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114. 戦乙女

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 俺は鑑定でホールの隅々まで慎重にセキュリティ装置を探したが、見つからなかった。ヌチ・ギもここまで侵入されることは想定外らしい。その事実に、わずかな安堵を感じる。

「上の階も探してみよう。ドロシーはきっとどこかにいる」

 アバドンは無言で頷く。二人の目には、揺るぎない決意の色が宿っていた。美しくも危険なこの空間を抜け出し、ドロシーを救出するための新たな挑戦が始まる。

「では、行くぞ!」

 俺はアバドンの耳元で囁いた。

 アバドンはサムアップをすると俺を背中につかまらせ、飛行魔法を使ってそっと床にまで降りていく。二人の呼吸が重なり、心臓の鼓動が同期するかのようだった。

 目の前を通り過ぎていく(きら)びやかな踊り子たち――――。

 俺は彼女たちの無念が胸に刺さるようで苦しく感じた。その美しさの裏に潜む悲しみが、ユータの心を締め付けた。やはりヌチ・ギの蛮行は許しがたい。彼女たちも解放してあげねばならないと心に誓った。

 静かに床に降りたった二人――――。

 その時、目の前を通り過ぎる露出の多いピンクのドレスで舞っている女性と目が合った。その瞳には、悲しみと諦めが宿っている。一瞬の交錯で、ユータは彼女の心の叫びを聞いたような気がした。

「え!?」

 驚いて見回すと全員が我々を見ていたのだ。意識があるのか!? その事実に、俺は背筋に冷たいものを感じる。

 唖然(あぜん)としていると、次にやってきた女性に声をかけられた。その声は、かすかに震えていた。まるで長い沈黙を破るかのようだった。

「そこのお方……」

 俺は驚いて声の方向を見ると、美しいランジェリー姿の女性が、手を後ろに組んで胸を突き出すような姿勢でこちらを見ていた。ブラジャーは赤いリボンを結んだだけの大胆なもので、左の太腿にも細いリボンで蝶結びがされていた。何とも煽情的(せんじょうてき)ないで立ちに俺は顔を赤くして、身体を見ないようにしながら、駆け寄った。その姿は美しくも悲しげで心を揺さぶってくる。

「話せるんですね、これ、どうなっているんですか?」

 スッと鼻筋の通った整った小顔にクリッとしたアンバーな瞳の彼女。心をざわめかせるほどの美しさに、俺は戸惑いを覚えながら聞いた。

「私はまだ入って間がないので話せますが、そのうち意識が失われていって皆植物人間みたいになってしまうようです」

 その言葉に、ユータは怒りと悲しみを感じた。何という非人道的な話だろうか。

「助けますよ!」

 俺は彼女の手を掴み、思いっきり引っ張ってみた。しかし、とても強い力で操作されているようで、舞いの動きを止める事すらできない。まるで目に見えない鎖で縛られているかのようだった。

「な、何だこれは……」

 その無力感に、俺は歯噛みした。歯ぎしりの音が、静かな空間に響く。

「ヌチ・ギ様の魔法を解かない限りどうしようもありません……。それより、あの中央の巨人が心配なのです」

 彼女の声には、恐怖と懸念が滲んでいた。

「やはり彼女も生きているんですか?」

 嫌な予感が当たり、心臓が早鐘を打つ。

「そうです。ヌチ・ギ様は巨大化装置を開発され、私たちを戦乙女(ヴァルキュリ)という巨人兵士にして世界を滅ぼすとおっしゃってました」

 そのとんでもない計画に、心臓が凍りついた。

「な、なんだって!?」

 俺は戦慄する。単に女の子をもてあそぶだけでなく、兵士に改造して大量殺戮(さつりく)にまで手を染めようだなんて、もはや真正の狂人ではないか。俺の頭の中で、巨大な戦乙女たちが街を火の海へと変えていく光景が浮かび上がり、言葉を失った。



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みんなのリアクション

 俺は鑑定でホールの隅々まで慎重にセキュリティ装置を探したが、見つからなかった。ヌチ・ギもここまで侵入されることは想定外らしい。その事実に、わずかな安堵を感じる。
「上の階も探してみよう。ドロシーはきっとどこかにいる」
 アバドンは無言で頷く。二人の目には、揺るぎない決意の色が宿っていた。美しくも危険なこの空間を抜け出し、ドロシーを救出するための新たな挑戦が始まる。
「では、行くぞ!」
 俺はアバドンの耳元で囁いた。
 アバドンはサムアップをすると俺を背中につかまらせ、飛行魔法を使ってそっと床にまで降りていく。二人の呼吸が重なり、心臓の鼓動が同期するかのようだった。
 目の前を通り過ぎていく|煌《きら》びやかな踊り子たち――――。
 俺は彼女たちの無念が胸に刺さるようで苦しく感じた。その美しさの裏に潜む悲しみが、ユータの心を締め付けた。やはりヌチ・ギの蛮行は許しがたい。彼女たちも解放してあげねばならないと心に誓った。
 静かに床に降りたった二人――――。
 その時、目の前を通り過ぎる露出の多いピンクのドレスで舞っている女性と目が合った。その瞳には、悲しみと諦めが宿っている。一瞬の交錯で、ユータは彼女の心の叫びを聞いたような気がした。
「え!?」
 驚いて見回すと全員が我々を見ていたのだ。意識があるのか!? その事実に、俺は背筋に冷たいものを感じる。
 |唖然《あぜん》としていると、次にやってきた女性に声をかけられた。その声は、かすかに震えていた。まるで長い沈黙を破るかのようだった。
「そこのお方……」
 俺は驚いて声の方向を見ると、美しいランジェリー姿の女性が、手を後ろに組んで胸を突き出すような姿勢でこちらを見ていた。ブラジャーは赤いリボンを結んだだけの大胆なもので、左の太腿にも細いリボンで蝶結びがされていた。何とも|煽情的《せんじょうてき》ないで立ちに俺は顔を赤くして、身体を見ないようにしながら、駆け寄った。その姿は美しくも悲しげで心を揺さぶってくる。
「話せるんですね、これ、どうなっているんですか?」
 スッと鼻筋の通った整った小顔にクリッとしたアンバーな瞳の彼女。心をざわめかせるほどの美しさに、俺は戸惑いを覚えながら聞いた。
「私はまだ入って間がないので話せますが、そのうち意識が失われていって皆植物人間みたいになってしまうようです」
 その言葉に、ユータは怒りと悲しみを感じた。何という非人道的な話だろうか。
「助けますよ!」
 俺は彼女の手を掴み、思いっきり引っ張ってみた。しかし、とても強い力で操作されているようで、舞いの動きを止める事すらできない。まるで目に見えない鎖で縛られているかのようだった。
「な、何だこれは……」
 その無力感に、俺は歯噛みした。歯ぎしりの音が、静かな空間に響く。
「ヌチ・ギ様の魔法を解かない限りどうしようもありません……。それより、あの中央の巨人が心配なのです」
 彼女の声には、恐怖と懸念が滲んでいた。
「やはり彼女も生きているんですか?」
 嫌な予感が当たり、心臓が早鐘を打つ。
「そうです。ヌチ・ギ様は巨大化装置を開発され、私たちを|戦乙女《ヴァルキュリ》という巨人兵士にして世界を滅ぼすとおっしゃってました」
 そのとんでもない計画に、心臓が凍りついた。
「な、なんだって!?」
 俺は戦慄する。単に女の子をもてあそぶだけでなく、兵士に改造して大量|殺戮《さつりく》にまで手を染めようだなんて、もはや真正の狂人ではないか。俺の頭の中で、巨大な戦乙女たちが街を火の海へと変えていく光景が浮かび上がり、言葉を失った。