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第16話 クリスマス会2~告白×告白×告白~

ー/ー



「これよりクリスマス会の中盤のメインイベント、有志企画を用意します。用意が出来るまで皆様、しばし、ご歓談してお過ごしくださいませ。協力を頼まれていた生徒は肉屋の宇川付近までお集まりください」

 オレと夏芽が肉屋の宇川さんや鮮魚のはなまるさんとのやり取りしている間にクリスマス会実行委員のグループwireで『有志企画の時間が近いよ!! 迅くんアナウンスして!!』と来ていたが、グループ内で夏芽と連絡をとっているのを確認して麻美さんが多奈川さんに『緊急事態が発生してるみたい、なっちゃんアナウンスお願い!!』と言っていたので多奈川さんがアナウンスしていた。

 徐々に肉屋の宇川さんの周りに男子生徒が集まってきた。

「有志企画の舞台運びを手伝って欲しいんだ!」

 有志企画。

 それは商店街の協力を仰ぐことが決定したのとほぼ同時に理事長が忘れていった『真実の薬』を参考に考えられた企画だ。ここ2年のクリスマス会は聞いた話、無礼講で体育館でクリスマス会実行委員の挨拶や校長に野次を飛ばすのが恒例行事となっていた。『それを無くすのもなー』と話している時に、理事長が『真実の薬』を忘れたことにより決まった、それが今年の有志企画の『本音で話そう!!』だ。

 舞台は実行委員で作り上げたのでけっこうポップになっている。

 舞台を運び込み、司会を日辻にバトンタッチした。正直、心配な点もある。司会をしたいというのは日辻たっての希望だから、友だちとしてそこは信頼するしかない。

「『本音で話そう!!』の司会を務める日辻です。この企画は、ふだん、思っている事をここの参加者に聞いてもらおうという企画です。もし、ここの参加者にふだん思っている相手がいたら答えてもらうのも可能です。事前に数名、舞台上で本音で話したいと思っている先生や生徒に立候補してもらってるのでさっそく行きましょう。時間の関係上、基本的に立候補7人と一般参加者から本音を言いたい人3人と実行委員代表の広瀬くんで終わりです。一般参加希望の3名は1年5組の多奈川 夏美さんまで!! 早いもの順です」
「はーい、私が多奈川でーす」

 そうかー、11人が限界かー。ん? 12人? 当初の予定では10人と聞いて……。

 ふと、先ほど日辻が言った『お前が楽しくないと俺たちも楽しくない』という言葉を思い出した。そっか、日辻なりに気を使ってくれたのか。

 ――ありがとう、やっぱり持つべきは友だちだ。というか、多奈川さんと日辻、えらく仲がいいな

「それではーエントリーナンバー1番、我らが1年5組の担任、藤原 良子(リョウコ)先生!!」

 藤原先生は舞台にあがった。てっきり婚活がうまくいかないなどというのだろうと思っていた。

「なんでよー!!」

 いきなり嘆き始めた。さっそく嫌な予感がした。これ、長くなりそうと。同じ考えなのだろう、舞台上にあがる用意をしていた多奈川さんを日辻が止めているのが見えた。

 『すぅー』と息を吸う音をマイクが拾うほど大きな呼吸をしてから

「私の授業、ぼけーとしてる生徒はいても、寝る生徒が毎年いないのはなんでよー!! 私だって学生時代、爆睡かまして、先生に怒られまくってたのよー!!」

 アハハ、と生徒の間で大爆笑が起きた。日辻と多奈川さんがまた2人でヒソヒソ打ち合わせしているのが見えた。そういえば、夏芽はどこに行ったんだろう。有志企画のネタバレはせずに入場時、『有志企画参加してくれますか?』という記名式のアンケートをしたが、参加者の半分くらいが参加すればいいやと思っていた有志企画だが、実際は全員が参加してくれた。よって、舞台も焚き木の近くに予定を変更し置いている。

「藤原先生ありがとうございます! ここで本音を言いたい生徒が現れました!! ネタ的にこれは2番目にしたいので、順序を変えてお送りします!! ではではー、一般参加生徒より、3年6組の双葉(フタバ)先輩!! 双葉 竜二(リュウジ)先輩!! どうぞ!!」
「おれが本音を言いたいのは、今年の1年5組の担任の藤原先生です!!」

 『おっ、さっそく藤原先生ご指名だ!!』と日辻は言っているが、声が若干震えている。そんなに怖いことなのだろうか? 藤原先生への本音って。きっと、司会の緊張だろう。双葉先輩も藤原先生同様、『すぅー』と呼吸をする音が聞こえた。まぁ、ふだん言えない本音を言うのは緊張するよなーと思いつつ聞いていた。

「藤原先生は、おれが宝賀の中等部に入るきっかけをくれ、そして、そのまま高等部に進学するのを決心させてくれた恩師とも言える先生です。12年前に交通事故に遭いそうな時におれをかばって第1希望の面接を無視して助けてくれました!!」

 生徒の視線は双葉先輩と藤原先生を交互に見ている。それに気づいた多奈川さんが藤原先生を舞台上にあげた。藤原先生は双葉先輩の話に思い当たる節があるらしく、懐かしいなぁという顔をしていた。日辻は藤原先生に何かOKマークをしていた。

「双葉くん、ありがとう!」
「藤原先生……。でも、これだけが本音じゃないんです!!」
「え?」

 おそらく日辻がさっき出した返事は双葉先輩に『相槌をうっていい』という意味だろう。そして、藤原先生の『え?』は、その場にいた全員が思わずこぼした言葉だ。オレも言っていた。いつの間にかオレの横にいた夏芽も同じような雰囲気だ。

「藤原先生、あなたは先ほど、どうしてあなたの授業で寝る生徒がいないのか言いましたよね? それはあなたの授業が面白く、うまい証拠です!」
「……」

 藤原先生もここで相槌をうつのもどうかという顔をしている。

「……、そして、おれは生徒として藤原先生の授業を受けてきました!!」

 『ん?』とオレは思った。

 ――この流れ、もしかして……

「藤原先生に憧れておれは教育大学にいきます! もう、推薦で進学先は決まってます!! 地元の大学です!! おれは……、藤原先生と家で教育論や教え方、仕事の愚痴をお互いに言い合う関係になりたいです!! 藤原先生、おれはあなたが好きです!! 生徒という関係以外におれに思ってることがあったら教えてほしいです! おれが卒業した後の4月以降からでいいです!! もし、先生さえよければおれと恋人の関係になってください!!」

 遠回しだなーと思っていたが、やはりオレの予想は的中。『さ、さ、返事を!』と多奈川さんが藤原先生に催促していた。

「双葉くん、ありがとう。あなたの気持ちは確かに受け取ったわ。勇気を出してくれてありがとう。12年前のあの子が、こんなに大きく育ってくれて私は嬉しいわ。でも、ごめんなさい。私はあなたを生徒もしくは教え子以外と思ったことはないわ」
「……分かりました、……ありがとうございます」

 双葉先輩は悲しそうにとぼとぼと舞台から降りていった。

 ――そうだよなー、フラれたら悲しいよなぁ。というか、先生と生徒の恋人関係はこんなに正々堂々してはいけない。やはり、禁断の関係だから、美しく見えるのだ。いや、美しくはないか……

「でも、そういう愛もあるよな……」

 オレはボソッとつぶやいた。『本音で話そう!!』は着々と進んでいく。双葉先輩のように恋愛の本音や、先生によるおもしろい本音などを聞いていて楽しかった。そして、12人目、そうか、時間的にもこれで終わりか。

「最後は、今年のクリスマス会の代表、広瀬 迅による本音です!!」
「これがクリスマス会の締めのあいさつではないので、ご了承あれ!!」

 なんか多奈川さんもテンション高いな。この空気に流されないと良いんだけど……。

「さ、迅くん!! 本音を言いたいのは、実行委員の中でもこの人だよね? さ、夏芽ちゃんも舞台にあがって!!」
「ちょ、多奈川さん?? 本音言いたい相手、勝手に決めないで!!」

 日辻もグッと親指を立てている。こいつら、裏で組んだな。有志企画の案を日辻にwireでもらった時は『愛の告白大会』だった。それに賛同したのは多奈川さんだけだったし、それに近い『本音を話そう!!』に決まった事を日辻に報告した時に、司会は日辻でサブ司会を多奈川さんに指名してきた。きっと、こうやって裏でやり取りしていたのだろう。

「締めのあいさつではないです。でも、締めのあいさつっぽいことを言わせてください。まず、こんなにたくさんの先輩や同級生、それに中等部の生徒が集まってくれるとは思ってなかったです。参加してくれた皆さんありがとう!!」

 『そんな言葉が聞きたいんじゃないー!!』『梶原との関係はー?』『夏芽ちゃんとどういう関係?』などと中等部の女子や男子から声が聞こえてきた。

 ――夏芽って中等部のアイドル的存在なのか……?

 そんな疑念を抱きつつ、言葉を続けようと思ったが、思ったより野次が多かった。

「さ、さ、この会はそんな建前は置いとこう!!」

 多奈川さんが『早く本音を!』と言わんばかりに催促してくる。藤原先生や双葉先輩のように、『すぅー』と息を吸う音をマイクが拾い、オレは本音を言った。

「梶原 夏芽!!」
「……はい」

 オレが夏芽の名前を呼ぶと夏芽は恥ずかしそうに答えた。ふと会場を見渡した。オレはこんなところでフラッシュモブのような事をしていていいのだろうか? まかりなりにもオレはこのクリスマス会実行委員代表だ。でも、今まで、何度も夏芽の方から『好き』と言われてきた。しかし、オレからは『真実の薬』を飲んだ時に、軽く『好き』と言ったきりだ。確かにあの頃よりも大好きだし愛している。

「広瀬ーー!! しっかりしろー!! 男だろー!!」

 気づけば夏芽のお父さん、宇川さん、矢切さん、宮古さんが揃って、『本音を話そう!!』を見ていた。そりゃ、そうか。お客さんを全員こちらが奪ったのだから。ちなみに、叫んだのは宇川さんかと思った。しかし、夏芽が『お父さん……』とつぶやいたのと、宇川さんにしては声が酒焼けしていなかったのを考慮して鮮魚のはなまるの店主であり、夏芽のお父さんの梶原 忠の声だと判断した。

「……、恋人の関係になって、そろそろ1ヶ月経ちそうだけど、ちゃんとオレの……気持ち伝えてなかったから……、今、伝える」
「……うん」

 夏芽とオレが恋人の関係がそろそろ1ヶ月で想いをきちんと伝えていないと聞いて中等部や高校生がかなりザワザワした。

「オレは夏芽が好きだ。……愛している。……夏芽しか見えない」

 オレの一言一言に、会場からは、『おおー!!』や『ヒューヒュー!!』と囃し立てる野次が飛んできた。

「……知ってる。ありがとう」

 夏芽も言葉に詰まっているのが見える。オレはこれ以上の本音を言うのを辞めようと思った。そこに、麻実さんが叫んだ。

「もっと本音あるだろー!!」

「……っ」

 それを聞いて、オレはさらに言葉が詰まった。

「……るよ」

 それを聞いて会場はさらに盛り上がりを見せた。ほぼ、参加者全員による、『本音ってなーにー?』と叫ばれた。最後に、宇川さんの酒焼けした声のガハハが聞こえて少し安心したと同時に、気が緩んだ。きっとそれのせいだろう。

「ホントにこのクリスマス会が終わってほしくない!! 終わったら、夏芽と毎日会えなくなる、そんなの嫌だ。……というか、……ここまで言ったからにはホントの本音言う。今からクリスマス会実行委員代表……失格なこと言うけど、これがオレの本音……」

 『なーにー!!』と周りもノリノリで聞いてくる。これがなかったら、さすがに今から言う本音は言えなかっただろう。別に打ち合わせした訳でもなく、先生や商店街の店主達の声も聞こえた。今度は宮古さんの、漢見せなさいという感じの『なーにー!!』も少し遅れてしっかり聞こえた。

「ホントは……、このクリスマス会よりも夏芽!! キミだけと過ごしたかったんだ!! このクリスマス!!」

 会場がざわつくかと思った。オレへの誹謗中傷のような言葉も言われる覚悟だった。しかし、現実は何もなく、参加者全員が優しく見守ってくれている。

「……ふふっ、わたしもです」

 会場の参加者があきらかに、ニヤニヤしながらの野次が聞こえた。そこに、男子の野太い声で、『キースー、キースー』と茶化した声が聞こえた。さすがに『ここが潮時か』とか『流石にそれは……』と思ったのだろう。実行委員の中で『本音を話そう!!』の司会を勤めていた多奈川さんがマイクを握った。オレは夏芽に手を差し伸べて、舞台から降りていったところだった。そこに日辻が多奈川さんに耳打ちをして、多奈川さんの顔が真っ赤になっていた。何を話していたんだろう。

「え!? 日辻くん!?」
「ごめん。俺も見てたらつい本音言いたくなった。これが俺の……気持ち」

 『本音を話そう!!』の会場は『まだ続くのか?』とザワザワしていた。オレも夏芽も麻実さんも多奈川さんと日辻に『マイク!! マイクが入ってる!!』とアイコンタクトやジェスチャーを送った。しかし、それに一切気付かず、多奈川さんと日辻の二人の世界に入っていきそうだ。いつの間にか、オレたち実行委員のそばにいた商店街の店主達が叫んだ。

「司会の兄ちゃんの思いぶちまけて!!」
「この『本音を話そう!!』を終わらせよう!!」
「ダメならダメで次があるよ!!」
「本音ぶちまけたやつら!! そして、本音をぶつけられたやつら!! 後で肉屋の宇川の売店に来い!! 牛串追加してやる!!」

 そんな声が聞こえたのか、聞こえてないのかはわからない。

「夏美センパイへの想いってなーにー!! 日辻さん答えてー!!」

 幸せそうに夏芽が叫んだ。ちなみに、夏芽のお父さんは、先ほど、『この本音を話そう!! を終わらせよう!!』と叫んでいた。確かに予定よりかはほんのわずかに時間は早い。それなら、オレたち実行委員ができるのは同じ実行委員と有志代表を応援することだろう。

「日辻ー!! お前の本音を教えてくれー!!」

「広瀬……」
「……迅くん」

 クリスマス会ということもあり、日辻も多奈川さんも、通常よりもかなりテンションが高い。多奈川さんがマイクを握り、もう1本のマイクを日辻に恥ずかしそうに渡した。ここにいるみんなが日辻の言いたいことはわかっている。その思いを……こういう時はこちらの方がいいだろう……この日辻の本音をどうぶつけるか。これが見どころなのだろう。

「多奈川 夏美さん、あなたが好きです。たとえ、あなたが他の男性しか考えられなくても、構わない。俺はあなたの男になりたい。今後、あなたの横を歩くのは俺がいい!!」
「……日辻くん……」

 日辻の本音もとい、愛の告白は詩人的だった。

「私のどこがいいの? 日辻くんのことを試してるとかじゃなくて……。私ってどんくさいし、年下に見られやすいし、勉強も得意というわけでもないし、スポーツはへっぽこだし……」
「……、語るよ? キモいと思われるくらい語るよ」

 確かに多奈川さんの言うことも一理ある。多奈川さんをバカにしているわけではない。むしろ、いい意味で誉め言葉の『いい人』だ。正直、夏芽と出会っていなかったら、多奈川さんを好きになっていたかもしれないと思うほどだ。

「迅くん、なんか鼻の下のびてる」
「それは夏芽もだ」

 もう少し『本音を話そう!!』が延長されそうなのを見て、麻実さんが宮古さんに話しかけに行った。おそらく、後半の卵焼きレクチャーの用意だろう。卵焼きレクチャーは麻実さんが実行委員の中で担当なので、問題はない。宮古さんの様子を見ていると、『もう少し、もう少し』と言っているっぽい。確かにここは、この企画の盛り上がり場でもある。いや、正直、誰かが本音を言うたびすごい盛り上がっていたけど。オレの時は、うん、周りの反応を少ししか感じることができなかった。これは、本音を言っていることによる緊張からだろう。

 オレがこんなことを考えている間にも、日辻はずっと多奈川さんのことを褒めていた。比較するわけではないが、多分……、いや、確実に、オレに『夏芽の好きなところを語れ!!』と言われてもここまでは語れない。多奈川さんはそんなにも日辻から好かれて愛されているんだな。と思ったと同時に日辻が多奈川さんに本音をぶつけた時に言った『たとえ、あなたが他の男性しか考えられなくても、構わない』これは比喩なのだろうか……。それとも、日辻の目には多奈川さんが誰かに恋しているかのように見えるのだろうか?

「……という多奈川 夏美さん、もう一度言います。そんなあなたが大好きです。付き合ってください」
「クスッ、そんなに私のこと見てくれたんだ。ありがとう……」
「え……?」

 日辻の反応も妥当だ。

『ありがとう』
 
 これはだいたい恋愛では、『ごめんなさい』と同義だ。宮古さん含め、参加者全体が『もしかして、これ日辻フラれるのでは?』という空気になった。オレも日辻は多奈川さんと付き合うのだろうと思っていた。ただ、ここで重要なのは日辻が告白した相手が、『多奈川 夏美』という点だ。日辻が褒めている間に言っていた言葉のひとつだが、『一見常識人に見えるが、けっこう抜けているところ』これだ。多分というか、多奈川さんは純粋に感謝の意味としての『ありがとう』なのだろう。

「日辻くんのこと、もっと……知りたいな」
「それって……」
「うん!! 私はいつまでも過去のこと引きずっていられないし、最近、日辻くんのことを考えていることが増えたんだ。好き……かどうかはまだわからない。でも、なんていうんだろう。その申し訳ないんだけど、日辻くんはすごくいい人だし、一緒にいて楽しい。日辻くんに恋してる!! とも思えない」
「……、もういいよ、ありがとう」
「え?」

 うん、これは擁護のしようがないほど多奈川さんが悪い。だって、この言っている言葉は日辻目線ではフラれるときの言葉オンパレードだもん。でも、クリスマス会実行委員で多奈川さんと深く関わった友だちの仲だからわかる。

 ――これは、多奈川さん的にはOKの合図だ

「え? え? どうして? 私は日辻くんと付き合うつもりなのに、私が振ったかのようになってるの?」
「え? だって、『好きかどうかわからない』とか『いい人』とかは普通に考えて、振るときのセリフだよ」

 こうして、『本音を話そう!!』は無事終わった。この後は、後半のメインの『料亭 宮古の卵焼き講座』だ。これは宮古さんが事前に条件を付けてきた。参加していいのは女子生徒のみ。男子生徒が知りたければ、意中の女子に頼めということだった。その関係上、オレも会場の体育館に入れないし、アナウンスもダメと言われた。


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「これよりクリスマス会の中盤のメインイベント、有志企画を用意します。用意が出来るまで皆様、しばし、ご歓談してお過ごしくださいませ。協力を頼まれていた生徒は肉屋の宇川付近までお集まりください」
 オレと夏芽が肉屋の宇川さんや鮮魚のはなまるさんとのやり取りしている間にクリスマス会実行委員のグループwireで『有志企画の時間が近いよ!! 迅くんアナウンスして!!』と来ていたが、グループ内で夏芽と連絡をとっているのを確認して麻美さんが多奈川さんに『緊急事態が発生してるみたい、なっちゃんアナウンスお願い!!』と言っていたので多奈川さんがアナウンスしていた。
 徐々に肉屋の宇川さんの周りに男子生徒が集まってきた。
「有志企画の舞台運びを手伝って欲しいんだ!」
 有志企画。
 それは商店街の協力を仰ぐことが決定したのとほぼ同時に理事長が忘れていった『真実の薬』を参考に考えられた企画だ。ここ2年のクリスマス会は聞いた話、無礼講で体育館でクリスマス会実行委員の挨拶や校長に野次を飛ばすのが恒例行事となっていた。『それを無くすのもなー』と話している時に、理事長が『真実の薬』を忘れたことにより決まった、それが今年の有志企画の『本音で話そう!!』だ。
 舞台は実行委員で作り上げたのでけっこうポップになっている。
 舞台を運び込み、司会を日辻にバトンタッチした。正直、心配な点もある。司会をしたいというのは日辻たっての希望だから、友だちとしてそこは信頼するしかない。
「『本音で話そう!!』の司会を務める日辻です。この企画は、ふだん、思っている事をここの参加者に聞いてもらおうという企画です。もし、ここの参加者にふだん思っている相手がいたら答えてもらうのも可能です。事前に数名、舞台上で本音で話したいと思っている先生や生徒に立候補してもらってるのでさっそく行きましょう。時間の関係上、基本的に立候補7人と一般参加者から本音を言いたい人3人と実行委員代表の広瀬くんで終わりです。一般参加希望の3名は1年5組の多奈川 夏美さんまで!! 早いもの順です」
「はーい、私が多奈川でーす」
 そうかー、11人が限界かー。ん? 12人? 当初の予定では10人と聞いて……。
 ふと、先ほど日辻が言った『お前が楽しくないと俺たちも楽しくない』という言葉を思い出した。そっか、日辻なりに気を使ってくれたのか。
 ――ありがとう、やっぱり持つべきは友だちだ。というか、多奈川さんと日辻、えらく仲がいいな
「それではーエントリーナンバー1番、我らが1年5組の担任、藤原 |良子《リョウコ》先生!!」
 藤原先生は舞台にあがった。てっきり婚活がうまくいかないなどというのだろうと思っていた。
「なんでよー!!」
 いきなり嘆き始めた。さっそく嫌な予感がした。これ、長くなりそうと。同じ考えなのだろう、舞台上にあがる用意をしていた多奈川さんを日辻が止めているのが見えた。
 『すぅー』と息を吸う音をマイクが拾うほど大きな呼吸をしてから
「私の授業、ぼけーとしてる生徒はいても、寝る生徒が毎年いないのはなんでよー!! 私だって学生時代、爆睡かまして、先生に怒られまくってたのよー!!」
 アハハ、と生徒の間で大爆笑が起きた。日辻と多奈川さんがまた2人でヒソヒソ打ち合わせしているのが見えた。そういえば、夏芽はどこに行ったんだろう。有志企画のネタバレはせずに入場時、『有志企画参加してくれますか?』という記名式のアンケートをしたが、参加者の半分くらいが参加すればいいやと思っていた有志企画だが、実際は全員が参加してくれた。よって、舞台も焚き木の近くに予定を変更し置いている。
「藤原先生ありがとうございます! ここで本音を言いたい生徒が現れました!! ネタ的にこれは2番目にしたいので、順序を変えてお送りします!! ではではー、一般参加生徒より、3年6組の|双葉《フタバ》先輩!! 双葉 |竜二《リュウジ》先輩!! どうぞ!!」
「おれが本音を言いたいのは、今年の1年5組の担任の藤原先生です!!」
 『おっ、さっそく藤原先生ご指名だ!!』と日辻は言っているが、声が若干震えている。そんなに怖いことなのだろうか? 藤原先生への本音って。きっと、司会の緊張だろう。双葉先輩も藤原先生同様、『すぅー』と呼吸をする音が聞こえた。まぁ、ふだん言えない本音を言うのは緊張するよなーと思いつつ聞いていた。
「藤原先生は、おれが宝賀の中等部に入るきっかけをくれ、そして、そのまま高等部に進学するのを決心させてくれた恩師とも言える先生です。12年前に交通事故に遭いそうな時におれをかばって第1希望の面接を無視して助けてくれました!!」
 生徒の視線は双葉先輩と藤原先生を交互に見ている。それに気づいた多奈川さんが藤原先生を舞台上にあげた。藤原先生は双葉先輩の話に思い当たる節があるらしく、懐かしいなぁという顔をしていた。日辻は藤原先生に何かOKマークをしていた。
「双葉くん、ありがとう!」
「藤原先生……。でも、これだけが本音じゃないんです!!」
「え?」
 おそらく日辻がさっき出した返事は双葉先輩に『相槌をうっていい』という意味だろう。そして、藤原先生の『え?』は、その場にいた全員が思わずこぼした言葉だ。オレも言っていた。いつの間にかオレの横にいた夏芽も同じような雰囲気だ。
「藤原先生、あなたは先ほど、どうしてあなたの授業で寝る生徒がいないのか言いましたよね? それはあなたの授業が面白く、うまい証拠です!」
「……」
 藤原先生もここで相槌をうつのもどうかという顔をしている。
「……、そして、おれは生徒として藤原先生の授業を受けてきました!!」
 『ん?』とオレは思った。
 ――この流れ、もしかして……
「藤原先生に憧れておれは教育大学にいきます! もう、推薦で進学先は決まってます!! 地元の大学です!! おれは……、藤原先生と家で教育論や教え方、仕事の愚痴をお互いに言い合う関係になりたいです!! 藤原先生、おれはあなたが好きです!! 生徒という関係以外におれに思ってることがあったら教えてほしいです! おれが卒業した後の4月以降からでいいです!! もし、先生さえよければおれと恋人の関係になってください!!」
 遠回しだなーと思っていたが、やはりオレの予想は的中。『さ、さ、返事を!』と多奈川さんが藤原先生に催促していた。
「双葉くん、ありがとう。あなたの気持ちは確かに受け取ったわ。勇気を出してくれてありがとう。12年前のあの子が、こんなに大きく育ってくれて私は嬉しいわ。でも、ごめんなさい。私はあなたを生徒もしくは教え子以外と思ったことはないわ」
「……分かりました、……ありがとうございます」
 双葉先輩は悲しそうにとぼとぼと舞台から降りていった。
 ――そうだよなー、フラれたら悲しいよなぁ。というか、先生と生徒の恋人関係はこんなに正々堂々してはいけない。やはり、禁断の関係だから、美しく見えるのだ。いや、美しくはないか……
「でも、そういう愛もあるよな……」
 オレはボソッとつぶやいた。『本音で話そう!!』は着々と進んでいく。双葉先輩のように恋愛の本音や、先生によるおもしろい本音などを聞いていて楽しかった。そして、12人目、そうか、時間的にもこれで終わりか。
「最後は、今年のクリスマス会の代表、広瀬 迅による本音です!!」
「これがクリスマス会の締めのあいさつではないので、ご了承あれ!!」
 なんか多奈川さんもテンション高いな。この空気に流されないと良いんだけど……。
「さ、迅くん!! 本音を言いたいのは、実行委員の中でもこの人だよね? さ、夏芽ちゃんも舞台にあがって!!」
「ちょ、多奈川さん?? 本音言いたい相手、勝手に決めないで!!」
 日辻もグッと親指を立てている。こいつら、裏で組んだな。有志企画の案を日辻にwireでもらった時は『愛の告白大会』だった。それに賛同したのは多奈川さんだけだったし、それに近い『本音を話そう!!』に決まった事を日辻に報告した時に、司会は日辻でサブ司会を多奈川さんに指名してきた。きっと、こうやって裏でやり取りしていたのだろう。
「締めのあいさつではないです。でも、締めのあいさつっぽいことを言わせてください。まず、こんなにたくさんの先輩や同級生、それに中等部の生徒が集まってくれるとは思ってなかったです。参加してくれた皆さんありがとう!!」
 『そんな言葉が聞きたいんじゃないー!!』『梶原との関係はー?』『夏芽ちゃんとどういう関係?』などと中等部の女子や男子から声が聞こえてきた。
 ――夏芽って中等部のアイドル的存在なのか……?
 そんな疑念を抱きつつ、言葉を続けようと思ったが、思ったより野次が多かった。
「さ、さ、この会はそんな建前は置いとこう!!」
 多奈川さんが『早く本音を!』と言わんばかりに催促してくる。藤原先生や双葉先輩のように、『すぅー』と息を吸う音をマイクが拾い、オレは本音を言った。
「梶原 夏芽!!」
「……はい」
 オレが夏芽の名前を呼ぶと夏芽は恥ずかしそうに答えた。ふと会場を見渡した。オレはこんなところでフラッシュモブのような事をしていていいのだろうか? まかりなりにもオレはこのクリスマス会実行委員代表だ。でも、今まで、何度も夏芽の方から『好き』と言われてきた。しかし、オレからは『真実の薬』を飲んだ時に、軽く『好き』と言ったきりだ。確かにあの頃よりも大好きだし愛している。
「広瀬ーー!! しっかりしろー!! 男だろー!!」
 気づけば夏芽のお父さん、宇川さん、矢切さん、宮古さんが揃って、『本音を話そう!!』を見ていた。そりゃ、そうか。お客さんを全員こちらが奪ったのだから。ちなみに、叫んだのは宇川さんかと思った。しかし、夏芽が『お父さん……』とつぶやいたのと、宇川さんにしては声が酒焼けしていなかったのを考慮して鮮魚のはなまるの店主であり、夏芽のお父さんの梶原 忠の声だと判断した。
「……、恋人の関係になって、そろそろ1ヶ月経ちそうだけど、ちゃんとオレの……気持ち伝えてなかったから……、今、伝える」
「……うん」
 夏芽とオレが恋人の関係がそろそろ1ヶ月で想いをきちんと伝えていないと聞いて中等部や高校生がかなりザワザワした。
「オレは夏芽が好きだ。……愛している。……夏芽しか見えない」
 オレの一言一言に、会場からは、『おおー!!』や『ヒューヒュー!!』と囃し立てる野次が飛んできた。
「……知ってる。ありがとう」
 夏芽も言葉に詰まっているのが見える。オレはこれ以上の本音を言うのを辞めようと思った。そこに、麻実さんが叫んだ。
「もっと本音あるだろー!!」
「……っ」
 それを聞いて、オレはさらに言葉が詰まった。
「……るよ」
 それを聞いて会場はさらに盛り上がりを見せた。ほぼ、参加者全員による、『本音ってなーにー?』と叫ばれた。最後に、宇川さんの酒焼けした声のガハハが聞こえて少し安心したと同時に、気が緩んだ。きっとそれのせいだろう。
「ホントにこのクリスマス会が終わってほしくない!! 終わったら、夏芽と毎日会えなくなる、そんなの嫌だ。……というか、……ここまで言ったからにはホントの本音言う。今からクリスマス会実行委員代表……失格なこと言うけど、これがオレの本音……」
 『なーにー!!』と周りもノリノリで聞いてくる。これがなかったら、さすがに今から言う本音は言えなかっただろう。別に打ち合わせした訳でもなく、先生や商店街の店主達の声も聞こえた。今度は宮古さんの、漢見せなさいという感じの『なーにー!!』も少し遅れてしっかり聞こえた。
「ホントは……、このクリスマス会よりも夏芽!! キミだけと過ごしたかったんだ!! このクリスマス!!」
 会場がざわつくかと思った。オレへの誹謗中傷のような言葉も言われる覚悟だった。しかし、現実は何もなく、参加者全員が優しく見守ってくれている。
「……ふふっ、わたしもです」
 会場の参加者があきらかに、ニヤニヤしながらの野次が聞こえた。そこに、男子の野太い声で、『キースー、キースー』と茶化した声が聞こえた。さすがに『ここが潮時か』とか『流石にそれは……』と思ったのだろう。実行委員の中で『本音を話そう!!』の司会を勤めていた多奈川さんがマイクを握った。オレは夏芽に手を差し伸べて、舞台から降りていったところだった。そこに日辻が多奈川さんに耳打ちをして、多奈川さんの顔が真っ赤になっていた。何を話していたんだろう。
「え!? 日辻くん!?」
「ごめん。俺も見てたらつい本音言いたくなった。これが俺の……気持ち」
 『本音を話そう!!』の会場は『まだ続くのか?』とザワザワしていた。オレも夏芽も麻実さんも多奈川さんと日辻に『マイク!! マイクが入ってる!!』とアイコンタクトやジェスチャーを送った。しかし、それに一切気付かず、多奈川さんと日辻の二人の世界に入っていきそうだ。いつの間にか、オレたち実行委員のそばにいた商店街の店主達が叫んだ。
「司会の兄ちゃんの思いぶちまけて!!」
「この『本音を話そう!!』を終わらせよう!!」
「ダメならダメで次があるよ!!」
「本音ぶちまけたやつら!! そして、本音をぶつけられたやつら!! 後で肉屋の宇川の売店に来い!! 牛串追加してやる!!」
 そんな声が聞こえたのか、聞こえてないのかはわからない。
「夏美センパイへの想いってなーにー!! 日辻さん答えてー!!」
 幸せそうに夏芽が叫んだ。ちなみに、夏芽のお父さんは、先ほど、『この本音を話そう!! を終わらせよう!!』と叫んでいた。確かに予定よりかはほんのわずかに時間は早い。それなら、オレたち実行委員ができるのは同じ実行委員と有志代表を応援することだろう。
「日辻ー!! お前の本音を教えてくれー!!」
「広瀬……」
「……迅くん」
 クリスマス会ということもあり、日辻も多奈川さんも、通常よりもかなりテンションが高い。多奈川さんがマイクを握り、もう1本のマイクを日辻に恥ずかしそうに渡した。ここにいるみんなが日辻の言いたいことはわかっている。その思いを……こういう時はこちらの方がいいだろう……この日辻の本音をどうぶつけるか。これが見どころなのだろう。
「多奈川 夏美さん、あなたが好きです。たとえ、あなたが他の男性しか考えられなくても、構わない。俺はあなたの男になりたい。今後、あなたの横を歩くのは俺がいい!!」
「……日辻くん……」
 日辻の本音もとい、愛の告白は詩人的だった。
「私のどこがいいの? 日辻くんのことを試してるとかじゃなくて……。私ってどんくさいし、年下に見られやすいし、勉強も得意というわけでもないし、スポーツはへっぽこだし……」
「……、語るよ? キモいと思われるくらい語るよ」
 確かに多奈川さんの言うことも一理ある。多奈川さんをバカにしているわけではない。むしろ、いい意味で誉め言葉の『いい人』だ。正直、夏芽と出会っていなかったら、多奈川さんを好きになっていたかもしれないと思うほどだ。
「迅くん、なんか鼻の下のびてる」
「それは夏芽もだ」
 もう少し『本音を話そう!!』が延長されそうなのを見て、麻実さんが宮古さんに話しかけに行った。おそらく、後半の卵焼きレクチャーの用意だろう。卵焼きレクチャーは麻実さんが実行委員の中で担当なので、問題はない。宮古さんの様子を見ていると、『もう少し、もう少し』と言っているっぽい。確かにここは、この企画の盛り上がり場でもある。いや、正直、誰かが本音を言うたびすごい盛り上がっていたけど。オレの時は、うん、周りの反応を少ししか感じることができなかった。これは、本音を言っていることによる緊張からだろう。
 オレがこんなことを考えている間にも、日辻はずっと多奈川さんのことを褒めていた。比較するわけではないが、多分……、いや、確実に、オレに『夏芽の好きなところを語れ!!』と言われてもここまでは語れない。多奈川さんはそんなにも日辻から好かれて愛されているんだな。と思ったと同時に日辻が多奈川さんに本音をぶつけた時に言った『たとえ、あなたが他の男性しか考えられなくても、構わない』これは比喩なのだろうか……。それとも、日辻の目には多奈川さんが誰かに恋しているかのように見えるのだろうか?
「……という多奈川 夏美さん、もう一度言います。そんなあなたが大好きです。付き合ってください」
「クスッ、そんなに私のこと見てくれたんだ。ありがとう……」
「え……?」
 日辻の反応も妥当だ。
『ありがとう』
 これはだいたい恋愛では、『ごめんなさい』と同義だ。宮古さん含め、参加者全体が『もしかして、これ日辻フラれるのでは?』という空気になった。オレも日辻は多奈川さんと付き合うのだろうと思っていた。ただ、ここで重要なのは日辻が告白した相手が、『多奈川 夏美』という点だ。日辻が褒めている間に言っていた言葉のひとつだが、『一見常識人に見えるが、けっこう抜けているところ』これだ。多分というか、多奈川さんは純粋に感謝の意味としての『ありがとう』なのだろう。
「日辻くんのこと、もっと……知りたいな」
「それって……」
「うん!! 私はいつまでも過去のこと引きずっていられないし、最近、日辻くんのことを考えていることが増えたんだ。好き……かどうかはまだわからない。でも、なんていうんだろう。その申し訳ないんだけど、日辻くんはすごくいい人だし、一緒にいて楽しい。日辻くんに恋してる!! とも思えない」
「……、もういいよ、ありがとう」
「え?」
 うん、これは擁護のしようがないほど多奈川さんが悪い。だって、この言っている言葉は日辻目線ではフラれるときの言葉オンパレードだもん。でも、クリスマス会実行委員で多奈川さんと深く関わった友だちの仲だからわかる。
 ――これは、多奈川さん的にはOKの合図だ
「え? え? どうして? 私は日辻くんと付き合うつもりなのに、私が振ったかのようになってるの?」
「え? だって、『好きかどうかわからない』とか『いい人』とかは普通に考えて、振るときのセリフだよ」
 こうして、『本音を話そう!!』は無事終わった。この後は、後半のメインの『料亭 宮古の卵焼き講座』だ。これは宮古さんが事前に条件を付けてきた。参加していいのは女子生徒のみ。男子生徒が知りたければ、意中の女子に頼めということだった。その関係上、オレも会場の体育館に入れないし、アナウンスもダメと言われた。