表示設定
表示設定
目次 目次




第三十三話 「入山」

ー/ー



現在俺たちは樹海の舗装道を抜けてグランロアマウンの麓へと到着していた。
 ベースキャンプからここまでおよそ二時間。
 道中は筆舌に尽くしがたい程の脅威に満ちていた。
 いや、正しくは俺だけ苦しんでいたと言うべきか。
 事前に注意すべき魔獣達は聞いていたとはいえ、いざ目にすると嫌悪感が勝る。
 そう、虫系の魔獣だ。
 おっと、正しくは魔物か。
 虫や不定形のスライム等、魔力を持った敵対的な無機物モンスターは魔物として括られるらしい。
 確かに、獣ではないしな。

 事前に聞いていた中に、殺人蜂(キラービー)という魔物がいた。
 大きなスズメバチ、程度に思っていたがこれがなんと体長30センチ程のバケモン。
 それが群れを成して何十匹と襲ってくる。
 もとより都会で育った俺は虫が苦手だ。
 それは転生してからも変わっていない。
 転生しようとも、前世の記憶や感性を持つ以上苦手なものは簡単には払拭出来ない。
 コイツラが襲ってきた時はこの世の終わりかと思って叫びながら黒角の杖を振りまわしていた。
 おかげでレギンにはバカにされるわ、イラルドは笑いが止まらないわ、皆が温かい目で見つめてきて居心地が悪い。

 その他にも獅子熊や大牙猪(ファングボー)、話に出てなかったイモムシのようなやつまで出てきて道中はてんやわんやだ。
 だが流石は歴戦のAランク冒険者と騎士団員達だ。
 誰も息があがることなく、傷一つ無くここまで来ている。
 何より今回役に立っているのはAランク冒険者のとある二人組であった。

 魔族、兎族(ラビッツ)の男女二人組の冒険者、ハルシィとフィネスだ。
 二人は夫婦でもあり、揃ってAランクの実力者。
 人族と変わらない背格好に兎と人を足したような顔を持ち、両腕は少し短く、兎特有の発達した足を持つ。
 二人は討伐隊の中でも特に機動力に優れ、嗅覚も人より数倍以上発達している為索敵にも長ける。
 決して広くはない舗装道と周囲を木々で囲まれた環境で、ここまで苦も無く進んで来れたのは彼らの存在が大きい。
 先頭と最後尾とで二手に別れて索敵をしてくれ、戦闘時は手薄な箇所に素早くカバーに回る。
 縁の下の力持ち的な役割を担ってくれている。

「頑張ってるね、ライル君! 正直、初めて見た時はどうなることかと不安だったけど、まさかここまでデキるとはね!」
「ハルシィさん、フィネスさん! お陰で助かってます!」
「仲間なんだから当然よ。困ったことがあればいつでも頼ってね。
 私達も、あなたには期待してるから」
「あぁフィネス! 君には僕が付いて――」
「うるさい! とっとといくよ!」
「あはは……」

 ハルシィ曰く、『彼女、あんなだけど発情期は凄いんだよ』とのことだが、うーん兎。
 そうだ、魔族といえばイラルドが連れている騎士団員の女性も魔族だ。
 薄緑の髪に尖った長耳を持つ、ファンタジーおなじみの妖精族(エルフ)だ。
 確か名前は、シーリアだったか。
 彼女は魔術士だが、役割はゼールやミルゲンとは違い補助や回復を専門とする治癒術士だ。
 ヒーラー、と言えば分かりやすいだろうし、この世界でもその言葉は浸透していた。

「よし、少し休憩を取っていこう。
 各自、装備の不備や体調に変化がないか確認を怠らないでくれ」
「団長、ここまでの道中どう思われますか?」
「兵士団からの報告通り、いやそれ以上に魔獣達が荒れているな……予想以上としか言いようがない」

 なにやらイラルドともう一人の騎士団員、ドノアという戦士職の男性が話し込んでいる。
 真面目な雰囲気、あまり割って入らない方が良さそうだ。

「ライル、ここからが本番よ」
「分かってます。そういえば先生、道中であまり魔術を使っていませんでしたよね?」
「今回のような密集した戦闘では、魔術はかえって仲間の行動を阻害する一因になるわ。
 私達魔術士はそういった場合は大抵魔弾のみで戦うか、邪魔にならないよう後方や隊列中央に固まるしかなくなるの」
「先生なら威力や範囲は調節できるんじゃ?」
「もちろん可能よ。
 けれどグウェスさんやレギン、兎族(ラビッツ)の二人のような高機動アタッカーは縦横無尽に動くことによって真価を発揮する。
 その軌道上に魔術がぶつかって事故になったケースも少なくない。
 何事も適材適所、私達がすべき事でなければする必要はないの。
 もちろん、必要に迫られればその時は別よ」

 あくまでもそれぞれの役割がある、という訳か。
 俺たち討伐隊のメンバーは簡単に分けると四つの役割に分かれる。
 俺とグウェス、レギンとハルシィとフィネスがアタッカー。
 イラルドとドノアがタンク、シーリアがヒーラー。
 ゼールとミルゲンは中・上級魔術による攻撃と防壁(プロテクション)等によるサポートを務めるサポート兼アタッカー。
 ヒーラーが一人なのは不安だが、むしろシーリアを連れてきてくれたイラルドには拍手を送るべきだろう。
 それに、俺とゼールとミルゲンはそれぞれ治癒魔術が使える。
 見た目の偏り以上に態勢は整っているという訳だ。

「よし、そろそろ行くぞ。
 今日は500メートル地点にあるキャンプ地が目的地だ」

 眼前にそびえる山を見据える。
 ここまで近寄ってしまえばもはや山の輪郭など認識出来ない。
 そもそも遠くから見たときでさえ、全体の半分より上は雲で覆われて見えない程だ。
 これを、登るのか……
 最大標高は一万メートルに達するこの山の、四千メートル地点に居座ってくれた赤龍にはむしろ感謝したほうがいいのかもしれない。
 なんて馬鹿な考え事はおしまいだ、気合を入れろ。


 赤龍討伐隊、グランロアマウン入山。



次のエピソードへ進む 第三十四話 「ハプニング」


みんなのリアクション

現在俺たちは樹海の舗装道を抜けてグランロアマウンの麓へと到着していた。 ベースキャンプからここまでおよそ二時間。
 道中は筆舌に尽くしがたい程の脅威に満ちていた。
 いや、正しくは俺だけ苦しんでいたと言うべきか。
 事前に注意すべき魔獣達は聞いていたとはいえ、いざ目にすると嫌悪感が勝る。
 そう、虫系の魔獣だ。
 おっと、正しくは魔物か。
 虫や不定形のスライム等、魔力を持った敵対的な無機物モンスターは魔物として括られるらしい。
 確かに、獣ではないしな。
 事前に聞いていた中に、|殺人蜂《キラービー》という魔物がいた。
 大きなスズメバチ、程度に思っていたがこれがなんと体長30センチ程のバケモン。
 それが群れを成して何十匹と襲ってくる。
 もとより都会で育った俺は虫が苦手だ。
 それは転生してからも変わっていない。
 転生しようとも、前世の記憶や感性を持つ以上苦手なものは簡単には払拭出来ない。
 コイツラが襲ってきた時はこの世の終わりかと思って叫びながら黒角の杖を振りまわしていた。
 おかげでレギンにはバカにされるわ、イラルドは笑いが止まらないわ、皆が温かい目で見つめてきて居心地が悪い。
 その他にも獅子熊や|大牙猪《ファングボー》、話に出てなかったイモムシのようなやつまで出てきて道中はてんやわんやだ。
 だが流石は歴戦のAランク冒険者と騎士団員達だ。
 誰も息があがることなく、傷一つ無くここまで来ている。
 何より今回役に立っているのはAランク冒険者のとある二人組であった。
 魔族、|兎族《ラビッツ》の男女二人組の冒険者、ハルシィとフィネスだ。
 二人は夫婦でもあり、揃ってAランクの実力者。
 人族と変わらない背格好に兎と人を足したような顔を持ち、両腕は少し短く、兎特有の発達した足を持つ。
 二人は討伐隊の中でも特に機動力に優れ、嗅覚も人より数倍以上発達している為索敵にも長ける。
 決して広くはない舗装道と周囲を木々で囲まれた環境で、ここまで苦も無く進んで来れたのは彼らの存在が大きい。
 先頭と最後尾とで二手に別れて索敵をしてくれ、戦闘時は手薄な箇所に素早くカバーに回る。
 縁の下の力持ち的な役割を担ってくれている。
「頑張ってるね、ライル君! 正直、初めて見た時はどうなることかと不安だったけど、まさかここまでデキるとはね!」
「ハルシィさん、フィネスさん! お陰で助かってます!」
「仲間なんだから当然よ。困ったことがあればいつでも頼ってね。
 私達も、あなたには期待してるから」
「あぁフィネス! 君には僕が付いて――」
「うるさい! とっとといくよ!」
「あはは……」
 ハルシィ曰く、『彼女、あんなだけど発情期は凄いんだよ』とのことだが、うーん兎。
 そうだ、魔族といえばイラルドが連れている騎士団員の女性も魔族だ。
 薄緑の髪に尖った長耳を持つ、ファンタジーおなじみの|妖精族《エルフ》だ。
 確か名前は、シーリアだったか。
 彼女は魔術士だが、役割はゼールやミルゲンとは違い補助や回復を専門とする治癒術士だ。
 ヒーラー、と言えば分かりやすいだろうし、この世界でもその言葉は浸透していた。
「よし、少し休憩を取っていこう。
 各自、装備の不備や体調に変化がないか確認を怠らないでくれ」
「団長、ここまでの道中どう思われますか?」
「兵士団からの報告通り、いやそれ以上に魔獣達が荒れているな……予想以上としか言いようがない」
 なにやらイラルドともう一人の騎士団員、ドノアという戦士職の男性が話し込んでいる。
 真面目な雰囲気、あまり割って入らない方が良さそうだ。
「ライル、ここからが本番よ」
「分かってます。そういえば先生、道中であまり魔術を使っていませんでしたよね?」
「今回のような密集した戦闘では、魔術はかえって仲間の行動を阻害する一因になるわ。
 私達魔術士はそういった場合は大抵魔弾のみで戦うか、邪魔にならないよう後方や隊列中央に固まるしかなくなるの」
「先生なら威力や範囲は調節できるんじゃ?」
「もちろん可能よ。
 けれどグウェスさんやレギン、|兎族《ラビッツ》の二人のような高機動アタッカーは縦横無尽に動くことによって真価を発揮する。
 その軌道上に魔術がぶつかって事故になったケースも少なくない。
 何事も適材適所、私達がすべき事でなければする必要はないの。
 もちろん、必要に迫られればその時は別よ」
 あくまでもそれぞれの役割がある、という訳か。
 俺たち討伐隊のメンバーは簡単に分けると四つの役割に分かれる。
 俺とグウェス、レギンとハルシィとフィネスがアタッカー。
 イラルドとドノアがタンク、シーリアがヒーラー。
 ゼールとミルゲンは中・上級魔術による攻撃と|防壁《プロテクション》等によるサポートを務めるサポート兼アタッカー。
 ヒーラーが一人なのは不安だが、むしろシーリアを連れてきてくれたイラルドには拍手を送るべきだろう。
 それに、俺とゼールとミルゲンはそれぞれ治癒魔術が使える。
 見た目の偏り以上に態勢は整っているという訳だ。
「よし、そろそろ行くぞ。
 今日は500メートル地点にあるキャンプ地が目的地だ」
 眼前にそびえる山を見据える。
 ここまで近寄ってしまえばもはや山の輪郭など認識出来ない。
 そもそも遠くから見たときでさえ、全体の半分より上は雲で覆われて見えない程だ。
 これを、登るのか……
 最大標高は一万メートルに達するこの山の、四千メートル地点に居座ってくれた赤龍にはむしろ感謝したほうがいいのかもしれない。
 なんて馬鹿な考え事はおしまいだ、気合を入れろ。
 赤龍討伐隊、グランロアマウン入山。