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第十五話 「戦士の戦い」

ー/ー



「そういえばライル君は何の魔族なんだい?」

 ロディアスまでイラルド率いるロディアス騎士団の馬車に乗せてもらうことになり、俺とゼールとルコンとイラルドの四人で一つの馬車の荷台に乗っていた時の事だ。
 やはり聞かれるよな、初見は。
 答え方は一択なのだが、仮に「半魔です!」なんて答えたらどうなるのだろうか?
 まさか、即斬首とか?
 なんて馬鹿げた事を考えつつも冷静に答えを口にする。

「闘魔族です。額の角くらいしか特徴が無いので分かりづらいですよね」
「おぉ!あの闘魔族とは!こりゃまた、凄いのに会えたもんだ……どれ、今のうちに握手してくれ!」

 そう言って無理矢理こちらの右手を引っ張り力強く握られる。
 最初は厳格なおっちゃんかと思ったのだが、こうして笑顔でブンブン手を振る様を見ると親切な親戚の叔父ちゃんくらいに見えてくるな。

「えっと、闘魔族ってそんなに珍しいんですか?」
「なんだ、親御さんに聞いてないのか?そりゃあ闘魔族といえば、人魔大戦では魔土側戦力として大きな戦果を数多く挙げたもんだ。それに個体数も少ないと聞く。まあこの話に関してはゼール殿の方が詳しいだろう」

 そう言ってゼールを一瞥するイラルドであったが、当のゼールは話したくないとばかりに目を逸らして口を開く素振りを見せない。
 ていうか、ゼールの方が詳しいってどういう事だ?
 ゼールはどう見ても二十代後半から三十代前半。
 人魔大戦は終戦したのが丁度二十年前、戦時期間を考えると少なくとも三十年前の話だ。
 ゼールは人族では無い?それとも単に知識量の話なのか?

 ていうか、このおっさんもおっさんだ。
 和平を結んだとはいえ、三十年前までは殺し合ってた敵方種族を前に「凄い!」なんて言って握手するか?
 だめだ、全部が分からない。
 これは考えるだけ無駄だな、また今度時間がある時に考えよう。

「団長!!前方より魔獣の群れが向かって来ます!」
「おっと、仕事の時間だな。よいせっと!」

 イラルドが重い腰をあげて荷台から飛び降り、馬車の前方に立つ。

「今回は俺だけでいいぞ。馬車に乗って休んでいたからな、お前らは休んでおけ」
「ハッ!ご武運を!」

 イラルドは部下に休息を命じつつ腰にさげた鞘から剣を抜く。
 柄に立派な装飾が施された見事な長剣だ。
 長さにしておよそ120センチ程の両刃剣、いわゆるロングソードというものだろう。
 そんなイラルドに対して向かってくる魔獣の数はおよそ二十弱。
 Cランクに分類される灰赤狼(はいあかおおかみ)の群れであった。
 文字通り灰赤色の体毛を持つ、高い連携力で獲物を狩る魔獣だ。
 しかし問題はこのCランク、灰赤狼()()のランクなのだ。
 そのCランクの魔獣が二十弱ともなれば、脅威度は並のBランク魔獣を凌駕する。
 俺が先日戦った獅子熊など、この群れの前ではあっという間に食い散らかされてしまうだろう。

「手伝いましょうか?」

 思わず声をあげる。
 ロディアス騎士団団長であるイラルドならば問題は無いのだろう。
 だが王都まで送ってもらう手前、何もしないというのも落ち着かないのだ。

「ありがとう!気持ちだけ受け取っておくよ、君はゆっくり休んでいてくれ!」

 イラルドはヒラヒラと空いた手を振りつつ悠然と狼達の元へ進んでいく。
 その歩みは余りにも隙だらけで、まるで散歩にでも行くかのような軽快さだ。

「よく見ておきなさい。私では教えることが出来ない戦士としての戦いを」
「うぉっ!?びっくりさせないで下さい……」

 ぬるっと隣にゼールが並び立ち呟く。
 その横ではルコンも興味津々とばかりにフンフンと鼻を鳴らしている。
 だが確かに、実際に戦士職と呼ばれる者の戦闘を見るのは初めてだ。
 グウェスも戦士であろうが、あくまでも鍛錬の範囲でしか見たことがない。
 ここはしっかりと学ばせてもらわないとな。

 イラルドはあくまでも悠然としたままで、構えを取る素振りすら見せない。
 そんなイラルドを囲うようにして狼達が包囲網を作る。
 見事に統率された連携だ、野生の獣でありながら、さながら訓練された軍隊の様だ。

 動きを見せないイラルドに痺れを切らした狼達が一斉に襲いかかる。
 あるものは足に食らいつくように、あるものは飛びかかって首や腕に食らいつくように。
 そこでようやく、イラルドは剣を振るった。
 下段から上段への半月を描くような一閃。
 正面から首と足に襲いかかった二匹の狼が両断される。

「そぉらっ!!」

 上段まで掲げた剣をそのまま右側面に打ち下ろして、同様に向かってきた狼を両断する。
 その隙に、空いた左側と背後から二匹の狼が飛びかかる。

「どらぁッ!」

 見えていると言わんばかりに、体を捻りつつの回転斬りによりこれも両断。

 一見すると力任せに剣を振るう大雑把な戦い方だ。
 だがその一挙手一投足から伝わってくるのは、鍛え上げられた確かな歴戦の技であった。
 全てを一太刀のもとに斬り伏せるその姿には、一分の無駄も感じられない。

「凄い……」
「わぁぁぁ〜!」

 半分以上の狼をあっという間に斬り伏せたイラルドは、そのまま残った群れの中心へと突進する。
 次々と襲い来る狼を斬り伏せ、最後の三匹だけとなった時、真ん中のリーダーらしき一際大きな狼が背を向けて走り出す。
 追従するように残りの二匹もそれを追いかける。
 逃げた。
 勝てないと悟り、全滅する前に逃げ出したのだ。

「む、すまんが、一度人を襲った以上はみすみす逃がしてやる訳にはいかんな」

 剣を水平に倒して構え、体全体の捻りを使って横薙ぎの一閃を放つ。
 コンマ数秒の後、走り出した狼達の体は上下に分断されて地に落ちる。

「あ、あれは!?」
「斬撃に魔力を乗せて放ったのよ。魔力はある一定量以上の密度を得ると物体に対しての干渉力を得る。私達魔術士も魔術を遠隔行使する際は魔力を飛ばすけれど、詠唱せずに一定量の魔力を飛ばせばそれは魔弾となって物体へ接触するわ」

 なるほど、要は斬撃を飛ばしたのか。
 たしかルコンが暴走した時も、尻尾から放たれた魔力は詠唱無しにも関わらず周りの男達を弾き飛ばしていたな。
 魔弾か、今度俺も試してみよう。

 それにしても、圧倒的な戦いだった。
 イラルドはその豪快さとは裏腹に、一度も狼達に触れさせることなく勝利してみせた。
 卓越した剣技と身体能力、これが熟練の戦士か。

「ふぅ、終わった終わった」
「お疲れ様です!少し休憩になされますか?」
「バカ言うな、このくらい準備運動にもならんさ。そら、客人も乗せてるんだ、とっとと行くぞ!」
「はっ!」

 ガチャガチャと鎧を鳴らしながらイラルドが荷台へと戻って来る。

「いや〜、お待たせして申し訳ない!」
「とんでもないです、お疲れ様でした。ロディアス騎士団団長の実力、お見事でした!」
「はいっ!とってもカッコよかったです!」
「ハッハッハ!あのくらいウチの者なら誰だって出来るさ!それに、俺の見立てではライル君もかなり出来るんじゃないか?」
「え?いや、俺はそんなことは……」
「おにいちゃんは凄いんです!この前は獅子熊だって倒したんですよ!」
「ちょっ!?ルコン……」

 俺に代わってルコンが得意気に語りだす。
 聞いて!私のおにいちゃんは凄いんです!、と。
 正直、実績を積んだ歴戦の勇士を前に十歳の武勇伝なんて恥ずかしくてたまらない。
 ゼールも何か言ってくれないものか。

「ねえイラルド団長。ロディアスまでの道中、よろしければ二人に稽古をつけてあげてもらえないかしら?私では近接戦を教えてあげることは出来ないの。もちろん、授業料はキチンとお支払いするわ」

 ゼールは何を言っている?

「あのゼール殿の頼みとあらば断れますまい!それに、『団長』などとやめてくだされ。どうぞ、イラルドとお呼び下さい。しかし、その年で獅子熊を倒すとは……流石は闘魔族といったところか……」

 イラルドも何を言っている? 安請け合いが過ぎるのではないか?
 いや、まあ、もちろん嬉しい話なのだが。

「さて、それではライル君、ルコン君。改めて、ロディアスまでの道中を預かるイラルド・バーキンだ!よろしく頼む!」

 こうして短い間ではあるが、イラルドとの道中での鍛錬も加わり、ロディアスを目指すのであった


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「そういえばライル君は何の魔族なんだい?」
 ロディアスまでイラルド率いるロディアス騎士団の馬車に乗せてもらうことになり、俺とゼールとルコンとイラルドの四人で一つの馬車の荷台に乗っていた時の事だ。
 やはり聞かれるよな、初見は。
 答え方は一択なのだが、仮に「半魔です!」なんて答えたらどうなるのだろうか?
 まさか、即斬首とか?
 なんて馬鹿げた事を考えつつも冷静に答えを口にする。
「闘魔族です。額の角くらいしか特徴が無いので分かりづらいですよね」
「おぉ!あの闘魔族とは!こりゃまた、凄いのに会えたもんだ……どれ、今のうちに握手してくれ!」
 そう言って無理矢理こちらの右手を引っ張り力強く握られる。
 最初は厳格なおっちゃんかと思ったのだが、こうして笑顔でブンブン手を振る様を見ると親切な親戚の叔父ちゃんくらいに見えてくるな。
「えっと、闘魔族ってそんなに珍しいんですか?」
「なんだ、親御さんに聞いてないのか?そりゃあ闘魔族といえば、人魔大戦では魔土側戦力として大きな戦果を数多く挙げたもんだ。それに個体数も少ないと聞く。まあこの話に関してはゼール殿の方が詳しいだろう」
 そう言ってゼールを一瞥するイラルドであったが、当のゼールは話したくないとばかりに目を逸らして口を開く素振りを見せない。
 ていうか、ゼールの方が詳しいってどういう事だ?
 ゼールはどう見ても二十代後半から三十代前半。
 人魔大戦は終戦したのが丁度二十年前、戦時期間を考えると少なくとも三十年前の話だ。
 ゼールは人族では無い?それとも単に知識量の話なのか?
 ていうか、このおっさんもおっさんだ。
 和平を結んだとはいえ、三十年前までは殺し合ってた敵方種族を前に「凄い!」なんて言って握手するか?
 だめだ、全部が分からない。
 これは考えるだけ無駄だな、また今度時間がある時に考えよう。
「団長!!前方より魔獣の群れが向かって来ます!」
「おっと、仕事の時間だな。よいせっと!」
 イラルドが重い腰をあげて荷台から飛び降り、馬車の前方に立つ。
「今回は俺だけでいいぞ。馬車に乗って休んでいたからな、お前らは休んでおけ」
「ハッ!ご武運を!」
 イラルドは部下に休息を命じつつ腰にさげた鞘から剣を抜く。
 柄に立派な装飾が施された見事な長剣だ。
 長さにしておよそ120センチ程の両刃剣、いわゆるロングソードというものだろう。
 そんなイラルドに対して向かってくる魔獣の数はおよそ二十弱。
 Cランクに分類される|灰赤狼《はいあかおおかみ》の群れであった。
 文字通り灰赤色の体毛を持つ、高い連携力で獲物を狩る魔獣だ。
 しかし問題はこのCランク、灰赤狼|単《・》|体《・》のランクなのだ。
 そのCランクの魔獣が二十弱ともなれば、脅威度は並のBランク魔獣を凌駕する。
 俺が先日戦った獅子熊など、この群れの前ではあっという間に食い散らかされてしまうだろう。
「手伝いましょうか?」
 思わず声をあげる。
 ロディアス騎士団団長であるイラルドならば問題は無いのだろう。
 だが王都まで送ってもらう手前、何もしないというのも落ち着かないのだ。
「ありがとう!気持ちだけ受け取っておくよ、君はゆっくり休んでいてくれ!」
 イラルドはヒラヒラと空いた手を振りつつ悠然と狼達の元へ進んでいく。
 その歩みは余りにも隙だらけで、まるで散歩にでも行くかのような軽快さだ。
「よく見ておきなさい。私では教えることが出来ない戦士としての戦いを」
「うぉっ!?びっくりさせないで下さい……」
 ぬるっと隣にゼールが並び立ち呟く。
 その横ではルコンも興味津々とばかりにフンフンと鼻を鳴らしている。
 だが確かに、実際に戦士職と呼ばれる者の戦闘を見るのは初めてだ。
 グウェスも戦士であろうが、あくまでも鍛錬の範囲でしか見たことがない。
 ここはしっかりと学ばせてもらわないとな。
 イラルドはあくまでも悠然としたままで、構えを取る素振りすら見せない。
 そんなイラルドを囲うようにして狼達が包囲網を作る。
 見事に統率された連携だ、野生の獣でありながら、さながら訓練された軍隊の様だ。
 動きを見せないイラルドに痺れを切らした狼達が一斉に襲いかかる。
 あるものは足に食らいつくように、あるものは飛びかかって首や腕に食らいつくように。
 そこでようやく、イラルドは剣を振るった。
 下段から上段への半月を描くような一閃。
 正面から首と足に襲いかかった二匹の狼が両断される。
「そぉらっ!!」
 上段まで掲げた剣をそのまま右側面に打ち下ろして、同様に向かってきた狼を両断する。
 その隙に、空いた左側と背後から二匹の狼が飛びかかる。
「どらぁッ!」
 見えていると言わんばかりに、体を捻りつつの回転斬りによりこれも両断。
 一見すると力任せに剣を振るう大雑把な戦い方だ。
 だがその一挙手一投足から伝わってくるのは、鍛え上げられた確かな歴戦の技であった。
 全てを一太刀のもとに斬り伏せるその姿には、一分の無駄も感じられない。
「凄い……」
「わぁぁぁ〜!」
 半分以上の狼をあっという間に斬り伏せたイラルドは、そのまま残った群れの中心へと突進する。
 次々と襲い来る狼を斬り伏せ、最後の三匹だけとなった時、真ん中のリーダーらしき一際大きな狼が背を向けて走り出す。
 追従するように残りの二匹もそれを追いかける。
 逃げた。
 勝てないと悟り、全滅する前に逃げ出したのだ。
「む、すまんが、一度人を襲った以上はみすみす逃がしてやる訳にはいかんな」
 剣を水平に倒して構え、体全体の捻りを使って横薙ぎの一閃を放つ。
 コンマ数秒の後、走り出した狼達の体は上下に分断されて地に落ちる。
「あ、あれは!?」
「斬撃に魔力を乗せて放ったのよ。魔力はある一定量以上の密度を得ると物体に対しての干渉力を得る。私達魔術士も魔術を遠隔行使する際は魔力を飛ばすけれど、詠唱せずに一定量の魔力を飛ばせばそれは魔弾となって物体へ接触するわ」
 なるほど、要は斬撃を飛ばしたのか。
 たしかルコンが暴走した時も、尻尾から放たれた魔力は詠唱無しにも関わらず周りの男達を弾き飛ばしていたな。
 魔弾か、今度俺も試してみよう。
 それにしても、圧倒的な戦いだった。
 イラルドはその豪快さとは裏腹に、一度も狼達に触れさせることなく勝利してみせた。
 卓越した剣技と身体能力、これが熟練の戦士か。
「ふぅ、終わった終わった」
「お疲れ様です!少し休憩になされますか?」
「バカ言うな、このくらい準備運動にもならんさ。そら、客人も乗せてるんだ、とっとと行くぞ!」
「はっ!」
 ガチャガチャと鎧を鳴らしながらイラルドが荷台へと戻って来る。
「いや〜、お待たせして申し訳ない!」
「とんでもないです、お疲れ様でした。ロディアス騎士団団長の実力、お見事でした!」
「はいっ!とってもカッコよかったです!」
「ハッハッハ!あのくらいウチの者なら誰だって出来るさ!それに、俺の見立てではライル君もかなり出来るんじゃないか?」
「え?いや、俺はそんなことは……」
「おにいちゃんは凄いんです!この前は獅子熊だって倒したんですよ!」
「ちょっ!?ルコン……」
 俺に代わってルコンが得意気に語りだす。
 聞いて!私のおにいちゃんは凄いんです!、と。
 正直、実績を積んだ歴戦の勇士を前に十歳の武勇伝なんて恥ずかしくてたまらない。
 ゼールも何か言ってくれないものか。
「ねえイラルド団長。ロディアスまでの道中、よろしければ二人に稽古をつけてあげてもらえないかしら?私では近接戦を教えてあげることは出来ないの。もちろん、授業料はキチンとお支払いするわ」
 ゼールは何を言っている?
「あのゼール殿の頼みとあらば断れますまい!それに、『団長』などとやめてくだされ。どうぞ、イラルドとお呼び下さい。しかし、その年で獅子熊を倒すとは……流石は闘魔族といったところか……」
 イラルドも何を言っている? 安請け合いが過ぎるのではないか?
 いや、まあ、もちろん嬉しい話なのだが。
「さて、それではライル君、ルコン君。改めて、ロディアスまでの道中を預かるイラルド・バーキンだ!よろしく頼む!」
 こうして短い間ではあるが、イラルドとの道中での鍛錬も加わり、ロディアスを目指すのであった