「……久しぶりに愛茉の顔を見て、ずいぶんと穏やかで優しい表情に変わっていたから驚いたよ。君と、いい付き合いをしているからなんだろうね」
「いい付き合い……かどうかは、正直自信がないですけどね。ただ、愛茉の失敗を笑い飛ばせる男でいたいなとは思っています」
言いながら、お父さんのグラスに日本酒を注ぐ。
「愛茉は失敗するってことに、やたら臆病になってるように見えるんで」
初対面のときから感じていたことだった。
愛茉は自分が口にする言葉や態度、行動のすべてにおいて、正解を求めてすぎている。周りの顔色ばかり窺って、最適解を探す。
ただそこから少しでも外れると、どうしたらいいのか分からなくなって、どんどんマイナス思考に陥っていく。
「この前も、初めて作った料理の味つけが上手くいかなかったぐらいで、しばらく落ち込んでたし。オレに何度も謝るんです。そんなの気にしねぇっていうのに。だから一緒にたくさん失敗して、ふたりで笑い飛ばせたらいいかなって。ただ、それだけです」
「桔平君は、失敗を怖いとは思わないのかな?」
「思わないですね。失敗なんて成功の道中にあるものだし、選んだ道を正解にするために、何度も通るじゃないですか」
「……なるほど」
うんうんと頷いて、お父さんがグラスを口に運ぶ。そのしぐさが、遠い記憶の中にいる父親と重なった気がした。
「娘から、いろいろと聞いていてね。喋りたくて仕方がないようなんだよ、君のことを。独特な感性を持っていて温かくて優しい人だと言っていたけど、確かに愛茉が話す通りという感じだね。今日も、無理に合わせてくれたんだろう?」
「無理に、ではないですけど。まぁ普段とは違いますね。こんなに大人しい服は着ませんし。普段は派手で奇抜って言われています」
「あはは、派手で奇抜か。僕も大学生の頃は髪が長かったし、そこそこ派手な服を着ていたよ」
いまの生真面目そうな外見からは、とても想像ができない。こういう話を聞くと、俄然興味が湧いてくる。
「愛茉に聞きました。ロックバンドに憧れてたって」
「ずっとニルヴァーナが好きでね。いまの若い子は、知らないかな」
「カート・コバーン、かっこいいですよね。お父さん、少し似てるんじゃないですか?」
「桔平君は、オジサンをおだてるのが上手いね~」
お世辞などではなく、目元が本当に似ていると思った。もちろん薬物中毒に陥る前の、透き通った瞳をしていたころのカート・コバーンに。