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第三十八話 「信じて」

ー/ー



駆ける、駆ける。
 少女は月明かりに照らされる山道を、少しずつ、少しずつ獣道へと逸れながら。
 胸にある想いは、皆のために。
 少しでも役に立ちたくて。

(皆戦って疲れてるんだから……ルコンが頑張るんです!)

 闇夜に浮かぶ金色の毛並みは、月明かりに照らされ幻想的なまでの輝きを放つ。
 金色の軌跡を残しながら走る少女がたどり着いた先は、緩やかな傾斜を描く地形に大小様々な大きさの岩が散在する場であった。

「スンスン……この辺のはずです……あっ! 有りました!」

 少女はテントから持ち去られた食料の入った包みを発見すると、中身を確かめ大事に抱きかかえる。
 後は帰るだけ、と言い聞かせる少女の周りを囲む数十の影。

「ッ!? お猿、さん?」

 手ぐすね猿(シーフモンキー)、その名の由来は――


 ----

「奴らは一匹一匹は大した脅威では無い。
 危険度もD、一般人であれある程度の魔具や武器があれば対処可能なレベルだ」

 捜索は三手に別れて行われた。
 イラルドとフィネス、レギンとハルシィ、そして俺とグウェス。
 それぞれ索敵が出来る者が一名、戦力面でもバランスを保つ形での組分けだ。
 グウェスに追従する形で山道を走りながら、先程の猿についての情報を教えてもらう。

「厄介なのは群れでの連携とその狡猾さだ。
 数十匹単位でのコロニーを形成し、狩りや近隣の人間達から物品を盗んで行く。
 そうして追ってきた者を巣に誘い込み、群れで襲う。
 手ぐすねを引くように待ち構える様から、付いた呼び名が手ぐすね猿(シーフモンキー)だ」
「じゃあルコンは今――」
「いや、大丈夫だろう。俺の見立てでは、あの子は強い子だ」
「強い子って、ルコンは確かに戦えるけど……!」

 なんでそんなに無責任な事が言えるんだ。
 分からない、あれだけ俺のことを心配していたグウェスがどうしてそんな事を言えるのか。
 ルコンはまだ俺よりも幼く、自我だって子どものものだ。
 どうして……

「む、近いぞ」

 グウェスがそう呟いて少ししてから、俺にも魔力を感じることが出来た。
 間違い無い、ルコンだ。
 近い、もう100メートルと離れていない。
 近づくにつれて戦闘の音と猿達のけたたましい鳴き声が聞こえる。
 まるで夏の山中のセミの合唱、どれだけの数がいるんだ!?
 視界が開け、数十メートル先に見慣れたルコンの姿が目に入る。
 いた!

「ルコ――」
「まあ待て」

 突如、隣にいたグウェスが俺の外套を掴んで引き止めてくる。
 そのまま無理矢理近くの岩陰へと連れ込まれ、ルコンからは死角になってしまった。

「なにするんだ! 早くルコンを助けないと!」
「落ち着け。あの子なら大丈夫だ。
 先程も怪我はしてなかったし、周りに倒れている猿の数は見ただろう?」

 確かに、ルコンは五体満足でピンピンしている様に見えた。
 おまけに周囲には倒されてのびている猿たちがゴロゴロと転がっていた。
 いやだからって!

「ライル、俺は最初からおまえを連れてくるつもりなど無かった」
「今それが何の関係があるんだよ!」
「変わったんだよ。おまえを見る目が。
 ただの子どもだと、守るべき、守られるだけの存在だと思っていた。
 そんなおまえが、ロディアスで再会した日から、集まった民衆への(げき)を飛ばした出発の日までの短い期間で、見違える程に成長してくれた」
「だから、それが」
「あの子を見ろ」

 そう言って、岩陰からコッソリと、ルコンに気づかれないように様子を覗き込む。
 気付けばルコンを囲む猿は既に十匹を下回っていた。
 依然変わらず怪我もなく、大きく疲弊した様子もない。

「おまえにとってあの子は大切な妹の様な存在で、守るべき存在なのは分かる。
 だが、それは()()()()()()()()()()()()()()という訳では無い」
「なっ……」
「守り、守られ、力を合わせる。
 家族ってのはそういうものだと、子どもの成長は早いんだと、教えてくれたのは他でもないライル、おまえだ。
 ちょっとだけ、信じて見守ってあげてみろ。
 別に俺だって心配してないわけじゃないさ、何かあればすぐに介入するし、アレが終われば顔を出すさ」

 信じてあげろ、か。
 そりゃ、ルコンを信じてない訳じゃない。
 ただ、大切だから、守らないといけないから。
 そういった庇護欲に近い感情から、自然とルコンを愛情の檻の中に閉じ込めていたのかもしれない。
 そんな俺が、ルコンの気持ちを理解していたかどうかなんて、答えは明白だ。
 ルコンは俺達に付いて来たがっていた、並びたがっていた。
 それが叶えてやれない願いだということは分かっている。
 だがそれは、グウェスに懇願した俺と一緒なのだ。
 そんな俺が、俺だからこそ、ルコンを信じてやらなくてどうする。

「……猿たちを倒したら合流するから」
「あぁ、そうしろ」

 ルコンを襲う猿はあと数匹……あと三匹……二……一!

「やあぁ!」

 最後の猿を尾で弾き飛ばし、キョロキョロと辺りを見回すルコン。

「〜〜! やりましたぁ!! えへへ、これで食料を持って帰れます」

 ぢぐじょゔ……前が霞むじゃないか……霧でも出てんのか!

「ほら、終わったみたいだぞ。とっとと行ってあげろ」
「わがっ、わがっでる……ッ! 父さん!」
「あぁ」

 新たな魔獣の気配、猿たちとは根本的に危険度が違う。
 山肌を這うようにしてルコンに迫るのは、二メートル以上の巨体を持つワニの様な魔獣、竜蜥蜴(リザード)
 竜蜥蜴(リザード)とはいっても赤龍等の龍種とは特に関係は無いらしく、あくまでも龍に近い見た目から『竜』の名を与えられている。
 しかし、危険度はBランク。
 ルコン一人でも勝てないことは無いだろうが、流石にこいつは任せられない。

「おにいちゃん!? グウェスさんも!」
「ルコン、もう大丈夫だからな。後は任せて」
「! ううん、ダメです! アレもルコンがやっつけます!」
「ライル、任せてあげないか?」
「父さん! いやいや、流石にアレは……」

 キッと力強く、俺を見上げるルコンの視線に気づく。
 無言の圧力が、重く、強く、激しくぶつかってくる。

「ハァ……分かった。
 でも、危なくなったらすぐに助けに入るからな?」
「はい! 行ってきます!!」

 遊びに出掛けるくらいの気軽さと元気な笑顔で、蜥蜴へと駆けていく。
 もう、信じるんだ。
 信じると決めたんだ。

 ルコンが速度を上げる。
 蜥蜴との距離を猛烈な速度で縮め、蜥蜴が蛇の如く首を動かして噛みついて来た瞬間。

三本(サード)――」

 薄紅色の尾が二本に増える。
 計三本の尾を揺らすルコンは、勢いそのままに前方宙返りを行って噛みつきを躱しつつ、空中で三本の尾を束ねる。

尾束重打(びそくちょうだ)ッ!!」

 蜥蜴の脳天に、鉄槌が落ちる。
 地面をへこませる程の威力で打ち据えられた蜥蜴は、ピクピクと痙攣を起こしたままその場から動かなくなってしまった。
 ってか、これって……

「えへへ、おにいちゃんのマネです!」
「は、……ハハハハハハ! ホント、自慢の妹だよ……」

 ----

「戻ったか!」
「お待たせしました、先に戻っていたんですね」
「私の勘が大丈夫って言ったのよ、だから先に戻ってきた訳」
「あっはは、勘ですか……」
「なにはともあれ、ルコンちゃんが無事で良かったわ〜。もう勝手に飛び出しちゃ駄目よ!」
「ご、ごめんなさい。でも、食料はちゃんと取り返してきました!」
「キャーー!! 偉い! 可愛い! 素敵! ほら、シーリア〜!」

 無事にキャンプへと三人で帰還し、先に戻っていたイラルド達と合流。
 ルコンは帰ってきて早々に女性陣に揉みくちゃにされてしまった。

「無事でよかったわ、二人共ね」
「先生、子どもの成長って早いんですね」
「……おじさんみたいな事言わないでちょうだい」

 おっと、まだ十歳だったか。
 そういえば、まだレギンとハルシィが帰ってきてないな。

「戻ったぞ! おぉ、ライ坊! 嬢ちゃんも一緒か、良かったぜ」
「遅かったな二人共。そこまで遠くには行ってないだろう?」
「僕達は山道伝いに上へ進んだんだけど、明日以降の安全確認の為に少しだけ先行調査をして来たんだ」

 帰って来た二人の表情はどこか重たく、不吉な予感を感じさせるには十分であった。


「皆聞いてくれ、悪い知らせだ」





次のエピソードへ進む 第三十九話 「未来へ向けて」


みんなのリアクション

駆ける、駆ける。 少女は月明かりに照らされる山道を、少しずつ、少しずつ獣道へと逸れながら。
 胸にある想いは、皆のために。
 少しでも役に立ちたくて。
(皆戦って疲れてるんだから……ルコンが頑張るんです!)
 闇夜に浮かぶ金色の毛並みは、月明かりに照らされ幻想的なまでの輝きを放つ。
 金色の軌跡を残しながら走る少女がたどり着いた先は、緩やかな傾斜を描く地形に大小様々な大きさの岩が散在する場であった。
「スンスン……この辺のはずです……あっ! 有りました!」
 少女はテントから持ち去られた食料の入った包みを発見すると、中身を確かめ大事に抱きかかえる。
 後は帰るだけ、と言い聞かせる少女の周りを囲む数十の影。
「ッ!? お猿、さん?」
 |手ぐすね猿《シーフモンキー》、その名の由来は――
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「奴らは一匹一匹は大した脅威では無い。
 危険度もD、一般人であれある程度の魔具や武器があれば対処可能なレベルだ」
 捜索は三手に別れて行われた。
 イラルドとフィネス、レギンとハルシィ、そして俺とグウェス。
 それぞれ索敵が出来る者が一名、戦力面でもバランスを保つ形での組分けだ。
 グウェスに追従する形で山道を走りながら、先程の猿についての情報を教えてもらう。
「厄介なのは群れでの連携とその狡猾さだ。
 数十匹単位でのコロニーを形成し、狩りや近隣の人間達から物品を盗んで行く。
 そうして追ってきた者を巣に誘い込み、群れで襲う。
 手ぐすねを引くように待ち構える様から、付いた呼び名が|手ぐすね猿《シーフモンキー》だ」
「じゃあルコンは今――」
「いや、大丈夫だろう。俺の見立てでは、あの子は強い子だ」
「強い子って、ルコンは確かに戦えるけど……!」
 なんでそんなに無責任な事が言えるんだ。
 分からない、あれだけ俺のことを心配していたグウェスがどうしてそんな事を言えるのか。
 ルコンはまだ俺よりも幼く、自我だって子どものものだ。
 どうして……
「む、近いぞ」
 グウェスがそう呟いて少ししてから、俺にも魔力を感じることが出来た。
 間違い無い、ルコンだ。
 近い、もう100メートルと離れていない。
 近づくにつれて戦闘の音と猿達のけたたましい鳴き声が聞こえる。
 まるで夏の山中のセミの合唱、どれだけの数がいるんだ!?
 視界が開け、数十メートル先に見慣れたルコンの姿が目に入る。
 いた!
「ルコ――」
「まあ待て」
 突如、隣にいたグウェスが俺の外套を掴んで引き止めてくる。
 そのまま無理矢理近くの岩陰へと連れ込まれ、ルコンからは死角になってしまった。
「なにするんだ! 早くルコンを助けないと!」
「落ち着け。あの子なら大丈夫だ。
 先程も怪我はしてなかったし、周りに倒れている猿の数は見ただろう?」
 確かに、ルコンは五体満足でピンピンしている様に見えた。
 おまけに周囲には倒されてのびている猿たちがゴロゴロと転がっていた。
 いやだからって!
「ライル、俺は最初からおまえを連れてくるつもりなど無かった」
「今それが何の関係があるんだよ!」
「変わったんだよ。おまえを見る目が。
 ただの子どもだと、守るべき、守られるだけの存在だと思っていた。
 そんなおまえが、ロディアスで再会した日から、集まった民衆への|檄《げき》を飛ばした出発の日までの短い期間で、見違える程に成長してくれた」
「だから、それが」
「あの子を見ろ」
 そう言って、岩陰からコッソリと、ルコンに気づかれないように様子を覗き込む。
 気付けばルコンを囲む猿は既に十匹を下回っていた。
 依然変わらず怪我もなく、大きく疲弊した様子もない。
「おまえにとってあの子は大切な妹の様な存在で、守るべき存在なのは分かる。
 だが、それは|い《・》|つ《・》|ま《・》|で《・》|も《・》|守《・》|ら《・》|れ《・》|る《・》|だ《・》|け《・》|の《・》|存《・》|在《・》という訳では無い」
「なっ……」
「守り、守られ、力を合わせる。
 家族ってのはそういうものだと、子どもの成長は早いんだと、教えてくれたのは他でもないライル、おまえだ。
 ちょっとだけ、信じて見守ってあげてみろ。
 別に俺だって心配してないわけじゃないさ、何かあればすぐに介入するし、アレが終われば顔を出すさ」
 信じてあげろ、か。
 そりゃ、ルコンを信じてない訳じゃない。
 ただ、大切だから、守らないといけないから。
 そういった庇護欲に近い感情から、自然とルコンを愛情の檻の中に閉じ込めていたのかもしれない。
 そんな俺が、ルコンの気持ちを理解していたかどうかなんて、答えは明白だ。
 ルコンは俺達に付いて来たがっていた、並びたがっていた。
 それが叶えてやれない願いだということは分かっている。
 だがそれは、グウェスに懇願した俺と一緒なのだ。
 そんな俺が、俺だからこそ、ルコンを信じてやらなくてどうする。
「……猿たちを倒したら合流するから」
「あぁ、そうしろ」
 ルコンを襲う猿はあと数匹……あと三匹……二……一!
「やあぁ!」
 最後の猿を尾で弾き飛ばし、キョロキョロと辺りを見回すルコン。
「〜〜! やりましたぁ!! えへへ、これで食料を持って帰れます」
 ぢぐじょゔ……前が霞むじゃないか……霧でも出てんのか!
「ほら、終わったみたいだぞ。とっとと行ってあげろ」
「わがっ、わがっでる……ッ! 父さん!」
「あぁ」
 新たな魔獣の気配、猿たちとは根本的に危険度が違う。
 山肌を這うようにしてルコンに迫るのは、二メートル以上の巨体を持つワニの様な魔獣、|竜蜥蜴《リザード》。
 |竜蜥蜴《リザード》とはいっても赤龍等の龍種とは特に関係は無いらしく、あくまでも龍に近い見た目から『竜』の名を与えられている。
 しかし、危険度はBランク。
 ルコン一人でも勝てないことは無いだろうが、流石にこいつは任せられない。
「おにいちゃん!? グウェスさんも!」
「ルコン、もう大丈夫だからな。後は任せて」
「! ううん、ダメです! アレもルコンがやっつけます!」
「ライル、任せてあげないか?」
「父さん! いやいや、流石にアレは……」
 キッと力強く、俺を見上げるルコンの視線に気づく。
 無言の圧力が、重く、強く、激しくぶつかってくる。
「ハァ……分かった。
 でも、危なくなったらすぐに助けに入るからな?」
「はい! 行ってきます!!」
 遊びに出掛けるくらいの気軽さと元気な笑顔で、蜥蜴へと駆けていく。
 もう、信じるんだ。
 信じると決めたんだ。
 ルコンが速度を上げる。
 蜥蜴との距離を猛烈な速度で縮め、蜥蜴が蛇の如く首を動かして噛みついて来た瞬間。
「|三本《サード》――」
 薄紅色の尾が二本に増える。
 計三本の尾を揺らすルコンは、勢いそのままに前方宙返りを行って噛みつきを躱しつつ、空中で三本の尾を束ねる。
「|尾束重打《びそくちょうだ》ッ!!」
 蜥蜴の脳天に、鉄槌が落ちる。
 地面をへこませる程の威力で打ち据えられた蜥蜴は、ピクピクと痙攣を起こしたままその場から動かなくなってしまった。
 ってか、これって……
「えへへ、おにいちゃんのマネです!」
「は、……ハハハハハハ! ホント、自慢の妹だよ……」
 ----
「戻ったか!」
「お待たせしました、先に戻っていたんですね」
「私の勘が大丈夫って言ったのよ、だから先に戻ってきた訳」
「あっはは、勘ですか……」
「なにはともあれ、ルコンちゃんが無事で良かったわ〜。もう勝手に飛び出しちゃ駄目よ!」
「ご、ごめんなさい。でも、食料はちゃんと取り返してきました!」
「キャーー!! 偉い! 可愛い! 素敵! ほら、シーリア〜!」
 無事にキャンプへと三人で帰還し、先に戻っていたイラルド達と合流。
 ルコンは帰ってきて早々に女性陣に揉みくちゃにされてしまった。
「無事でよかったわ、二人共ね」
「先生、子どもの成長って早いんですね」
「……おじさんみたいな事言わないでちょうだい」
 おっと、まだ十歳だったか。
 そういえば、まだレギンとハルシィが帰ってきてないな。
「戻ったぞ! おぉ、ライ坊! 嬢ちゃんも一緒か、良かったぜ」
「遅かったな二人共。そこまで遠くには行ってないだろう?」
「僕達は山道伝いに上へ進んだんだけど、明日以降の安全確認の為に少しだけ先行調査をして来たんだ」
 帰って来た二人の表情はどこか重たく、不吉な予感を感じさせるには十分であった。
「皆聞いてくれ、悪い知らせだ」