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第十二話 「制御、一歩」

ー/ー



宿へ戻りルコンをベッドに寝かせる。
 ゼールから受けた治癒魔術のおかげで痛みや怪我は綺麗サッパリ無くなったが、疲労感だけが残ってしまった。

 結局、今回も俺は守れなかった。
 結果としてはルコンも連れ去られることなく、俺も五体満足で帰ってこられた。
 だがそれは、ルコンの暴走とゼールの助けがあったからこそだ。
 もし、ルコンが暴走せずゼールも来なければ?

 悔しさと怒りで(はらわた)が煮えくり返る。
 だめだ、やはり俺も奴らに一矢報いなければ……

「う……んぅぅ……おに……ちゃ」

 ハッとしてルコンを見る。
 起きてはいない、うなされているだけのようだ。
 そうだ、今はルコンの隣にいてやらないと。

 ゼールが帰ってきたのは俺達に遅れて二十分程であった。
 特に変わりはなく、「もう奴らが来ることは無いわ、安心して」とそれだけだった。


 翌日になって、昨日の事について三人で話し合った。
 ルコンはと言うと、朝早くに飛び起きてキョロキョロと周りを見渡し、俺の姿を見つけるや否やクシャリと顔を歪めて泣き出してしまった。
 どうやら、昨日の暴走中の記憶はあるらしい。
 泣きながらしきりに謝り続けるルコンの姿には胸が痛んだが、ルコンは何も悪くない。
 むしろ助けられたのだ、礼を言うのは俺の方だった。
 なんとかなだめて、泣きやませて現在に至る。

「現場は見ていないから推測の域を出ないけれど、それはきっと『九尾励起(ナインライブズ)』ね」
「ナインライブズ、ですか?」
狐族(ルナル)が持つとされる体質のようなものね。全員が発現するようなものではなく、才能があり、なおかつ弛まぬ研鑽の果てに得た魔力が一時的に実体を伴った尾として表れている状態ね」

 さすがはゼール、何でも知ってるな。

「尾が表れている間は身体能力や使用魔術が強化される、とは聞いたことがあるわ。段階も二本から九本までの八段階、尾が増える事に強力なブーストがかかると聞くわ」

 なんだか聞き覚えのある現象だが、今は黙っておいたほうがいいだろう。

「でも、どうして昨日は急にそんなことになったんでしょうか?」
「これもまた憶測の域を出ないけれど……元より才能はあったのでしょうね。そしてこの数週間での魔力操作トレーニングによる魔力への理解。さらには、あなたが傷つけられた事による怒り。それらの要因が重なって尾の発現に繋がったと考えられるわね」

 話の最中、ルコンは黙りこくって耳を傾けていた。
 尻尾を体の正面に丸めて抱きしめ、バツが悪そうだ。

「なんで落ち込んでるのさ!ルコンが頑張ってくれたおかげで、俺も助かったんだよ。だからほら、ね?」
「で、でも……」
「これからまた一緒に修行して、コントロール出来るようになれば良いんだよ!」
「そうね。ルコン、あなたの力はキチンと制御すればライルや私すら守れるモノよ。そうなるためにも、ゆっくりとでいいから力の使い方を学んでいきなさい」
「は、はい……!」

 励まされ、明るさを少しその顔に取り戻している。

「それとライル、あなたが交戦した連中について。首領と思しき男は私の見立てではBランクの冒険者相当。持っていた斧にも魔石が埋め込まれていた事から魔具(まぐ)の類であることは明らか。服の下には耐魔術仕様の防具も着ていた。そんな相手にあなた、手加減していたでしょう?今のあなたが三級魔術を使って目立った外傷が無い、なんてことはあり得ない」
「そ、それは……はい。殺さないように魔術を使って動きを封じようとしました」
「呆れたわね。以前に私が、殺しは無しと言ったからかしら?あの時は私が側にいてあなたの安全を保障出来たからよ。今回はそうではなく、向こうも迷いなくあなたを殺そうとしたはず。いい?次から似たような状況になれば、迷いなく攻撃なさい。それが、あなたとあなたの周りを守るのよ」
「わ、わかりました!」

 表情自体はいつもと変わりないが、その言葉には大きな重圧が乗っていた。
 心配と、怒りだろうか。
 そういった感情が働きかけているのか、今日のゼールは口数が多かった。
 というか、小言の多い母親そのものだ。

 勢いで返事をしてしまったが、加減無しでか……
 もちろん、前世で人を殺した経験などある訳もない。
 なんなら、殴り合いの喧嘩ですらろくに無い。
 現在の俺があれだけ動けるのはグウェスとの体術修行の日々があったからこそだ。
 いざ必要に迫られた時、本気で他人を攻撃するなんてことが出来るのだろうか?

「さて、今日は私も依頼は無いし、ルコンの修行でもつけてあげましょうか」
「!お願いします!ルコン、がんばります!」
「もちろん、俺も行きますよ!」
「……『俺』にしたのね」
「へ?あ、あぁ!一人称のことですね」

 ゼールの前では確かに『僕』で通していたか。
 心の中で『俺』だったので、自分的には違和感は無いのだが。

「思春期ですからね、こっちのほうが男らしいじゃないですか」
「ルコンもおにいちゃんの『俺』、好きです!」
「フフ、そうね……」

 あれ、今笑ったか?
 そんな面白いこと言ったかな。


 ----

 修行の場はいつもの森とは反対の方角にある、町外れの原っぱで行われた。
 昨日の今日であそこには俺達も行きたくなかったし、ここなら人気も無く見晴らしも効いて警戒出来る。
 まぁ、ゼールが側にいるので万が一も無いとは思うのだが。

「それじゃ、やってみて」

 ゼールの合図に合わせてルコンが頷く。
 彼女は魔力を練り上げ集中する。
 が、

「うぅ〜出来ません……」

 すぐに練った魔力を萎ませて肩を落としてしまった。

「どうした?やっぱりまだ怖い?」
「えぇと、その、分からないんです……尻尾の出し方……」

 成る程、そっちか。
 確かに元から生えているものを、新しく生やしてみろってのも難しい話だな。
 脇の下から新しい腕を一本生やせって言われてるようなものだ。

「昨日の記憶はあるのでしょう?その時、何を感じて、どう思ったの?」
「あの時は……おにいちゃんがいじめられたから、やめてほしくて、ゆるせなくなって……」
「そうか!怒りじゃないか?怒りの感情がトリガーになってるんだよ!」
「有り得る話ね。実際、感情の昂りで身体能力や魔力に影響を及ぼすケースは多く見られるわ」
「よし、ルコン。昨日のことを思い出して、もう一度やってみよう。俺がイジメられてると思うんだ」
「は、はい!」

 ルコンがもう一度集中する。
 それに合わせて、シチュエーションを与えるために声をかける。

「魔力は尻尾の辺りに集中して!俺がイジメられてた時のことを思い出すんだ!」
「おにいちゃんが、イジメられてる時……おにいちゃん、が……」

 ポコっと音を立てて、ルコンの腰のあたりから薄紅色の魔力が小さく沸き立つ。
 あれは、あの時見た……

「フウゥゥゥゥ、フウゥゥゥゥ!!」
「!?」

 荒々しい息遣いにルコンを見ると、瞳孔を見開き衝動を抑えるかのように震える姿があった。
 だめだ、このままでは

「落ち着けルコン!俺の声が聞こえるか?聞こえるなら俺を見ろ!」

 声に合わせて、ギラリと瞳がこちらを向く。
 一瞬昨日のことがフラッシュバックし硬直しかけるが、すぐさまルコンの肩を掴む。

「そうだ、俺を見ろ!でも怒りは捨てるな!俺は無事だけど、その怒りは忘れるな!!コントロールするんだ!集中しろ!」

 なんて言えば良いのかわからなかった。
 ただ思いついたままに、気持ちのままに言葉にした。

「そのまま尻尾を作るように魔力を回すんだ!頑張れルコン、お前なら出来る!」
「フウゥゥ……フウゥ……」

 効いているのか、段々と呼吸も落ち着いてきている。
 開いた瞳孔も、徐々に普段通りの綺麗なルビーの様な瞳に戻りかけている。
 腰から出ていた泡は少しずつ、少しずつ尾としての形を成していった。
 根もとから始まり、少し伸びたところでフワリとした丸みを帯びて、やがて毛先を整える。

 そうして、綺麗な薄紅色の半透明な尻尾が一本出来上がっていた。

「で、出来た!出来たぞルコン!!」
「ハァッハァ……できた……?ほんとに、できた……?」

 俺は我が事のように嬉しくなり、ルコンの両脇に手を入れて持ち上げる。

「わわ!?」
「すごい!すごいぞルコン!よくやったなあ!」
「す、すごい?えへ、えへへ!」

 嬉しそうに二本の尻尾をフリフリと揺らすルコン。
 そんなルコンを嬉しさから、抱き上げてグルグルと回る俺。
 そして、視界の端でそんな俺達を見つめて穏やかに微笑むゼール。

 昨日あんなことがあったからか、今の時間がとてもかけがえのないものに思えたのだった。

 ――――

 本当に、子どもの成長速度は速いのだと改めて実感する。
 少し目を離した隙に少女はその才能を開花させ、少年は(よわい)十とは思えぬ程に立派に己の使命を全うした。

 そして今、こうして二人だけでまた成長している。
 自分が口を出す必要も、そんな隙も無かった。
 目の前の嬉しそうな二人を見ていると、ついこちらも気持ちが緩んでしまう。

(今頃は同じようなことになっていたのかしらね……)

 詮無きことを考えて、子どもたちに声をかける。

「よくやったわね、二人共。今日はここまでよ」
「もう終わりですか?」
「えぇ、もう休みなさい。それに、今日は行くところがあるわ」
「「?」」
「先に宿に帰っていてくれる?私は寄るところがあるから、また後で会いましょう」

 二人を街の中で見送って、ドルフの工房へ向かう。
 今日で約束の一ヶ月が経つ。
 頼んでいた物を受け取りに行こう。


次のエピソードへ進む 第十三話 「かけがえのない」


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宿へ戻りルコンをベッドに寝かせる。 ゼールから受けた治癒魔術のおかげで痛みや怪我は綺麗サッパリ無くなったが、疲労感だけが残ってしまった。
 結局、今回も俺は守れなかった。
 結果としてはルコンも連れ去られることなく、俺も五体満足で帰ってこられた。
 だがそれは、ルコンの暴走とゼールの助けがあったからこそだ。
 もし、ルコンが暴走せずゼールも来なければ?
 悔しさと怒りで|腸《はらわた》が煮えくり返る。
 だめだ、やはり俺も奴らに一矢報いなければ……
「う……んぅぅ……おに……ちゃ」
 ハッとしてルコンを見る。
 起きてはいない、うなされているだけのようだ。
 そうだ、今はルコンの隣にいてやらないと。
 ゼールが帰ってきたのは俺達に遅れて二十分程であった。
 特に変わりはなく、「もう奴らが来ることは無いわ、安心して」とそれだけだった。
 翌日になって、昨日の事について三人で話し合った。
 ルコンはと言うと、朝早くに飛び起きてキョロキョロと周りを見渡し、俺の姿を見つけるや否やクシャリと顔を歪めて泣き出してしまった。
 どうやら、昨日の暴走中の記憶はあるらしい。
 泣きながらしきりに謝り続けるルコンの姿には胸が痛んだが、ルコンは何も悪くない。
 むしろ助けられたのだ、礼を言うのは俺の方だった。
 なんとかなだめて、泣きやませて現在に至る。
「現場は見ていないから推測の域を出ないけれど、それはきっと『|九尾励起《ナインライブズ》』ね」
「ナインライブズ、ですか?」
「|狐族《ルナル》が持つとされる体質のようなものね。全員が発現するようなものではなく、才能があり、なおかつ弛まぬ研鑽の果てに得た魔力が一時的に実体を伴った尾として表れている状態ね」
 さすがはゼール、何でも知ってるな。
「尾が表れている間は身体能力や使用魔術が強化される、とは聞いたことがあるわ。段階も二本から九本までの八段階、尾が増える事に強力なブーストがかかると聞くわ」
 なんだか聞き覚えのある現象だが、今は黙っておいたほうがいいだろう。
「でも、どうして昨日は急にそんなことになったんでしょうか?」
「これもまた憶測の域を出ないけれど……元より才能はあったのでしょうね。そしてこの数週間での魔力操作トレーニングによる魔力への理解。さらには、あなたが傷つけられた事による怒り。それらの要因が重なって尾の発現に繋がったと考えられるわね」
 話の最中、ルコンは黙りこくって耳を傾けていた。
 尻尾を体の正面に丸めて抱きしめ、バツが悪そうだ。
「なんで落ち込んでるのさ!ルコンが頑張ってくれたおかげで、俺も助かったんだよ。だからほら、ね?」
「で、でも……」
「これからまた一緒に修行して、コントロール出来るようになれば良いんだよ!」
「そうね。ルコン、あなたの力はキチンと制御すればライルや私すら守れるモノよ。そうなるためにも、ゆっくりとでいいから力の使い方を学んでいきなさい」
「は、はい……!」
 励まされ、明るさを少しその顔に取り戻している。
「それとライル、あなたが交戦した連中について。首領と思しき男は私の見立てではBランクの冒険者相当。持っていた斧にも魔石が埋め込まれていた事から|魔具《まぐ》の類であることは明らか。服の下には耐魔術仕様の防具も着ていた。そんな相手にあなた、手加減していたでしょう?今のあなたが三級魔術を使って目立った外傷が無い、なんてことはあり得ない」
「そ、それは……はい。殺さないように魔術を使って動きを封じようとしました」
「呆れたわね。以前に私が、殺しは無しと言ったからかしら?あの時は私が側にいてあなたの安全を保障出来たからよ。今回はそうではなく、向こうも迷いなくあなたを殺そうとしたはず。いい?次から似たような状況になれば、迷いなく攻撃なさい。それが、あなたとあなたの周りを守るのよ」
「わ、わかりました!」
 表情自体はいつもと変わりないが、その言葉には大きな重圧が乗っていた。
 心配と、怒りだろうか。
 そういった感情が働きかけているのか、今日のゼールは口数が多かった。
 というか、小言の多い母親そのものだ。
 勢いで返事をしてしまったが、加減無しでか……
 もちろん、前世で人を殺した経験などある訳もない。
 なんなら、殴り合いの喧嘩ですらろくに無い。
 現在の俺があれだけ動けるのはグウェスとの体術修行の日々があったからこそだ。
 いざ必要に迫られた時、本気で他人を攻撃するなんてことが出来るのだろうか?
「さて、今日は私も依頼は無いし、ルコンの修行でもつけてあげましょうか」
「!お願いします!ルコン、がんばります!」
「もちろん、俺も行きますよ!」
「……『俺』にしたのね」
「へ?あ、あぁ!一人称のことですね」
 ゼールの前では確かに『僕』で通していたか。
 心の中で『俺』だったので、自分的には違和感は無いのだが。
「思春期ですからね、こっちのほうが男らしいじゃないですか」
「ルコンもおにいちゃんの『俺』、好きです!」
「フフ、そうね……」
 あれ、今笑ったか?
 そんな面白いこと言ったかな。
 ----
 修行の場はいつもの森とは反対の方角にある、町外れの原っぱで行われた。
 昨日の今日であそこには俺達も行きたくなかったし、ここなら人気も無く見晴らしも効いて警戒出来る。
 まぁ、ゼールが側にいるので万が一も無いとは思うのだが。
「それじゃ、やってみて」
 ゼールの合図に合わせてルコンが頷く。
 彼女は魔力を練り上げ集中する。
 が、
「うぅ〜出来ません……」
 すぐに練った魔力を萎ませて肩を落としてしまった。
「どうした?やっぱりまだ怖い?」
「えぇと、その、分からないんです……尻尾の出し方……」
 成る程、そっちか。
 確かに元から生えているものを、新しく生やしてみろってのも難しい話だな。
 脇の下から新しい腕を一本生やせって言われてるようなものだ。
「昨日の記憶はあるのでしょう?その時、何を感じて、どう思ったの?」
「あの時は……おにいちゃんがいじめられたから、やめてほしくて、ゆるせなくなって……」
「そうか!怒りじゃないか?怒りの感情がトリガーになってるんだよ!」
「有り得る話ね。実際、感情の昂りで身体能力や魔力に影響を及ぼすケースは多く見られるわ」
「よし、ルコン。昨日のことを思い出して、もう一度やってみよう。俺がイジメられてると思うんだ」
「は、はい!」
 ルコンがもう一度集中する。
 それに合わせて、シチュエーションを与えるために声をかける。
「魔力は尻尾の辺りに集中して!俺がイジメられてた時のことを思い出すんだ!」
「おにいちゃんが、イジメられてる時……おにいちゃん、が……」
 ポコっと音を立てて、ルコンの腰のあたりから薄紅色の魔力が小さく沸き立つ。
 あれは、あの時見た……
「フウゥゥゥゥ、フウゥゥゥゥ!!」
「!?」
 荒々しい息遣いにルコンを見ると、瞳孔を見開き衝動を抑えるかのように震える姿があった。
 だめだ、このままでは
「落ち着けルコン!俺の声が聞こえるか?聞こえるなら俺を見ろ!」
 声に合わせて、ギラリと瞳がこちらを向く。
 一瞬昨日のことがフラッシュバックし硬直しかけるが、すぐさまルコンの肩を掴む。
「そうだ、俺を見ろ!でも怒りは捨てるな!俺は無事だけど、その怒りは忘れるな!!コントロールするんだ!集中しろ!」
 なんて言えば良いのかわからなかった。
 ただ思いついたままに、気持ちのままに言葉にした。
「そのまま尻尾を作るように魔力を回すんだ!頑張れルコン、お前なら出来る!」
「フウゥゥ……フウゥ……」
 効いているのか、段々と呼吸も落ち着いてきている。
 開いた瞳孔も、徐々に普段通りの綺麗なルビーの様な瞳に戻りかけている。
 腰から出ていた泡は少しずつ、少しずつ尾としての形を成していった。
 根もとから始まり、少し伸びたところでフワリとした丸みを帯びて、やがて毛先を整える。
 そうして、綺麗な薄紅色の半透明な尻尾が一本出来上がっていた。
「で、出来た!出来たぞルコン!!」
「ハァッハァ……できた……?ほんとに、できた……?」
 俺は我が事のように嬉しくなり、ルコンの両脇に手を入れて持ち上げる。
「わわ!?」
「すごい!すごいぞルコン!よくやったなあ!」
「す、すごい?えへ、えへへ!」
 嬉しそうに二本の尻尾をフリフリと揺らすルコン。
 そんなルコンを嬉しさから、抱き上げてグルグルと回る俺。
 そして、視界の端でそんな俺達を見つめて穏やかに微笑むゼール。
 昨日あんなことがあったからか、今の時間がとてもかけがえのないものに思えたのだった。
 ――――
 本当に、子どもの成長速度は速いのだと改めて実感する。
 少し目を離した隙に少女はその才能を開花させ、少年は|齢《よわい》十とは思えぬ程に立派に己の使命を全うした。
 そして今、こうして二人だけでまた成長している。
 自分が口を出す必要も、そんな隙も無かった。
 目の前の嬉しそうな二人を見ていると、ついこちらも気持ちが緩んでしまう。
(今頃は同じようなことになっていたのかしらね……)
 詮無きことを考えて、子どもたちに声をかける。
「よくやったわね、二人共。今日はここまでよ」
「もう終わりですか?」
「えぇ、もう休みなさい。それに、今日は行くところがあるわ」
「「?」」
「先に宿に帰っていてくれる?私は寄るところがあるから、また後で会いましょう」
 二人を街の中で見送って、ドルフの工房へ向かう。
 今日で約束の一ヶ月が経つ。
 頼んでいた物を受け取りに行こう。