強い。瑠菜がどんなに強く力を入れても軽くそれを超えることができる。
 「俺は?」
 「……。」
 「お前に一生もんの傷をつけて、もし失血で死んでも、俺はどうすればいい?」
 「……どうでもいい。」
 「俺はお前を殺した悪人として生きる。きっとお前は痛みにもがく。それを見殺しにした男として生きていくんだろうな。」
 瑠菜はそれを聞いて、自分の手を膝の上に置いた。
そして、そのまま楓李の胸に頭を押し付けた。
 「腕、もう切ったのか?」
 「……血、つくね。」
 「手当てするから待ってろ。」
 「ごめん。」
 楓李は手当てするための道具を取りに行くため、瑠菜の部屋を出た。
しかし、瑠菜のことを考えて今一人にするのは不安でしかなかったことからすぐに帰ってきた。
 「なんもしてないな。」
 「もうすることもないよ。」
 楓李は瑠菜の固まった血の跡を消毒液できれいにふき取って、包帯を巻いた。
 「珍しいな。カッターで死ねないのもわからなかったか?」
 「……明日も、しー君の笑顔が見たくてね。」
 「じゃぁ、あいつに感謝だな。」
 楓李は瑠菜のその言葉を聞いて少し笑った。
今までの瑠菜なら、自分のことばかり考えていて他人の笑顔のためなど言ったりしなかった。
元の性格からやさしさがあっただけで相手のためというのは成長を感じる。
 「かえ。もう寝る。」
 「はいはい。おやすみ。」
 楓李が部屋から出た後、瑠菜はこはくやコムのことを思い出した。
 (今二人に会っても怒られるだけなんだろうな。)
 何もできていない。
瑠菜はまだ誰も助けていないし、何もしていない。
 瑠菜はぼーっと、鉛筆を手に取った。
頭は回っていない。
高々と鉛筆を振り上げて、足の上に刺さる寸前で、楓李が瑠菜の手をつかんだ。
 「お前は何で反省もしなければ、学びもしないんだ?」
 血は出ていないが、あとが残るだろうというところだった。
もう少し深く鉛筆が刺さっていれば血も出ていただろう。
 楓李はあきれているというよりも、瑠菜のつらさをよくわかっているからこその言葉を出した。
 「これ以上、自分を傷つけんな。もっと楽しいことはあるから。」
 こはくが死んで、コムが消えて、瑠菜は本当にきつかった。
それを横で見ていた楓李は瑠菜の今の気持ちを手に取るようにわかっていた。
 楓李は瑠菜の背中をさすりながら抱きしめていた。
瑠菜はびくびくと体を震わせながら泣いているのだろう。
楓李に体をゆだねるようにぎゅっと抱きつく瑠菜。
 「かえ……、ねぇ。楓李……。あれ、何?」
 楓李が瑠菜を見ると、瑠菜は空中を見ていた。いや、楓李と瑠菜にとってはただの空中ではなかった。
 「見えるのか?」
 「やっと治ってたのに……。」
 瑠菜は楓李に抱き着いて、隠れるように身を縮めた。
 「へぇ、またか。」
 次の日、瑠菜は雪紀に相談をしに行った。
 前日のあの後は楓李に抱き着いたまま瑠菜が寝落ちした。
 「しかも前よりすごいんだとよ。」
 「はい……。」
 楓李はちらちらと瑠菜の周りを飛び回る女の子を目で追いながら言った。
 『見える?私のこと見える?』
 「見えない。」
 ここにいる全員、霊感が強い体質だった。
特に瑠菜はひどく、周りに霊を引き付けてしまう。
昔はコムに、近くにいてもらうことで安心はできていた。
しかし、今はどうだろうか。
 とりあえず、瑠菜一人ではどうしても対処できないことと、今までできなかった仕事ができるようになったことを報告しに雪紀のもとを訪れた。
 「何?こいつ見えるのか聞いてんの?」
 「うん……。」
 楓李は見ることはできるが、声は聞こえないらしく、その女の子をじっと見ている瑠菜に聞く。
 「見える。お前は誰だ?」
 『さぁ?』
 「さぁ、だって。」
 「本当に聞こえるんだな。」
 瑠菜が反やけくそになっていると、楓李はすごいなぁと言いながら瑠菜を見ていた。
 「お前らは本当に……。ま、生活にはそこまで支障ないだろうし、大丈夫だろ。で?そこにいるのか?」
 「ちょっと待ってろ。」
 楓李はそういって、雪紀の前にその子を向けた。
雪紀も楓李の手と手の間に自分の手を置いた。
 「やっと見えた。かわいいし、瑠菜について行っていいんじゃね?」
 「はぁ?いや、何言ってんの?」
 『私に触れてる!すごい、すごい!』
 雪紀の霊感は触らないと発動しない。
瑠菜や楓李みたいにいつも見えるわけではなく、ぶつかったり、触ったり、体に触れないと見えるようにはならない。
瑠菜からすればうらやましい能力だ。
 「私には見えないもん。」
 『本当?』
 「知らない。声をかけないで。」
 「バリっバリに見えてんじゃん。」
 瑠菜がその子供から顔を背けるのを見て楓李は笑いながら言った。
 「まぁ、お前の場合占いが当たりやすくなるし。悪いことばっかじゃねぇから気にすんな。」
 「やっと見えなくなったと思ってたのに……。」
 瑠菜はため息をついてキャッキャとはしゃいでいる子供や周りを飛んでいる幽霊を横目で見た。