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第3章〜運命の人があなたならいいのに 現実はうまくいかない〜⑤

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 えびす神社の境内正面には、チガヤという植物で作った大きな「茅の輪」が備えられていた。これをくぐることによって、一年の半分の心身の罪・穢をお祓いすることができ、残り半年の安全を祈願すると言われている。
 境内に入ると、まだ、明るさの残る時間にもかかわらず、茅の輪の前には、数十メートル以上の列ができていた。
 
 境内に書かれた説明書きによると、茅の輪くぐりの正式な参拝方法は、「水無月の 夏越の祓する人は ちとせの命 ()ぶといふなり」という御神歌(ごしんか)を唱えながら、8の字を描くように、何度も茅の輪をくぐるらしい。
 もちろん、この長蛇の列が続く中で、一人一人が、そんなことをしていては参拝が終わらないので、今日の参拝者は、正面から茅の輪に向かって一礼してから、輪をくぐるという簡易的な方法で参拝していく。

 境内では、神社と同じ名前のビール会社の生ビールとおつまみの販売も行われている。神社の説明によれば、「音楽の演奏もございますので、(けがれ)を落とし清々しくなった心をさらに音楽とビールで癒し、夏の夜をお過ごしいただければと思います」とのことだが、ケガレを払ったすぐ後に、アルコールを摂取するというのは問題ないのだろうか? 未成年のオレには、良くわからない。

 そんなことを考えていると、オレたちのグループにも茅の輪くぐりの順番が回ってきた。二列に並んでいる行列の中で、いつの間にか、隣りに並んでいた下級生の浦風(うらかぜ)さんと一緒に、正面から一礼をして輪をくぐろうとすると、彼女が、何事かをつぶやく様子が横目で見て取れた。

(説明書きにあった御神歌(ごしんか)でも唱えてるのかな? でも、良くあの内容を覚えられたな)

 そう感じながら、輪くぐりを終えて、あとに続く同級生や先輩たちを待つ。

「いや〜、ケガレが払えて、身体の中からキレイになった気がするわ〜」

 と、久々知が語れば、長洲(ながす)先輩は、

「これで、心機一転して、受験に備えないとね、栄一」

と、小田先輩に声を掛ける。そんな二人をどこか複雑な表情で眺めている浦風さんの様子に気付いたのは、もしかしたら、オレだけだったかも知れない。
 ただ、そんな一部の雰囲気は、全体に伝わることなく、
 
「さあ、それじゃ、いよいよ屋台に繰り出すぞ〜!」

という活発な上級生女子の声で、オレたちは、神社の境内を出て、夏祭りの屋台が並ぶ路地に移動する。

 徐々に夕闇が濃くなる中、色とりどりの屋台の暖簾(のれん)や照明が並ぶ光景を目にすると、茅の輪くぐりの参拝前からテンションの高い、長洲先輩と久々知だけでなく、オレの気持ちも自然と上がってきた。

 参拝前の事前協議(?)のとおり、女子たちは、チーズハットグに、牛タン串、焼きそばにベビーカステラ、フルーツ飴やチョコバナナなどの屋台を次々に巡っていく。
 そんななか、オレは、フレーバーを選べる、ふりふりポテトを購入してつまみながら、女子たちの買ったモノのおすそ分けをいただいたりしていた(と言っても、シェアすることが前提のベビーカステラをもらっただけだが……)。

 夕飯がわりと言っては、やや心もとない気もするが、腹具合もそれなりに満足してきたので、いよいよ景品系の屋台を巡ることにする。

「小田先輩、立花(たちばな)、射的で、ひと勝負しません?」

 ちょうど、空気銃が何丁も並んでいる屋台が見えてきたところで、久々知が声をかけてきた。

「おっ、いいね! やろうじゃないか? 一番得点が高いヤツが、かき氷を二人から奢ってもらうってのは、どうだ?」

 クラスメートの提案に乗った上級生が、たずねてくる。

「イイですよ」

 と、声を揃えたオレたちの返事にうなずきながら、小田先輩は、ルールを提案する。

「それじゃ、的の点数を決めておこう。一番下の段の小さな駄菓子は1点、中段の箱の菓子は3点、最上段の大きなオモチャ類は5点だ。合計の点数が高いヤツが優勝な」

「わかりました」

 ふたたび、声を揃えたオレと久々知は、先輩に続いて、射的屋の店主に500円玉を手渡す。
 コルクを銃口に込めるタイプの空気銃で的を狙うこの店舗の射的は、5発500円という価格設定だ。
 まずは、小田先輩が先陣を切って、銃口にコルク弾を詰め込む。
 先輩は、撃ち落とせる確率が高い小物を確実にヒットさせていく作戦を取るようで、一番下の段の駄菓子類に照準を合わせている。

 部活動のバドミントン部でも有利に働くであろう、長い手を思い切り伸ばして銃口を的に向けた上級生は、次々に小さな的の駄菓子にコルク弾をヒットさせて、棚から撃ち落としていった。

 コ◯アシガレット、ボ◯タンアメ、オ◯オンのミニコーラ、マ◯カワのオレンジガム……。
 結局、5発中4発が的に当たり、コルク弾が的中した菓子は、すべて棚から落ちて賞品ゲットとなる。

 500円の価格設定なので、景品の金額としては赤字確定だが、着実に4ポイントを得たということは、後続のオレたちにとって、プレッシャーとなり、作戦の立て方に影響を与えるのは確実だ。

 さて、オレは、どういう作戦を取るべきか……と、考えていると、

「さすが、小田先輩ッスね! けど、オレは、大物狙いで行きますよ」

と、言いながら、久々知大成が、空気銃にコルク弾を詰め込みはじめた。


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 えびす神社の境内正面には、チガヤという植物で作った大きな「茅の輪」が備えられていた。これをくぐることによって、一年の半分の心身の罪・穢をお祓いすることができ、残り半年の安全を祈願すると言われている。
 境内に入ると、まだ、明るさの残る時間にもかかわらず、茅の輪の前には、数十メートル以上の列ができていた。
 境内に書かれた説明書きによると、茅の輪くぐりの正式な参拝方法は、「水無月の 夏越の祓する人は ちとせの命 |延《の》ぶといふなり」という|御神歌《ごしんか》を唱えながら、8の字を描くように、何度も茅の輪をくぐるらしい。
 もちろん、この長蛇の列が続く中で、一人一人が、そんなことをしていては参拝が終わらないので、今日の参拝者は、正面から茅の輪に向かって一礼してから、輪をくぐるという簡易的な方法で参拝していく。
 境内では、神社と同じ名前のビール会社の生ビールとおつまみの販売も行われている。神社の説明によれば、「音楽の演奏もございますので、|穢《けがれ》を落とし清々しくなった心をさらに音楽とビールで癒し、夏の夜をお過ごしいただければと思います」とのことだが、ケガレを払ったすぐ後に、アルコールを摂取するというのは問題ないのだろうか? 未成年のオレには、良くわからない。
 そんなことを考えていると、オレたちのグループにも茅の輪くぐりの順番が回ってきた。二列に並んでいる行列の中で、いつの間にか、隣りに並んでいた下級生の|浦風《うらかぜ》さんと一緒に、正面から一礼をして輪をくぐろうとすると、彼女が、何事かをつぶやく様子が横目で見て取れた。
(説明書きにあった|御神歌《ごしんか》でも唱えてるのかな? でも、良くあの内容を覚えられたな)
 そう感じながら、輪くぐりを終えて、あとに続く同級生や先輩たちを待つ。
「いや〜、ケガレが払えて、身体の中からキレイになった気がするわ〜」
 と、久々知が語れば、|長洲《ながす》先輩は、
「これで、心機一転して、受験に備えないとね、栄一」
と、小田先輩に声を掛ける。そんな二人をどこか複雑な表情で眺めている浦風さんの様子に気付いたのは、もしかしたら、オレだけだったかも知れない。
 ただ、そんな一部の雰囲気は、全体に伝わることなく、
「さあ、それじゃ、いよいよ屋台に繰り出すぞ〜!」
という活発な上級生女子の声で、オレたちは、神社の境内を出て、夏祭りの屋台が並ぶ路地に移動する。
 徐々に夕闇が濃くなる中、色とりどりの屋台の|暖簾《のれん》や照明が並ぶ光景を目にすると、茅の輪くぐりの参拝前からテンションの高い、長洲先輩と久々知だけでなく、オレの気持ちも自然と上がってきた。
 参拝前の事前協議(?)のとおり、女子たちは、チーズハットグに、牛タン串、焼きそばにベビーカステラ、フルーツ飴やチョコバナナなどの屋台を次々に巡っていく。
 そんななか、オレは、フレーバーを選べる、ふりふりポテトを購入してつまみながら、女子たちの買ったモノのおすそ分けをいただいたりしていた(と言っても、シェアすることが前提のベビーカステラをもらっただけだが……)。
 夕飯がわりと言っては、やや心もとない気もするが、腹具合もそれなりに満足してきたので、いよいよ景品系の屋台を巡ることにする。
「小田先輩、|立花《たちばな》、射的で、ひと勝負しません?」
 ちょうど、空気銃が何丁も並んでいる屋台が見えてきたところで、久々知が声をかけてきた。
「おっ、いいね! やろうじゃないか? 一番得点が高いヤツが、かき氷を二人から奢ってもらうってのは、どうだ?」
 クラスメートの提案に乗った上級生が、たずねてくる。
「イイですよ」
 と、声を揃えたオレたちの返事にうなずきながら、小田先輩は、ルールを提案する。
「それじゃ、的の点数を決めておこう。一番下の段の小さな駄菓子は1点、中段の箱の菓子は3点、最上段の大きなオモチャ類は5点だ。合計の点数が高いヤツが優勝な」
「わかりました」
 ふたたび、声を揃えたオレと久々知は、先輩に続いて、射的屋の店主に500円玉を手渡す。
 コルクを銃口に込めるタイプの空気銃で的を狙うこの店舗の射的は、5発500円という価格設定だ。
 まずは、小田先輩が先陣を切って、銃口にコルク弾を詰め込む。
 先輩は、撃ち落とせる確率が高い小物を確実にヒットさせていく作戦を取るようで、一番下の段の駄菓子類に照準を合わせている。
 部活動のバドミントン部でも有利に働くであろう、長い手を思い切り伸ばして銃口を的に向けた上級生は、次々に小さな的の駄菓子にコルク弾をヒットさせて、棚から撃ち落としていった。
 コ◯アシガレット、ボ◯タンアメ、オ◯オンのミニコーラ、マ◯カワのオレンジガム……。
 結局、5発中4発が的に当たり、コルク弾が的中した菓子は、すべて棚から落ちて賞品ゲットとなる。
 500円の価格設定なので、景品の金額としては赤字確定だが、着実に4ポイントを得たということは、後続のオレたちにとって、プレッシャーとなり、作戦の立て方に影響を与えるのは確実だ。
 さて、オレは、どういう作戦を取るべきか……と、考えていると、
「さすが、小田先輩ッスね! けど、オレは、大物狙いで行きますよ」
と、言いながら、久々知大成が、空気銃にコルク弾を詰め込みはじめた。