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#5

ー/ー



そしてとうとう陸上競技大会の本番がやって来た。
生徒たちは今回のために借りた競技場に集まっている。
快の座る客席の辺りでは一同が終わった後の話で盛り上がっていた。

「最後に優勝チームの勝利祝って花火上がるらしいぜ」

「え、それマジ?」

「先生たち話してんのこっそり聞いたから多分マジだよ」

どうやら最後は花火で締めくくるらしい。
少し時期は過ぎている気はするが最近は辛い事が続いているのでこれくらいしても良いだろう。
しかし快にとってはそんな事はどうでも良かった。

「(今は与方さんが気まずいからな……)」

何とか愛里と仲直りをしたい。
明確に仲違いをした訳ではないが少し傷つけてしまったためそれは謝りたかった。

「お……」

立ち上がり客席内を歩いていると家族など校外からの客が座る席の中に愛里の姿を見かける。

「えっと与方さん……」

声を掛けると愛里もこちらに気付いた。
何処か周囲を気にするような素振りを見せながらこちらに近付いて来るが。

「おぉ愛里ちゃーん!」

途中で快に気付かない純希に声を掛けられそちらの方を向いてしまった。

「あ、純希くん!」

すると彼女は喜ぶような笑顔を見せた。

「…………」

その自分には向けられていない笑顔を見て快は虚しくなりその場を離れた。

「ぁ……」

純希と話していた愛里は快が行ってしまったのを見て少し申し訳なく感じた。



快が虚しさを誤魔化すために歩いていると瀬川の姿が見える。

「よっしゃー、任せとけよ!」

しかし瀬川は快とは違い大勢の男女問わないクラスメイト達に囲まれていた。

「(アイツら嫌いって言ってたのに……)」

同級生たちを嫌っていた瀬川がいざ仲良く迫られると嬉しそうにしている姿を見て余計に孤独を感じる。

「(やっぱり俺はゼノメサイアでしか上手くやれない……)」

またその場を離れて何処か一人になれる場所を探したのだ。





愛里とも瀬川とも上手く話せなくなってしまった快が宛もなく歩いているとある男とぶつかってしまう。

「あ、すみません……」

その男が手に持っていた資料のような紙が床に落ちてしまう。
慌てて快は拾おうとした。

「いいや、大丈夫だよ」

その男もしゃがんで資料を拾っていく。
そして快はたまたま目に入った資料を見て驚いた。

「え、これ……」

それについて指摘しようとしたが男はすぐに資料を拾い上げて立ち上がってしまった。
そしてこう言う。

「君、観客席は何処か分かるかい?」

よく見ると四十から五十代ほどの神父のような服を着ている。
顔は見上げる形で太陽が反射してよく見えなかったがそれほどの年齢だろう。

「あっちです……」

正直あまり誰かと話す気分では無かった快は怪訝そうに指を刺して答える。

「ありがとう助かったよ」

そう言われた快は少し違和感を覚えていた。

「(この喋り方どこかで……?)」

しかしその男はそのまま席に向かって行こうとした。
すると快に背中を向けたままこう言う。

「……心の孤独は辛いかい?」

「え……?」

「君にはヒーローになって貰わないとね、前のようになっては困るよ?」

そう言ってその男、Connect ONEの創設者にして長官の新生継一は観客席へと消えていった。
何かの資料、快の親友である"瀬川抗矢"の写真など情報が乗ったものを片手に。





笛の音と共に競技が始まった。
快は思い切り走り幅跳びに挑戦する。

「はぁっ」

しかし結果は虚しくビリ。
今までで最高記録ではあったが以前快が言った通り自分が努力してる時間は他の人も努力しているため差は埋まらないのだ。

そして客席に戻るが誰も快の方を向かない。
むしろ次の競技に夢中だ、何故ならエースである瀬川が走るからである。

「行け瀬川ぁー!」

委員長も快が来ている事なんて気にせず応援をしている。
そして笛の音がなり一斉に走者は走り出した。
しかし結果は見るまま、瀬川が圧倒的な大差をつけて一位になったのである。

「っしゃあ!みんな見てるかー⁈」

余裕の表情でクラスメイト達に手を振った。

「?」

しかしその中に快の姿が見えないのが気掛かりであった。



そして最後の種目はクラス対抗全員リレーだ。

「アンカーは瀬川だ、順調に行けば絶対勝てるぞ……!」

「俺たちのための花火になるって事だな」

クラスメイト達は高い盛り上がりを見せる。
しかし余裕な空気の中で一人だけ焦っている者がいた。

「(私やらなきゃ、英美ちゃんみたいにみんなを引っ張らないと……!)」

少し震える手を掴まれる。
顔を上げるとそこには咲希がいた。

「アンタまだアイツみたいにならなきゃとか思ってるでしょ?やめときな、迷惑かけちゃうよ」

迷惑と言われて思わず気持ちが昂ってしまう。

「私は辛い事を乗り越えるためにこうするしかないって思ったの、じゃないと私ずっと辛いまま……!」

その声に反応してクラスメイト達は一斉に愛里の方を不安そうな目で見た。
快も当然その中にいる。

「頼むぞ与方、今はクラスのために集中してくれ」

委員長が前に出て愛里を説得する。

「クラスの場を自分が辛いの乗り越えるための道具にはしないで欲しい」

その言葉を聞いた愛里は本気で嫌になってしまう。

「……うん、ごめん」

気の抜けた声でつぶやいた。
余計にクラスメイト達は心配になったが委員長が空気を切り替えようとする。

「よし、まぁ気合入れていこうぜ。せっかく優勝も目前なんだからな!」

クラスメイト達は賛同していくが快はどうしても賛同できなかった。



そしてクラス対抗リレーが始まる。

「何とか瀬川まで繋げよー!」

そのような掛け声が飛び交う中でスタートが切られる。
最初こそ順調であった。
トップではないものの何とか食いついている、このまま行けば瀬川に変わったタイミングで全抜きできるだろう。
しかし問題が起こる。

「頼むよ!」

咲希から愛里にバトンが渡される。
そのまま走り出す愛里だったがやはりまだ考え事が頭から離れてくれなかった。

「(やっぱり私は英美ちゃんみたいになれないのかな……?じゃあどうすればこの辛さを乗り越えられるの……?)」

ずっと英美を見てきた愛里。
だからこそ英美の事ばかり考えてしまう。

「(お兄ちゃん、やっぱり私ダメだよ……)」

蘇るのは過去の記憶。
まだ幼い愛里が快も好きな特撮ヒーローのグッズが散乱する部屋で佇んでいる。
そしてそのまま父親のものと思わしきライターでグッズ達に火を着けた。

「はぁっ、はぁ……」

それを思い出すだけで動悸がしてきた。
走っているため余計にキツい。

「あっ」

そして完全に足がもつれて遂に転んでしまった。
地面に腕が擦れて熱い痛みが伝わって来る。

「あーあ……」

周囲からは落胆の声が聞こえる。
これでは瀬川まで届いたとしても既に勝てる距離ではない。

「やっぱ張り切り過ぎだって〜」

「こうなると思ったよ……」

その落胆する声を一心に受ける愛里は絶望していた。

「(もう嫌だ、何でこんなに辛いの……?)」

そんな時に思い浮かんだのはかつて家が火事になり瓦礫に押し潰された時の事。
倒れて動けない状況が今と少し似ていた。
こんな時助けてくれたのは英美、彼女にとってのヒーローだ。

「(助けて、英美ちゃん……!)」

そしてそこに一人分の影が現れる。
顔を上げるとそこに立っていたのは。

「……大丈夫?」

英美の事を知っており更に彼女をも超えるようなヒーローを目指す快の姿だった。

「快くん……」

手を差し伸べた快は愛里にこう告げる。

「やっぱり無理してたでしょ?」

そう言われて流石にもう認めざるを得なかった愛里は快の手を取り立ち上がった。

「うん、ごめんね……」

素直に謝った後、快は更に言う。

「良いんだよ、与方さんと英美さんは違うって事に気付いてくれただけ……」

「そうだよね、やっぱり私にヒーローは向いてない……」

「いや、そういう訳じゃなくて……っ」

そこまで言いかけた時、保健室の先生がやって来た。

「大丈夫?ちょっと見せて」

その言葉によって遮られてしまい一旦快と愛里の会話は中断されてしまう。
それで諦めた快はその場を離れクラスメイト達の所に戻るのであった。





そして辺りはすっかり暗くなり陸上競技大会は終了。
快たちの属する二年二組は愛里の転倒が決定打となり優勝を逃してしまった。
別のクラスの優勝を祝う花火が暗くなった競技場に打ち上がる。

「おぉ〜!」

優勝したクラスは歓喜の声を上げる中、負けた快たちのクラスは嘆きの声を上げている。

「ちくしょー!」

「また来年もあるから〜」

委員長が慰めている姿を見て快は愛里を思い出す。

「(きっと今頃純希に慰めてもらいながら花火見てんだろうな……)」

観客として純希が来ていたため恐らく一緒に見ている事だろう。
恐らく純希は愛里が好きなのでそうするに違いない。

「(なんか虚しいな)」

よく見ると瀬川もクラスメイト達と一緒に優勝を逃した事を嘆いていたためまた孤独を感じてしまう。
そのため快は大勢のいる所を避けるために席を立った。



客席から外へ出た所にある自販機で缶コーラを買う。

「はぁ……」

ここからも花火は見えるが一人だけその光に照らされてまた別の感じの孤独を覚える事になるとは思わなかった。
失敗したと思いながらもプルタブを開ける。

「うわっ」

すると自販機で購入した時の振動にやられたのか中身の炭酸が吹き出してしまった。
とことんついていない、そう感じて余計に虚しくなってしまう。

「あーあ」

慌てて床に溢れた液体を拭こうとするが財布だけ持ってここに来たためハンカチやティッシュは鞄に入れたまま客席に置いてきてしまった。

「(本当、何やってんだよ……)」

そんな虚しさを極限まで感じる快を嘲笑うかのように花火は咲き続ける。
どうしようかと悩んでいたその時だった。

「ティッシュ使う……?」

まさに次の花火が上がろうとして静かになったタイミングで声を掛けられる。
そして天で花火が咲いた瞬間、快は顔を上げた。

「え、何で……?」

そこには先程擦った所に湿布を貼った手でティッシュを差し出して来る愛里の姿があった。
背後で咲く花火に照らされてとても美しい。

「え、拭くものないんでしょ?」

「そうじゃなくて、純希と花火みると思ってたから……」

「確かに最初は誘われたんだけどね……」

彼女は純希に言われた事を快に説明した。

『行ってきな、快のこと心配でしょ?』

『いいの?』

『前に言ったでしょ?俺より君の方が快を支えるのに適任だって』

純希はデートの時に話した事を持ち出して愛里に快の所へ行かせていたのだ。

「そうなんだ……」

「今度ありがとう言わなきゃね」

「うん」

そして二人は溢れたコーラを拭いた後、近くのベンチに座り花火をボーッと見つめていた。

「あの、さっき言えなかった事あってさ」

「なに?」

「君は英美さんとは違うって話した後にさ、ちょっと臭いけど君は君のやり方で乗り越えれば良いって言おうと思ったんだ……」

あの時言えなかった事をここで話す。

「それが出来たら良いんだけどね、わたし英美ちゃんしか見てないから……英美ちゃんのやり方しか分からないんだ」

そして自分の思いを語る。

「自分のままヒーローになんてなれないよ」

少し自虐するように笑いながら言った。
しかし快にはまだ言いたい事がある。

「そんな事はない、だって君は……」

突然少し前のめりになったため愛里は驚く。

「え……⁈」

「だって与方さんは……」

そして真っ赤にした顔を隠すように恥ずかしがりながら快は続けた。

「俺の夢を応援してくれるって言ったから、それで少し救われたから……」

それは既に愛里が快にとってヒーローのような存在であると言う事。

「少なくとも俺の心にとってはヒーローみたいなものだと思う」

その言葉を聞いた愛里は目を見開いた。

「……っ!!」

そして少し考えるような素振りを見せてから笑い出したのだ。

「……くすっ、あははは」

突然笑い出した愛里に快は少し驚くがそのままこちらを見て言った。

「先、越しちゃったね」

目一杯の笑顔で言う愛里に快は胸打たれた。

「〜〜っ!」

何か心の奥が熱い気がする。

「(やっぱり俺、この人の事が……!)」

ヒーローを目指す青年が自らの恋心とヒーローの定義に気付いた瞬間である。





つづく


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そしてとうとう陸上競技大会の本番がやって来た。
生徒たちは今回のために借りた競技場に集まっている。
快の座る客席の辺りでは一同が終わった後の話で盛り上がっていた。
「最後に優勝チームの勝利祝って花火上がるらしいぜ」
「え、それマジ?」
「先生たち話してんのこっそり聞いたから多分マジだよ」
どうやら最後は花火で締めくくるらしい。
少し時期は過ぎている気はするが最近は辛い事が続いているのでこれくらいしても良いだろう。
しかし快にとってはそんな事はどうでも良かった。
「(今は与方さんが気まずいからな……)」
何とか愛里と仲直りをしたい。
明確に仲違いをした訳ではないが少し傷つけてしまったためそれは謝りたかった。
「お……」
立ち上がり客席内を歩いていると家族など校外からの客が座る席の中に愛里の姿を見かける。
「えっと与方さん……」
声を掛けると愛里もこちらに気付いた。
何処か周囲を気にするような素振りを見せながらこちらに近付いて来るが。
「おぉ愛里ちゃーん!」
途中で快に気付かない純希に声を掛けられそちらの方を向いてしまった。
「あ、純希くん!」
すると彼女は喜ぶような笑顔を見せた。
「…………」
その自分には向けられていない笑顔を見て快は虚しくなりその場を離れた。
「ぁ……」
純希と話していた愛里は快が行ってしまったのを見て少し申し訳なく感じた。



快が虚しさを誤魔化すために歩いていると瀬川の姿が見える。
「よっしゃー、任せとけよ!」
しかし瀬川は快とは違い大勢の男女問わないクラスメイト達に囲まれていた。
「(アイツら嫌いって言ってたのに……)」
同級生たちを嫌っていた瀬川がいざ仲良く迫られると嬉しそうにしている姿を見て余計に孤独を感じる。
「(やっぱり俺はゼノメサイアでしか上手くやれない……)」
またその場を離れて何処か一人になれる場所を探したのだ。
愛里とも瀬川とも上手く話せなくなってしまった快が宛もなく歩いているとある男とぶつかってしまう。
「あ、すみません……」
その男が手に持っていた資料のような紙が床に落ちてしまう。
慌てて快は拾おうとした。
「いいや、大丈夫だよ」
その男もしゃがんで資料を拾っていく。
そして快はたまたま目に入った資料を見て驚いた。
「え、これ……」
それについて指摘しようとしたが男はすぐに資料を拾い上げて立ち上がってしまった。
そしてこう言う。
「君、観客席は何処か分かるかい?」
よく見ると四十から五十代ほどの神父のような服を着ている。
顔は見上げる形で太陽が反射してよく見えなかったがそれほどの年齢だろう。
「あっちです……」
正直あまり誰かと話す気分では無かった快は怪訝そうに指を刺して答える。
「ありがとう助かったよ」
そう言われた快は少し違和感を覚えていた。
「(この喋り方どこかで……?)」
しかしその男はそのまま席に向かって行こうとした。
すると快に背中を向けたままこう言う。
「……心の孤独は辛いかい?」
「え……?」
「君にはヒーローになって貰わないとね、前のようになっては困るよ?」
そう言ってその男、Connect ONEの創設者にして長官の新生継一は観客席へと消えていった。
何かの資料、快の親友である"瀬川抗矢"の写真など情報が乗ったものを片手に。
笛の音と共に競技が始まった。
快は思い切り走り幅跳びに挑戦する。
「はぁっ」
しかし結果は虚しくビリ。
今までで最高記録ではあったが以前快が言った通り自分が努力してる時間は他の人も努力しているため差は埋まらないのだ。
そして客席に戻るが誰も快の方を向かない。
むしろ次の競技に夢中だ、何故ならエースである瀬川が走るからである。
「行け瀬川ぁー!」
委員長も快が来ている事なんて気にせず応援をしている。
そして笛の音がなり一斉に走者は走り出した。
しかし結果は見るまま、瀬川が圧倒的な大差をつけて一位になったのである。
「っしゃあ!みんな見てるかー⁈」
余裕の表情でクラスメイト達に手を振った。
「?」
しかしその中に快の姿が見えないのが気掛かりであった。



そして最後の種目はクラス対抗全員リレーだ。
「アンカーは瀬川だ、順調に行けば絶対勝てるぞ……!」
「俺たちのための花火になるって事だな」
クラスメイト達は高い盛り上がりを見せる。
しかし余裕な空気の中で一人だけ焦っている者がいた。
「(私やらなきゃ、英美ちゃんみたいにみんなを引っ張らないと……!)」
少し震える手を掴まれる。
顔を上げるとそこには咲希がいた。
「アンタまだアイツみたいにならなきゃとか思ってるでしょ?やめときな、迷惑かけちゃうよ」
迷惑と言われて思わず気持ちが昂ってしまう。
「私は辛い事を乗り越えるためにこうするしかないって思ったの、じゃないと私ずっと辛いまま……!」
その声に反応してクラスメイト達は一斉に愛里の方を不安そうな目で見た。
快も当然その中にいる。
「頼むぞ与方、今はクラスのために集中してくれ」
委員長が前に出て愛里を説得する。
「クラスの場を自分が辛いの乗り越えるための道具にはしないで欲しい」
その言葉を聞いた愛里は本気で嫌になってしまう。
「……うん、ごめん」
気の抜けた声でつぶやいた。
余計にクラスメイト達は心配になったが委員長が空気を切り替えようとする。
「よし、まぁ気合入れていこうぜ。せっかく優勝も目前なんだからな!」
クラスメイト達は賛同していくが快はどうしても賛同できなかった。



そしてクラス対抗リレーが始まる。
「何とか瀬川まで繋げよー!」
そのような掛け声が飛び交う中でスタートが切られる。
最初こそ順調であった。
トップではないものの何とか食いついている、このまま行けば瀬川に変わったタイミングで全抜きできるだろう。
しかし問題が起こる。
「頼むよ!」
咲希から愛里にバトンが渡される。
そのまま走り出す愛里だったがやはりまだ考え事が頭から離れてくれなかった。
「(やっぱり私は英美ちゃんみたいになれないのかな……?じゃあどうすればこの辛さを乗り越えられるの……?)」
ずっと英美を見てきた愛里。
だからこそ英美の事ばかり考えてしまう。
「(お兄ちゃん、やっぱり私ダメだよ……)」
蘇るのは過去の記憶。
まだ幼い愛里が快も好きな特撮ヒーローのグッズが散乱する部屋で佇んでいる。
そしてそのまま父親のものと思わしきライターでグッズ達に火を着けた。
「はぁっ、はぁ……」
それを思い出すだけで動悸がしてきた。
走っているため余計にキツい。
「あっ」
そして完全に足がもつれて遂に転んでしまった。
地面に腕が擦れて熱い痛みが伝わって来る。
「あーあ……」
周囲からは落胆の声が聞こえる。
これでは瀬川まで届いたとしても既に勝てる距離ではない。
「やっぱ張り切り過ぎだって〜」
「こうなると思ったよ……」
その落胆する声を一心に受ける愛里は絶望していた。
「(もう嫌だ、何でこんなに辛いの……?)」
そんな時に思い浮かんだのはかつて家が火事になり瓦礫に押し潰された時の事。
倒れて動けない状況が今と少し似ていた。
こんな時助けてくれたのは英美、彼女にとってのヒーローだ。
「(助けて、英美ちゃん……!)」
そしてそこに一人分の影が現れる。
顔を上げるとそこに立っていたのは。
「……大丈夫?」
英美の事を知っており更に彼女をも超えるようなヒーローを目指す快の姿だった。
「快くん……」
手を差し伸べた快は愛里にこう告げる。
「やっぱり無理してたでしょ?」
そう言われて流石にもう認めざるを得なかった愛里は快の手を取り立ち上がった。
「うん、ごめんね……」
素直に謝った後、快は更に言う。
「良いんだよ、与方さんと英美さんは違うって事に気付いてくれただけ……」
「そうだよね、やっぱり私にヒーローは向いてない……」
「いや、そういう訳じゃなくて……っ」
そこまで言いかけた時、保健室の先生がやって来た。
「大丈夫?ちょっと見せて」
その言葉によって遮られてしまい一旦快と愛里の会話は中断されてしまう。
それで諦めた快はその場を離れクラスメイト達の所に戻るのであった。
そして辺りはすっかり暗くなり陸上競技大会は終了。
快たちの属する二年二組は愛里の転倒が決定打となり優勝を逃してしまった。
別のクラスの優勝を祝う花火が暗くなった競技場に打ち上がる。
「おぉ〜!」
優勝したクラスは歓喜の声を上げる中、負けた快たちのクラスは嘆きの声を上げている。
「ちくしょー!」
「また来年もあるから〜」
委員長が慰めている姿を見て快は愛里を思い出す。
「(きっと今頃純希に慰めてもらいながら花火見てんだろうな……)」
観客として純希が来ていたため恐らく一緒に見ている事だろう。
恐らく純希は愛里が好きなのでそうするに違いない。
「(なんか虚しいな)」
よく見ると瀬川もクラスメイト達と一緒に優勝を逃した事を嘆いていたためまた孤独を感じてしまう。
そのため快は大勢のいる所を避けるために席を立った。



客席から外へ出た所にある自販機で缶コーラを買う。
「はぁ……」
ここからも花火は見えるが一人だけその光に照らされてまた別の感じの孤独を覚える事になるとは思わなかった。
失敗したと思いながらもプルタブを開ける。
「うわっ」
すると自販機で購入した時の振動にやられたのか中身の炭酸が吹き出してしまった。
とことんついていない、そう感じて余計に虚しくなってしまう。
「あーあ」
慌てて床に溢れた液体を拭こうとするが財布だけ持ってここに来たためハンカチやティッシュは鞄に入れたまま客席に置いてきてしまった。
「(本当、何やってんだよ……)」
そんな虚しさを極限まで感じる快を嘲笑うかのように花火は咲き続ける。
どうしようかと悩んでいたその時だった。
「ティッシュ使う……?」
まさに次の花火が上がろうとして静かになったタイミングで声を掛けられる。
そして天で花火が咲いた瞬間、快は顔を上げた。
「え、何で……?」
そこには先程擦った所に湿布を貼った手でティッシュを差し出して来る愛里の姿があった。
背後で咲く花火に照らされてとても美しい。
「え、拭くものないんでしょ?」
「そうじゃなくて、純希と花火みると思ってたから……」
「確かに最初は誘われたんだけどね……」
彼女は純希に言われた事を快に説明した。
『行ってきな、快のこと心配でしょ?』
『いいの?』
『前に言ったでしょ?俺より君の方が快を支えるのに適任だって』
純希はデートの時に話した事を持ち出して愛里に快の所へ行かせていたのだ。
「そうなんだ……」
「今度ありがとう言わなきゃね」
「うん」
そして二人は溢れたコーラを拭いた後、近くのベンチに座り花火をボーッと見つめていた。
「あの、さっき言えなかった事あってさ」
「なに?」
「君は英美さんとは違うって話した後にさ、ちょっと臭いけど君は君のやり方で乗り越えれば良いって言おうと思ったんだ……」
あの時言えなかった事をここで話す。
「それが出来たら良いんだけどね、わたし英美ちゃんしか見てないから……英美ちゃんのやり方しか分からないんだ」
そして自分の思いを語る。
「自分のままヒーローになんてなれないよ」
少し自虐するように笑いながら言った。
しかし快にはまだ言いたい事がある。
「そんな事はない、だって君は……」
突然少し前のめりになったため愛里は驚く。
「え……⁈」
「だって与方さんは……」
そして真っ赤にした顔を隠すように恥ずかしがりながら快は続けた。
「俺の夢を応援してくれるって言ったから、それで少し救われたから……」
それは既に愛里が快にとってヒーローのような存在であると言う事。
「少なくとも俺の心にとってはヒーローみたいなものだと思う」
その言葉を聞いた愛里は目を見開いた。
「……っ!!」
そして少し考えるような素振りを見せてから笑い出したのだ。
「……くすっ、あははは」
突然笑い出した愛里に快は少し驚くがそのままこちらを見て言った。
「先、越しちゃったね」
目一杯の笑顔で言う愛里に快は胸打たれた。
「〜〜っ!」
何か心の奥が熱い気がする。
「(やっぱり俺、この人の事が……!)」
ヒーローを目指す青年が自らの恋心とヒーローの定義に気付いた瞬間である。
つづく