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回想④〜黒田竜司と白草四葉の場合〜陸

ー/ー



乗客が少ないのか、人影のまばらな車両にシロたちの姿は見当たらなかった。
 これまでよりも、さらに早足で普通車よりも広い通路を進み、次の九号車に移っても、やはり、結果は前の車両と同じだった。

(次の八号車で、見つからなかったら、どうしよう……)

 悲観的な想いがこみ上げてくるのをなんとか抑えつつ、八号車に入る。
 自動ドアが開いた瞬間、車両の奥の方で、大きな帽子を被り、サングラスを掛けた女性が荷物を棚に載せようとしているのが目に入り、そのすぐそばに、見慣れた背格好の小学生らしき姿が見えた。
 瞬時に、

「シロ!!」

と、声をあげる。
 オレの発した声で、八号車にいた十名たらずの乗客の視線が一斉にコチラに向けられた。
 グリーン車の車内で大声を出したことを申し訳なく思いつつも、ズンズンと車両の後方に進むと、驚いたように目を丸くしたシロの表情が、徐々に落ち着いたモノに変わっていくのがわかった。

「クロ! 来てくれたんだ!!」

 彼女のもとまで、早足で近づくと、シロはそう言って声を掛けてきた。

「話しがあるなら、デッキに行って来なさい」

 横目でコチラを見ているシロの母親らしき人の一言で、オレたちは車両後方のデッキに移動する。
 車両の連結部分の近くに場所を移したオレは、、先頭車両からずっと早足で移動してきたため、少し息を切らせながら、シロに話し掛けた。

「シロ、色々と世話になったのに、ちゃんとお礼も言えていなくてゴメン」

 そう言って頭を下げると、彼女は、「ううん……」と首を横に振り、

「わたしの方こそ、クロとクロのお母さんには、とても良くしてもらったから……春休みを伯父さんの家で過ごすことが決まったときには、『どうしよう……』って思ってたけど、クロのおかげで、とっても素敵な思い出ができた! ありがとね、クロ」

と、感謝の言葉を告げてくれた。
 春休みの後半、特に四月に入ってからは、シロにアドバイスをもらったり、気を遣わせることばかりだった気がするため、彼女から感謝されるのは、なにか照れくさいような気がする。

「いや、この何日かは、シロにカッコ悪いとこばかり見せてた気がするから……そんな風に言ってもらえると、なんか恥ずかしいな……」

 頬をかきながら、独り言のようにつぶやくと、シロは、ふるふると首を横に振り、

「そんなことない! クロは、良くがんばったし、とってもカッコ良かったよ!」

と、これまでにないくらい大きな声をあげた。
 その声の大きさに自分もシロも驚き、二人とも、しばらくの間、無言になる。
 彼女の言葉は、オレにとって望んでもいないくらい嬉しいものだったが、いま、ここで、その感激にひたっている時間はない。

「そうだ! もう時間がないかもだから、代わりに伝えとくけど、駅まで連れてきてくれたウチの母ちゃんも、シロに『スゴく感謝してる』って言ってた……」

 オレが、母の伝言を伝えると、その言葉を噛みしめるようにうなずいた彼女は、

「わたしからも、クロのお母さんに、『色々ありがとうございました。カラオケ大会、楽しかったです。アップルパイも、とても美味しかったです』って言ってた、と伝えておいて」

と、返答する。
 そして、「わかった」と彼女の言葉を了承し、

「そう言えば、シロ。なにか言いたいことがあるって書いてくれてたよな? いま、話してもらえるか?」

と、問いかける。
 すると、もう発車時間が迫ってきたのか、

「ご案内いたします。この電車は、のぞみ号東京行きです。途中の停車駅は、京都、名古屋、新横浜、品川です」

という車内アナウンスが流れ始めた。

「あっ! でも、そろそろ行かなきゃ……」

 彼女の言葉を聴きたい想いはあったが、これ以上、車内に居るのはまずいと判断したオレは、そう言い残して新幹線のデッキからホームへと降りる。
 すると、意を決し、思いつめたような表情をして、

「わたしは、クロのことが好き! クロは、わたしのことをどう想ってる……?」

車内のデッキの中から、シロが唐突に叫んだ。

(えっ!? シロが、オレを好きだって?どういうことだ!?)

(オレなんかカッコ良く歌うこともできない、ヘタレなのに)

突然の彼女の告白に困惑し、発車のベルが鳴る中、

「オレは、シロとは……ずっと、友達でいたいと思ってる!」

と叫んだ。
 それが、このときの自分が応えることの出来る精一杯の回答だった。
 思い切り声を上げた瞬間、サイレンのような音とともにコチラ側のホームドアが閉まり、続いて、クロの乗る列車のドアが、スーッと閉じていった。


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乗客が少ないのか、人影のまばらな車両にシロたちの姿は見当たらなかった。
 これまでよりも、さらに早足で普通車よりも広い通路を進み、次の九号車に移っても、やはり、結果は前の車両と同じだった。
(次の八号車で、見つからなかったら、どうしよう……)
 悲観的な想いがこみ上げてくるのをなんとか抑えつつ、八号車に入る。
 自動ドアが開いた瞬間、車両の奥の方で、大きな帽子を被り、サングラスを掛けた女性が荷物を棚に載せようとしているのが目に入り、そのすぐそばに、見慣れた背格好の小学生らしき姿が見えた。
 瞬時に、
「シロ!!」
と、声をあげる。
 オレの発した声で、八号車にいた十名たらずの乗客の視線が一斉にコチラに向けられた。
 グリーン車の車内で大声を出したことを申し訳なく思いつつも、ズンズンと車両の後方に進むと、驚いたように目を丸くしたシロの表情が、徐々に落ち着いたモノに変わっていくのがわかった。
「クロ! 来てくれたんだ!!」
 彼女のもとまで、早足で近づくと、シロはそう言って声を掛けてきた。
「話しがあるなら、デッキに行って来なさい」
 横目でコチラを見ているシロの母親らしき人の一言で、オレたちは車両後方のデッキに移動する。
 車両の連結部分の近くに場所を移したオレは、、先頭車両からずっと早足で移動してきたため、少し息を切らせながら、シロに話し掛けた。
「シロ、色々と世話になったのに、ちゃんとお礼も言えていなくてゴメン」
 そう言って頭を下げると、彼女は、「ううん……」と首を横に振り、
「わたしの方こそ、クロとクロのお母さんには、とても良くしてもらったから……春休みを伯父さんの家で過ごすことが決まったときには、『どうしよう……』って思ってたけど、クロのおかげで、とっても素敵な思い出ができた! ありがとね、クロ」
と、感謝の言葉を告げてくれた。
 春休みの後半、特に四月に入ってからは、シロにアドバイスをもらったり、気を遣わせることばかりだった気がするため、彼女から感謝されるのは、なにか照れくさいような気がする。
「いや、この何日かは、シロにカッコ悪いとこばかり見せてた気がするから……そんな風に言ってもらえると、なんか恥ずかしいな……」
 頬をかきながら、独り言のようにつぶやくと、シロは、ふるふると首を横に振り、
「そんなことない! クロは、良くがんばったし、とってもカッコ良かったよ!」
と、これまでにないくらい大きな声をあげた。
 その声の大きさに自分もシロも驚き、二人とも、しばらくの間、無言になる。
 彼女の言葉は、オレにとって望んでもいないくらい嬉しいものだったが、いま、ここで、その感激にひたっている時間はない。
「そうだ! もう時間がないかもだから、代わりに伝えとくけど、駅まで連れてきてくれたウチの母ちゃんも、シロに『スゴく感謝してる』って言ってた……」
 オレが、母の伝言を伝えると、その言葉を噛みしめるようにうなずいた彼女は、
「わたしからも、クロのお母さんに、『色々ありがとうございました。カラオケ大会、楽しかったです。アップルパイも、とても美味しかったです』って言ってた、と伝えておいて」
と、返答する。
 そして、「わかった」と彼女の言葉を了承し、
「そう言えば、シロ。なにか言いたいことがあるって書いてくれてたよな? いま、話してもらえるか?」
と、問いかける。
 すると、もう発車時間が迫ってきたのか、
「ご案内いたします。この電車は、のぞみ号東京行きです。途中の停車駅は、京都、名古屋、新横浜、品川です」
という車内アナウンスが流れ始めた。
「あっ! でも、そろそろ行かなきゃ……」
 彼女の言葉を聴きたい想いはあったが、これ以上、車内に居るのはまずいと判断したオレは、そう言い残して新幹線のデッキからホームへと降りる。
 すると、意を決し、思いつめたような表情をして、
「わたしは、クロのことが好き! クロは、わたしのことをどう想ってる……?」
車内のデッキの中から、シロが唐突に叫んだ。
(えっ!? シロが、オレを好きだって?どういうことだ!?)
(オレなんかカッコ良く歌うこともできない、ヘタレなのに)
突然の彼女の告白に困惑し、発車のベルが鳴る中、
「オレは、シロとは……ずっと、友達でいたいと思ってる!」
と叫んだ。
 それが、このときの自分が応えることの出来る精一杯の回答だった。
 思い切り声を上げた瞬間、サイレンのような音とともにコチラ側のホームドアが閉まり、続いて、クロの乗る列車のドアが、スーッと閉じていった。