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【Daddy~圭亮~】⑥

ー/ー



    ◇  ◇  ◇
 十二月二十五日は、真理愛の誕生日だ。
 圭亮の娘は、今日で五歳になる。

「ただいま。悪い、遅くなって」
 どうしても避けられなかった残業を終えて急いで帰宅した圭亮は、ダイニングキッチンに顔だけ出して詫びる。

「待たせてごめんな、真理愛。今、手を洗って──」
「……ぱぱ」
 テーブルについている真理愛の口から零れるのは、初めて聞く娘が己を呼ぶ言葉。

「真理愛……? パパ、って」
「そうなのよ! 今日初めてね、お喋りしたの。お喋りって言っても私たちのことを──」
 真理愛のすぐ横に陣取った良枝が、昂った様子のままに報告してくる。
「ばーば」
「おう、圭亮」
 政男が冷蔵庫の前から、圭亮に声を掛けて来た。真理愛がそちらに顔を向ける。

「じーじ」
 まるで指差し確認でもするように、一人一人の顔を順にじっと見つめて名を呼ぶ真理愛。
 圭亮が定時で帰れないと連絡した際に、三人で夕食を済ませておくと聞いていた。だから後はケーキだけだ。
 真理愛と良枝が座る食卓に、政男が冷蔵庫から出して来たケーキを置いた。少し(いびつ)に塗られた真っ白なクリームに、赤い苺が載っている。
 どうやら、良枝のお手製らしい。

「お店にはクリスマスケーキしか売ってなかったのよ! でも、真理愛ちゃんのお誕生日なのに、クリスマスケーキじゃ嫌だったの。ごめんなさいね、ケーキ屋さんの方が絶対美味しいのはわかってるんだけど、ばーばの我が儘で」
「明日には普通の売ってるだろ。今日はばーばのを食べて、明日美味しいケーキ買って来ような」
 宥めるような政男に、真理愛は首を横に振る。

「ばーばの、けーき。……たべる」
 たどたどしい言葉に、良枝が不意に顔を覆って泣き出した。突然のことに、真理愛は驚いて固まってしまったようだ。

「ばあさん、何泣いてんだ。真理愛ちゃんが困ってるだろ! まったく。……なぁ?」
「真理愛、ばーばは嬉しくて泣いてるんだよ。真理愛は何も悪くない」
 戸惑う真理愛に、政男と圭亮が口々に声を掛ける。

「じーじ。ぱぱ。……ばーば、けーき」
 すぐ脇に重ねて置かれた皿を一枚手に取って、真理愛が良枝に差し出した。

「ほら、ばあさん。真理愛ちゃんにケーキ切ってやらんか」
「あ、そう、ね。待ってね、ナイフを──」
「はい、これ」
 先回りした圭亮が持って来たケーキナイフを受け取って、良枝がケーキを切り分けている。その間に、圭亮は真理愛の後ろに回ってエプロンを掛けた。
 良枝が一人分ずつカットしたケーキを、皿に乗せて順に渡して行く。
 全員に行き渡ると、とりあえず大人三人で『ハッピーバースデー』を歌って「真理愛ちゃん、お誕生日おめでとう!」と声を揃えて祝った。

「さあ、食べましょ。ね、真理愛ちゃんも。はい、『いただきます』」
 反応の仕方がわからないようで黙ったままの真理愛に、良枝がフォークを握らせる。
 目の前の皿に載ったケーキの端に、真理愛がフォークを突き刺した。切り取った欠片が大きすぎて、半分がエプロンのポケットに落ちる。もう半分も、口に入った方が少なかったかもしれない。

「ああ、ほら。クリームでベタベタだよ」
 真理愛の汚れた口元を濡れタオルで拭きながら、圭亮は何故か笑いが込み上げて来た。

「おいし、い」
「うん、美味しいな。母さ、ばーば、ホントに美味いよ。見た目も綺麗だし、凄いじゃん」 
 圭亮が褒めるのに、良枝も涙を拭い嬉しそうだ。

「そ、そう? ケーキなんて何年ぶりかしら。圭亮が小さい頃は作ってたけど、こんなデコレーションしたことなかったわね」
「うん、確かに。種類が違うのかもしれないけど、焼いたそのまんまだったよな」



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    ◇  ◇  ◇
 十二月二十五日は、真理愛の誕生日だ。
 圭亮の娘は、今日で五歳になる。
「ただいま。悪い、遅くなって」
 どうしても避けられなかった残業を終えて急いで帰宅した圭亮は、ダイニングキッチンに顔だけ出して詫びる。
「待たせてごめんな、真理愛。今、手を洗って──」
「……ぱぱ」
 テーブルについている真理愛の口から零れるのは、初めて聞く娘が己を呼ぶ言葉。
「真理愛……? パパ、って」
「そうなのよ! 今日初めてね、お喋りしたの。お喋りって言っても私たちのことを──」
 真理愛のすぐ横に陣取った良枝が、昂った様子のままに報告してくる。
「ばーば」
「おう、圭亮」
 政男が冷蔵庫の前から、圭亮に声を掛けて来た。真理愛がそちらに顔を向ける。
「じーじ」
 まるで指差し確認でもするように、一人一人の顔を順にじっと見つめて名を呼ぶ真理愛。
 圭亮が定時で帰れないと連絡した際に、三人で夕食を済ませておくと聞いていた。だから後はケーキだけだ。
 真理愛と良枝が座る食卓に、政男が冷蔵庫から出して来たケーキを置いた。少し|歪《いびつ》に塗られた真っ白なクリームに、赤い苺が載っている。
 どうやら、良枝のお手製らしい。
「お店にはクリスマスケーキしか売ってなかったのよ! でも、真理愛ちゃんのお誕生日なのに、クリスマスケーキじゃ嫌だったの。ごめんなさいね、ケーキ屋さんの方が絶対美味しいのはわかってるんだけど、ばーばの我が儘で」
「明日には普通の売ってるだろ。今日はばーばのを食べて、明日美味しいケーキ買って来ような」
 宥めるような政男に、真理愛は首を横に振る。
「ばーばの、けーき。……たべる」
 たどたどしい言葉に、良枝が不意に顔を覆って泣き出した。突然のことに、真理愛は驚いて固まってしまったようだ。
「ばあさん、何泣いてんだ。真理愛ちゃんが困ってるだろ! まったく。……なぁ?」
「真理愛、ばーばは嬉しくて泣いてるんだよ。真理愛は何も悪くない」
 戸惑う真理愛に、政男と圭亮が口々に声を掛ける。
「じーじ。ぱぱ。……ばーば、けーき」
 すぐ脇に重ねて置かれた皿を一枚手に取って、真理愛が良枝に差し出した。
「ほら、ばあさん。真理愛ちゃんにケーキ切ってやらんか」
「あ、そう、ね。待ってね、ナイフを──」
「はい、これ」
 先回りした圭亮が持って来たケーキナイフを受け取って、良枝がケーキを切り分けている。その間に、圭亮は真理愛の後ろに回ってエプロンを掛けた。
 良枝が一人分ずつカットしたケーキを、皿に乗せて順に渡して行く。
 全員に行き渡ると、とりあえず大人三人で『ハッピーバースデー』を歌って「真理愛ちゃん、お誕生日おめでとう!」と声を揃えて祝った。
「さあ、食べましょ。ね、真理愛ちゃんも。はい、『いただきます』」
 反応の仕方がわからないようで黙ったままの真理愛に、良枝がフォークを握らせる。
 目の前の皿に載ったケーキの端に、真理愛がフォークを突き刺した。切り取った欠片が大きすぎて、半分がエプロンのポケットに落ちる。もう半分も、口に入った方が少なかったかもしれない。
「ああ、ほら。クリームでベタベタだよ」
 真理愛の汚れた口元を濡れタオルで拭きながら、圭亮は何故か笑いが込み上げて来た。
「おいし、い」
「うん、美味しいな。母さ、ばーば、ホントに美味いよ。見た目も綺麗だし、凄いじゃん」 
 圭亮が褒めるのに、良枝も涙を拭い嬉しそうだ。
「そ、そう? ケーキなんて何年ぶりかしら。圭亮が小さい頃は作ってたけど、こんなデコレーションしたことなかったわね」
「うん、確かに。種類が違うのかもしれないけど、焼いたそのまんまだったよな」