Side - 16 - 22 - このくそじじい -
かぽっ・・・かぽっ・・・
「街の治安は予想していたより良いね、いや、我がローゼリアの優秀な騎士達が頑張ってくれたおかげだろう」
「・・・」
「建物の損壊もそれほど酷くない、扉を蹴破られている店は目立つがすぐに修復できそうだ、美しい街並みだからできるだけこの景観は壊したくないな、関係各所と調整が必要か・・・」
「・・・」
かぽっ・・・かぽっ・・・
「団長の愛馬・・・確かチェルシーちゃんという名だったか・・・でかいな、普通の馬より視界が高くなって楽しいぞ」
「・・・」
「それにしても世の女性は馬に乗るのにこのような姿勢でよく平気だな、横座りはどうも尻の収まりが悪い・・・今日僕はドレスだから仕方ないのだが・・・」
「・・・」
かぽっ・・・かぽっ・・・
「先ほど食事をしたレストランは美味かった、帝国七つ星レストラン「コアラーノ」、店主のマーチンも愉快な男だったし、これからも贔屓にするとしよう」
「・・・」
「ふふっ・・・街の住民達が我々を見ているぞ、仲の良い恋人同士に見えているのかもしれない、ほらこうやって騎士団長の腰に手を回して・・・「きゃっ、こわーい」なんて言ったりしてな・・・あはは!」
さわさわ・・・
「・・・っ!」
すりすり・・・ぺたぺた・・・
「・・・ぬふっ!」
「おっと、面白くてついやり過ぎてしまった、騎士団長の腹筋は凄いな・・・まるで鋼の・・・」
「殿下・・・」
「何だい騎士団長、そんなに怖い顔をして」
「お戯れも程々に願います」
「ふふふ、よいではないか、街の皆に見せつけてやろう、どこから見ても休日にイチャイチャしている恋人同士だ、これなら誰も僕の事をローゼリアの王太子だとは思うまい」
「・・・」
やぁみんな、僕の名前はマナサマー・マリース・ローゼリア・・・ローゼリア王国の王太子だ。
王命により崩壊した旧デボネア帝国の治安維持と復興を指揮する為にこの国にやって来た、転移魔法陣を使って一瞬だったからここがローゼリアから遠く離れた別大陸という実感はあまり無いのだけどね。
この国に来たその日に僕は旧帝都の街へ視察に出かけた、護衛は近衛騎士団長一人だ。
本当は単独で動きたかったのだが旧帝都はまだ治安が悪い場所が多く存在する、リゼちゃん特製のブレスレットがあるとはいえ仕方がない・・・。
僕はローゼリア王国では民の声を聞く為によく街に女装して出かけているのだ、もちろん「影」は付いているのだが基本的には自由気ままにに行動する。
王都の外れにある人生相談所兼占い屋、「マナの家」その店主であるマナちゃんは僕の裏の顔だ、この店には様々な悩みを抱えた住民がやって来る、僕は彼等、彼女等の悩みを聞き相談に乗る・・・。
それは僕のささやかな趣味であり、王城でぬくぬくと過ごしていては得られない貴重な民の声・・・情報源でもある。
話が逸れたね、でも僕はこの旧帝都でも「マナの家」を開く事にした、面倒事を避ける為にローゼリアの近衛騎士団長と親しい姿を見せつけておく・・・悪い計画ではないだろう?。
当事者である騎士団長にしてみれば迷惑な話だろうが僕の趣味の為に犠牲になって貰おう。
この旧帝都は広い、広さだけならローゼリア王都の十倍はある、まだほんの少ししか見ていないのだがいい感じに日が傾いて来た、今日のもう一つの目的を済ませるとしようか・・・。
「こちらです」
「ほぅ・・・立派な店構えだ、襲撃にも遭っていないしどこも壊されていない、余程警備の者が優秀なのだろう、うちの騎士団に欲しいのではないかね、団長・・・」
「私は何度か会った事がございます、かなりの遣い手かと・・・」
「機会があれば勧誘してみたまえ・・・おそらく断られるだろうがね」
「はい」
コンコン・・・
僕と騎士団長はデボネア帝国語でボッチ商会と書かれた店の前に居る、日は既に落ち店は閉まっているが通用口から来訪を伝えた、この店の中に「彼」が滞在している事は調査済みだ。
がちゃ・・・
「ボッチ商会に何か御用でしょうか・・・おや、騎士団長様・・・」
従業員・・・いや、警備の者か、扉が開いてデボネア帝国語で話しかけて来た、僕は幼い頃からデボネア帝国語を学び習得している、王太子たる者、「敵」が何を言っているのか分からないようでは話にならないからね。
「ドルフ・ボッチ殿に話があるのだが・・・」
「・・・こちらへ」
「ありがとう」
怪しまれる事なく店に入る事が出来た、騎士団長は店の従業員や警備の者とも顔見知りだ、僕だけなら追い返されたかもしれないな・・・今僕の目の前を歩いている彼はとても強そうだから無断で忍び込む事にならずに済んで良かった。
バタン・・・
「遅い時間に申し訳ないドルフ殿」
「構いませんよ騎士団長様・・・そちらのお嬢様は「マナの家」の店長、「マナちゃん」様とお見受け致しますが・・・今日は「そのご身分」で宜しいので?」
おっと、早くも僕の正体がバレてしまったようだ、彼ほどの商人になると本当に油断ならない。
「さすがだね、ドルフ・ボッチ殿、全てお見通しという訳か」
「孫が大変お世話になっております」
「お世話になっているのはこちらの方だよ、彼女が居なければ僕達は遥か遠くの大陸から国境を越え海を渡って来なければならなかった・・・今日は「マナの家」の店長ではなく、「もう一つの顔」として話に来た、だが対等な立場で率直な話がしたいから気楽に接してくれたまえ」
「かしこまりました、それで・・・話とは何でございましょうか、マナサマー殿下」
突然の王太子の来訪に彼も警戒しているのだろう、表情が固い。
「何だと思う?」
「我がボッチ商会が・・・この旧帝都の土地や不動産を買い占めている事に対し、やり過ぎるな・・・と、警告に来られたのでは?」
「ふふっ・・・それもある」
「我々は「たまたま」ボッチ商会デボネア帝国支店の様子を確認する為にリスクを冒し船でこの大陸にやって来ました、そこで「たまたま」この土地に価値を見出し、投資しております・・・何か問題でも?」
「問題は無い、だが流石に欲張り過ぎだ、この帝都の商業地区全てを買い占めるのは勘弁して貰いたい、美味しいところを横から全部持って行くな、復興に金と人材を出しているのはローゼリアなのだぞ」
「誰も欲しがっていない土地、不動産なのに・・・ですか?、元の所有者も大金を手に入れ喜んでおりますよ・・・それに他の商会も買収を進めております、私共が買わなければ彼等が手を出すのでは?」
・・・それは初耳だな、騎士やメイド達には守秘義務がある、そこから漏れる事は無いだろう、予想外だったのは想定より早く・・・我が国が土地不動産を買収し始める前にボッチ商会がこの国にやって来た事くらいだ。
「・・・何処が買収している?、情報を寄越せ」
「我々が苦労して集めた情報を出せと?・・・他ならぬ殿下のお願いですからなぁ・・・さて・・・私としても何か見返りがあれば重い口が少しばかり軽くなるのですが・・・(ニコッ)」
このクソジジィ・・・
「分かったよ、土地不動産の買収に関して3割までなら見なかった事にしてやる」
「まず・・・ラングレー王国のエイノ商会が使者を送り込み中央区と北区を中心に買収、これがまた巧妙で所有者に口止め料を握らせて売却の事実を秘匿・・・、それから同じくラングレー王国にあるレストラン、アップルツリーのオーナーが中央区から東区にかけて精力的に買い占めておりますね」
「ドルフ殿の事だ、エイノ商会の正体も知っているのだろうね・・・」
「はい、存じておりますよ、エルヴィス陛下、ラングレー王国のインフィニ女王陛下、それから私の義息でもあるアーノルド・シェルダン、この3人の共同出資による商会かと、今は経営権のほとんどをインフィニ陛下が持っておられます」
「ラングレーに気付かれたか・・・まぁ、あそこは身内と言っても差し支えない国だが何もしないで楽に儲けさせてやるのは面白くないな、親父からやり過ぎるなと釘を刺して貰おう」
「明らかにエイノ商会の規模を超える金が動いております、女王陛下の個人資産を注ぎ込んでいるのではないかと」
「だろうな・・・あの御方の性格は僕もよく知っている、私欲の為というよりはこの件にラングレー王国も一枚噛ませろと言っているのだろうね」
「アップルツリーはドック・フューチャ氏所有の商会ですな、聞くところによると彼も孫と一緒にこの国に転移魔法陣を設置した協力者だとか、なら復興計画を知っていて一儲けしてやろうと思うのは当然なのでは?」
「そうだな、だがドック氏個人にはボッチ商会やエイノ商会ほどの財力は無い筈だよ」
「確かに・・・入手した物件は中規模あるいは大規模商店が18ヶ所程と貴族の元邸宅が数軒ですので旧帝都の広さからすると無視しても良い数かと、ただ全てが一等地の高価値物件なのが何とも悔しいですなぁ」
「で、今ボッチ商会はどれだけ手に入れたのかな?」
「全商業区域の2割弱と言ったところでしょうか、エイノ商会は推測ではありますが1割弱、元の持ち主が生活していたり売却を固辞している物件が2割ほど・・・残りはこれから交渉する予定でした」
2割弱・・・もうそんなに買収したのか!、急ぎここに来て良かった、放っておいたら旧帝都の半分以上こいつに買われるところだったぞ。
「では僕からの「お願い」だ、3割手に入れた時点で買収を止めてくれ、その代わり僕が見ていない間に優良物件を好きに買っていい、残りは王国が貰う」
「かしこまりました・・・ところで・・・旧帝都の「外」でしたら買い占めても宜しいのでしょう?(ニコッ)」
「・・・待て!何だその顔は?、何を企んでいる?」
「いえいえ・・・旧帝都の外には良い景色の港街や丘陵地帯、近隣の都市にも非常に魅力的な場所がございまして、そちらを開拓し帝都そのものを広げようかと(ニヤリ)」
「・・・ボッチ商会はどれだけ金を持っているのだ!、まさか近隣の街ごと全部買う気ではないだろうね?」
「さぁ・・・ご想像にお任せ致します」
・・・だが投資は大歓迎だ、この規模で金を注ぎ込めば街が発展するし税収も上がるからな。
「買った物件の名義は分散させてくれ、全部ボッチ商会だと王家との癒着を疑われる、適当な商会を10ほど立ち上げて振り分けろ」
「ご心配なく、もう既に抜かりなくやっております」
「本当に程々にしておけよ・・・あまりやり過ぎると他の商会からも嫉妬や恨みを買うぞ」
「問題ございません、悔しければ我々と同じ額の投資をすれば良いだけの話ですので」
「それからもう一つ「お願い」があるのだ、リゼちゃんが街の住民に聖女様と崇められているだろう」
「えぇ、それはもう驚くほど慕われておりますな」
「本人にはその事実を悟られないようにして欲しい、親父・・・陛下の意向でね、街の住人は貴族や聖職者を憎んでいる、別の偶像が必要だったから悪いとは思ったがリゼちゃんを利用させて貰った、彼女の事だから自分が神のように崇められていると知ったら引きこもって家から出て来なくなるだろう」
「はい、ボッチ商会も孫の転移魔法を便利に使い商売をさせてもらっていますから・・・今機嫌を損ねてしまえば全ての計画が破綻します、商会としてもそれだけは避けたいですからね」
「本当にリゼちゃんにはバレないだろうか?」
「リゼたん・・・孫はこの国を嫌って・・・いえ、恐れています、店の外にはほとんど出ませんし、この店の隣に住居を用意したのですが絶対に住みたくないと・・・」
「・・・住民が街のあちこちに石像を建てたり肖像画を飾っているからバレるのは時間の問題かと思っていたのだが・・・意外と大丈夫かもしれないな」
「彼女は引きこもりですので数年は気付かれないのではないかと」
「数年か・・・できるだけ早くローゼリアからの物資輸送手段を作らないと・・・僕もリゼちゃんの力だけに頼るのは危険だとは思っているのだ、海路は未開拓だしこの大陸の物流も壊滅している、それに地方や辺境の様子は全く分からないときている、ここの治安維持もあるし頭が痛いな・・・」
「お悩みの殿下に良いお話がございますよ、我がボッチ商会では大型輸送船を20ほど所有しておりまして、既に海路は開拓済み、当面の物資輸送は孫の転移魔法で船ごと旧帝都の港に転移させる予定ですが・・・いずれは海路による定期便をと考えて・・・」
「何だって!」
「他ならぬ殿下の頼みであれば格安で輸送船を提供する事も可能ですが・・・」
「いや、それはもちろんありがたいし是非お願いしたいのだが、リゼちゃんは大型輸送船まで転移できるのか?、初耳だぞ!」
「はい、実は孫から秘密にしているのだけれど大好きなお祖父様には教えてあげると・・・で、おじいちゃんのお願いを聞いてくれるかい?・・・と頼んだら「いいよ」との事でした」
「なぜ彼女はそのような便利な能力を隠しているのだ?」
「この事が知られたら偉い人達に馬車馬のように働かされるから秘密にしている、これ以上仕事が増えるのは絶対に嫌だと言っておりました・・・偉い人達とは・・・一体誰なのでしょうね?(チラッ)」
「ぐぬぬ・・・」