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 最近の桔平くんは、煙草の本数が少し増えたように思う。いまもベランダに出て、煙草を咥えたままぼんやり景色を眺めている。ここはベランダが広くて煙草は禁止されていないけれど、前までは全然吸わない日も多かったのに、ここのところは2,3日で1箱くらいになっていた。

 肩まで伸びた髪が風になびく。どことなく物憂げな表情でその髪をかき上げる横顔に、思わず魅入ってしまった。かっこいいというより、やっぱり綺麗。

 嫌いだから煙草を吸う。前にそう言っていたけれど、そんな風にどこかで自分を追い込まないと絵が描けないのかもしれない。

 部屋の床には、クロッキー帳から破かれたページが散乱している。描いては破っての繰り返し。

 絵を描くとか、なにかを創り出すことに関してまったく知識がないから、桔平くんの悩みや苦しみは理解してあげられない。だけど、それをもどかしく感じている私に、そばにいてくれるだけでいいと言ってくれた。

 桔平くんが、こんな私のなにもかもを受け入れてくれるのは、拒絶される苦しみを知っているから。子供のころの話を聞いて、それが分かった。

 ギフテッドという存在自体を初めて知ったけれど、人にはないギフトを受け取る代償は、決して小さくないんだと思う。グレーの瞳が儚げに映るときがあるのは、内面の繊細さが表れているからだってことを知った。

 マイペースで周りの目を気にしない自由な人。本当はそんな単純な話じゃない。自分の世界を守りたい気持ちと、それを受け入れてもらえない苦しみや寂しさを、ずっとずっと抱えてきた。だから桔平くんは、人に優しい。

 桔平くんの内面を深く知ることができて、前よりもっと好きになった。ううん、好きなんて言葉じゃ軽すぎる。桔平くんの言葉を借りれば、細胞自体が求めているって感じ。

 だけどそれと同時に、そばにいるのが私でいいのかなという気持ちも出てくる。本当はもっと天真爛漫というか、屈託がなくて、そこにいるだけで周りをあたたかい気持ちにさせてくれる人がいいような気がして。

 だって漫画とかではそうでしょ。孤高の天才を支えるのはいつだって、明るくて真っ直ぐなヒロイン。絶対に、私みたいに卑屈で根暗な女じゃない。

 桔平くんが部屋に戻ってきて、おもむろにピアノを弾き始めた。急に弾きたくなるときがあるみたい。

 いつ聴いても、その音色は正確で繊細。絵だけじゃなくて、芸術方面の才能が飛び抜けているんだろうな。

 桔平くんのピアノには、いつも心を揺さぶられる。それはきっと、言葉にできない感情を音に乗せているから。
 
「なんだっけ、いまの曲。英雄……ポ……ボ?ボロネーゼ?」

 弾き終わってから話しかけると、桔平くんが吹き出した。さっきまでの憂鬱そうな顔から一変して、お腹を抱えて笑っている。


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 最近の桔平くんは、煙草の本数が少し増えたように思う。いまもベランダに出て、煙草を咥えたままぼんやり景色を眺めている。ここはベランダが広くて煙草は禁止されていないけれど、前までは全然吸わない日も多かったのに、ここのところは2,3日で1箱くらいになっていた。
 肩まで伸びた髪が風になびく。どことなく物憂げな表情でその髪をかき上げる横顔に、思わず魅入ってしまった。かっこいいというより、やっぱり綺麗。
 嫌いだから煙草を吸う。前にそう言っていたけれど、そんな風にどこかで自分を追い込まないと絵が描けないのかもしれない。
 部屋の床には、クロッキー帳から破かれたページが散乱している。描いては破っての繰り返し。
 絵を描くとか、なにかを創り出すことに関してまったく知識がないから、桔平くんの悩みや苦しみは理解してあげられない。だけど、それをもどかしく感じている私に、そばにいてくれるだけでいいと言ってくれた。
 桔平くんが、こんな私のなにもかもを受け入れてくれるのは、拒絶される苦しみを知っているから。子供のころの話を聞いて、それが分かった。
 ギフテッドという存在自体を初めて知ったけれど、人にはないギフトを受け取る代償は、決して小さくないんだと思う。グレーの瞳が儚げに映るときがあるのは、内面の繊細さが表れているからだってことを知った。
 マイペースで周りの目を気にしない自由な人。本当はそんな単純な話じゃない。自分の世界を守りたい気持ちと、それを受け入れてもらえない苦しみや寂しさを、ずっとずっと抱えてきた。だから桔平くんは、人に優しい。
 桔平くんの内面を深く知ることができて、前よりもっと好きになった。ううん、好きなんて言葉じゃ軽すぎる。桔平くんの言葉を借りれば、細胞自体が求めているって感じ。
 だけどそれと同時に、そばにいるのが私でいいのかなという気持ちも出てくる。本当はもっと天真爛漫というか、屈託がなくて、そこにいるだけで周りをあたたかい気持ちにさせてくれる人がいいような気がして。
 だって漫画とかではそうでしょ。孤高の天才を支えるのはいつだって、明るくて真っ直ぐなヒロイン。絶対に、私みたいに卑屈で根暗な女じゃない。
 桔平くんが部屋に戻ってきて、おもむろにピアノを弾き始めた。急に弾きたくなるときがあるみたい。
 いつ聴いても、その音色は正確で繊細。絵だけじゃなくて、芸術方面の才能が飛び抜けているんだろうな。
 桔平くんのピアノには、いつも心を揺さぶられる。それはきっと、言葉にできない感情を音に乗せているから。
「なんだっけ、いまの曲。英雄……ポ……ボ?ボロネーゼ?」
 弾き終わってから話しかけると、桔平くんが吹き出した。さっきまでの憂鬱そうな顔から一変して、お腹を抱えて笑っている。