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第二十四話 「暴走」

ー/ー



「さあ、大人しく付いてきてもらおうか」

 一歩、また一歩とウルガドがこちらへと距離を詰めてくる。
 どうする、どうすればいい!?

「だ、だめです!おにいちゃんに近寄らないで下さい!!」

 声を荒げて俺とウルガドの間にルコンが割って入る。
 完全な敵意を剥き出しにするルコンに、驚く素振りも無くウルガドが問いかける。

「君がダメと言おうが関係無い。これは決まりだ。世界の掟だ。分かったらどけとは言わない。分からずとも、その少年は連れて行くまでだ」

 ダメだ、話し合いは出来ない。
 やはり逃げるしか――

「やあぁっ!!」

 考えが纏まらない内に、距離を詰めるウルガドへとルコンが飛びかかりつつ、二本へと増やした尾を振るう。
 しまった、止めなければ! と思う暇もなく振るわれた尾を躱したウルガドは小さなルコンの体へと蹴りを叩き込む。

「ふぐッ!?」
「ルコンッ!!」
「君も抵抗するならば容赦はしない。こちらは騎士団としての防衛権と捕縛権を有する。場合によっては、君が言うように殺してでも連れて行く」
「テメェ……!」

 さらに圧力を増して迫るウルガドだが、そんなことは蚊ほども気にならない。
 怒りがこみ上げる。
 腹の底からせり上がる激情が脳天へと突きささり、身体全体を突き動かす衝動となって血液中を駆け巡る。
 こいつは俺の大事なものを傷付けた、コイツを許すな、と。
 気づけば身体は前のめりに走り出し、あっという間に懐へと潜り込み杖を振りかざしていた。

「そうか。では、制圧を開始する」

 振るう杖を受け止めるべく、腰に帯刀していた得物をウルガドが抜き放つ。
 湾曲した刃を持つ短めの短剣、カトラスとも呼ばれる片手剣。

 ガギギィィィ!! と音を立てて互いの得物がぶつかり火花が散る。
 すかさず屈んで(かが)足払いを放つがバックステップで避けられてしまう。

風撃矢(ウインドバリスタ)!」

 再度距離を詰める前に、牽制としての魔術を放つ。
 本来であればもう少し低威力の下級魔術を使っていたはずだが、気がつけば三級魔術を使っていた。
 いつぞやの奴隷商に放った時とは違い、今回は加減もしていない。
 直撃すれば間違い無く、鉄の鎧だろうと粉砕し内側の骨を砕く威力。
 のはずだったのだが、形を成した暴風の矢は対象に届く前に大幅に勢いを落としてしまう。

「はッ!?」
「なんだ?舐めているのか?」

 怪訝そうに飛来する矢を切り落とすウルガド。
 不思議なのはこちらの方だ。
 無意識の内に放った三級魔術、手加減などしていない。
 失敗? いや、魔力の制御が上手くできていない?
 原因を特定する暇も無く、ウルガドが目前に迫る。
 下段から逆袈裟斬りの形で刃が迫る。
 マズっ

「うごっ!?」

 真っ直ぐに突き出された足先が腹に突き刺さる。
 軽く数メートルは地面を転がり、胃の中のモノを吐き出してしまう。
 得物はブラフ、あくまでも捕縛のため、こちらを殺す気はないらしい。
 痛みにえずく事により、段々と怒りが引き冷静さを取り戻す。
 意識はあった、思考も出来た、だが身体の制御が追いつかなかった。
 まるで脳と体が分離したかの様な感覚。
 激情に突き動かされるままに行動する体。
 魔術が安定しなかったのもきっとそのせいだ。

 魔術は必要魔力と魔術名を詠唱すれば魔術を形成する段階に入るが、完成形をイメージしそれを瞬時になぞり構築する魔力操作が伴わなければ十全な効果を発揮、又はそもそも行使出来ない。
 先程の俺は恐らくイメージが出来ていなかった。
 怒りから目の前のウルガドを倒す事に囚われ、魔術を完璧に構築出来なかったのだ。

 いや、反省は後だ。
 今は反撃を――

「待てッ!ルコン!!」

 ウルガドの背後に、視界の端から猛スピードでルコンが迫る。
 声を上げた時には既に攻撃態勢に移行、三本(サード)へとギアを上げていた。

「ッ!?」

 背後に現れた気配から膨れ上がる魔力を感じ取り、ウルガドが振り向きつつ刃を振るう。
 圧倒的反射速度により振るわれた刃はルコンの攻撃よりも早く、彼女の頬を掠めて鮮血を散らす。

「きゃあッ!」

 刃物による痛み、凶器が迫る恐怖により悲鳴を上げて転がるルコン。
 薄皮一枚、大きな怪我ではない。
 ルコンの頬から流れる()が目に映る。


 ドクンと、心臓が大きく脈打つ。
 先程とは比べ物にならない激情が沸き立つ。


 おまえも奪うのか。
 おまえも、()()()()()のか。
 それは、ダメダ。


 己の内から魔力が溢れるのが感じ取れる。
 感じ取れるだけで、()()()()()
 段々と、自分の体なのかも分からなくなる。
 今聞こえる獣の様な唸り声は何処から聞こえる?
 違う、俺から出ているのか?

「なん、だ……それは!?」

 何を怯えている?
 お前は許さないぞ。
 待て、さがるな。

 ゴッッ!! という鈍い音と共に手に衝撃が伝わる。
 あぁ、軽い。
 伝わる衝撃も、体も、羽のようだ。

「ぐぁっ、ツ!!どうなっている……!?」


 今なら、なんでもデキそうダ。



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次のエピソードへ進む 第二十五話 「陽だまりの呼び声」


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「さあ、大人しく付いてきてもらおうか」
 一歩、また一歩とウルガドがこちらへと距離を詰めてくる。
 どうする、どうすればいい!?
「だ、だめです!おにいちゃんに近寄らないで下さい!!」
 声を荒げて俺とウルガドの間にルコンが割って入る。
 完全な敵意を剥き出しにするルコンに、驚く素振りも無くウルガドが問いかける。
「君がダメと言おうが関係無い。これは決まりだ。世界の掟だ。分かったらどけとは言わない。分からずとも、その少年は連れて行くまでだ」
 ダメだ、話し合いは出来ない。
 やはり逃げるしか――
「やあぁっ!!」
 考えが纏まらない内に、距離を詰めるウルガドへとルコンが飛びかかりつつ、二本へと増やした尾を振るう。
 しまった、止めなければ! と思う暇もなく振るわれた尾を躱したウルガドは小さなルコンの体へと蹴りを叩き込む。
「ふぐッ!?」
「ルコンッ!!」
「君も抵抗するならば容赦はしない。こちらは騎士団としての防衛権と捕縛権を有する。場合によっては、君が言うように殺してでも連れて行く」
「テメェ……!」
 さらに圧力を増して迫るウルガドだが、そんなことは蚊ほども気にならない。
 怒りがこみ上げる。
 腹の底からせり上がる激情が脳天へと突きささり、身体全体を突き動かす衝動となって血液中を駆け巡る。
 こいつは俺の大事なものを傷付けた、コイツを許すな、と。
 気づけば身体は前のめりに走り出し、あっという間に懐へと潜り込み杖を振りかざしていた。
「そうか。では、制圧を開始する」
 振るう杖を受け止めるべく、腰に帯刀していた得物をウルガドが抜き放つ。
 湾曲した刃を持つ短めの短剣、カトラスとも呼ばれる片手剣。
 ガギギィィィ!! と音を立てて互いの得物がぶつかり火花が散る。
 すかさず|屈んで《かが》足払いを放つがバックステップで避けられてしまう。
「|風撃矢《ウインドバリスタ》!」
 再度距離を詰める前に、牽制としての魔術を放つ。
 本来であればもう少し低威力の下級魔術を使っていたはずだが、気がつけば三級魔術を使っていた。
 いつぞやの奴隷商に放った時とは違い、今回は加減もしていない。
 直撃すれば間違い無く、鉄の鎧だろうと粉砕し内側の骨を砕く威力。
 のはずだったのだが、形を成した暴風の矢は対象に届く前に大幅に勢いを落としてしまう。
「はッ!?」
「なんだ?舐めているのか?」
 怪訝そうに飛来する矢を切り落とすウルガド。
 不思議なのはこちらの方だ。
 無意識の内に放った三級魔術、手加減などしていない。
 失敗? いや、魔力の制御が上手くできていない?
 原因を特定する暇も無く、ウルガドが目前に迫る。
 下段から逆袈裟斬りの形で刃が迫る。
 マズっ
「うごっ!?」
 真っ直ぐに突き出された足先が腹に突き刺さる。
 軽く数メートルは地面を転がり、胃の中のモノを吐き出してしまう。
 得物はブラフ、あくまでも捕縛のため、こちらを殺す気はないらしい。
 痛みにえずく事により、段々と怒りが引き冷静さを取り戻す。
 意識はあった、思考も出来た、だが身体の制御が追いつかなかった。
 まるで脳と体が分離したかの様な感覚。
 激情に突き動かされるままに行動する体。
 魔術が安定しなかったのもきっとそのせいだ。
 魔術は必要魔力と魔術名を詠唱すれば魔術を形成する段階に入るが、完成形をイメージしそれを瞬時になぞり構築する魔力操作が伴わなければ十全な効果を発揮、又はそもそも行使出来ない。
 先程の俺は恐らくイメージが出来ていなかった。
 怒りから目の前のウルガドを倒す事に囚われ、魔術を完璧に構築出来なかったのだ。
 いや、反省は後だ。
 今は反撃を――
「待てッ!ルコン!!」
 ウルガドの背後に、視界の端から猛スピードでルコンが迫る。
 声を上げた時には既に攻撃態勢に移行、|三本《サード》へとギアを上げていた。
「ッ!?」
 背後に現れた気配から膨れ上がる魔力を感じ取り、ウルガドが振り向きつつ刃を振るう。
 圧倒的反射速度により振るわれた刃はルコンの攻撃よりも早く、彼女の頬を掠めて鮮血を散らす。
「きゃあッ!」
 刃物による痛み、凶器が迫る恐怖により悲鳴を上げて転がるルコン。
 薄皮一枚、大きな怪我ではない。
 ルコンの頬から流れる|赤《・》が目に映る。
 ドクンと、心臓が大きく脈打つ。
 先程とは比べ物にならない激情が沸き立つ。
 おまえも奪うのか。
 おまえも、|赤《・》|く《・》|燃《・》|や《・》|す《・》のか。
 それは、ダメダ。
 己の内から魔力が溢れるのが感じ取れる。
 感じ取れるだけで、|分《・》|か《・》|ら《・》|な《・》|い《・》。
 段々と、自分の体なのかも分からなくなる。
 今聞こえる獣の様な唸り声は何処から聞こえる?
 違う、俺から出ているのか?
「なん、だ……それは!?」
 何を怯えている?
 お前は許さないぞ。
 待て、さがるな。
 ゴッッ!! という鈍い音と共に手に衝撃が伝わる。
 あぁ、軽い。
 伝わる衝撃も、体も、羽のようだ。
「ぐぁっ、ツ!!どうなっている……!?」
 今なら、なんでもデキそうダ。