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第6話 稼ぎ時を迎えた陽君

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 人に限らず生物は、生きている限り必ず死を迎える。
 では、生きている、とはどんな状態を言うんだろう?
 心臓が動いていて、脳が動いていて……それらが活動を止めた時、体を巡る血液やリンパ液はどうなっている? 魂って呼ばれる部分はどうなる?
 僕がそんなことに興味を持ったきっかけは、正直覚えていない。
 元から好きなだけなのか、覚えていないだけで興味を持つようになった出来事がなにかあったのか。
 覚えていないものは、ないものと同じだ。だから、理由なんてどうでもいい。
 僕が興味を持っているのは、生死についてだけじゃない。人それぞれが持つ感情も面白いと思っている。
 その一つである、呪い。
 人が持っている感情である、妬みや怒りなどが相手の不幸を祈ることに繫がる。
 ちなみに僕は、羨ましいという目で他人を見ることなんかしょっちゅうだ。
 友達と楽しそうに笑い合う姿、いかにも幸せですって顔してイチャついてるカップル。ちっ。うらやま。
 それは、いかにも年頃の子どもっぽい感情だ。
 僕は遠巻きに自分のそれを眺めて、研究しているような感覚でいる。
 いつ、どこでなにを得て、僕はどう変わっていくのだろう?
 僕は自分自身が変化していく様に、興味津々だった。
 
 死後の世界だのユーレイだの、僕が興味をそそられた本の表紙はたいていおどろおどろしいインパクトあるものだった。
 本の内容を知っているのかいないのか、女子も男子も『また村上君が気持ち悪い本を読んでる』と僕を敬遠した。
 つまり、僕は気持ち悪い人間だと烙印を押されてきたわけだ。
 小学生時代にこれが繰り返され、僕は自己否定に陥るかと思いきや、そうならなかった。
 それどころか逆ベクトルの力が働いた。
 もっとその道を極めて、もっと気持ち悪がらせてやろう、そうしよう。
 いつからかそう思うようになって、手を出したのが占いだった。
 しかしまあ、なにに手を出そうが女子は一人として近寄ってこなかったね。
 同性である男子生徒からボツボツと悩みごとなんかを相談され始めたのは、中二頃からだ。
 内容は恋愛、部活動、進路、やる気がない、まあ……色々悩んだり不安になったりする年頃だからねぇ。
 で、まあ適当に占っていい結果だろうがそうじゃなかろうが、僕は僕独自の視点のアドバイスを付け加えて占いの結果を相手に伝えた。
 ものごとは、一方向から見たってつまらない。ひねくれた方向から、色んな角度から見たほうが面白い。
 どう捉え、どう考え、どう失敗し、どう選び直すのか。
 それはその人が決めることだ。
 僕の占いの結果なんて、沢山ある選択肢の内のいくつかを示すだけに過ぎない。
 相手の反応は様々だった。
『すげぇ』『ちょっと考えてみるわ』『やってみる』という前向きな姿勢。
『はっ、こんなん信じねぇし』という強がり。
 無言でがっかりと肩を落としたり、『もう一回やり直せ!』と怒ったり。
 僕は相手からどんなリアクションをとられても、にこりと笑っていた。
 彼らがこの先、どんな風に変わっていくのか妄想するのが楽しかったから。
 だから僕は中学時代、無償でアドバイスを提供していたのだが、それは高校に入学してからやめることにした。
 きっかけは、同じ中学から入学してきた森優斗君の恋愛相談を受けたことだった。
 というか森君はあまりにわかりやすかった。
 症状は恋わずらい。相手は同じ中学だった金子さんだ。
 さて、森君はどうするんだろう……と見守っていたら、一ヶ月ほどで青白い顔になっていた。
 僕は見かねて声をかけた。
 いきなり占ってやる、とは言わない。最初は挨拶程度からだ。
 するとついに耐えきれなくなったのか、金子さんのこと、夏休みに入ったら福岡に引っ越さなきゃならないことなんかを一気に吐き出した。
 あぁ、こりゃ顔色が悪くなるわけだ。考えても仕方のないことをぐるぐると……観察なんかしてないで、もっと早く声をかけてやりゃあ良かった。
『仮に玉砕したとしてもさ、あと一ヶ月もすりゃ夏休みに入るじゃん? つまり、もう顔を見なくて済むわけだ。ふられる前提で話をするのもナンだけどさ、そう考えたら少し気が楽にならない?』
 金子さん、お前のことちらちら見てたんだよ……大丈夫、きっとうまくいくからさ。
 そう思って言ったんだけど、なぜか不意に強烈な苛立ちを感じた。
『僕、苺牛乳飲みたいな……ねぇ森君、金子さんとうまく行ったらさ、僕に苺牛乳ご馳走してよ。一週間でいいからさ』
 素直で優しい森君は、僕が提示した条件をあっさりと承諾した。
 こうして僕は、初めての成功報酬である苺牛乳一週間分を手に入れたのである。
 これをきっかけに、この年は大口案件が二件も入った。
 その件に関しては、二年生の今も継続中だ。報酬は二件とも、結果報告の度に受け取っている。
 僕はなかなかに楽しい高校生活を送っていると思う……足りないのは、彼女の存在くらいのものだ。
「いいな……森君はさ……あ、後で輝に森君の近況を教えてもらおっと」
 立ち去っていく金子さんの背を盗み見ながら、僕は図書館のベンチで読書を続けた。
 大口の依頼主の一人、数学の田口先生との待ち合わせ時間になるまで、まだ時間がある。
 僕は田口先生からの報酬を楽しみにしながら、手にした文庫本のページをめくり続けたのだった。


次のエピソードへ進む 第7話 密偵を依頼される輝君


みんなのリアクション

 人に限らず生物は、生きている限り必ず死を迎える。
 では、生きている、とはどんな状態を言うんだろう?
 心臓が動いていて、脳が動いていて……それらが活動を止めた時、体を巡る血液やリンパ液はどうなっている? 魂って呼ばれる部分はどうなる?
 僕がそんなことに興味を持ったきっかけは、正直覚えていない。
 元から好きなだけなのか、覚えていないだけで興味を持つようになった出来事がなにかあったのか。
 覚えていないものは、ないものと同じだ。だから、理由なんてどうでもいい。
 僕が興味を持っているのは、生死についてだけじゃない。人それぞれが持つ感情も面白いと思っている。
 その一つである、呪い。
 人が持っている感情である、妬みや怒りなどが相手の不幸を祈ることに繫がる。
 ちなみに僕は、羨ましいという目で他人を見ることなんかしょっちゅうだ。
 友達と楽しそうに笑い合う姿、いかにも幸せですって顔してイチャついてるカップル。ちっ。うらやま。
 それは、いかにも年頃の子どもっぽい感情だ。
 僕は遠巻きに自分のそれを眺めて、研究しているような感覚でいる。
 いつ、どこでなにを得て、僕はどう変わっていくのだろう?
 僕は自分自身が変化していく様に、興味津々だった。
 死後の世界だのユーレイだの、僕が興味をそそられた本の表紙はたいていおどろおどろしいインパクトあるものだった。
 本の内容を知っているのかいないのか、女子も男子も『また村上君が気持ち悪い本を読んでる』と僕を敬遠した。
 つまり、僕は気持ち悪い人間だと烙印を押されてきたわけだ。
 小学生時代にこれが繰り返され、僕は自己否定に陥るかと思いきや、そうならなかった。
 それどころか逆ベクトルの力が働いた。
 もっとその道を極めて、もっと気持ち悪がらせてやろう、そうしよう。
 いつからかそう思うようになって、手を出したのが占いだった。
 しかしまあ、なにに手を出そうが女子は一人として近寄ってこなかったね。
 同性である男子生徒からボツボツと悩みごとなんかを相談され始めたのは、中二頃からだ。
 内容は恋愛、部活動、進路、やる気がない、まあ……色々悩んだり不安になったりする年頃だからねぇ。
 で、まあ適当に占っていい結果だろうがそうじゃなかろうが、僕は僕独自の視点のアドバイスを付け加えて占いの結果を相手に伝えた。
 ものごとは、一方向から見たってつまらない。ひねくれた方向から、色んな角度から見たほうが面白い。
 どう捉え、どう考え、どう失敗し、どう選び直すのか。
 それはその人が決めることだ。
 僕の占いの結果なんて、沢山ある選択肢の内のいくつかを示すだけに過ぎない。
 相手の反応は様々だった。
『すげぇ』『ちょっと考えてみるわ』『やってみる』という前向きな姿勢。
『はっ、こんなん信じねぇし』という強がり。
 無言でがっかりと肩を落としたり、『もう一回やり直せ!』と怒ったり。
 僕は相手からどんなリアクションをとられても、にこりと笑っていた。
 彼らがこの先、どんな風に変わっていくのか妄想するのが楽しかったから。
 だから僕は中学時代、無償でアドバイスを提供していたのだが、それは高校に入学してからやめることにした。
 きっかけは、同じ中学から入学してきた森優斗君の恋愛相談を受けたことだった。
 というか森君はあまりにわかりやすかった。
 症状は恋わずらい。相手は同じ中学だった金子さんだ。
 さて、森君はどうするんだろう……と見守っていたら、一ヶ月ほどで青白い顔になっていた。
 僕は見かねて声をかけた。
 いきなり占ってやる、とは言わない。最初は挨拶程度からだ。
 するとついに耐えきれなくなったのか、金子さんのこと、夏休みに入ったら福岡に引っ越さなきゃならないことなんかを一気に吐き出した。
 あぁ、こりゃ顔色が悪くなるわけだ。考えても仕方のないことをぐるぐると……観察なんかしてないで、もっと早く声をかけてやりゃあ良かった。
『仮に玉砕したとしてもさ、あと一ヶ月もすりゃ夏休みに入るじゃん? つまり、もう顔を見なくて済むわけだ。ふられる前提で話をするのもナンだけどさ、そう考えたら少し気が楽にならない?』
 金子さん、お前のことちらちら見てたんだよ……大丈夫、きっとうまくいくからさ。
 そう思って言ったんだけど、なぜか不意に強烈な苛立ちを感じた。
『僕、苺牛乳飲みたいな……ねぇ森君、金子さんとうまく行ったらさ、僕に苺牛乳ご馳走してよ。一週間でいいからさ』
 素直で優しい森君は、僕が提示した条件をあっさりと承諾した。
 こうして僕は、初めての成功報酬である苺牛乳一週間分を手に入れたのである。
 これをきっかけに、この年は大口案件が二件も入った。
 その件に関しては、二年生の今も継続中だ。報酬は二件とも、結果報告の度に受け取っている。
 僕はなかなかに楽しい高校生活を送っていると思う……足りないのは、彼女の存在くらいのものだ。
「いいな……森君はさ……あ、後で輝に森君の近況を教えてもらおっと」
 立ち去っていく金子さんの背を盗み見ながら、僕は図書館のベンチで読書を続けた。
 大口の依頼主の一人、数学の田口先生との待ち合わせ時間になるまで、まだ時間がある。
 僕は田口先生からの報酬を楽しみにしながら、手にした文庫本のページをめくり続けたのだった。